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第六章 領地経営
消えた五千人
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宰相官邸でマルクスは情報部員からの連絡を待っていた。
テンタクル山に出撃した部隊からの連絡が途絶えてから三日後に派遣した情報部員がそろそろ帰って来るはずなのだ。
今回の派兵は王家から出兵という形にしているが、実態は家臣団が招集した傭兵と教会の救世軍の混合部隊だ。リチャード殺害の嫌疑が第一王子とグレース嬢にかかっているということで、捜索軍の派遣という形で王からは許可をもらっている。王の部隊には本当に捜索を依頼していて、そろそろ一部がテンタクル山に到着するはずだ。
待ちに待った報告員が到着した。マルクスは早速報告を聞いた。だが、荒唐無稽な報告だった。
「近くの住人数十人に確認しました。証言は一致しています。山に登ったきり、誰も帰って来ず、二日ほど火葬場と同じにおいが麓に充満していたそうです」
これが情報部員の報告だった。
「五千人だぞ?」
「ええ、登るところは見たそうですが、誰も降りて来なかったそうです。あと山が崩れるような大きな音を数回聞いた住民もおります」
「崖崩れに巻き込まれたのか?」
「分かりません」
「グレース嬢は山に住んでいるのか」
「それは確かです。元領主の美しいお嬢様と可愛い子猫が山小屋に住んでいるのはあの辺りでは有名です。知らない住民はいませんでした。非常に子猫を可愛がっているようで、とても楽しそうに子猫に話しかけている姿をよく見かけるそうです。月に数回、麓まで買い物に来ているようです」
「山で大人しく暮らしているようであれば、もう放っておいてもいいのだが。王子親子の気配はあったか?」
「王子親子の気配はまるでありません。ただ、何回か来客はあるようです。我々の調査中には若い女性二人が山小屋に滞在していました。調査したところ、リッチモンド家の料理長とカーディナル家の料理長でした。グレース嬢に料理を振る舞っていたと思われます」
「カーディナル伯爵か。ローズ未亡人の実家だな」
マルクスは追撃を出すかどうか迷ったが、仮に五千人があの妖精にやられたとすれば、正面切って戦うのは下策だ。五千人が消えたが、マルクスたちは傭兵に後払いの賃金を払わなくて済むため、それほど大きな痛手ではない。教会が報告を聞いてどう出るかは分からないが、マルクスたちは追撃を出さないことに決めた。
リチャードが尽力したおかげで、リッチモンド家の税収はほとんど王家に入って来るようになっている。リッチモンド家が反撃に出ることが予想されるが、リッチモンド家にそれ相応の取り分を保証してやれば問題ないだろう。
そう思って、次の貴族の攻略に取り掛かろうとしていたマルクスだが、リッチモンド領に納税官が入れなくなったとの報告が相次ぎ、再度、リッチモンド家と相対する必要が出てきた。
グレース嬢以外は手を出しても王のお咎めはあるまい。マルクスは王にリッチモンド家の脱税容疑の調査許可を得て、数百名の兵士を引き連れ、王都のリッチモンド邸に向かった。
テンタクル山に出撃した部隊からの連絡が途絶えてから三日後に派遣した情報部員がそろそろ帰って来るはずなのだ。
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「分かりません」
「グレース嬢は山に住んでいるのか」
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「山で大人しく暮らしているようであれば、もう放っておいてもいいのだが。王子親子の気配はあったか?」
「王子親子の気配はまるでありません。ただ、何回か来客はあるようです。我々の調査中には若い女性二人が山小屋に滞在していました。調査したところ、リッチモンド家の料理長とカーディナル家の料理長でした。グレース嬢に料理を振る舞っていたと思われます」
「カーディナル伯爵か。ローズ未亡人の実家だな」
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グレース嬢以外は手を出しても王のお咎めはあるまい。マルクスは王にリッチモンド家の脱税容疑の調査許可を得て、数百名の兵士を引き連れ、王都のリッチモンド邸に向かった。
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