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最終話 ご機嫌よう
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三本目は一瞬で決まった。
マーガレットが踏み込んで来る足の出鼻に合わせて剣を置いただけなのだが、追い詰められて飛び込んで来る相手にはよく効く。
マーガレットは足を取られて転んでしまった。
そのまま立ち上がって来ない。
彼女の肩が震えている。泣いているのだろう。
何だか、弱いものいじめをしている気分になって来てしまった。
勝ちを素直に喜べない。
私はマーガレットほど殿下を愛しているのだろうか、と疑問が湧いて来るのだ。
ふと殿下の方を見ると手を叩いて大喜びしている。
マーガレットが可哀想とかないのかしら。
何だか冷めちゃった……。
私はマーガレットの方に近づいて行き、彼女の肩を抱きながら、ささやいた。
「私、あなたほど殿下のことを想ってない気がするの。あ、嫌味を言いに来たんじゃないの。婚約破棄したいのだけれど、手伝ってくれる?」
「え?」
私はマーガレットの手を取って起こした。
会場から拍手が湧き上がるが、無視だ。
「どういうつもりかしら?」
おお、いつものマーガレットにもう立ち直っているじゃないか。
「殿下を好きだと勘違いしてたみたい。何だか急に冷めちゃったの。でも、王国からは期待されているし、リッチモンド家も気合い入ってるのよ。やっぱりやめます、じゃ通らないの。何かいい案ないかしら」
「信じていいのね?」
「こんな嘘を言う意味ある?」
「そうね、信じるわ。しばらく時間を頂戴」
***
皇太子殿下の婚約者となり、いったん私は帰国することになった。
殿下とは何度か話したが、私が綺麗になって驚いたという話以外は、マーガレットの試合で見せた奥義についての話だった。
(剣の話しかしないのね)
殿下は私の剣の腕に惚れん込んでいる感じで、私の女性としての魅力には無関心だった。
(褒めて欲しいと思うところを褒めてくれないのよね……)
優しくて感じのいい人なのだが、やはりそんなには好きにはなれなかった。
(顔はいいんだけどね。やはりマーガレットにあげよう)
私は帰途についた。
輿入れのときまで王国に滞在して、婚礼の日に合わせて、帝国に再度入国することになった。
(どんどん婚儀に向かってるんだけど、マーガレット大丈夫かしら)
少し焦って来たとき、マーガレットから連絡が来た。
皇太子とやっちゃったので、婚約を破棄して欲しいとの依頼だ。
皇太子側は何とか表沙汰にしないようにマーガレットに圧力をかけているらしいが、リクリエーム家と皇后が猛烈に反発していて、私が婚約破棄すれば、妃候補戦の次点のマーガレットが、すんなりと皇太子妃になれるようだ。
私は父に涙ながらに訴えた。
「あんな人にお嫁に行くのは嫌です」
父は真っ直ぐな性格で曲がったことが大嫌いだ。
すぐに調査をして、私の言っていることが真実と分かると、国王陛下に婚約破棄したいと申し入れをした。
国王陛下には、王国の軍事力の要であるリッチモンド家が、帝国と婚姻関係になることのリスクを大臣たちから事前に吹き込んでもらっていた。
そのため、国王陛下も快諾し、婚約破棄を王国から申し入れてくれた。
帝国側は皇太子が別の女性と婚前交渉したことを認め、婚約破棄の受け入れと、謝罪として五億円をリッチモンド家に支払った。
ドレス代や滞在費用も回収でき、いろいろ楽しいことがあって私としては大満足の結果となったが、皇太子戦を勝ち抜いた才能と美しくなった私の評判が瞬く間に王国に広がって、婚約の申し込みが次々と舞い込むようになった。
そんなとき、父から話があると呼ばれた。
「ソフィア、第一王子の妃候補に挙がっているらしいぞ」
「お父様、私は選ばれるのではなく、私が選びたいのです。これだけ婚約希望が来ていますので、夫候補の戦いを見てみたいのですが、いけませんか?」
「面白いことを言う。そうだな。リッチモンド家はそうでなくてはならぬな。いいぞ、好きにやってみろ」
「ありがとうございます。お父様」
さあて、まずは選定委員会を組織しましょうか。
マーガレットが踏み込んで来る足の出鼻に合わせて剣を置いただけなのだが、追い詰められて飛び込んで来る相手にはよく効く。
マーガレットは足を取られて転んでしまった。
そのまま立ち上がって来ない。
彼女の肩が震えている。泣いているのだろう。
何だか、弱いものいじめをしている気分になって来てしまった。
勝ちを素直に喜べない。
私はマーガレットほど殿下を愛しているのだろうか、と疑問が湧いて来るのだ。
ふと殿下の方を見ると手を叩いて大喜びしている。
マーガレットが可哀想とかないのかしら。
何だか冷めちゃった……。
私はマーガレットの方に近づいて行き、彼女の肩を抱きながら、ささやいた。
「私、あなたほど殿下のことを想ってない気がするの。あ、嫌味を言いに来たんじゃないの。婚約破棄したいのだけれど、手伝ってくれる?」
「え?」
私はマーガレットの手を取って起こした。
会場から拍手が湧き上がるが、無視だ。
「どういうつもりかしら?」
おお、いつものマーガレットにもう立ち直っているじゃないか。
「殿下を好きだと勘違いしてたみたい。何だか急に冷めちゃったの。でも、王国からは期待されているし、リッチモンド家も気合い入ってるのよ。やっぱりやめます、じゃ通らないの。何かいい案ないかしら」
「信じていいのね?」
「こんな嘘を言う意味ある?」
「そうね、信じるわ。しばらく時間を頂戴」
***
皇太子殿下の婚約者となり、いったん私は帰国することになった。
殿下とは何度か話したが、私が綺麗になって驚いたという話以外は、マーガレットの試合で見せた奥義についての話だった。
(剣の話しかしないのね)
殿下は私の剣の腕に惚れん込んでいる感じで、私の女性としての魅力には無関心だった。
(褒めて欲しいと思うところを褒めてくれないのよね……)
優しくて感じのいい人なのだが、やはりそんなには好きにはなれなかった。
(顔はいいんだけどね。やはりマーガレットにあげよう)
私は帰途についた。
輿入れのときまで王国に滞在して、婚礼の日に合わせて、帝国に再度入国することになった。
(どんどん婚儀に向かってるんだけど、マーガレット大丈夫かしら)
少し焦って来たとき、マーガレットから連絡が来た。
皇太子とやっちゃったので、婚約を破棄して欲しいとの依頼だ。
皇太子側は何とか表沙汰にしないようにマーガレットに圧力をかけているらしいが、リクリエーム家と皇后が猛烈に反発していて、私が婚約破棄すれば、妃候補戦の次点のマーガレットが、すんなりと皇太子妃になれるようだ。
私は父に涙ながらに訴えた。
「あんな人にお嫁に行くのは嫌です」
父は真っ直ぐな性格で曲がったことが大嫌いだ。
すぐに調査をして、私の言っていることが真実と分かると、国王陛下に婚約破棄したいと申し入れをした。
国王陛下には、王国の軍事力の要であるリッチモンド家が、帝国と婚姻関係になることのリスクを大臣たちから事前に吹き込んでもらっていた。
そのため、国王陛下も快諾し、婚約破棄を王国から申し入れてくれた。
帝国側は皇太子が別の女性と婚前交渉したことを認め、婚約破棄の受け入れと、謝罪として五億円をリッチモンド家に支払った。
ドレス代や滞在費用も回収でき、いろいろ楽しいことがあって私としては大満足の結果となったが、皇太子戦を勝ち抜いた才能と美しくなった私の評判が瞬く間に王国に広がって、婚約の申し込みが次々と舞い込むようになった。
そんなとき、父から話があると呼ばれた。
「ソフィア、第一王子の妃候補に挙がっているらしいぞ」
「お父様、私は選ばれるのではなく、私が選びたいのです。これだけ婚約希望が来ていますので、夫候補の戦いを見てみたいのですが、いけませんか?」
「面白いことを言う。そうだな。リッチモンド家はそうでなくてはならぬな。いいぞ、好きにやってみろ」
「ありがとうございます。お父様」
さあて、まずは選定委員会を組織しましょうか。
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