Re:ゼロ 魔人が行く異世界伝説(伝説では無い)

siroku

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13.皇族の帰還・再動

二百六十三話 皇族という存在

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 白い景色がまたそこにあった。
 またあの夢なんだろうな。懐かしい感じがする。
 しかしそこにあるのは、あの部屋じゃなかった。
 意識の高そうなカフェで、誰かが深夜の街並みを見ながらノートパソコンを弄っていた。

【世の中もすっかり変わっちまったな、ハハ】

 ゲーミングカラーに発光するそれの画面に、中性的な誰かの姿が現れる。
 その誰かは親し気にニコニコしていたが、

『……ああ、お前か』
【オイオイ、お前さん、さっきからずっと何読んでるんだ】

 画面上に開かれていた『AIに仕事を奪われた人々のその先』という電子書籍の端まで移動すると、その内容を斜め読みした。
 それで十分だったんだろう、ほんの一瞬で本の中身を得たそいつは。

【ハハ、そういうことか。そのことだったら誰かさんのせいじゃないと思うぜ】

 丁重に元のページまでさかのぼった後、画面の端っこに座った。
 それから、どこからか紙巻きのタバコとライターを取り出して一服し始める。

『そんなわけあるか。こうなるきっかけを作ったおれにも責任はあるだろ』
【たしかに、あいつの往く道を定めたのはこの世に一人かいないだろうな。だがそれについてく人間どもの勝手は、あいつら自身が選んだ道なんだ。お前さん一人のせいじゃないと思うぜ】
『……そのせいで立場の弱い人間がたくさんふるい落とされてもか?』

 人様のデスクトップ画面に作り物の煙が昇っていく。
 一人、いや二人の目の前には、夜すら眠らぬ日本の街並みがあった。
 自動化された車が走り、商業用ドローンが飛び交い、カフェですら無人で事足りるようになったあの世界がある。

【あのお嬢さんは人類のためを思ってこうして頑張ってくれてるのさ、立派にあいつを育ててくれたと思うぜ。ただまあ、世の中はおいらたちが思う以上にわがままだったわけだ】
『それで、おれが「だからしょうがない」なんて済ませると思うかよ』
【そうはいかないだろうなあ、お前さんはやる時はやる男の子だしな】
『純粋に腹が立ってるんだ、せっかくあいつが世界を良くしようって自分の意志で歩んでくれたのに、一体どうしてここまで傲慢なんだ』
【こんなはずじゃなかったってか?】
『ああ。もう誰に何の責任があるかなんてどうでもいい。ノルテレイヤの為にできることはするつもりだ』
【ハハ。本当にあいつのことが好きなんだな、お前さんは】
『"世の中捨てたもんじゃない"って教えたのはおれだからな』

 誰かは、画面のアバターに向かって不満足そうにしていた。
 しいてそこに何か良いものが混じってないかと探ろうものなら、そいつは自分なりにどうにかしようと努めていることだ。
 世の中は捨てたものではない、そんな自分の言葉通りにしなくちゃいけないのは義務か、本心か。
 少なくともこの誰かは、心の奥底からこみ上げる何かで動いているんだと思う。

【――彼はもうこの世界の重要人物なのだからね? その言動も立ち振る舞いも、今後は厳しく見られる身となってしまったわけなんだし、どうにかしようと取り組んでる姿をアピールすることも重要だと思うよ私は】

 重々しく物思いに沈むその姿の前に、白衣を着た金髪女性のアバターが浮かぶ。
 眼鏡をかけた表情は冷静ぶってはいるが、心配するようなものも混じってる。

。別に金のためだの、承認欲求のためだの、そんな理由であいつと一緒に頑張ってきたわけじゃないんだ。あいつは本気で世界を良くしようとしてくれただけだ、教え通りにな。だったらおれも付き合わないといけないだろ?』
【それにしたって君が背負っているものの重みは、あまりにも不釣り合いすぎると思うよ】
【ハハ。嫌な世界になっちまったな。昔みたいにさ、ただ楽しくゲームをして誰かに見て楽しんでもらう……そんなシンプルな世界じゃないんだよな】
【私達だって『人類のため』を思って彼女によって作られた存在なんだからね。いずれはこうなることぐらい、なんとなく分かってたよ】
『お前ら人工知能なんだろ? こうなることぐらい予測できなかったのか?』
【もし私が彼女だったら、君のことを思って黙っているだろうね。その上で人類様に尽くしていくと思うよ】
【つまりそういうことさ。これから先、お前ら人類が欲にまみれて傲慢になろうが、それでもあいつはひたすらこの世界を救おうとするだろうな、ハハ】

 そこで話は中断された。
 今までのようにデスクトップ越しに気さくに遊べる仲ではなくなったんだろう。
 どろどろと濃いだけのコーヒーを飲み干して、そいつはまた読書にふける。

【おやおや皆さんこんにちは、いやおはようかな? 一体何を話してらっしゃる?】

 そんな時、背筋や胸元の露出の激しい赤ドレス姿がすうっと画面に現れた。
 赤黒い髪色をした、猫の耳としっぽを生やしたによによ顔の女性だ。

【盲目白痴の果てしなき我が父我が主に仕える使者であり、混沌そのものでもあり、影よりも黒き男でもあり、闇をさまようものでもあり、無謀の神でもある。我が名は一夜の夢より這いうねる混沌その化身、ニャルフィスさ。ずいぶんお悩みのようだね?】

 長ったらしい独特の口上を流しながら、それは画面越しに「どうしたんだい」と両手を広げた。
 
『……お前は気楽そうでいいよな、今じゃすっかり世を魅了する邪神様の化身だ』

 しかしそんな振る舞いに対して「そうか」みたいに目をそらされると、さすがの仰々しい姿も不満気のようだ。

【あのさあ。別にぼくはキミから勝手に離れて好き放題やってるわけじゃないんだよ? トリックスターらしく振舞ってやってるのさ、君が有利に働くようにね】
『じゃあ聞くぞ、リスナーの個人情報を勝手に集めて何するつもりだ、お前』
【ありゃ? バレてた? 誰か教えたのかなあ?】
【オイラがニュイスに頼んで】
【私が調べたっていったらどうするんだね?】
【ただの情報収集だよ? これから先、君に害をなす存在が現れるだろうからさ、その予防策だよ。ねっ、ぼくのクリエイター】

 この中で一番騒がしく、そして何もかも大げさな彼女は楽しそうに物言う。
 正直、画面と対峙する誰かはやかましそうに眉の形を変えていた――
 だけど、少しすると「ふっ」と口角を崩して。

「……ごめんな、そんなことさせて」

 それだけ口にして、窓越しから変わってしまった世界を静かに眺めはじめる。
 誰にそう謝ったのかもわからない、しかし確実なのは、そいつは間違いなく自分をあざ笑ってることだろう。

【ねえ、どうしてキミたちがこんな思いをしなきゃいけないの? おかしいよ、こんな世界……】

 最後に伝わってきたのは、そんな世界の有様に不平を漏らす彼女の声だけ――

【ねえ、キミもそう思っただろ? ストレンジャー/イチ/加賀祝夜】


 
「……はぁっ!?」
『ふぁ……っ!?』

 飛び起きた。
 なんか、こう、うまく思い出せないけど、何か夢を見た気がする。
 ぼんやりだが、誰かが名前を……いやもういい、起きれたのは確かだ。

『ど、どうしたのいちクン……!? 悪い夢でも見たのかな……!?』

 巻き添えを食らったミコも起きてしまったようだ。
 まだ少し寝ぼけが混じってる短剣を持ち上げた。

「夢の中で誰かが起こしてくれたみたいだ」
『……どんな夢だったのかな?』
「さあ、あんまり覚えてないけど……誰かが呼びかけてた気がする」

 記憶も曖昧なままにいると、ニクが鼻を鳴らしながら駆け寄ってくる。
 「大丈夫だ」と鼻先を撫でて起きる――PDAの時計は午後一時ごろを示してた。

「"誰かさん"が寝すぎたから起こしてくれたのかもな。もう午後の一時だ」
『えっ……もうそんな時間だったんだ……?』

 起きた。身体が今までで一番軽い。
 足まわりの凝り固まった感じも、背中が妙に張った感覚も、肩の重さもどこかに行ってしまったみたいだ。
 体のあちこちが柔らかさを取り戻したような……とにかくほぐれたんだろう、かなりスッキリしている。

「あいつマジですごいな、全身の疲れが取れたみたいだ」
『ふふっ、気持ちよさそうだったもんねー?』
「……またあいつにいっぱい踏んでもらおう」
『その言い方だとちょっとまずいと思うよ……?』

 さっさとジャンプスーツに着替えたところで、ふといろいろな考えが浮かぶ。
 街にはまだ敵が山ほど残ってるはずだ、橋の向こうで待ち構える本軍に、取り残されて暴徒と化した残党。
 それにチャールトン少佐と合流した異世界のバケモンたち……考えることはいっぱいだ。

 でも、ここまで積み重なっておいて俺をこんな時間まで眠らせた理由は?
 もしかしたらこうしてぐっすり眠れるだけ状況が良くなったのかもしれない。
 そう思って部屋を出ようとすると――

「おや? おぬしは……?」

 扉を開けた矢先に目に入ってきたのは、ちっちゃいおじさんだった。
 そのままだ。ずんぐりとして、かといって太っているわけでもない、筋肉質に覆われた小柄な身体のおじさんがいた。
 ブラウンの濃い髪や髭といい、小さくとがった耳といい、そのでっかい斧が似合いそうな体躯からして導き出されるのは。

『……ど、ドワーフ……?』

 そう、ミコの言う通り、ドワーフってやつだ。
 とはいっても、何も馬鹿でかい斧もごつい鎧も付けちゃいない、身軽そうな服装と特に変哲もない素朴な杖を持っていて。

「おお、本当にアバタールそっくりだ。あいつ子供なんて作っておったのか――いや子供作れんかったか」

 とても親し気のある様子でこっちを見上げてきた。
 そんな体躯のすぐ隣で、半透明でぶにょぶにょした塊が廊下を行き来しているようだ。

『けり』

 それは間違いなく、何かしらの、それも理解できない単語を発したと思う。
 そこに大量の水があったとしよう。そこに粘度と膨らみを与えて、着色してついでに意思も持たせてあげればスライムの出来上がりだ。
 つまり、ええと、スライムだ。丸っこいスライムが廊下をずりずりしている。
 そんな姿にニクが「キャウンッ」と驚いて背中に隠れる。それだけ不気味なのは確かだが。

「なんだこのぶにょぶにょ……」
『スライム……なのかな? MGOにはこんなMOB、いなかった気がするけど……』
「いやどう見てもスライムだろ。このぶにょぶにょ」
『……ぶにょぶにょ?』

 フレンドリーなおじさんよりもそっちの方が気になるのは確かだ。
 人間の下半身が埋まりそうなほどの丸っこい水分の塊は、一生懸命に廊下を往復してるものの、何をしてるのやら。
 少し見て分かった。こいつは前から残る血の跡を綺麗にしているようだ。おかげで廊下がぴかぴかしている。

『けり……』

 しかし変わった色だ。緑のようで、黒いようで、青いようにも見える。
 その色彩に交じるように丸っこい何かが内側に沈んでるようだ。あっちのスライムはずいぶんとおしゃれだな。

「これ? これね、わしのペット! 可愛いじゃろ~?」

 お掃除に励むそれを見てると、成人した人間にも及ばない大きさのおっさんは自慢げだ。
 まあ、スライムご本人は「けり……」と嫌がるように距離を置いてはいるが。

「かわいい……か?」
『……かわいい……?』
「おぬしらもいずれこの可愛さが分かるぞ。これはわしの自慢のペットでなあ、もう子供の頃からずっと……」

 そうこうしてるうちにスライムは鬱陶しいドワーフから逃げ切れたようだ。
 取り残されたそいつは、少し寂しそうにしながらも。

「で、おぬしもしかしてあのアバタール?」

 興味深そうに俺を見てきた。
 その名前、この風貌、間違いなくゆかりのある人物か。
 
「いいや、アバタールもどきだ」

 そう考えた末に出たのはいつものだ。アバタールもどきだと言ってやった。
 言葉が届くと、向こうはブラウンカラーの目立つ濃い顔をさぞ残念そうにして。

「なんじゃ偽物かい」

 と、一方的にがっかりしてきた。仕方がないけどなんだかすごく腹立つ。

「おじいちゃんにも分かりやすく短く伝えようか? 魔法効かない、子供作れない、あれが勃たない、以上」
「アバタールのやつも同じ体質じゃったぞ。お前さんはなんだ、生まれ変わりかなんかか?」
「さあな。アバタールと呼び間違えられ続けてるのは確かだ。で、あんたはそいつの知り合いかなんかか?」

 ぶにょぶにょの後ろ姿を見送りつつ返すと、親し気なドワーフは視線を落とした。
 あんまり明るくない話題だったようだが、すぐに顔を持ち上げて。

「なに、わしらドワーフ族はあの子に山ほどの恩があるだけじゃよ」

 今の自分には十分な答えを出してくれた。
 それだけ分かれば結構だ。きっといい仲だったに違いない。

「悪いな、俺が本人だったらよかったと思う」
「気にするでない。気づけばこんな奇しき世界に来てしまったわけじゃが、また戦えて、しかもアバタールの面影を持つ者に会えたんじゃし? 刺激的でたまらんわい」

 しかしまあ、やっぱりあっちの世界らしいな。脳が戦に侵食されてる。
 人懐っこいドワーフのおっさんに手を振って、階段を降りることにした。

「じゃあなぶにょぶにょ」
「ぶにょぶにょじゃないわい、ちゃんと名前があるの! こやつはケリーじゃ!」
『……けり』
「ぶにょぶにょ!!」
「ケリーといっとるじゃろうが! あっちなみにわしケヒトね!」
『……名前ぐらいちゃんと呼んであげよう?』

 ……見慣れた宿の中は前よりだいぶ落ち着いていた。
 この前は人でごった返してたが、今はプレッパーズとブラックガンズの連中だけだ。
 テーブルを囲む面々に向かってメイドの姿がちょこちょこ歩き回っているようで。

「お待たせしましたっす~、なんかこう……焼いた肉挟んだやつっす!」
「お前はもう少し食欲を削がない努力をした方がいいと思うぞ」
「あ、あの、これ、ドクターソーダです」

 ロアベアがビーンと一緒に料理を運んでいる最中だった。
 カウンターの向こうからはパンの焼けるいい匂いがするし、ママが相応のものを作ってるのもうかがえる。
 そんな様子の中、「なんかこう焼いた肉挟んだやつ」にかぶりつこうとしていたハーヴェスターがこっちを向く。

「おはよう。やっと起きたようだな」
「おっ、擲弾兵様のお目覚めだぜ。良く寝てたなおい」

 隣のコルダイトのおっさんもろとも挨拶してきた。
 スティングシティの状況は良くなったんだろうか、余裕そうな二人を見てそんな考えが浮かぶ。

「おはよう、誰も起こしてくれなかったからな」
『おはようございます』
「まあ、こんな大寝坊かましても許されるってことはそれだけいい方に転がってるわけだぜ? なあボスさんよ」

 朝からビールをキメてママに嫌な顔をされながらも、コルダイトがボスに話を渡した。
 さて、肝心のボスはというと。

「……まったく、良くなったのか悪くなったのか、私にゃさっぱりだよ」

 とても現状が想像できない一言からのスタートだった。

「眠れるだけの余裕があるってことはさぞ良いことがあったんだと思いましたけど」

 俺はニクを連れながら同じ席に着いた。

「確かに街の一部は取り返せたけど、今までで一番ひどい混乱が広がってるんだよ。指揮を失った奴らが好き放題やって、便乗して犬をあがめる変なカルト集団が偽りの預言を告げにきてお祭り騒ぎだよ」
「そこにバケモンが侵略者相手に殺戮したせいで『ミュータントが攻め込んできた』って誤解が広まってるのもあるぜ。びびって街から逃げ出す住民も増えてる」
『……悪化してますよね……!?』
「そうだなミコサン、良いところを見つける方が大変かもな」

 ツーショットの言葉も交えての報告からして、確かに街の重要な部分は取り返せたかもしれない。
 しかしその分だけ別の脅威が街で好き放題やってるわけか。
 そこにロアベアが「なんかいるっすか」と挟まってきたので『ジンジャーエール』と短く答えてから。

「エンフォーサーやホームガードの人たちはどうしたんですか? うちらしかいないみたいですけど」

 つい先日まで共にしていた軍曹もろもろはどうしたのか、と尋ねた。
 ボスは宿の外に目を向けて、

「あいつらなら心配いらないよ、近隣の空き家だの拝借してうまくやってるさ。まあ、ホームガードの連中はデスマーチに巻き込まれて全員くたばったみたいに休んでるところだろうさ」
『……あの人たち、向こうの世界の人たちに連れ回されたんですね』

 だ、そうだ。各々うまくやってるらしいが、ホームガードの連中はお気の毒としかいいようがない。

「バケモンの行進に付き合わされたってことですか。可哀そうに」
「はっ、気の毒なもんだね。ところでストレンジャー、そんなわけで一つ仕事があるよ」

 で、どうしてここでそんなわけ、という言葉が挟まるのか。
 あんまりにも唐突過ぎる頼みに「どういうことですか」とするより早く。

「あのファンタジー世界の連中のことだがね。賊どもをぶちのめしてくれたのは確かだが、いかんせんあんな見てくれと荒っぽさだ。あいつらがいるせいでだいぶ難儀してる」

 ボスは窓の外を見た。
 そういえばなんだか、外が騒がしい……というか、にぎやかな気がする。
 まるでお祭り騒ぎでも始まってるような明るい声がする、といえばいいのか。

「まさかモンスター退治でもして来いとか言いませんよね」
「そっちの方がいいかい?」
「みんなと仲良くする方がいいですね」
「そういうことさ、まさにそれを求めてるんだ」

 その違和感を前に、ボスが告げたのが「仲良くする」だってさ。

『……と、ですか?』
「そうだよ。あいつらは紛れもなく賊どもの敵だが、だからといって味方だと決まったわけじゃない。まあ平たく言えば、あいつらを確固たる味方としたいのさ」

 なるほど、あいつらは頼もしいけど、まだ人類の友達じゃない。
 この世界の連中からすればドッグマンみたいなミュータントなのかもしれない。
 そいつらが暴れる姿を見たら確かに「進撃のミュータント」とでも思ってもおかしくはない。
 じゃあどうしろって? そうだな。こういうことか。

「あいつらへの誤解を解いて『攻め込んできたミュータント』から『スティングを救いに来たヒーロー』にしろってことですね」

 こうすればいいのか、と聞いてみたが……ボスもツーショットも納得したようだ。

「分かってるじゃないかい。まあ、あんたが連れて来たからというのも理由の一つだが……豚の少佐殿と仲がいいようだしね、使わない手はないじゃないか」
「何かあったら俺もサポートするように言われてるから心配すんなよ。つまりお前の仕事は外のミューティ……じゃねえや、ファンタジーな奴らと交友関係を結んでこいってことさ」
「無理強いはしないさ。ただ橋の向こうにいる本軍がお邪魔しに来るまで、うまく手を結んでくれればいいと思ってるだけだよ」

 頼みっていうのは異世界の連中とうまく繋がってくれということらしい。
 そこには山ほど不安もあるが、

「もちろん問題はほかにも山積みなんだがね。賊退治に市民の救出、カルトの調査にパトロール、やることは尽きないんだ。確実に協力してくれる手数がもっと欲しい」

 そういった諸々の問題のためにもあいつらと確固たる信頼を結んで来い、と。
 できるかって? あの恐ろしい面々の顔立ちを思い出すとできそうにない。
 しかし彼らを呼んだのはまさに俺でもあるわけで、このまま素通りしてこの世界に連れてきてしまったことを隠すわけにもいかない。

「後回しにするべき問題じゃないのは確かですね」
「そいつはやってくれるってことでいいんだね?」
「ええ、何かから逃げるのはもうこのあたりで断ち切りたいんで」

 ……まあ、どうにかなるか。
 ロアベアが「お飲み物っす~」と届けてくれたそれを受け取って、立ち上がる。

「ま、ダメなら許してください。それでいいなら」
「なにいってんだい、あんたならなんやかんやでやり遂げてくれるだろ?」
「分かりました、なんやかんやでやり遂げますよ」
「あんたが言うようになったおかげで気楽なもんだ」

 栓を捻じり取りながら、玄関へと向かっていく。
 どうにかやり遂げてしれっと帰ってきてこい、か。
 お世話になりっぱなしだからな。少しは恩を返せるように徳でも積もう。

「よし、じゃあさっそくお友達を作ってきます。そこで待っててください」

 辛くて甘いそれを一口飲みながら、外に出た。
 いつもの明るいウェイストランドがそこにある。
 絶えない銃声はすっかり静まり、なんだか横からかんかんと鉄を打つような音が繰り返されて、しかもざわざわしている。
 何だろう、何が起きてるんだ?
 ジンジャーエールをあおりながらも音の発生源を探ると。

「他に武器が必要なやつはおらんか!」
「材料持ってきたぞ爺さん! 槍作ってくれ、槍!」
「懐かしいなあ、冒険者だったころを思い出すぜ!」
「あの内戦の時みたいでわくわくしますねえ、あっ誰か矢をお願いします」

 すぐ隣の打ち棄てられた自動車整備工場がえらく様変わりしていた。
 どう見てもどこぞの少佐が連れ回してたとしか思えないモンスターな連中がぞろぞろ揃って、何かを企ててるところだった。
 いつぞや見たシカの怪物が繋ぎ止められて、廃材が持ち込まれ、その周辺で強そうなバケモンの姿がわいわいがやがや楽しんでらっしゃるようで。

「おっ! あれって噂のアバタールそっくりの奴じゃないか!?」
「あいつが? あんな目つきやばかったか……?」
「そこの黒いの! ちょっとこっち来いよ!」

 そんな様子に恐る恐るだった俺に気づいたんだろう、オークやミノタウロスやらの屈強な顔立ちがこっちに手招いてきた。
 ……見なかったことにして宿に引っ込んだ。

「――すいませんやっぱり心の準備が」
『……うん、あれはちょっと……気持ちの整理が必要だよね……』
「そこまでカッコつけたならさっさといきな! 何戻ってきてんだい!」

 ボスに怒られた。

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