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王子

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 ユリウスは危険人物として学園を退学となった。

 逆恨みされるのが怖かったが、第一王子がユリウスの父の侯爵家当主を呼び出して、直々に苦言したようで、ユリウスは侯爵から厳しく叱責され、外出禁止になっているらしい。

 そして、王子からアリサを守ってくれた礼がしたいと私に伝令が来た。アリサも同席して欲しいとのことだったので、アリサに会うための口実作りに利用されたのだろう。

 だが、第一王子からの要請を断れるはずがない。そう考えると、アリサが招待状に返事しないってのは、真似の出来ないすごいことなのだと思った。

「アリサ、行くわよね」

 アリサを呼びに行ったのだが、まだドレスに着替えていなかった。

「気が進まないのよ」

 こいつは今更何を言っているのだ。でも、王宮は初めてだし、ごねられて来なかったりすると困るから、少し下手に出るか。

「フィリップ様って、すごく素敵な人じゃない」

「うーん、いい人過ぎて、すぐに飽きるよ。それに彼が背負っているのはこの国なのよ。重すぎるわ」

 贅沢なことを言っている。だが、それも理解出来る。贈り物を届けに来る人の名簿を作っているが、どこまで本気か分からないが、第一王子の他にも王族が数人いらっしゃる。また、王族以外でも公爵、侯爵、伯爵の令息が目白押しだ。子爵は二人だけ、男爵以下はゼロだ。

「そう言えば、好きな人がいるって言ってたけど、だれ?」

「それは内緒よ。振られたらショック大きもの」

「え? 本当にいるの?」

 ユリウスを断るための方便だと思っていた。

「ええ、大好きで忘れられない人がいるの」

 マジか。さっさとその人とくっついてくれないかな。この名簿の男たちを世の女性に解放して欲しい。

 ちなみに、私はこの人なんて良かったかな。直接贈り物を持って来て、礼儀正しく丁寧で。あ、この人はめちゃくちゃ格好良かった。

 私が名簿を見ていると、アリサは残念そうな表情で呟いた。

「その名簿にはいないの。その人からはまだ一度も贈り物を頂いていないのよ」

「リスト外!?」

 いったい誰なのかしら。でも、王子からの求婚を断れる訳ないじゃない。どうするつもりかしら。

「さあ、行くわよね。早く着替えないと、このまま担いで持って行くわよ」

 下手に出る作戦は終わりだ。私の本気の目を見て、アリサが慌てて着替え始めた。

 学園から王宮は馬車で三十分ほどの距離だ。

「お嬢様、王室からのお迎えの馬車が到着しました」

 アーニャが知らせに来た。

「あれ? アリサがいない」

 ふと気づくと、アリサが消えていた。何でこんなに行きたがらないのだ。

 キッチンに隠れていたアリサを見つけて、無理矢理馬車に押し込んだ。

「何でそんなにまで行きたがらないのよ」

「すぐに分かるわよ」

 何と王宮では第一王子が外に出て待っておられた。

「おお、アリサ、やっと会えた。クレア嬢、本当にありがとう。感謝の言葉が見つからないよ」

 王子は私たち二人を自ら応接室に案内してくれた。王子は上機嫌だった。

「クレア嬢の噂は部下から聞いている。アリサが言うことを聞く唯一の人物だと。早速だがアリサ、答えてくれ。プロポーズを受けてくれるのか?」

 本当に早速ね。

「殿下、何度もお断りしております。以前お話しした通り、私は王族にはなりたくないのです」

 はあ、断るかなぁ。何だか私、ここにいるのはお邪魔なような気がする。

 そう思って、そっと応接室から出ようとすると、二人から待ったの声がかかった。

「待ってくれ」
「待って」

「クレア嬢、アリサを説得してくれないか」

「クレア、殿下に諦めてもらうにはどうすればいいの?」

「そう言われましても……」

「そうだわ、いいことを思いついたわ。クレアが殿下の正妻になって、私が側室になればいいのよ。そうすれば重責から解放されるわ。クレアと一緒で楽しいし。殿下のことは嫌いじゃないけど、王妃になるのが私は嫌なの」

「あなた、何言ってるのよ!」

「おお、アリサを妻にできるのであれば、正妻だろうが側室だろうが構わないぞ。クレア嬢、如何であろうか?」

 何を言ってるの? この男はっ。お飾りの王妃なんて……。悪くないかも?
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