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第七章 教会

初めての神託

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私が眠りに落ちる寸前に脳内に念話が響いた。

『こんばんは、あなたが新しい聖女ね。そっちの子猫はモフドラか。人を守護することなんてあったっけ? まあ、いいか』

シルバは私の胸の中ですでに寝ていた。

(あなた様は女神様?)

『そうよ。転生の女神ラクタよ。よろしくね。最初は聖女の転生を担当した女神が神託するのが慣例よ。私はあなたの転生を担当したみたいなの。でも、私もあなたもお互い忘れてるのが超ウケるぅ。さて、神託行くわよ』

軽い、軽すぎるわ、この女神様。

『人もし汝の右の頬を打たば、左をもむけよ』

(? そ、それが神託でしょうか?)

『そうよ、じゃあ、確かに伝えたからね。バーイ!』

(あ、あ、ちょっと待って下さい)

行ってしまった。まずい、神託の内容をちゃんと覚えてない。突然で意味不明な内容なんだもの、覚えてなんかいられないわよ。

まあ、いいか。適当に言っても誰にも分かりはしない。それよりも、私の転生を担当したってことは、シルバの転生も担当したのではないだろうか。

もう一度、話す機会があれば、その時に聞いてみよう。

グレースはその日はそのまま就寝した。

翌朝、目を覚まして、寝室を出ると、部屋の外にマリアンヌが控えていた。

「おはようございます、聖女さま」

何だか元気一杯だ。汚名挽回に燃えているのだろう。

「あなた、ずっと外にいたの?」

「いいえ、今朝早く参りました」

どうやって母屋に侵入出来たのだろうか。

「誰に許可をもらって母屋に入ったの?」

「執事のセバスチャンさんです」

(ちっ、余計なことしかしないわね、あのバーコードは!)

バーコードが何かをグレースは知らないが、シルバがセバスチャンをそう呼ぶようになったので、グレースも真似をしている。

「で、何か用?」

「聖女さま、お付きは常に聖女さまに付き従い、行動をともにして、聖女さまの手足とならねばなりません」

そんなことローズ先生のお姉さまはおっしゃってたっけ?

(ちょっとシルバ、起きてよ。この小娘の言っていることは本当なの?)

『んにゃ、ウソだにゃ』

(き、きたあ、シルバが寝ぼけたときだけ出るニャンコ語、可愛すぎるぅ)

マリアンヌがグレースのデレた顔をマジマジと見ていた。

いかんいかん、この娘の前では気を引き締めねば。

「マリアンヌ、私は元聖女様お付きのお姉さまから事前に情報収集しているのよ。いい加減なことを言わないで頂戴。死にたいの?」

この聖女の「死にたいの?」は、本気で死にたいかどうかを聞いてきているので、マリアンヌは慌てて否定する。

「い、いえ、私はそういう意気込みです、という意味です、はい」

「却下よ。用があるときに呼ぶから、部屋で控えていなさい」

反論は死だ。マリアンヌは頷くしかない。

「わ、わかりました。ところで、昨晩、神託は下りましたでしょうか?」

「なぜ?」

「聖女様交代の初日の夜に、ほぼ毎回神託が下りますので」

「あら、そうなのね。下りたわよ。行くわよ」

マリアンヌには、グレースが一生懸命考えているように見えた。

「人も死なない右の頬を歌う、額を向け」

微妙にズレた内容がグレースの口から飛び出て来た。マリアンヌの顔は疑問符だらけだ。

「すいません、どういう意味でしょうか?」

『くっくっく、こりゃあ、まるで伝言ゲームだな』

(シルバ起きたのね。あなた神託の意味がわかるの?)

『人もし汝の右の頬を打たば、左をもむけよ、だろ? 色々解釈があるから、言葉を受け取った人が考えればいいんだよ』

(そうね、そう言っておくわ)

「これはね、いろいろな解釈があるのよ。この言葉を受け止めた本人が解釈すればいいのよ」

『いや、グレースの言った言葉には、もはや意味はないだろうよ』

(今更言い直しできないでしょ。もうこれで押し通すわ)

『無茶苦茶な聖女様だな』

「マリアンヌ、早く教会に届けて来なさい」

まずい、とマリアンヌは思った。うろ覚えなのだ。この聖女に聞き返そうものなら、殺されるかもしれない。仕方がない、感性で伝えてこよう。

「はい、直ちに伝えて参ります」

翌日、教会から神託が発表された。

人も知らない右の頬の歌、タイを剝け

あまりにも難解な神託であったため、異例ではあるが、補足があった。

色々な解釈があるため、正解はない。自分なりに解釈すれば良く、決して質問しないこと。
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