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第三章 変革

軍の派遣 デイビス視点

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ジルに上申させたところ、意外にも王は軍の派遣を許可した。

だが、後で背景を知って納得した。

ナタール国がアレンに姫を嫁がせたことについては、エルグランドから正式に抗議をしている。王国が罪人として裁いた判断に異を唱えているのかという内容だ。それに対して、ナタール国からは、男女の愛の結果であり、政治的な主張はないとの返答があった。

これでこの件についてはいったん決着としたのだが、ナタール国がレンガ島と交易をしているという報告が上がり、レンガ島の問題が再燃した。

エルグランド王国とナタール国とは交易の取り決めがあり、交易品リストと交易場所が決められている。条約違反ではないかというのが、エルグランド王国の主張だが、ナタール国の返答は、個人的な支援とのことだった。嫁がせた娘の困窮を見るに見かねて支援しているとのことだ。

ところが、ナタール国に潜ませている間諜からの報告によると、レンガを積んで帰って来ているらしい。

その点を指摘したところ、支援を受けた娘が恐縮して、せめてもの気持ちとしてレンガを持たせるのだという。断りきれないので持って帰って来て、ナタール王国の公共建築に使用しているが、問題があるようであれば、娘の気持ちの土産は渡せないが、同じ量のレンガをエルグランドから購入して、それをそのまま返品するという。

ちょっと美談ぽい話まで出されて、エルグランドとしては、じゃあ、買って下さいとも言えず、ナタール国にしてやられている状態なのだ。

だが、それで武力に訴えるというのは下策だ。今回の派兵は、レンガ島の治安維持という名目なのだ。ナタール国の姫君が安心して暮らせるようにとのエルグランドからの結婚祝いという話で、ナタール国には事前通知も行った。今度はナタール側が渋々承諾した。

こういったやり取りが両国であったのだが、自分の意見が父に採用されて、ジルは有頂天だった。

「デイビス、お前のおかげもあるけど、俺が勇気を出したからこその結果だよな。正直、陛下に睨まれたときは生きた心地がしなかったが、よかろう、と言われたときは、本当に勇気を出して良かったと思ったよ」

「ジル、もちろん手柄は兄さんのものだよ」

デイビスは兄を持ち上げた。まだ、結果は出ていないのだ。評価がどう変わるかわからない。この兄は愚鈍ではないが、主体性がない。優秀な指揮官の下では優秀だが、自らは優秀な指揮官にはなり得ない。

ところが、有頂天のジルは自分の力を錯覚してしまっていた。今までは陰に徹していたのに、この機会に主役に躍り出ようとしていたのだ。

「陛下に今回の指揮権を頂いたよ。俺がレンガ島に兵2000を率いて行くことになった」

(何だと!?)

デイビスは耳を疑った。ジルは陰に徹してこそ有能なのだ。表に出てしまっては、無能ではないが、アレンに太刀打ち出来るとは思えない。父は何を考えているのだろうか。

俺とリチャードは何はともあれレンガ島の正確な情報が欲しい。恐らく父もそうだろう。なるほど。ジルは捨て石だ。成功してもよし、失敗してもよし。どちらに転んでも情報は得られるというわけか。多いか少ないかも分からない2000という兵も納得できる。

「ジル、成功を祈ります」

デイビスはこれが彼が最後に見ることになるかもしれないジルの背中を見送った。
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