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貴族のミゲルと奴隷のヒサコ

風の精霊さま

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沈黙が続く。
おはようと言った後の沈黙のように重くはないがそれとはまた違う気まずさがあった。
ヒサコは……ヒサコはどんな答えを出すのか……。きっと、どうやっても昨夜の俺の命令はマイナスにしか働かないだろう。
まるでガキみたいな『ヒサコの気が引きたかったからあんなことをしました』が好意的に見られるはずがない。

「…………………。ヒサコ」

ヒサコは顔を上げてくれていたが俺が口を開くとまた下を向いてしまった。
でも、背を向けられたわけじゃない。現状維持、か………

「ヒサコ。時間を置いてからでいい。ヒサコのペースで俺に対するお前の気持ちを聞かせてくれ……」

そう言ってヒサコの頭をひと撫でしてから俺はベットから降りてメイドを呼び出すベルを鳴らすとリーンといつも通りの音がしてメイドがお呼びでしょうかと部屋に入ってきた。

「ヒサコを着替えさせておいてくれ。その間に他のメイドにヒサコ用の部屋を用意させそこで食事を取らせること。部屋の場所は好きにするといい。なおヒサコのことは俺の友人として扱うことを厳守。これを館の全ての人間に徹底させること。それから俺にもこの部屋に食事を持って来てくれ」

そう命令するとメイドはかしこまりましたと一礼してからヒサコの手を取り扉から出て行く。それをじっと見ていたらヒサコはちらりとこちらを一度だけ見て、それから大人しくメイドについて行った。
俺以外誰もいなくなった部屋はがらんとしている。

「たかが一晩一緒にいただけなのにな………いや、もうちょっと長いか………」

良く物語に出てくるぽっかりと胸に穴があいたようなという表現がぴったりの気分だった。





ヒサコに自分の部屋を与えてそこに押し込めるようにしたが1日に1回顔を出して必要なものはないかとか聞いたり、女が好きそうな物語の本や今流行っている本、それから甘い菓子に身を飾る装飾品とヒサコの好みに合いそうな服を毎日一つづつ、そして花も一輪一緒に渡すようになった。

ヒサコは俺の手からそれらを渡すと小さくありがとうございますとは言うがそれ以上は何も言わなかった。俺もそれ以上を今は望まなかった。

ヒサコの世話をするメイド達は俺が部屋を出てから本を読んで楽しそうにしていらっしゃいましたとか、お菓子をほおばっておいしいとおっしゃいましたとか、こんなに服や装飾品は必要ないとおっしゃいましたとか、花を生けてそれをじっと見つめていらっしゃいましたとか報告してきた。






服と装飾品を少なめに渡すようになって数週間経つ頃になるとヒサコは庭に出て精霊と対話をするようになっていた。

この国では基本的に精霊の声を聞く事はない。精霊と契約するときに精霊が気に入った者にのみ契約をした旨を伝えるがその時以外に声を聞く事はないしそもそも精霊というのは人里離れた森の中や山の中などで時折見かける程度のものだ。
それが帝都から離れ少し街から離れればほぼ手つかずの山や森があるとはいえ人の出入りのある屋敷に毎日のように現れるというのは異常だ。これはヒサコが巫女だったということが関係しているのか………?

とにかくやってくる精霊やヒサコ見つからないよう離れつつ、ヒサコに何かあれば即駆け寄れる範囲で見守った。
まあ精霊にはもう見つかっていて見逃されているだけかもしれんが………





「あの……風の精霊さま……どうかなさいましたか?あちらの方ばかりご覧になっていますが………」

良く晴れて風が気持ち良い今日は風の精霊さまが来てくださいました。
しかし少しお話をしてからずっと屋敷の方を見ていらっしゃるのが気になったので聞いてみることにしたのですが……

「なに、可愛らしいことよ、と思ってな。くくっ」

風の精霊さまのおっしゃることが良くわかりません。精霊さま達は私などよりも長生きをされていますので私にはわからないこともたくさん知っておいでです。
能力を使って遠くでも見てらっしゃるのでしょうか?たまにそうやってこの場所にいながら遠い場所のことをお話ししてくださることがあるので私としてはそういった色んなお話しを聞きたいのですが………

「そういえば巫女どのは修行も途中だったな。それでは風で遠見もできぬか………ふむ。では我が力でお見せしよう」

そう言って風の精霊さまは私の後ろに回り、そのまま私の目をその両手で隠してしまわれました。





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遅くなりましたが言語についてはこの世界には1つしかないものとし、文字についても同様だと思って読んでいただけたらと思います。

ただし異世界者テメーは駄目だ!
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