婚約破棄され追放された聖女は冒険者になりました

もぐすけ

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 ゴブリンキングを討伐したことは、依頼人であるセシルから組合に報告してもらった。

「あの、聖女様……、でしょうか」

 冒険者組合の受付嬢は自分の目を疑った。使いの者ではなく、聖女自らがふらりと現れたのだ。

「ええ、組合に報告したいことがあるの」

 セシルはにこやかに微笑んだ。

「お、お待ちください。すぐにギルマスを呼んで参りますっ」

 ギルマスが慌ててとんで来て、セシルをマスター室に案内した。

「あの、ご報告というのは何でしょうか?」

 冒険者組合の北部支部長は元A級冒険者のボルトという中年の男だった。だが、すっかり太ってしまい、往年の面影はまるでない。

「先日、ご紹介頂いた四名の方が、ゴブリンキングを倒して下さったの。組合からは護衛の報酬だけかと思いましたので、王室から追加報酬を出しましたので、そのご報告をと思いまして」

 セシルはそう言い終わると、出された紅茶に上品に口をつけた。

「ちょっと待ってください。ゴブリンキングですか? 軍隊でないと無理だと思いますが。ご紹介した四人が軍に加わったということでしょうか?」

「いいえ。四人の方に私と聖女補佐二名が加わって、六名で仕留めましてよ。ただ、私と聖女補佐は単にただいただけで、特に何もしませんでしたので、実質四名で討ち取って下さいました」

 ボルトは口を開けてポカンとしている。上手く話を飲み込めないらしい。

「もし、大丈夫ですか?」

「あ、す、すいません。ゴブリンキングはSS級にカテゴライズされているモンスターです。冒険者では討伐不可能との扱いでして、にわかには信じられません」

「そうでしょうね。王国軍が三ヶ月かかっても倒せなかった相手ですから。では、申し伝えましたので、私は失礼致します。ご機嫌よう」

「あ、お送りしますっ」

 ボルトは慌ててセシルを組合の出口までお送りした。

「おい、紹介した冒険者のファイルを用意してくれ。本部に連絡する必要がある」

 ボルトは組合の事務員に指示出しした。

(ゴブリンキングを四人で? あり得ないが、聖女様が嘘を言われるはずはないし……。一体何が起きたのだ!?)

 だが、ゴブリンキングが倒されたことは本当らしく、数日後に軍の出していた戒厳令と夜間外出禁止令が解かれ、南に強制避難していた人々に帰還許可が出た。

 ボルトは王都にある組合本部から報告を求められていた。本部に出張する前に、四人から詳細を聞きたいと思っていた。

「マスター、例の四人がチーム登録に来ていますっ」

「おお、マスター室まで連れて来てくれ」

 ボルトがしばらく待っていると、男装した女性四人組がマスター室に入って来た。四人とも目が異様に細く小さい。よく見ると、目以外のパーツは整っているのだが、目が全てを台無しにしていた。

「忙しいところ、申し訳ない。座ってくれたまえ」

 ボルトは立ち上がって、四人にソファに座るように促した。

 四人は黙ったまま座った。ボルトもゆっくりとソファに腰掛け、口を開いた。

「先日、聖女様が来られて、君たちがゴブリンキングを倒したと聞いたのだが、どうやって倒したのか、教えてくれるだろうか」

「剣で首を斬りました」

 ステーシアという剣士が答えた。

「ゴブリンは守っていなかったのか?」

「いいえ。何万ものゴブリン軍が守っていました。でも、一点突破して仕留めました。現時点では、それしか申し上げられませんわ」

 ボルトは知り合いの兵士からも事前に情報を入手していたのだが、聖女の護衛がゴブリンキングを倒したことは本当とのことだった。ただ方法については、軍から箝口令が出されているとのことで、詳しくは教えてもらえなかった。

 ステーシアたちからなら直接聞けるかもしれないと少し期待していたが、やはり無理だった。だが、直接聞いても教えてくれなかったという報告が本部に出来れば、ボルトとしては十分だった。

「今回のポイントなんだが、組合への依頼は、聖女様の護衛ということだったので、その分しかつかない。だが、国への貢献が大きいので、二階級特進が妥当と考えているが、それでいいかな?」

「私とルミエールがB級、アミとミアがC級に昇級でしょうか?」

「うむ、そうなる。あと今回登録したチームは、チームの上位半数の階級のB級となる。これは通常ルールの適用となる」

「了解しましたわ。もう失礼してよろしいかしら」

 ボルトは思った。このステーシアという女性は、言葉遣いやアクセントが上流階級のもので、とても冒険者とは思えない。それにルミエールという女性の佇まいも洗練されていて、貴人オーラが出ている。それに対して、アミとミアは普通の感じだった。

 だが、過去の詮索は冒険者の間では行わないのがマナーだ。ギルマスのボルト自らが破っていては示しがつかない。

「ああ、すまなかった。昇進手続きはすぐに済ませるから、新しいカードを持って帰ってくれ」

 四人は来たときと同じように、口を閉じたまま、黙って出て行った。

「俺が緊張してどうするんだよ……」

 ボルトは勝ち目のないモンスターに遭遇したときのような強者からのプレッシャーのようなものを四人から受けていたのだった。

「ありゃあ、本物だな。もうちっとキレイだと、女性チーム初のS級で、しかも、美女揃いで、話題性には事欠かないんだが……。いずれにしろ、うちの支部からS級は出ていない。彼女たちがホームタウンを変えてしまわないよう優遇すべきだな」

 ボルトは組合の幹部用の邸宅を四人に無償提供するよう部下に指示を出した。
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