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第十二章 カミナリ様
天界への帰郷
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ミサトのやつ、人間は気にしないとか言っておきながら、マリアのことは気になるのか? 使徒のルル、ララたちには子を授けてもいい、とか確か言ってたはずだ。そもそもミサトが構ってくれれば、使徒になど手を付けるものか。
とか考えているうちに天界に着いた。
「天界、さびれすぎだ」
各世界には世界を統治する神霊の官邸が建ち並ぶ「天界」が存在する。それらを統合的に統治するのが「神界」だ。すなわち、「神界」は「天界」の上位組織に当たる。
天界に来たのはいいが、主人のいないがらんとした神霊の官邸と、住人のいない霊王邸や各階層の霊の住居が建ち並び、まるでゴーストタウンだ。
ミサトが暴れまくって、天界はいったん破壊尽くされたが、建物は自動修復されるため、元通りになっているとばかり思っていた。誰も住まないとこんな感じになってしまうのか。
「まあ、いいか。通り過ぎるだけだし」
俺はドラゴンの統治神である龍神の居住区画に移動するつもりだった。龍神区画から下界に降りれば、龍大陸だからだ。下界を移動するよりも、遥かに早く移動できる。
「懐かしいなあ」
俺は街並みを見ながら、神界から降りてきた頃のことを思い出していた。この世界に神界から派遣された十二柱は、最初からお互いそんなに仲は良くはなかったが、まさかあんな大喧嘩になるとは流石に予想できなかった。
ただ、俺は龍神とだけは仲が良く、やつの嫁のアテナとも古くからの腐れ縁で、ミサトも龍神夫婦とは割とうまくやっていたように思ったのだが、喧嘩になると容赦なかった。龍神夫婦が一番の強敵と見て、龍神の霊王百六十柱を真っ先に葬ったのだ。
「龍神はともかく、アテナは再降臨しても、ミサトを許してはくれないだろうなあ」
アテナは龍の姿をした霊王たちを非常に可愛がっていたからだ。
そうこう考えているうちに龍神の区画まで来た。俺は真っ直ぐに水晶の神殿に入った。龍大陸の様子を見るためである。
龍大陸には龍神とアテナの娘の竜子がいるはずだ。確か千歳にもなっていないはずで、さすがにまだ神霊にはなっていないと思うが、かなり強いはずだ。メルサやゲンムでは当然勝てない。ワインたちでも勝てるかどうか微妙だ。
ミサトはあの娘をどうするつもりなのだろうか。まさか害したりはしないと思うが。
「さて、龍王国はどうなっているのかな」
俺は七つの水晶を順番にのぞいていった。龍王国にはドラゴンが住んでいる。広大な土地に数千匹のみ生息している。ドラゴンの知能は高く、長寿だ。
「どこに降りようかなあ」
あまり目立たないところを物色していると、突然背後から声をかけられた。
「カミナリおじさん、何してるの?」
少し驚いたが、誰かに声をかけられる予感はあった。それにしてもカミナリ親父みたいな呼び方だな、と思いつつ振り向くと、絶対的な美女がふわふわと浮いていた。
「アテナ? じゃない。ひょっとして竜子か?」
竜子というのは幼名だ。神になったら、能力に応じた名前が付けられる。それにしても、見違えてしまった。すっかり大人になって、びっくりするほどアテナによく似ている。
「そうよ。おじさん、随分と久しぶりね。ここで何してるの?」
「龍王国にちょっと遊びに行こうかと思って」
竜子は俺をジロジロと見ている。
「まさかカザナミおばさんも来るんじゃないでしょうね?」
「来ない。今はな」
「今はって、いつか来るってこと!?」
「あ、いや、カザナミ自身は来ないな。使徒たちが来る」
「よかった~。おばさんめちゃくちゃな方だから、ここみたいに龍王国も壊されちゃうかと思った。使徒なら平気よ。対応できるわ」
「カザナミが無茶苦茶だというのは否定しないが、他の神霊が管轄している生物には、直接手を出したことは一度もないぞ」
「そうかもしれないけど、信用できないわ。でも、私じゃおばさんにはどう考えても勝てないから。おじさん、また守ってね」
四百年前、ミサトが荒れ狂ったとき、神霊たちは子供もろとも全員が霊体を維持できないほどボコボコにされ、神界に送り返されたが、竜子は俺が守ったのだった。
「いや、次はカザナミの味方になると決めているんだ。だから、守ってあげられない。カザナミに何かされそうになったら、神界に逃げるんだ。でも、そんなことにはならないと思うぞ」
「そう祈るわ。おじさんだけなら、龍王国を案内するわよ」
「それは有り難い。お言葉に甘えるよ」
「すぐに分かることだから、先に話しておくけど、私は今、女王の座を追われて逃亡中の身なのよ」
「は? お前に勝てるやつなんていないだろう」
「神通力を妨害するややこしい技を使うのよ。まあ、おいおい話すわ。今日はここで敵の動きを観察していたの。おじさんと会えたのは龍神様のお導きだわ。色々とよろしくね」
自分の父親を龍神様って。相変わらずファザコンだな。
どうやら面倒事に巻き込まれそうだが、暇だったからちょうどいい。
「おう、頼りにしていいぞ。なんたって暇だからな」
とか考えているうちに天界に着いた。
「天界、さびれすぎだ」
各世界には世界を統治する神霊の官邸が建ち並ぶ「天界」が存在する。それらを統合的に統治するのが「神界」だ。すなわち、「神界」は「天界」の上位組織に当たる。
天界に来たのはいいが、主人のいないがらんとした神霊の官邸と、住人のいない霊王邸や各階層の霊の住居が建ち並び、まるでゴーストタウンだ。
ミサトが暴れまくって、天界はいったん破壊尽くされたが、建物は自動修復されるため、元通りになっているとばかり思っていた。誰も住まないとこんな感じになってしまうのか。
「まあ、いいか。通り過ぎるだけだし」
俺はドラゴンの統治神である龍神の居住区画に移動するつもりだった。龍神区画から下界に降りれば、龍大陸だからだ。下界を移動するよりも、遥かに早く移動できる。
「懐かしいなあ」
俺は街並みを見ながら、神界から降りてきた頃のことを思い出していた。この世界に神界から派遣された十二柱は、最初からお互いそんなに仲は良くはなかったが、まさかあんな大喧嘩になるとは流石に予想できなかった。
ただ、俺は龍神とだけは仲が良く、やつの嫁のアテナとも古くからの腐れ縁で、ミサトも龍神夫婦とは割とうまくやっていたように思ったのだが、喧嘩になると容赦なかった。龍神夫婦が一番の強敵と見て、龍神の霊王百六十柱を真っ先に葬ったのだ。
「龍神はともかく、アテナは再降臨しても、ミサトを許してはくれないだろうなあ」
アテナは龍の姿をした霊王たちを非常に可愛がっていたからだ。
そうこう考えているうちに龍神の区画まで来た。俺は真っ直ぐに水晶の神殿に入った。龍大陸の様子を見るためである。
龍大陸には龍神とアテナの娘の竜子がいるはずだ。確か千歳にもなっていないはずで、さすがにまだ神霊にはなっていないと思うが、かなり強いはずだ。メルサやゲンムでは当然勝てない。ワインたちでも勝てるかどうか微妙だ。
ミサトはあの娘をどうするつもりなのだろうか。まさか害したりはしないと思うが。
「さて、龍王国はどうなっているのかな」
俺は七つの水晶を順番にのぞいていった。龍王国にはドラゴンが住んでいる。広大な土地に数千匹のみ生息している。ドラゴンの知能は高く、長寿だ。
「どこに降りようかなあ」
あまり目立たないところを物色していると、突然背後から声をかけられた。
「カミナリおじさん、何してるの?」
少し驚いたが、誰かに声をかけられる予感はあった。それにしてもカミナリ親父みたいな呼び方だな、と思いつつ振り向くと、絶対的な美女がふわふわと浮いていた。
「アテナ? じゃない。ひょっとして竜子か?」
竜子というのは幼名だ。神になったら、能力に応じた名前が付けられる。それにしても、見違えてしまった。すっかり大人になって、びっくりするほどアテナによく似ている。
「そうよ。おじさん、随分と久しぶりね。ここで何してるの?」
「龍王国にちょっと遊びに行こうかと思って」
竜子は俺をジロジロと見ている。
「まさかカザナミおばさんも来るんじゃないでしょうね?」
「来ない。今はな」
「今はって、いつか来るってこと!?」
「あ、いや、カザナミ自身は来ないな。使徒たちが来る」
「よかった~。おばさんめちゃくちゃな方だから、ここみたいに龍王国も壊されちゃうかと思った。使徒なら平気よ。対応できるわ」
「カザナミが無茶苦茶だというのは否定しないが、他の神霊が管轄している生物には、直接手を出したことは一度もないぞ」
「そうかもしれないけど、信用できないわ。でも、私じゃおばさんにはどう考えても勝てないから。おじさん、また守ってね」
四百年前、ミサトが荒れ狂ったとき、神霊たちは子供もろとも全員が霊体を維持できないほどボコボコにされ、神界に送り返されたが、竜子は俺が守ったのだった。
「いや、次はカザナミの味方になると決めているんだ。だから、守ってあげられない。カザナミに何かされそうになったら、神界に逃げるんだ。でも、そんなことにはならないと思うぞ」
「そう祈るわ。おじさんだけなら、龍王国を案内するわよ」
「それは有り難い。お言葉に甘えるよ」
「すぐに分かることだから、先に話しておくけど、私は今、女王の座を追われて逃亡中の身なのよ」
「は? お前に勝てるやつなんていないだろう」
「神通力を妨害するややこしい技を使うのよ。まあ、おいおい話すわ。今日はここで敵の動きを観察していたの。おじさんと会えたのは龍神様のお導きだわ。色々とよろしくね」
自分の父親を龍神様って。相変わらずファザコンだな。
どうやら面倒事に巻き込まれそうだが、暇だったからちょうどいい。
「おう、頼りにしていいぞ。なんたって暇だからな」
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