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11.皇族の指名と継承

二百三十七話 皇の剣/皇権への適応?

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237話 皇権招く皇の剣・たとえ変異しても・・・

何も読み取る事の出来ない空虚な瞳を見つめる、当然そこには殺意などと言う感情
的なものはなく、縦に裂けた瞳孔はこちらを映していないのか視線を感じない
しかし殺意だけはその全身から迸る様に全方位へ向けて放たれている、剣の方を
見れば変色した鱗は少し鋭角になり棘が生えた様になっている、やはりマガセビが
変異の原因と見るしかない・・・それにしてもあの気配から少し深淵の気配を感じる
そして体から薄い青紫色の揺れる、深淵の気配を感じる何かが漏れ出し湯気の様に
立ち昇っている・・・傷口から零れ落ちた血が地面に触れた途端に、血に触れた地面の
色が抜け落ちた様に枯れ朽ち果てた・・・更に傷口の内側から青紫色の結晶が生えて
大剣を固定するように掴み傷口を覆っていく、そこから零れ出る青紫色の光は火の
ような形となって揺れている、あの光や結晶には触れても問題は無さそうだが大剣
が結晶で固定されてしまったから引き抜くのが更に難しくなってしまった・・・もう
戦闘中に回収するのは諦めるしかない、しかし大剣が刺さったままだからか右翼腕
の動きはまだ悪く引きずる様に動かしている、どうやら肉体を修復した訳ではない
ようだが痛みを感じていないのか、変異の影響でか全体的に動きは緩慢になって
いるのに右翼腕自体は普通に動かし地面に着いて上体を起こしている、更に右翼腕
の青紫色の輝きが強くなる・・・すると後ろに引いたかと思えば勢いよく殴るように
突き出してきた、当然腕が届く様な距離ではないが衝撃波となって青い塊が襲い
掛かって来たそれを避ける、速度は大して無いし威力もあまり無さそうだったな
しかしそれに気を取られている内に距離を詰められてしまう、何をしてくるのかと
思っていればブレスのような準備動作をし出した、息を吸い込み首を立て僅かだが
後ろに下げる今までと特に変わらない動きだが、口から火は零れている様子は無い
となると風か?何にせよ直線状からは離れなければならないのも変わりは無い・・・
こちらへ向けて口を大きく開く瞬間に邪弾を撃ちこんでおく、瞬間轟音が響いた
ブレスでは無く咆哮だったようだ、しかもその咆哮で邪弾は掻き消されてしまうし
前から体に衝撃波が叩き付けられる、威力と言える物は大して無いが少し押されて
しまう程の圧力があり、更にあの轟音で耳の機能がやられたのか静かな中にキーン
と甲高い空を裂く様な耳鳴りだけが聞こえる、僅かだが踏みしめる地面の感触すら
薄くなり半ば宙に浮いているような感覚さえする・・・触覚や感覚が鈍っているのか?
体は問題なく動かせるからそれ以外に異常は無さそうだ、しかしうまく動けない
少し動くだけなのに体勢を維持できず、地面を踏んでいる感覚が殆どないせいで
足がもつれ何度も転びそうになるし、走ろうとすれば加減を誤って跳び込むような
勢いになって大きく跳んでしまう、こっちが移動に苦心していると今度は火や風の
玉を撃ちこんで来た、転がる様にして避けながら近付いていく・・・すると何度も
体を地面に打ち付けているからか体の感覚が戻っているのを感じる、耳は今だに
機能していないがまた咆哮が来る事を考えたら今のままの方が助かる事だろう
何も聞こえない静かな中サクリと地面に何かが突き刺さる音が聞こえた・・・耳が
機能していないのに何故かそれだけははっきりと聞こえた、音の方・・・僅かに右へ
視線を向けると一本の大剣が突き刺さっている、あれはバルゼリットが持っている
剣じゃないか・・・本物はまだ深淵の一部に置き去りにされているし、使えるのも
担い手である皇族が使う場合だけのはず・・・そのはずだが、目の前にあるこれは
本物と言っていいだろう、実体を持ち更に目が惹かれる確かな存在感を放っている
「あれは・・・まさか、剣は俺が持っているぞ?」
「本体の方が跳んで来たのだろう?確か皇の継承儀式の1つにあったはず・・・」
少々小さいが何か声が聞こえてきた・・・霊体相手は耳では無く精神や魂なりで言葉を
認識しているのだろうか?聞けば確かにバルゼリットは同じ剣を握っているし
バーゼスクライトの言葉からして剣の本体が来たのは儀式の1つだとすれば事実だと
判断できる、ついでに鑑定してみれば前に見た時と同じく[アヴェンジャー]とのみ
読み取る事が出来た、本来の物から変質しているのはやはり変わりないものの今回
は剣から呼ばれているような感覚がある・・・がゆっくりもしていられない、当然だが
奴がいつまでも待ってくれる訳もなく、次のブレスを吐き出して来る前に素早く掴ん
で引き抜く、まるで剣の見た目にそぐわぬ程の軽さしか感じずに引き抜く事が出来た
大剣から力なのか何なのか判らないが薄紫色に輝いてその何かが掴んだ右腕に流れて
くる・・・全ての思考中の情報や現状の状態すら過ぎ去り思考がクリアになる、思考が
浮かび上がらず記憶したものを思い出す事が出来なくなり、自分自身を見失い喪失し
空虚になっていくこの感覚・・・何処か落ち着くそれに委ね前だけを見据える、大剣を
構え真正面から一直線に突き進む、奴は右に体重をかけ少し傾き左腕を地面に叩き
付け突き刺した爪を振り上げる、めくらましなのか勢いを削ぐのが目的なのか石ころ
や土の塊が飛んでくる、危険性はないと判断しそれを気にせず突き進む、右腕を後ろ
に引き絞り突きの体勢を取る、それを迎え撃つつもりなのか右腕を振り上げてきた
「ギィアァア!」
「ヴォーア!」
互いに何とも言えない叫び声を上げ同時に跳びかかる、奴はどこか笑っているようで
歓喜しているようにも見える、さっきまでと同じようで何か違う様に感じるその瞳を
見ればそこには、中途半端に笑っているような口元だけが笑みを浮かべている自分の
顔が写っている・・・振るう大剣と奴の右腕が触れようとするその瞬間、ブツリと音が
響いてその瞬間全てが遅くなった、どこか全ての色が薄くなったようにも見え互いの
動きと表情が全て外から見ている様に把握出来、意思すらも共振したかのように互い
の間に響き合うような感覚が広がる・・・まぁどっちも空っぽだからか余り強い感情や
意志は感じないが、確かに奴からは歓喜の感情が伺える・・・とは言え何故そうなのか
までは判らないし、そもそも元となっているワイバーンイーター自身の自我はもう
消えてしまっているようで、今感じているこれは深淵の意志だろう・・・そしてまた
フッと浮かぶような脳の感覚と共に視界や色が元に戻った所で、先ほどまでよりは
早く・・・しかし普通よりは確実にゆるやかな速度で剣と右腕がぶつかる、ぶつけ合う
ように振るわれた筈の互いのドンッと軽くぶつかり合う音を出し、その互いの攻撃は
触れ合うような気軽さで拮抗し触れた所で止まる、奴の右腕が下がり背を低くする
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