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決行
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後に女性だけのチームとしては、初のS級冒険者チームとなる「キューブ」の戦闘隊形のほとんどは、シュンメイが考案したものだ。
その記念すべき第一号が、今回、ゴブリンキングを倒すために考えられた「アロー」と呼ばれる隊形だ。
常時治癒をかけられた状態のステーシアが敵陣に矢の如く突進する。ステーシアを頂点として二等辺三角形の底辺の角に、これまた常時治癒をかけられた状態のアミとミアを配置し、アミは左側に、ミアは右側に電撃の壁を作る。
これによって、左右側面からの敵は感電して麻痺するため、ステーシアは正面の敵に集中でき、圧倒的な剣技で次々と敵を倒して行く。
ルミエールは三角形の真ん中にいて、治癒の力が三人に均等に行き渡るようにする。しかも、今回はセシルとミレイのダブル補佐が両脇に配置されていた。
この隊形の弱点は後方だが、後方から敵が押し寄せて来て、ルミエールたちを敵が取り囲む形になったら、アミとミアは、敵の体を回路にして、電気を循環させるようにした。
それによって、ゴブリンたちは輪になったままの状態で感電して動くことができなくなり、ルミエールたちを他のゴブリンから防御してくれる形になるのだ。
「サンダーリングと名付けました」
シュンメイが得意げにテリュースに説明した。
リングになってしまっているゴブリンは、後ろのゴブリンに切り捨てられるが、すぐに入れ替わりのゴブリンが電気で痺れて、新たなリングを形成する。
そんな中、ステーシアがものすごい勢いでゴブリン軍を蹴散らして行く。
「圧倒的ではないかっ」
ルミエールのことが心配で、作戦の決行に一人だけ反対していたテリュースだが、いざ始めてみると、ルミエールたちは戦場の中で誰よりも強かった。
ゴブリンキングを守っている親衛隊が慌ててステーシアの前面に押し寄せ、懸命にステーシアを攻撃するが、刺し傷も切り傷も出来る前に治癒されていく。
傷つけることさえ出来ない前衛と対峙しているゴブリンたちが、非常に慌てているのが、遠くから見てもよく分かった。
また、いつまで経っても途切れる気配のない電気の壁もゴブリンたちには脅威だった。アミとミアは放電しているのではなく、ゴブリンの体を回路にして上手く電気を循環させているため、長時間電気の壁を作っていられるのだった。
そして、ルミエールは両手を前に出し、時計と反対に回りながら、ステーシア、アミ、ミアに治癒を施して行く。その姿はテリュースには、慈悲深い女神のように見えた。
「ああ、なんて美しいんだ。生きていてくれて本当によかった。私はもう遠慮はしない。彼女のためにこの身を捧げる」
テリュースは先ほどからずっとルミエールに視線が釘付けだった。
「殿下、そんな悲壮な決意は不要ですよ。普通に、結婚してくれ、でいいのでは?」
シュンメイは付き合いきれないといった顔をした。
「バカもの。私ごときが、彼女の人生の邪魔をしてはいけない。彼女が幸せになるために、私はこの身を捧げるのだ」
「そ、そうですか。いくらでも捧げてください」
そう言っている間にも、ステーシアがどんどんゴブリンキングに近づいて行く。ゴブリンたちはゴブリンキングを何とか逃がそうとしているのだが、ステーシアが許さない。
ゴブリンキングまで残りは二十メートルぐらいだろうか。ステーシアはさらにギアを上げて来た。バッサバッサとゴブリンの親衛隊をなぎ倒し、急速にゴブリンキングに近づいて行く。
「「やった!」」
ステーシアは遂にゴブリンキングを仕留めた。
「ギャアアアアアアア」
ゴブリンキングの統率がプツンと切れ、ゴブリンたちが蜘蛛の子を散らすように逃走を開始した。
こうなるともう単なるゴブリンだ。王国軍の兵士が追討する。
戦場は一変して、残酷ショーになってしまった。
兵士たちが道を開け、ステーシアたちが帰還して来る。ステーシアは返り血を浴びて血まみれだった。
「うえぇ、気持ち悪い……」
ステーシアは今にも泣きそうだった。先ほどまでの鬼神のような雰囲気は皆無だった。
「殿下、お風呂に入っていただくため、ルードリッヒ家にお連れします」
セシルの有難い提案にルミエールとアミ、ミアは大喜びだ。
「ル、ルードリッヒ家……」
ステーシアは葛藤していたが、お風呂の誘惑には勝てなかったようだ。布で血を拭った後、セシルに連れられて、ルミエールたちと一緒にルードリッヒ家へと向かって行った。
「殿下、ルミエール様をこのまま帰してしまっていいのですか?」
「先ほど言った通りだ。彼女の人生の邪魔はしない。それよりも、戦いを終わらせるぞ。兵士たちも早く帰りたいだろう」
「了解しました」
***
ゴブリンキングを倒した朗報はすぐに王都の国王まで伝わった。
「戦地に着いてまだそう時間は経っておらぬぞ」
国王は同じく報告を聞いていた宰相マルクスに話しかけた。
「大手柄です。陛下、王太子様の廃太子と第三王子様の立太子を急がれた方がよろしいかと。すでに第二王子を推す勢力が動き始めております」
「うむ、テリュースは優秀すぎるか」
「王都に戻られたら、西方の防衛にあたっていただくというのは如何でしょうか」
「エルフとの国境か。そろそろ妻をあてがう必要もあるな」
「そうですね。夫婦で西の防衛にあたってもらいましょう」
その記念すべき第一号が、今回、ゴブリンキングを倒すために考えられた「アロー」と呼ばれる隊形だ。
常時治癒をかけられた状態のステーシアが敵陣に矢の如く突進する。ステーシアを頂点として二等辺三角形の底辺の角に、これまた常時治癒をかけられた状態のアミとミアを配置し、アミは左側に、ミアは右側に電撃の壁を作る。
これによって、左右側面からの敵は感電して麻痺するため、ステーシアは正面の敵に集中でき、圧倒的な剣技で次々と敵を倒して行く。
ルミエールは三角形の真ん中にいて、治癒の力が三人に均等に行き渡るようにする。しかも、今回はセシルとミレイのダブル補佐が両脇に配置されていた。
この隊形の弱点は後方だが、後方から敵が押し寄せて来て、ルミエールたちを敵が取り囲む形になったら、アミとミアは、敵の体を回路にして、電気を循環させるようにした。
それによって、ゴブリンたちは輪になったままの状態で感電して動くことができなくなり、ルミエールたちを他のゴブリンから防御してくれる形になるのだ。
「サンダーリングと名付けました」
シュンメイが得意げにテリュースに説明した。
リングになってしまっているゴブリンは、後ろのゴブリンに切り捨てられるが、すぐに入れ替わりのゴブリンが電気で痺れて、新たなリングを形成する。
そんな中、ステーシアがものすごい勢いでゴブリン軍を蹴散らして行く。
「圧倒的ではないかっ」
ルミエールのことが心配で、作戦の決行に一人だけ反対していたテリュースだが、いざ始めてみると、ルミエールたちは戦場の中で誰よりも強かった。
ゴブリンキングを守っている親衛隊が慌ててステーシアの前面に押し寄せ、懸命にステーシアを攻撃するが、刺し傷も切り傷も出来る前に治癒されていく。
傷つけることさえ出来ない前衛と対峙しているゴブリンたちが、非常に慌てているのが、遠くから見てもよく分かった。
また、いつまで経っても途切れる気配のない電気の壁もゴブリンたちには脅威だった。アミとミアは放電しているのではなく、ゴブリンの体を回路にして上手く電気を循環させているため、長時間電気の壁を作っていられるのだった。
そして、ルミエールは両手を前に出し、時計と反対に回りながら、ステーシア、アミ、ミアに治癒を施して行く。その姿はテリュースには、慈悲深い女神のように見えた。
「ああ、なんて美しいんだ。生きていてくれて本当によかった。私はもう遠慮はしない。彼女のためにこの身を捧げる」
テリュースは先ほどからずっとルミエールに視線が釘付けだった。
「殿下、そんな悲壮な決意は不要ですよ。普通に、結婚してくれ、でいいのでは?」
シュンメイは付き合いきれないといった顔をした。
「バカもの。私ごときが、彼女の人生の邪魔をしてはいけない。彼女が幸せになるために、私はこの身を捧げるのだ」
「そ、そうですか。いくらでも捧げてください」
そう言っている間にも、ステーシアがどんどんゴブリンキングに近づいて行く。ゴブリンたちはゴブリンキングを何とか逃がそうとしているのだが、ステーシアが許さない。
ゴブリンキングまで残りは二十メートルぐらいだろうか。ステーシアはさらにギアを上げて来た。バッサバッサとゴブリンの親衛隊をなぎ倒し、急速にゴブリンキングに近づいて行く。
「「やった!」」
ステーシアは遂にゴブリンキングを仕留めた。
「ギャアアアアアアア」
ゴブリンキングの統率がプツンと切れ、ゴブリンたちが蜘蛛の子を散らすように逃走を開始した。
こうなるともう単なるゴブリンだ。王国軍の兵士が追討する。
戦場は一変して、残酷ショーになってしまった。
兵士たちが道を開け、ステーシアたちが帰還して来る。ステーシアは返り血を浴びて血まみれだった。
「うえぇ、気持ち悪い……」
ステーシアは今にも泣きそうだった。先ほどまでの鬼神のような雰囲気は皆無だった。
「殿下、お風呂に入っていただくため、ルードリッヒ家にお連れします」
セシルの有難い提案にルミエールとアミ、ミアは大喜びだ。
「ル、ルードリッヒ家……」
ステーシアは葛藤していたが、お風呂の誘惑には勝てなかったようだ。布で血を拭った後、セシルに連れられて、ルミエールたちと一緒にルードリッヒ家へと向かって行った。
「殿下、ルミエール様をこのまま帰してしまっていいのですか?」
「先ほど言った通りだ。彼女の人生の邪魔はしない。それよりも、戦いを終わらせるぞ。兵士たちも早く帰りたいだろう」
「了解しました」
***
ゴブリンキングを倒した朗報はすぐに王都の国王まで伝わった。
「戦地に着いてまだそう時間は経っておらぬぞ」
国王は同じく報告を聞いていた宰相マルクスに話しかけた。
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「うむ、テリュースは優秀すぎるか」
「王都に戻られたら、西方の防衛にあたっていただくというのは如何でしょうか」
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