11 / 16
随行
しおりを挟む
ガナルへは商隊の荷馬車の後に貴婦人用の馬車がついて行く形で移動していた。
アミとミアは商家の娘で、行商の経験もあり、馬車の操舵が出来る。そのため、貴婦人用の馬車の御者はアミとミアが務め、私とステーシアは貴族であることを明かし、馬車に同乗させてもらおうとした。その方が護衛しやすいからだ。
だが、お妃様はそんなことは気にされなかった。
「私は商家の生まれよ。別に貴族でなくても、一緒にお乗りなさいな」
私の前にはミレイ、その横にお妃様がいらっしゃるのだが、この二人の美貌圧が凄すぎる。自分で言うのも何だが、私は聖女になれるぐらいには美しいし、ステーシアもかなりの美人だが、この二人は圧倒的だ。
「あなた、ルミエールさん、息子があなたの話ばかりするのよ。どうしてかしら?」
お妃様が美しい眉をひそめて、私にたずねるが、どうしてなのかはこちらが知りたい。
「さ、さあ、私には分かりかねます」
「お兄様は戦場でもルミエールさんの姿を目で追ってばかり。あんなに分かりやすい愛情表現は、見ているこちらが恥ずかしくなりました」
妹のミレイの兄への評価は辛辣だった。
「は、はあ」
「廃太子されたジョージ王子を息子が殴ったと聞いたときは冷や汗が出たわよ。あなたのことを息子を惑わす女狐め、と思っていたのですけど、まっすぐで純粋で、可愛らしい方のようね」
「そ、そんな……」
「聖女様が絶賛しておられました。歴代聖女の中で文句なしで最上級の方だと」
「いえ、私は、そんな……」
誉め殺しされそうだ。
(ちょっと、ステイ、黙ってないで、助けてよ)
私はステーシアに合図した。
(分かったよ)
「あの、お妃様」
「なあに、ステーシアさん」
「よく陛下がガナル行きを許可して下さいましたね」
ステーシアがうまく話題を変えてくれたと思ったら、話はとんでもない方向に進むことになった。
「あら? お聞きになっていないのかしら? 許可は頂いてなくてよ。逃げて来ましたの」
「「え!?」」
私とステーシアはハモった。
「シュンメイはご存知かしら?」
「「はい」」
「あの子は私の甥なのよ。頭のいい子でね。今回の計画は全てシュンメイが立てたものよ」
「どんな計画なのでしょうか?」
私は聞かずにはいられなかった。
「ミレイ、説明して差し上げて」
「はい、お母様。シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を婿に取って頂きたいと考えています」
「え? 私が嫁に行くのではなく、婿を取るのですか?」
私はテリュースとの婚姻よりも、婿を取るという言い回しの方に興味が向いた。
「はい。ただ、テリュース兄様は本当にルミエールさんのことを大切に考えてまして、常々、ルミエールさんの人生の邪魔はしたくない、と言っておりますので、ご判断はルミエールさんにお任せします」
「そう言われましても、私はお兄様のことはあまり存じ上げておりません」
「それをこれから知って頂こうというのが、シュンメイ兄様の計画です」
「はあ」
「ルミ、私たちは逃亡幇助の罪に問われるぞ」
ステーシアが重大な点に気づいた。
「はい、残念ながら、私たちは指名手配中です。あなた方四人もです」
「嵌められたのか?」
ステーシアはミレイが王女であることを忘れているのだろうか。そんなに睨むのはまずいと思う。
「まあ、そうですが、あなた方四人は私たちがガナルの地で、命をかけてお守りします」
そうは言うが、ずいぶんと勝手だと私も思う。
「しかし、ガナルから出られないのですよね?」
私は私たちが不自由になる点をアピールしたかった。
「はい、しばらくはそうです」
「クレイと会えなくなるっ」
ステーシアが悲痛な叫び声を上げた。
「クレイさんはガナルにいらっしゃいます」
「は?」
ステーシアがキョトンとしているが、私も驚いた。そんなことが出来るのか。
「シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を知って頂くために、ガナルの地で冒険者活動をして頂きたいと考えました。そのために、ステーシアさん、アミさん、ミアさんがガナルにいたいと思うような策を施しました。クレイさんのガナルへの異動はその一つです」
「アミとミアもですか!?」
「今回の逃亡は大罪ですが、ルミエールさんは鬼籍ですし、ステーシアさんは勘当中ですので、両家へのお咎めはありません。しかしながら、アミさん、ミアさんのご実家は、資産を没収され、処刑されてしまいます」
「そ、そんな……」
「そのため、エドモンド商会から事前に取引を持ちかけました。ガナル地区の商権とエルフとの貿易ルートの譲渡です」
「どれだけの価値があるのか分からないですが、アミたちの実家は取引に応じたのですね」
「はい。アミさんとミアさんのご実家は私たちと一緒に移動中です」
「え? ひょっとして前の商隊は……」
「はい、アミさんとミアさんの商家の方々です。お互い気づいておられませんが」
「しかし、エドモンド商会にはそれでメリットはあるのでしょうか」
「エドモンド商会の当主である叔父様は、すでに東方の地に拠点を移しておられます。今後は、交易を王都ではなく、ガナル地区で直接行う予定です。その方がエルフとも交易できて、一石二鳥だからです。王都での商権はすでに譲渡先が見つかっており、全て譲渡済です」
「こんな短期間にそれだけのことを……」
「いいえ。ジョージ王子が立太子されたときから着手しておりました。思った以上にジョージ王子が早く失脚してしまい、少し慌てましたが、何とか間に合いました」
「テリュース王子が西王に封じられることを読んでいたのですか」
「そうなるように仕向けました。エルフとも協力しております」
「す、すごい。それをシュンメイさんがお一人で計画されたのですか?」
「そうです」
「ということは、これからは王都ではなく、ガナルが中心となって栄えて行くということでしょうか?」
「その通りです。王都は地理的には東方貿易の玄関口ですので、引き続きそれなりには栄えますが、良くて頭打ち、恐らく徐々に衰退すると思います」
「ひょっとして、シュンメイさんは、王位の転覆を画策されておられるのでしょうか」
「いいえ。経済的にはテリュース兄様を支援しますが、転覆ではないです。皇位継承者の一人を支援するに過ぎません。兄を王位に就かせるか、第三王子に継がせるかは、陛下のご判断にお任せします」
私たちは活動拠点をガナルに移さざるを得なかった。
アミとミアは商家の娘で、行商の経験もあり、馬車の操舵が出来る。そのため、貴婦人用の馬車の御者はアミとミアが務め、私とステーシアは貴族であることを明かし、馬車に同乗させてもらおうとした。その方が護衛しやすいからだ。
だが、お妃様はそんなことは気にされなかった。
「私は商家の生まれよ。別に貴族でなくても、一緒にお乗りなさいな」
私の前にはミレイ、その横にお妃様がいらっしゃるのだが、この二人の美貌圧が凄すぎる。自分で言うのも何だが、私は聖女になれるぐらいには美しいし、ステーシアもかなりの美人だが、この二人は圧倒的だ。
「あなた、ルミエールさん、息子があなたの話ばかりするのよ。どうしてかしら?」
お妃様が美しい眉をひそめて、私にたずねるが、どうしてなのかはこちらが知りたい。
「さ、さあ、私には分かりかねます」
「お兄様は戦場でもルミエールさんの姿を目で追ってばかり。あんなに分かりやすい愛情表現は、見ているこちらが恥ずかしくなりました」
妹のミレイの兄への評価は辛辣だった。
「は、はあ」
「廃太子されたジョージ王子を息子が殴ったと聞いたときは冷や汗が出たわよ。あなたのことを息子を惑わす女狐め、と思っていたのですけど、まっすぐで純粋で、可愛らしい方のようね」
「そ、そんな……」
「聖女様が絶賛しておられました。歴代聖女の中で文句なしで最上級の方だと」
「いえ、私は、そんな……」
誉め殺しされそうだ。
(ちょっと、ステイ、黙ってないで、助けてよ)
私はステーシアに合図した。
(分かったよ)
「あの、お妃様」
「なあに、ステーシアさん」
「よく陛下がガナル行きを許可して下さいましたね」
ステーシアがうまく話題を変えてくれたと思ったら、話はとんでもない方向に進むことになった。
「あら? お聞きになっていないのかしら? 許可は頂いてなくてよ。逃げて来ましたの」
「「え!?」」
私とステーシアはハモった。
「シュンメイはご存知かしら?」
「「はい」」
「あの子は私の甥なのよ。頭のいい子でね。今回の計画は全てシュンメイが立てたものよ」
「どんな計画なのでしょうか?」
私は聞かずにはいられなかった。
「ミレイ、説明して差し上げて」
「はい、お母様。シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を婿に取って頂きたいと考えています」
「え? 私が嫁に行くのではなく、婿を取るのですか?」
私はテリュースとの婚姻よりも、婿を取るという言い回しの方に興味が向いた。
「はい。ただ、テリュース兄様は本当にルミエールさんのことを大切に考えてまして、常々、ルミエールさんの人生の邪魔はしたくない、と言っておりますので、ご判断はルミエールさんにお任せします」
「そう言われましても、私はお兄様のことはあまり存じ上げておりません」
「それをこれから知って頂こうというのが、シュンメイ兄様の計画です」
「はあ」
「ルミ、私たちは逃亡幇助の罪に問われるぞ」
ステーシアが重大な点に気づいた。
「はい、残念ながら、私たちは指名手配中です。あなた方四人もです」
「嵌められたのか?」
ステーシアはミレイが王女であることを忘れているのだろうか。そんなに睨むのはまずいと思う。
「まあ、そうですが、あなた方四人は私たちがガナルの地で、命をかけてお守りします」
そうは言うが、ずいぶんと勝手だと私も思う。
「しかし、ガナルから出られないのですよね?」
私は私たちが不自由になる点をアピールしたかった。
「はい、しばらくはそうです」
「クレイと会えなくなるっ」
ステーシアが悲痛な叫び声を上げた。
「クレイさんはガナルにいらっしゃいます」
「は?」
ステーシアがキョトンとしているが、私も驚いた。そんなことが出来るのか。
「シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を知って頂くために、ガナルの地で冒険者活動をして頂きたいと考えました。そのために、ステーシアさん、アミさん、ミアさんがガナルにいたいと思うような策を施しました。クレイさんのガナルへの異動はその一つです」
「アミとミアもですか!?」
「今回の逃亡は大罪ですが、ルミエールさんは鬼籍ですし、ステーシアさんは勘当中ですので、両家へのお咎めはありません。しかしながら、アミさん、ミアさんのご実家は、資産を没収され、処刑されてしまいます」
「そ、そんな……」
「そのため、エドモンド商会から事前に取引を持ちかけました。ガナル地区の商権とエルフとの貿易ルートの譲渡です」
「どれだけの価値があるのか分からないですが、アミたちの実家は取引に応じたのですね」
「はい。アミさんとミアさんのご実家は私たちと一緒に移動中です」
「え? ひょっとして前の商隊は……」
「はい、アミさんとミアさんの商家の方々です。お互い気づいておられませんが」
「しかし、エドモンド商会にはそれでメリットはあるのでしょうか」
「エドモンド商会の当主である叔父様は、すでに東方の地に拠点を移しておられます。今後は、交易を王都ではなく、ガナル地区で直接行う予定です。その方がエルフとも交易できて、一石二鳥だからです。王都での商権はすでに譲渡先が見つかっており、全て譲渡済です」
「こんな短期間にそれだけのことを……」
「いいえ。ジョージ王子が立太子されたときから着手しておりました。思った以上にジョージ王子が早く失脚してしまい、少し慌てましたが、何とか間に合いました」
「テリュース王子が西王に封じられることを読んでいたのですか」
「そうなるように仕向けました。エルフとも協力しております」
「す、すごい。それをシュンメイさんがお一人で計画されたのですか?」
「そうです」
「ということは、これからは王都ではなく、ガナルが中心となって栄えて行くということでしょうか?」
「その通りです。王都は地理的には東方貿易の玄関口ですので、引き続きそれなりには栄えますが、良くて頭打ち、恐らく徐々に衰退すると思います」
「ひょっとして、シュンメイさんは、王位の転覆を画策されておられるのでしょうか」
「いいえ。経済的にはテリュース兄様を支援しますが、転覆ではないです。皇位継承者の一人を支援するに過ぎません。兄を王位に就かせるか、第三王子に継がせるかは、陛下のご判断にお任せします」
私たちは活動拠点をガナルに移さざるを得なかった。
2
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?
越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。
・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。


婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。

婚約破棄感謝します!~え!?なんだか思ってたのと違う~
あゆむ
ファンタジー
ラージエナ王国の公爵令嬢である、シーナ・カルヴァネルには野望があった。
「せっかく転生出来たんだし、目一杯楽しく生きなきゃ!!」
だがどうやらこの世界は『君は儚くも美しき華』という乙女ゲームで、シーナが悪役令嬢、自分がヒロインらしい。(姉談)
シーナは婚約破棄されて国外追放になるように努めるが……

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる