3 / 42
からくり
しおりを挟む
「カトリーヌ、残念だったわね」
私が屋敷の自室で荷物を整理していると、シャルロットが入って来た。屋敷に帰って来ていたのか。そうか、彼女は明日から秋休みか。
「シャルロット、何のこと?」
「皇太子妃になれなかったことよ」
「仕方ないわ。国難ですもの」
「あら? 聞かされてないの?」
シャルロットがいつもの意地の悪い目をしている。あまり時間を無駄にして欲しくはないので、話したいことを話させよう。
「何のこと?」
「ダンブル国には私を送る方向で話が進んでいたのよ」
「え?」
さすがに想定外だった。
「聞かされてないのね。お姉さん」
「どういうこと?」
「私は王妃になりたいの。それで、この話を聞いて、前例を崩せると思ったのよ。だから、皇太子殿下と一緒に婚約者を入れ替えるよう動いたの」
「嘘でしょう? あなたが殿下と話せるわけがないわ」
私ですら、殿下とは子供のとき以来全く話していない。
「ふふふ、よくお会いしているわよ。一度、殿下が学園祭に視察にこられたことがあったでしょう?」
「半年前のこと?」
三月の学園祭に来られた殿下を生徒会員のシャルロットが案内しているのを見かけた記憶がある。
「そうよ。あなたも何か地味な募金ブースを作ってたじゃない。あなたのところにもお顔をお出しになったでしょう?」
「来られてないわ」
「あはは、いつものあなたを見て欲しいって、お忍びで行くことをお勧めしたのよ。幽霊みたいなあなたを見て、驚いておられたわ。今日みたいにおめかしされると困るのよ。私の姉だけあって、あなたはきれいだから」
「あなた、学園祭のときに殿下に接近したの?」
「ええ。あなたを見た後の殿下は簡単に口説き落とせたわ。私の美貌でね。二人でいつもどうすれば婚約者を私に変更出来るか考えてたわ。殺すことすら考えたのよ。でも、大好きな兄さんが守った命だから、殺すことは出来なかったわ。そんなとき、ダンブル国の話が出たのよ」
「それで私を身代わりにしたのね」
「そうよ、おかげで助かったわ。幽霊のような風貌で王妃はとても務まらないって、殿下から陛下を説得してもらったわ。国難を救うためだから、思った通り前例も崩せた。お父様もお母様も大喜びされていたわよ」
そういうことだったのか。でも、シャルロットは私のことを分かってない。
「そうね、役に立つときに役に立ててよかったわ。今の話を聞いて、殿下のもとでは私は世の中に貢献できなかったと思うから、これでよかったと思うわ」
「は? あなた悔しくないの?」
シャルロットが信じられないという顔をしている。
「シャルロット、私は自分の幸せなんか考えちゃいけないのよ。王妃になったら、国のため、民のために尽くすつもりだった。そのために、学園でもがむしゃらに勉強したわ」
「何言ってるの? カトリーヌの成績はいつも中の下だったじゃない」
「目立つのは良くないから、いつも試験は手を抜いていたわ。でも、王妃の経歴が凡庸ではまずいから、卒業試験だけは本気でやったわよ。もう結果が出たけど、首席で卒業したわよ」
「そんな、嘘を……」
「嘘かどうかは確認すれば分かるわ。でも、王妃でないのなら無駄なことをしてしまったわ。私は無駄なことはしてはいけないの。兄さんに申し訳が立たないからね。兄さんにもらった人生は、世のため人のために使うべきなの」
「……」
「私がダンブルに行くことで、あなたの役にも立ったのでしょう? あなたは私には卑怯で卑劣だけど、国や民にはそんなことはしないわよね。私の代わりに王妃の仕事をするのだから、私以上になってね。さもなければ、私の時間を無駄にした罪を償ってもらうわよ」
「カトリーヌ、あなた狂ってるわ」
「狂ってなんかないわよ。さあ、これ以上私の時間を無駄にしないでちょうだい。明日にはダンブルに向けて出発するから、これで最後になるけど、元気で頑張りなさい」
シャルロットは私の悔しがる顔を見たかったようだが、そこまで付き合う必要はないだろう。嫁ぐと決まった以上、時間を無駄には出来ない。私だけでも早くダンブル国に着けるように日程を早めてもらったのだ。
シャルロットはまだ何か言いたそうだったが、淡々と荷物を詰めている私をしばらく見たあと、黙って出て行った。
私が屋敷の自室で荷物を整理していると、シャルロットが入って来た。屋敷に帰って来ていたのか。そうか、彼女は明日から秋休みか。
「シャルロット、何のこと?」
「皇太子妃になれなかったことよ」
「仕方ないわ。国難ですもの」
「あら? 聞かされてないの?」
シャルロットがいつもの意地の悪い目をしている。あまり時間を無駄にして欲しくはないので、話したいことを話させよう。
「何のこと?」
「ダンブル国には私を送る方向で話が進んでいたのよ」
「え?」
さすがに想定外だった。
「聞かされてないのね。お姉さん」
「どういうこと?」
「私は王妃になりたいの。それで、この話を聞いて、前例を崩せると思ったのよ。だから、皇太子殿下と一緒に婚約者を入れ替えるよう動いたの」
「嘘でしょう? あなたが殿下と話せるわけがないわ」
私ですら、殿下とは子供のとき以来全く話していない。
「ふふふ、よくお会いしているわよ。一度、殿下が学園祭に視察にこられたことがあったでしょう?」
「半年前のこと?」
三月の学園祭に来られた殿下を生徒会員のシャルロットが案内しているのを見かけた記憶がある。
「そうよ。あなたも何か地味な募金ブースを作ってたじゃない。あなたのところにもお顔をお出しになったでしょう?」
「来られてないわ」
「あはは、いつものあなたを見て欲しいって、お忍びで行くことをお勧めしたのよ。幽霊みたいなあなたを見て、驚いておられたわ。今日みたいにおめかしされると困るのよ。私の姉だけあって、あなたはきれいだから」
「あなた、学園祭のときに殿下に接近したの?」
「ええ。あなたを見た後の殿下は簡単に口説き落とせたわ。私の美貌でね。二人でいつもどうすれば婚約者を私に変更出来るか考えてたわ。殺すことすら考えたのよ。でも、大好きな兄さんが守った命だから、殺すことは出来なかったわ。そんなとき、ダンブル国の話が出たのよ」
「それで私を身代わりにしたのね」
「そうよ、おかげで助かったわ。幽霊のような風貌で王妃はとても務まらないって、殿下から陛下を説得してもらったわ。国難を救うためだから、思った通り前例も崩せた。お父様もお母様も大喜びされていたわよ」
そういうことだったのか。でも、シャルロットは私のことを分かってない。
「そうね、役に立つときに役に立ててよかったわ。今の話を聞いて、殿下のもとでは私は世の中に貢献できなかったと思うから、これでよかったと思うわ」
「は? あなた悔しくないの?」
シャルロットが信じられないという顔をしている。
「シャルロット、私は自分の幸せなんか考えちゃいけないのよ。王妃になったら、国のため、民のために尽くすつもりだった。そのために、学園でもがむしゃらに勉強したわ」
「何言ってるの? カトリーヌの成績はいつも中の下だったじゃない」
「目立つのは良くないから、いつも試験は手を抜いていたわ。でも、王妃の経歴が凡庸ではまずいから、卒業試験だけは本気でやったわよ。もう結果が出たけど、首席で卒業したわよ」
「そんな、嘘を……」
「嘘かどうかは確認すれば分かるわ。でも、王妃でないのなら無駄なことをしてしまったわ。私は無駄なことはしてはいけないの。兄さんに申し訳が立たないからね。兄さんにもらった人生は、世のため人のために使うべきなの」
「……」
「私がダンブルに行くことで、あなたの役にも立ったのでしょう? あなたは私には卑怯で卑劣だけど、国や民にはそんなことはしないわよね。私の代わりに王妃の仕事をするのだから、私以上になってね。さもなければ、私の時間を無駄にした罪を償ってもらうわよ」
「カトリーヌ、あなた狂ってるわ」
「狂ってなんかないわよ。さあ、これ以上私の時間を無駄にしないでちょうだい。明日にはダンブルに向けて出発するから、これで最後になるけど、元気で頑張りなさい」
シャルロットは私の悔しがる顔を見たかったようだが、そこまで付き合う必要はないだろう。嫁ぐと決まった以上、時間を無駄には出来ない。私だけでも早くダンブル国に着けるように日程を早めてもらったのだ。
シャルロットはまだ何か言いたそうだったが、淡々と荷物を詰めている私をしばらく見たあと、黙って出て行った。
13
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる