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第五章 迎撃

リッチモンド邸の包囲

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リッチモンド邸を王家の兵士数百名が包囲した。

宰相のマクベスが開門を要求している。エカテリーナは要求に素直に応じて開門した。

「兵士連れで宰相直々にお出ましとは、どうされましたか?」

エカテリーナは客間に通したマクベスにお茶を勧めながら、来訪の目的を尋ねた。部屋にはエカテリーナとマクベスの二人だけだ。

「リチャード殿が亡くなられたのはご存知でしょうか」

マクベスが世間話など全くすることなく、すぐに本題に入ってきた

「はい、私も先ほど使用人から聞きました。私は本日こちらに帰って来たばかりでして」

エカテリーナに悲しみの表情がないため、マクベスは不思議に思った。

「失礼ですが、あまり悲しんではおられないようですな」

「ええ、隠しても分かることですのでお話ししますが、夫とはずっと不仲でしたから。ただ、さすがに死んでいるとは思いませんでした。驚きました」

「なるほど。正直にお話しされた方が得策とお考えのようですな。どちらに行ってらっしゃったか、お聞きしても差し支えないですかな?」

エカテリーナは躊躇することなく答えた。

「ええ、ローズと一緒にテンタクル山に行っておりました。姪のグレースに会って参りました」

「理由を聞いてもよろしいでしょうか」

「様子見ですわ。姪を山に移動させて、ちょうど一年経ちましたので」

様子見も目的の一つだった。不都合な情報を話していないだけで、嘘は言っていない。こういう会話では、嘘はまずいとエカテリーナは心得ていた。

「リチャード殿殺害の容疑者はグレース嬢というのは、ご存知ですかな?」

「ええ、グレースが殺したのでしょう。どうやって王都まで来て、どうやって殺したのかは分かりませんが」

エカテリーナは包み隠さず話すつもりのようだ。マクベスは今日の目的を話すことにした。

「テンタクル山への進軍の許可を頂けますでしょうか」

エカテリーナは少し考えた後で答えた。

「ええ、仕方ないですわ。許可致します」

「共同での派兵はして頂けるのでしょうか」

「それはお断りします。グレースを山に移動させましたが、敵対をしている訳ではございませんのよ?」

「リチャード殿を殺害したのですよ?」

「リチャードはリッチモンド家にとっては害悪でした。褒美を取らせたいくらいですわ」

ストレートな物言いだ。リチャードはエカテリーナの心は完全に俺のものだと豪語していたが、完全に心が離れてしまっているではないか。

「……。分かりました。直ぐにテンタクル山に進軍致します。ところで、エドワード王子と側妃の行方はご存知でしょうか?」

王子たちの居場所は隠し通さなければならない。エカテリーナにとっては正念場だ。

(嘘を言わずに切り抜けるわよ)

「王宮にはいらっしゃらないということでしょうか?」

「グレース嬢と一緒に逃走しているようです」

「何のために?」

「それは我々にも分かりません」

「宰相がお分かりにならないことを私共に分かりますでしょうか? グレースが復讐のために連れ去ったとお考えですか? でも、何のためにお妃様まで連れて行ったのでしょうか?」

「全く分かりません」

話になりませんわね、といった空気をエカテリーナは出している。

「そうですか。テイルに連絡があれば、直ぐにお知らせするように致します」

マクベスはじっとエカテリーナの表情を観察していたが、特におかしなところは見つけられなかった。さすが生粋の貴族だ。終始一貫して、全く表情が動かない。

「テイルお嬢様はどちらに?」

「地下牢におります」

マクベスは驚いた。

「なぜです?」

「兵士がこんなに周りを囲んでおります。こういうときは、地下牢が一番安全ですのよ」

「そうでしたか。大変失礼致しました。グレース嬢を匿っておられるかと思いましたので」

エカテリーナが初めて表情を大きく崩した。失笑している。

「私共が匿われることはあっても、私共がグレースを匿まうことはございませんわ。宰相はグレースの力を本当にお分かりになっておられるのかしら。ご幸運をお祈りしますわ」

確かに重力魔法は手強いが、女一人と妖精一匹に対して、今回は教会と協力して、念には念を入れて、兵士五千で攻める予定でいるのだ。負けるはずがない。

「グレース嬢が罪を認めた場合は、その場で処刑しますので、ご了承下さい」

エカテリーナは微笑んだまま答えた。

「承知しましたわ」

マクベスは客間から退出した後、兵士たちにエカテリーナとの話の内容を伝えて、裏を取らせた。

エカテリーナは確かにテンタクル山までグレースに会いに行っていたらしく、今日戻って来たようだ。テイルの居場所の確認もさせたが、地下牢に隠しているらしい。メイドが必死に隠していたと報告があった。

マクベスはエカテリーナの話に嘘はないと判断し、王家は教会と合同で、テンタクル山に向けて、兵士五千を進軍させた。
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