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女神
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ガナルエリアの広大な草原では、有史以来、先住民の遊牧民族と王国との戦闘が絶えなかったが、西奥の森のエルフが草原への進出の気配を見せるようになってからは、人間同士手を組むようになった。
草原には六つの大きな遊牧民の部族がいるが、王国の民も迎え入れ、それぞれの部族の長と王国からの代表者の七人の合議で、国策を決めるようになったのだ。
だが、古来より強者が尊ばれた風土であるがゆえ、合議制とは名ばかりで、強者の意見が通った。
強者は、年に一度開かれる部族代表のバトルロイヤルで決められる。王国の代表者はこの戦いに一度も勝利したことがなかった。そのため、これまでは統治など出来たためしがなかった。
しかし、今年は違う。無敵の二人がいるのだ。
シュンメイは勝利を確信していた。あの二人は、人が勝てる相手ではない。
「あの、シュンメイさん、私たち、いったい何に出場させられるのでしょうか?」
私とステーシアがシュンメイに呼ばれた場所は、何かの大会を行なっているようで、非常に多くの人々が集まって来ていた。いかつい男性が多く、私たちは場違いで、好奇の視線に晒されていた。
「ガナルの統治者を決める武闘大会です」
「……、えっと、なぜ私たちが?」
「王国最強だからです。いやあ、間に合ってよかったです」
「間に合ってよかった、じゃないですっ。私たち引き受けてないですっ」
「おかしいですね。ステーシアさんには許可頂きましたよ。強者と思う存分闘えると言ったら、ふたつ返事でしたよ」
ステーシアを見ると、やる気満々の顔をしていた。
「ねえ、ステイ、今日の話してくれてたっけ?」
「ええ、したわよ。強者が集まる大会があるって」
「そ、それは聞いた記憶があるけど、まさか出るとは思ってなかったわよ」
「え? 逆になぜ出ないと思ったの?」
この戦闘狂とは、これ以上の議論はやめておこう。次から気をつけるようにしよう。
「分かったわ。大会には出るけど、作戦はあるの? アミとミアも出るのかしら?」
「今回は私とあなたのペアで出場よ。作戦は、斬って斬って斬りまくる、しかないわ。ルミは治癒に専念して欲しいのだけれど、斬り刻まれる覚悟はあるかしら」
「ないけど……。私は斬り刻まれるのかしら?」
「そうならないよう頑張るわ」
「じゃあ、お二方、頑張って下さい。優勝は間違いないです」
そう言って、シュンメイは観客席の方に走って行った。観客席にはテリュースの姿も見えたが、彼も私たちに出場は聞かされていなかったらしい。シュンメイとリンメイの兄妹とミレイに取り押さえられていた。
「ルミ、二名一組の十四人によるバトルロイヤルよ。女性は私たちだけで、毎年、王国は一番最初にやられるの。近くにいる敵が次々にとびかかってくるから、首をとばされないようにね。首さえくっついていれば、大丈夫なのでしょう?」
「ええ、この大会は殺し合いなの?」
「ええ、皆、殺す気で来るわよ。降参すれば、殺されないわ。でも、私は降参する気はさらさらないから」
大会は広大な草原の上に設けられた特設会場で行われた。
二人一組での戦いだが、攻撃役だけの組と攻守それぞれの組があるようで、後者がほとんどだ。皆、防具を装備しているが、私もステーシアもゆったり目のワンピースを着ているだけだった。
そんな服装だったためか、最初、私たちが本当に選手なのかと戸惑っていたように思う。しかし、ステーシアが隣りの二人を瞬く間に斬り倒し、眉間に剣をピタリと当て、降伏させたことで、敵認定されたようだ。私たちに敵が殺到して来た。
ステーシアは私を守りながら、次々と相手を斬り倒して行く。倒れた相手は他の敵に襲撃を受け、次々と降伏して行き、あっという間に私たちを含めて残り三組となった。
間髪入れず、二組が私たちの前後から同時に斬りかかってきた。
(あ、これ、刺される)
相手は私のお腹に剣を突き刺しに来て、ピタリと寸止めした。降伏を促しているのだろう。
(意外と紳士ね)
目つきの悪い山賊のような髭もじゃ男だったが、刺さないで済ませてくれたようだ。
私は男ににっこりと微笑みかけ、剣をつかんで、自分の腹にグサリと剣を突き刺した。山賊男がギョッとして、剣を抜こうとするが、私はっ剣の刃を両手でつかんで抜けないように踏ん張った。
もう一人の狐目の男が、慌てて私に斬り掛かってくる。今度は寸止めなしで、右肩から左脇にかけて斬られた。しかし、ワンピースの布が切れただけで、血は全く出ない。狐目が細い目を思いっきり見開いていた。
(あ、おっぱいが見られちゃうじゃないっ)
私は握っていた山賊男の剣を離して、すぐに剣で切られたワンピースの裂け目を隠した。急に剣を離されて、山賊男が後ろにバランスを崩している。
後ろの敵を降伏させたステーシアが、振り返って、剣を一閃させ、狐目の男の首筋に剣先をピタリと当てた。
「……降参する」
狐目が降参して、私たちが優勝した。会場は割れんばかりの拍手だった。
「ルミ、大丈夫?」
「ええ、うまく行ったようね」
山賊男と狐目は信じられないものを見るような目つきで私を見ていた。
「め、女神、フローリア様……」
山賊男と狐目が私の前に跪いて、首をたれた。
(な、何? どうしたの!?)
どうやら私を女神と勘違いしているようだ。
他の対戦者たちも次々と跪いて行く。そのなかに怪我をしている者たちがいたので、治癒を施した。
するとますます効果があったようで、私は完全に女神だと思われたようだ。皆が口々に「フローリア様」と呟いて、私を拝み始めた。
「ステイ、逃げるわよっ」
私たちは会場を逃げ出した。
草原には六つの大きな遊牧民の部族がいるが、王国の民も迎え入れ、それぞれの部族の長と王国からの代表者の七人の合議で、国策を決めるようになったのだ。
だが、古来より強者が尊ばれた風土であるがゆえ、合議制とは名ばかりで、強者の意見が通った。
強者は、年に一度開かれる部族代表のバトルロイヤルで決められる。王国の代表者はこの戦いに一度も勝利したことがなかった。そのため、これまでは統治など出来たためしがなかった。
しかし、今年は違う。無敵の二人がいるのだ。
シュンメイは勝利を確信していた。あの二人は、人が勝てる相手ではない。
「あの、シュンメイさん、私たち、いったい何に出場させられるのでしょうか?」
私とステーシアがシュンメイに呼ばれた場所は、何かの大会を行なっているようで、非常に多くの人々が集まって来ていた。いかつい男性が多く、私たちは場違いで、好奇の視線に晒されていた。
「ガナルの統治者を決める武闘大会です」
「……、えっと、なぜ私たちが?」
「王国最強だからです。いやあ、間に合ってよかったです」
「間に合ってよかった、じゃないですっ。私たち引き受けてないですっ」
「おかしいですね。ステーシアさんには許可頂きましたよ。強者と思う存分闘えると言ったら、ふたつ返事でしたよ」
ステーシアを見ると、やる気満々の顔をしていた。
「ねえ、ステイ、今日の話してくれてたっけ?」
「ええ、したわよ。強者が集まる大会があるって」
「そ、それは聞いた記憶があるけど、まさか出るとは思ってなかったわよ」
「え? 逆になぜ出ないと思ったの?」
この戦闘狂とは、これ以上の議論はやめておこう。次から気をつけるようにしよう。
「分かったわ。大会には出るけど、作戦はあるの? アミとミアも出るのかしら?」
「今回は私とあなたのペアで出場よ。作戦は、斬って斬って斬りまくる、しかないわ。ルミは治癒に専念して欲しいのだけれど、斬り刻まれる覚悟はあるかしら」
「ないけど……。私は斬り刻まれるのかしら?」
「そうならないよう頑張るわ」
「じゃあ、お二方、頑張って下さい。優勝は間違いないです」
そう言って、シュンメイは観客席の方に走って行った。観客席にはテリュースの姿も見えたが、彼も私たちに出場は聞かされていなかったらしい。シュンメイとリンメイの兄妹とミレイに取り押さえられていた。
「ルミ、二名一組の十四人によるバトルロイヤルよ。女性は私たちだけで、毎年、王国は一番最初にやられるの。近くにいる敵が次々にとびかかってくるから、首をとばされないようにね。首さえくっついていれば、大丈夫なのでしょう?」
「ええ、この大会は殺し合いなの?」
「ええ、皆、殺す気で来るわよ。降参すれば、殺されないわ。でも、私は降参する気はさらさらないから」
大会は広大な草原の上に設けられた特設会場で行われた。
二人一組での戦いだが、攻撃役だけの組と攻守それぞれの組があるようで、後者がほとんどだ。皆、防具を装備しているが、私もステーシアもゆったり目のワンピースを着ているだけだった。
そんな服装だったためか、最初、私たちが本当に選手なのかと戸惑っていたように思う。しかし、ステーシアが隣りの二人を瞬く間に斬り倒し、眉間に剣をピタリと当て、降伏させたことで、敵認定されたようだ。私たちに敵が殺到して来た。
ステーシアは私を守りながら、次々と相手を斬り倒して行く。倒れた相手は他の敵に襲撃を受け、次々と降伏して行き、あっという間に私たちを含めて残り三組となった。
間髪入れず、二組が私たちの前後から同時に斬りかかってきた。
(あ、これ、刺される)
相手は私のお腹に剣を突き刺しに来て、ピタリと寸止めした。降伏を促しているのだろう。
(意外と紳士ね)
目つきの悪い山賊のような髭もじゃ男だったが、刺さないで済ませてくれたようだ。
私は男ににっこりと微笑みかけ、剣をつかんで、自分の腹にグサリと剣を突き刺した。山賊男がギョッとして、剣を抜こうとするが、私はっ剣の刃を両手でつかんで抜けないように踏ん張った。
もう一人の狐目の男が、慌てて私に斬り掛かってくる。今度は寸止めなしで、右肩から左脇にかけて斬られた。しかし、ワンピースの布が切れただけで、血は全く出ない。狐目が細い目を思いっきり見開いていた。
(あ、おっぱいが見られちゃうじゃないっ)
私は握っていた山賊男の剣を離して、すぐに剣で切られたワンピースの裂け目を隠した。急に剣を離されて、山賊男が後ろにバランスを崩している。
後ろの敵を降伏させたステーシアが、振り返って、剣を一閃させ、狐目の男の首筋に剣先をピタリと当てた。
「……降参する」
狐目が降参して、私たちが優勝した。会場は割れんばかりの拍手だった。
「ルミ、大丈夫?」
「ええ、うまく行ったようね」
山賊男と狐目は信じられないものを見るような目つきで私を見ていた。
「め、女神、フローリア様……」
山賊男と狐目が私の前に跪いて、首をたれた。
(な、何? どうしたの!?)
どうやら私を女神と勘違いしているようだ。
他の対戦者たちも次々と跪いて行く。そのなかに怪我をしている者たちがいたので、治癒を施した。
するとますます効果があったようで、私は完全に女神だと思われたようだ。皆が口々に「フローリア様」と呟いて、私を拝み始めた。
「ステイ、逃げるわよっ」
私たちは会場を逃げ出した。
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