91 / 91
第十二章 カミナリ様
龍王国
しおりを挟む
竜子に連れられて降りたところは、火山の火口近くにある神社だった。生物には致死のガスが噴出していて、周囲に生物の反応はなかった。
本堂はわりと小綺麗に保たれていた。
「ここは安全なのよ」
俺は本堂の板の間にあぐらをかいた形で浮かんでいた。竜子は女座りの状態で浮かんでいて、風で乱れた髪をといでいる。
「お前はまだ生身なのか?」
「霊体化は終わってるわよ。髪だけ権現しているのよ」
「なぜ?」
「それしか出来ないの」
竜子は恥ずかしそうに言った。俺はコツを教えてやった。
「ありがとう、おじさん! 何だか出来そうな気がして来た。後で練習してみる」
教えてくれる親もなく、全部自分でやってきたのか。不憫で可哀想すぎる。
「で、味方はいないのか?」
「うん、一体も」
「どうしてこんなことになった?」
「龍は龍神様の使いの雄雌八十体ずつの霊王から産まれた初代と呼ばれる古龍たちの末裔なの。龍に寿命はないから、初代はまだほとんどが生きているわ」
「なるほど、見えて来たぞ。カザナミが初代の親を皆殺しにしたのを恨んでいるんだな」
「ええ、そして、それを阻止できなかった私の両親のことも無能神と呼んでバカにしているの。娘の私のこともね」
「そいつはまた大きく出たな。神霊には敵わないだろうに」
「彼らは霊王と神霊の差が分かってないのよ。私はまだ霊王レベルなのに、私を封印できそうなので、神々にも対抗出来ると驕り高ぶっているのよ」
「さっき言っていた神通力を妨害する方法か?」
「ええ。おばさんを捕まえたときに天使たちが使った『天粒子の壺』が、龍王国にはゴロゴロしているのよ」
天粒子を空気中に散布すると、神通力が空気を伝わりにくくなり、奇蹟の発現が難しくなる。ミサトは四百年前にこれを使われて、この龍王国で捕縛された。
「神界の奴らは壺を回収していないのか?」
「買収されているのよ。『龍の涙』でね」
「龍の涙」は戦闘マシンの天使たちの大好物だ。口にすると神の愛を感じることができ、幸福の絶頂を感じることが出来る。
「神界委員会は気づいているのか?」
「気づいていないわよ」
「俺が報告すれば終わりじゃないか。ま、まさか、竜子お前っ!?」
完全に騙された。女は怖い。全く気付けなかった。竜子は女王を追われたりなどしていない。今も龍たちの上に君臨していて、龍たちと一緒にミサトに復讐するつもりだ。
「そうよ。おじさんにはずっとここにいて欲しいのよ。神界に報告されて、壺を回収されちゃうと困るのよね」
「お前、ミサトを捕らえるつもりかっ」
「おばさんは今ミサトっていうのね。いいこと聞いちゃった」
竜子はペロリと舌を出した。こいつ、本気でやるつもりだ。
「それに、俺が捕えられたら、母がすぐに気づくぞ」
「女神祖様には話は通してあるわ。女神祖様はおばさんのことがお嫌いみたいよ。少しはお灸を据えるべきね、だって」
「お前たち、ミサトに勝てるとでも本気で思っているのか!?」
「思っているわよ。私たちには天使軍団がバックにいるのよ」
「ミサトは神祖様の愛娘だぞ。神祖様も争いに出て来たら、えらいことになるぞ」
「別におばさんを殺す訳じゃないのよ。龍たちに土下座して謝ってもらうだけよ。神祖様はおばさんが害されない限りは手を出さないわ。子供の喧嘩に親が出てくるようなことはしないわよ」
「お前たち、ミサトの恐ろしさを何も分かっていない。神霊に明確に敵対した場合、他神の創造物であっても、神罰を下していいんだぞ。お前は俺が守ってやるが、龍たちは皆殺しにされるぞ!」
「あはは! おじさんですら何も出来ないこの濃度の天粒子を浴びたら、いくらおばさんが化け物でも、何も出来ないわよ」
「でも、人間は動けるぞ。人間の神通力は神通力もどきだ。仕組みが違う」
「おじさん、どうかしちゃったの? 私は人間には手を出せないけど、龍たちは違うのよ。龍が人間に負けるわけがないじゃない」
だめだ。竜子は復讐心が強くなりすぎて、物事がよく見えなくなってしまっている。ミサトが捕まったのは、俺が味方にならないと知ったからだ。壺なんぞはどうにか出来たに違いないのだ。
母もミサトの強さは知っているはずだが、母は龍がどうなっても構わないのだろう。面白い行事が始まるぐらいにしか思っていない。
龍神とアテナが作ったこの龍王国をバカ娘が台無しにするのを俺は見ていることしか出来ないのか。
本堂はわりと小綺麗に保たれていた。
「ここは安全なのよ」
俺は本堂の板の間にあぐらをかいた形で浮かんでいた。竜子は女座りの状態で浮かんでいて、風で乱れた髪をといでいる。
「お前はまだ生身なのか?」
「霊体化は終わってるわよ。髪だけ権現しているのよ」
「なぜ?」
「それしか出来ないの」
竜子は恥ずかしそうに言った。俺はコツを教えてやった。
「ありがとう、おじさん! 何だか出来そうな気がして来た。後で練習してみる」
教えてくれる親もなく、全部自分でやってきたのか。不憫で可哀想すぎる。
「で、味方はいないのか?」
「うん、一体も」
「どうしてこんなことになった?」
「龍は龍神様の使いの雄雌八十体ずつの霊王から産まれた初代と呼ばれる古龍たちの末裔なの。龍に寿命はないから、初代はまだほとんどが生きているわ」
「なるほど、見えて来たぞ。カザナミが初代の親を皆殺しにしたのを恨んでいるんだな」
「ええ、そして、それを阻止できなかった私の両親のことも無能神と呼んでバカにしているの。娘の私のこともね」
「そいつはまた大きく出たな。神霊には敵わないだろうに」
「彼らは霊王と神霊の差が分かってないのよ。私はまだ霊王レベルなのに、私を封印できそうなので、神々にも対抗出来ると驕り高ぶっているのよ」
「さっき言っていた神通力を妨害する方法か?」
「ええ。おばさんを捕まえたときに天使たちが使った『天粒子の壺』が、龍王国にはゴロゴロしているのよ」
天粒子を空気中に散布すると、神通力が空気を伝わりにくくなり、奇蹟の発現が難しくなる。ミサトは四百年前にこれを使われて、この龍王国で捕縛された。
「神界の奴らは壺を回収していないのか?」
「買収されているのよ。『龍の涙』でね」
「龍の涙」は戦闘マシンの天使たちの大好物だ。口にすると神の愛を感じることができ、幸福の絶頂を感じることが出来る。
「神界委員会は気づいているのか?」
「気づいていないわよ」
「俺が報告すれば終わりじゃないか。ま、まさか、竜子お前っ!?」
完全に騙された。女は怖い。全く気付けなかった。竜子は女王を追われたりなどしていない。今も龍たちの上に君臨していて、龍たちと一緒にミサトに復讐するつもりだ。
「そうよ。おじさんにはずっとここにいて欲しいのよ。神界に報告されて、壺を回収されちゃうと困るのよね」
「お前、ミサトを捕らえるつもりかっ」
「おばさんは今ミサトっていうのね。いいこと聞いちゃった」
竜子はペロリと舌を出した。こいつ、本気でやるつもりだ。
「それに、俺が捕えられたら、母がすぐに気づくぞ」
「女神祖様には話は通してあるわ。女神祖様はおばさんのことがお嫌いみたいよ。少しはお灸を据えるべきね、だって」
「お前たち、ミサトに勝てるとでも本気で思っているのか!?」
「思っているわよ。私たちには天使軍団がバックにいるのよ」
「ミサトは神祖様の愛娘だぞ。神祖様も争いに出て来たら、えらいことになるぞ」
「別におばさんを殺す訳じゃないのよ。龍たちに土下座して謝ってもらうだけよ。神祖様はおばさんが害されない限りは手を出さないわ。子供の喧嘩に親が出てくるようなことはしないわよ」
「お前たち、ミサトの恐ろしさを何も分かっていない。神霊に明確に敵対した場合、他神の創造物であっても、神罰を下していいんだぞ。お前は俺が守ってやるが、龍たちは皆殺しにされるぞ!」
「あはは! おじさんですら何も出来ないこの濃度の天粒子を浴びたら、いくらおばさんが化け物でも、何も出来ないわよ」
「でも、人間は動けるぞ。人間の神通力は神通力もどきだ。仕組みが違う」
「おじさん、どうかしちゃったの? 私は人間には手を出せないけど、龍たちは違うのよ。龍が人間に負けるわけがないじゃない」
だめだ。竜子は復讐心が強くなりすぎて、物事がよく見えなくなってしまっている。ミサトが捕まったのは、俺が味方にならないと知ったからだ。壺なんぞはどうにか出来たに違いないのだ。
母もミサトの強さは知っているはずだが、母は龍がどうなっても構わないのだろう。面白い行事が始まるぐらいにしか思っていない。
龍神とアテナが作ったこの龍王国をバカ娘が台無しにするのを俺は見ていることしか出来ないのか。
0
お気に入りに追加
104
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる