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第一章 Life or Death
Episode 12 Weighing up one's options
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約二十年前。まだ米国の一都市だったNシティ……。漂流者規制法があり、現在のように漂流者たちが自由を得る前だ。
日本人の母娘はそんな都市に流れ着いた。生きるために文字通り必死だった。だが、漂流者規制が緩和、というより無法地帯と化した現在に於いて、その漂流者だった娘は自由を得て、都市に復讐をする。この忌々しく秩序も崩壊したような都市に……。
「署長さん自らのご指名とあれば断わる理由はないね」
ペドロのガレージ、ケイは愛用するコルトガバメントM1911の手入れに余念がない。
「おそらくお前を抱き込む腹づもりだ、前にも言ったがこのままだと利権の奪い合いに巻き込まれてアニエス側と板挟みになるぞ、どうするんだ?」
「そうなったらなったで仕方ないね、私としてはどちらに付くかは報酬次第って事になるかな」
「金か、それじゃ奴らと同じじゃないか」
「馬鹿だね、ペドロ。結局はそれしかないだろ、仲間だとか情だとかで動くからややこしい事になるのさ」
「そうは言ってもな、ケイ……」
「まあとにかく、あんたは首を突っ込まない方が良いよ。巡査部長の肩書きが危うくなったら困るだろ?」
ケイはそう言うと、手入れをしていたガバメントを左右に構えて撃つ仕草をして見せた。ペドロには一抹の不安がよぎった。
ケイは翌日早々にアニエスと会う約束を取りつけて夜にアニエスの住む高級アパートに向かった。アニエスは昼間の仕事を終えて帰宅したばかりらしく、まだバリッとした社長秘書用の姿だった。
「何か飲む?」
「ああ、炭酸水ね」
「あなた、お酒は飲まないの?」
「ほとんどね、アルコールの類は昔から苦手なんだ」
ケイは適当な理由を付けた。本当はいつなんどきに相手が襲って来た時でも対処可能な状態にしておくためだ、アルコールに酔った状態で襲撃されたらそれだけで不利な状況に立たされ兼ねない、と。ケイの流儀だ。
「で、用件っていうのは?」
アニエスはケイに炭酸水の瓶を渡し、自分はグラスに氷を入れウイスキーを注いだ。
「シティ警察署の署長が私に会いたいんだとさ」
「え?」
「ペドロの話しだと、どうやら私を使って仕事をさせたいんじゃないかって事だけどね、おそらくあのカークとか言うキザ野郎と繋がってるのは間違いないよ、警察のドローン、それを撃ち落とした私……」
「請けるつもりなの? 相手はリチャードと利権を争ってる敵よ」
「正直言って私にはドラッグの利権争いだとかどうでも言い事なんだよね、要はどちらが私を高く買うかって事だからさ」
「なるほど……天秤にかけるわけね。あなたらしいわ」
「そういう事」
ケイは悪ぶる素振りも見せない。
「わかった、とりあえず署長さんの話しを聞いてみることね、それでどちらに決めるのか返事をちょうだい。ただし、これだけは言っておくわ。仮に向こう側に付いたとしたら敵同士よ、私も遠慮はしないからそのつもりでいることね」
部屋に戻ったケイ。テーブルの上にバイクのキーを放り投げ、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。窓際の縁に腰かけてラッキーストライクを加え火を点ける。紫煙を深く吸い込み吐き出した。今週は久しぶりに忙しいが、話し合いだのと雑用ばかりで何だか気が滅入る。銃を撃ってる時の妙な爽快感が無い分、逆にケイにとってはストレスだった。さて、ここからどう転がる、自問自答するケイ……。
日本人の母娘はそんな都市に流れ着いた。生きるために文字通り必死だった。だが、漂流者規制が緩和、というより無法地帯と化した現在に於いて、その漂流者だった娘は自由を得て、都市に復讐をする。この忌々しく秩序も崩壊したような都市に……。
「署長さん自らのご指名とあれば断わる理由はないね」
ペドロのガレージ、ケイは愛用するコルトガバメントM1911の手入れに余念がない。
「おそらくお前を抱き込む腹づもりだ、前にも言ったがこのままだと利権の奪い合いに巻き込まれてアニエス側と板挟みになるぞ、どうするんだ?」
「そうなったらなったで仕方ないね、私としてはどちらに付くかは報酬次第って事になるかな」
「金か、それじゃ奴らと同じじゃないか」
「馬鹿だね、ペドロ。結局はそれしかないだろ、仲間だとか情だとかで動くからややこしい事になるのさ」
「そうは言ってもな、ケイ……」
「まあとにかく、あんたは首を突っ込まない方が良いよ。巡査部長の肩書きが危うくなったら困るだろ?」
ケイはそう言うと、手入れをしていたガバメントを左右に構えて撃つ仕草をして見せた。ペドロには一抹の不安がよぎった。
ケイは翌日早々にアニエスと会う約束を取りつけて夜にアニエスの住む高級アパートに向かった。アニエスは昼間の仕事を終えて帰宅したばかりらしく、まだバリッとした社長秘書用の姿だった。
「何か飲む?」
「ああ、炭酸水ね」
「あなた、お酒は飲まないの?」
「ほとんどね、アルコールの類は昔から苦手なんだ」
ケイは適当な理由を付けた。本当はいつなんどきに相手が襲って来た時でも対処可能な状態にしておくためだ、アルコールに酔った状態で襲撃されたらそれだけで不利な状況に立たされ兼ねない、と。ケイの流儀だ。
「で、用件っていうのは?」
アニエスはケイに炭酸水の瓶を渡し、自分はグラスに氷を入れウイスキーを注いだ。
「シティ警察署の署長が私に会いたいんだとさ」
「え?」
「ペドロの話しだと、どうやら私を使って仕事をさせたいんじゃないかって事だけどね、おそらくあのカークとか言うキザ野郎と繋がってるのは間違いないよ、警察のドローン、それを撃ち落とした私……」
「請けるつもりなの? 相手はリチャードと利権を争ってる敵よ」
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「なるほど……天秤にかけるわけね。あなたらしいわ」
「そういう事」
ケイは悪ぶる素振りも見せない。
「わかった、とりあえず署長さんの話しを聞いてみることね、それでどちらに決めるのか返事をちょうだい。ただし、これだけは言っておくわ。仮に向こう側に付いたとしたら敵同士よ、私も遠慮はしないからそのつもりでいることね」
部屋に戻ったケイ。テーブルの上にバイクのキーを放り投げ、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。窓際の縁に腰かけてラッキーストライクを加え火を点ける。紫煙を深く吸い込み吐き出した。今週は久しぶりに忙しいが、話し合いだのと雑用ばかりで何だか気が滅入る。銃を撃ってる時の妙な爽快感が無い分、逆にケイにとってはストレスだった。さて、ここからどう転がる、自問自答するケイ……。
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