13 / 16
乗馬
しおりを挟む
「本当にすいませんでした。シュンメイにはこれ以上勝手な真似はさせませんから」
テリュースはわざわざ私たちの邸宅訪問に来て、私に平謝りだった。
「は、はい。でも、こんな立派なお屋敷をご用意頂きまして、本当にありがとうございます」
シュンメイさんには確かに振り回されてばかりだが、素敵な邸宅を私たち四人に用意してくれた。
ステーシアは毎日のようにクレイと会うようになってラブラブだし、強い対戦相手を見つけてくれるシュンメイさんには感謝しかしていない。
それから、アミとミアも、シュンメイさんから魔法のレッスンを受けていて、とても世話になっているらしい。彼女たちによると、シュンメイさんはかなり高位の魔法使いとのことだ。
要するに、シュンメイさんにいいように利用されていると感じているのは、私だけだった。
「何かご不自由なことはございませんか」
テリュースは本当に私を気遣ってくれる。
「いいえ、十分にして頂いてます」
どうしたのだろうか。テリュースが急に落ち着かなくなって来た。
「あ、あの、あのですね。も、もしよろしかったら、こ、今度、じ、乗馬を、ご、ご一緒に、い、いかがでしょうかっ」
テリュースが突然顔を真っ赤にして、体をカチンコチンにして、乗馬に誘って来た。
「え、ええ、ぜひお連れ下さい」
あまりにもテリュースが固すぎて、少し引いてしまったが、冒険者活動は週一ペースで、それ以外の日は、私はいつも一人で暇していることが多かったので、お誘いは嬉しかった。
テリュースは、ぱあっと顔を輝かせた。
(何だか子供みたいな方ね)
「あ、ありがとうございます。いつがよろしいでしょうか。いつでもスケジュールあけますっ」
「火曜日と水曜日以外は、いつでも大丈夫です」
「わ、分かりましたっ。す、すぐスケジュールを確認して、戻って来ますっ!」
テリュースはものすごい勢いで部屋を出て行ってしまった。その姿が何だかとてもおかしくて、私はプッと笑ってしまった。
(さて、庭でも散歩しようかしら)
そう思って席を立とうとしたら、テリュースがもう戻って来た。
「い、今から大丈夫でしょうか」
全速力で走って来たのか、かなり息が乱れている。
「はい、大丈夫ですが、乗馬服を持っておりませんの。このままでよろしかったでしょうか」
「乗馬服はお持ちしました。ミレイ、ここに」
「ミレイ王女!?」
「乗馬服を持って、ずっと外で待たされておりました……」
ミレイが乗馬服を抱えて部屋に入って来た。
「王女様がそんなことをっ」
「兄の誘いをお断りされたら、使用人がルミエールさんに失礼をしないかと心配して、私に頼むのですよ。もう、兄はルミエールさんのことになると、極端に考えすぎなのです」
「ミ、ミレイ、それ以上話すなっ。さあ、ルミエール殿、乗馬服をお召しください」
「ありがとうございます。それでは着替えて参ります」
私は隣りの部屋に入って乗馬服に着替えた。非常に上質な乗馬服で、サイズが私にぴったりだった。
着替え終わって出て行くと、テリュースが驚いて私を見た後、ものすごくいい笑顔になった。
「ルミエール殿、とてもお似合いです」
「ありがとうございます」
「お兄様、ルミエール殿ってのは固すぎませんこと?」
「ルミエール殿はルミエール殿ではないか」
「ルミエールさんは、兄からどのように呼ばれたいのかしら」
「え? ルミエール殿で構いませんが。もちろん、ルミエールでも構いません」
「ル、ルミエール!? だ、だめだ。お、恐れ多くて、心臓が破裂しそうだっ」
この方は本当に大げさね。
「お兄様、せっかく乗馬に行くのですから、もう少し親密な感じにされてはいかがでしょうか」
「考えておく。さあ、ルミエール殿、こちらにお越しください。乗馬は初めてでおられますか?」
「聖女の修行時代に一通りは習いました」
「お兄様、私はもうよろしいでしょうか?」
「ああ、ありがとう。苦労をかけた」
「どういたしまして。ルミエールさん、兄をよろしくお願いします」
王女から丁寧にお辞儀をされてしまった。
「申し訳ございません。不躾な妹で」
「いいえ、明るくお美しい妹君で、羨ましいです。仲がよろしいのですね」
「そうでしょうか? 昔は仲がよかったのですが、最近は実はほとんど口をきかなかったのです。ところが、私がジョージ王子を殴ってから、急に妹から話しかけて来るようになりまして」
「まあ、そうでしたの」
「ルミエール殿はご兄弟はいらっしゃるのですか?」
「ルミエールでよろしいですわ、殿下。私は兄弟はおりませんの」
「そうなのですね。私にも殿下は不要です。テリュースで結構です」
「では、そう呼ばせて頂きますわ、テリュース」
「ルミエール」
(あら、少し恥ずかしいわ)
「あの、お兄様……」
私たちはミレイがいることに気づかなかった。
「な、何だっ、まだいたのかっ」
「いえ、戻って来たのです。ルミエールさん、帽子をお持ちしました」
「あ、ありがとうございます」
「それでは、お兄様、お姉様、行ってらっしゃいませ」
そう言って、ミレイは今度こそ、ガナルの宮殿へと戻って行った。
(私をお姉様だなんて……)
テリュースとの乗馬はとても楽しかった。近くの湖まで二人で早駆けしたり、湖でランチボックスを頂いたり。
私もテリュースもあまり話をしない方だが、二人でいるとなぜか会話が弾んだ。
私はあまり話が上手ではないのだが、テリュースは頭がすごく良くて、私の話を全て理解してくれた。私の話の中で、聖女の修行時代の話は、テリュースにはツボだったらしく、特にマリアンヌの私への対抗意識丸出しの話は、涙が出るほど笑っていた。
(こんなに笑う人だったなんて。それに、なんて話しやすい人なんだろう)
「も、もし、よ、よろしければ、明日の夜、か、歌劇にい、行きませんか」
どうして、この人はさっきまで普通に話していたのに、誘っていただくときには、こんなにガチガチになるのだろうか。
「はい、喜んで」
テリュースはわざわざ私たちの邸宅訪問に来て、私に平謝りだった。
「は、はい。でも、こんな立派なお屋敷をご用意頂きまして、本当にありがとうございます」
シュンメイさんには確かに振り回されてばかりだが、素敵な邸宅を私たち四人に用意してくれた。
ステーシアは毎日のようにクレイと会うようになってラブラブだし、強い対戦相手を見つけてくれるシュンメイさんには感謝しかしていない。
それから、アミとミアも、シュンメイさんから魔法のレッスンを受けていて、とても世話になっているらしい。彼女たちによると、シュンメイさんはかなり高位の魔法使いとのことだ。
要するに、シュンメイさんにいいように利用されていると感じているのは、私だけだった。
「何かご不自由なことはございませんか」
テリュースは本当に私を気遣ってくれる。
「いいえ、十分にして頂いてます」
どうしたのだろうか。テリュースが急に落ち着かなくなって来た。
「あ、あの、あのですね。も、もしよろしかったら、こ、今度、じ、乗馬を、ご、ご一緒に、い、いかがでしょうかっ」
テリュースが突然顔を真っ赤にして、体をカチンコチンにして、乗馬に誘って来た。
「え、ええ、ぜひお連れ下さい」
あまりにもテリュースが固すぎて、少し引いてしまったが、冒険者活動は週一ペースで、それ以外の日は、私はいつも一人で暇していることが多かったので、お誘いは嬉しかった。
テリュースは、ぱあっと顔を輝かせた。
(何だか子供みたいな方ね)
「あ、ありがとうございます。いつがよろしいでしょうか。いつでもスケジュールあけますっ」
「火曜日と水曜日以外は、いつでも大丈夫です」
「わ、分かりましたっ。す、すぐスケジュールを確認して、戻って来ますっ!」
テリュースはものすごい勢いで部屋を出て行ってしまった。その姿が何だかとてもおかしくて、私はプッと笑ってしまった。
(さて、庭でも散歩しようかしら)
そう思って席を立とうとしたら、テリュースがもう戻って来た。
「い、今から大丈夫でしょうか」
全速力で走って来たのか、かなり息が乱れている。
「はい、大丈夫ですが、乗馬服を持っておりませんの。このままでよろしかったでしょうか」
「乗馬服はお持ちしました。ミレイ、ここに」
「ミレイ王女!?」
「乗馬服を持って、ずっと外で待たされておりました……」
ミレイが乗馬服を抱えて部屋に入って来た。
「王女様がそんなことをっ」
「兄の誘いをお断りされたら、使用人がルミエールさんに失礼をしないかと心配して、私に頼むのですよ。もう、兄はルミエールさんのことになると、極端に考えすぎなのです」
「ミ、ミレイ、それ以上話すなっ。さあ、ルミエール殿、乗馬服をお召しください」
「ありがとうございます。それでは着替えて参ります」
私は隣りの部屋に入って乗馬服に着替えた。非常に上質な乗馬服で、サイズが私にぴったりだった。
着替え終わって出て行くと、テリュースが驚いて私を見た後、ものすごくいい笑顔になった。
「ルミエール殿、とてもお似合いです」
「ありがとうございます」
「お兄様、ルミエール殿ってのは固すぎませんこと?」
「ルミエール殿はルミエール殿ではないか」
「ルミエールさんは、兄からどのように呼ばれたいのかしら」
「え? ルミエール殿で構いませんが。もちろん、ルミエールでも構いません」
「ル、ルミエール!? だ、だめだ。お、恐れ多くて、心臓が破裂しそうだっ」
この方は本当に大げさね。
「お兄様、せっかく乗馬に行くのですから、もう少し親密な感じにされてはいかがでしょうか」
「考えておく。さあ、ルミエール殿、こちらにお越しください。乗馬は初めてでおられますか?」
「聖女の修行時代に一通りは習いました」
「お兄様、私はもうよろしいでしょうか?」
「ああ、ありがとう。苦労をかけた」
「どういたしまして。ルミエールさん、兄をよろしくお願いします」
王女から丁寧にお辞儀をされてしまった。
「申し訳ございません。不躾な妹で」
「いいえ、明るくお美しい妹君で、羨ましいです。仲がよろしいのですね」
「そうでしょうか? 昔は仲がよかったのですが、最近は実はほとんど口をきかなかったのです。ところが、私がジョージ王子を殴ってから、急に妹から話しかけて来るようになりまして」
「まあ、そうでしたの」
「ルミエール殿はご兄弟はいらっしゃるのですか?」
「ルミエールでよろしいですわ、殿下。私は兄弟はおりませんの」
「そうなのですね。私にも殿下は不要です。テリュースで結構です」
「では、そう呼ばせて頂きますわ、テリュース」
「ルミエール」
(あら、少し恥ずかしいわ)
「あの、お兄様……」
私たちはミレイがいることに気づかなかった。
「な、何だっ、まだいたのかっ」
「いえ、戻って来たのです。ルミエールさん、帽子をお持ちしました」
「あ、ありがとうございます」
「それでは、お兄様、お姉様、行ってらっしゃいませ」
そう言って、ミレイは今度こそ、ガナルの宮殿へと戻って行った。
(私をお姉様だなんて……)
テリュースとの乗馬はとても楽しかった。近くの湖まで二人で早駆けしたり、湖でランチボックスを頂いたり。
私もテリュースもあまり話をしない方だが、二人でいるとなぜか会話が弾んだ。
私はあまり話が上手ではないのだが、テリュースは頭がすごく良くて、私の話を全て理解してくれた。私の話の中で、聖女の修行時代の話は、テリュースにはツボだったらしく、特にマリアンヌの私への対抗意識丸出しの話は、涙が出るほど笑っていた。
(こんなに笑う人だったなんて。それに、なんて話しやすい人なんだろう)
「も、もし、よ、よろしければ、明日の夜、か、歌劇にい、行きませんか」
どうして、この人はさっきまで普通に話していたのに、誘っていただくときには、こんなにガチガチになるのだろうか。
「はい、喜んで」
3
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?
越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。
・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。


当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。


婚約破棄感謝します!~え!?なんだか思ってたのと違う~
あゆむ
ファンタジー
ラージエナ王国の公爵令嬢である、シーナ・カルヴァネルには野望があった。
「せっかく転生出来たんだし、目一杯楽しく生きなきゃ!!」
だがどうやらこの世界は『君は儚くも美しき華』という乙女ゲームで、シーナが悪役令嬢、自分がヒロインらしい。(姉談)
シーナは婚約破棄されて国外追放になるように努めるが……

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる