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第十一章 エルフの国
激突
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カイゼル将軍はエレン村と首都サビリンの中間地点の森林に軍を展開していた。極東区画は他の区画と同様に、海岸線以外は全て森で覆われている。
エルフは地上に降りて活動することは殆どない。軍も例外ではなく、全軍全て樹上で待機している。人間たちは木々の間をぬって地上を進軍してくるはずで、木の上から弓矢で射止めるつもりだ。
人間たちがどのルートを通ったとしても、確実に射止められるように、五人一組の狙撃チームを広範囲に展開させている。
カイゼルは人間の進軍ルートとして想定しているルートの一つを側近を帯同して点検していた。エルフは身軽で木から木へと猿のように移動する。身体を浮かせる微力な風魔法を使えるのだ。
「なぜ五千人も必要なのでしょうか」
同じ質問をこれまでも幾度となく各チーム長から聞かされて来た。カイゼルは同じ回答を繰り返す。
「女王様のご指示だ。俺にもよくわからんが、油断するな」
もうすぐ日が沈む。人間たちは恐らく明日の日の出とともに進軍を開始するだろう。先ほどの報告では、エレン村ではなく、海岸近くの彼らの基地で、捕虜たちといっしょに賑やかに食事をしていたとのことだった。
報告を聞いて、村人がすっかり手懐けられてしまっていることにカイゼルは驚いたが、軍は上官の命令に従って任務を遂行するだけだ。村人の気持ちなんぞはどうだってよかった。
「よし、そろそろ本陣に戻るぞ」
今日は二つある月の両方とも夜に出ない無月夜だ。エルフは夜目が効くが、日が沈むと視界はかなり悪くなる。本陣に戻る頃にはすっかり日が暮れて、森の木々の間から見える夜空に星が輝いていた。
ゴロゴロ
「おい、聞こえたか?」
カイゼルは本陣部屋に一緒にいた側近のブカナンに確認した。彼は耳がいい。
「はい、雷鳴のようですが」
ドーン、バキバキバキバキ
今度はハッキリと聞こえた。先ほど点検していたルートの方向からだ。
「落雷でしょうか?」
「雲ひとつない夜空にか?」
しばらくして、また聞こえて来た。ゴロゴロという雷鳴のような音とドーンという落雷のような音とバキバキという木の裂けるような音だ。
一つだけではなく、同時に複数の音が聞こえる。
「ちょっと見てきます」
ブカナンが走り出そうとしたのをカイゼルは止めた。
「敵襲だ。全員戦闘配置につかせろっ」
夜明けから攻撃が始まると思っていたが、人間たちは夜から移動を始め、翌未明にはサビリン入りするつもりだ。
「了解しました」
ブカナンは本陣部屋から出て、笛を短く三度鳴らした。敵襲の合図だ。そして、音の鳴る方向の上空に稲妻が何本も走るのを見た。
満天の星空にヒビが入るような白い稲妻が何本か現れ、その先端が森に落ちていくのが見える。その後、少し遅れて音が聞こえて来るのだ。
ブカナンはすぐに本陣部屋に戻り、カイゼルに報告した。
「雷です。敵は自由自在に雷を発生させ、我が軍の狙撃兵に落雷させていると思われます」
「何だと? 雷が武器だと?」
そうやりとりしているうちにも音がだんだんと近づいて来る。射程距離が分からない。対応策が浮かばない。
カイゼルは決断を下した。
「全軍首都まで退却する。全軍に通知せよ」
ブカナンがピーという長い警笛を鳴らす。退却の合図だ。至る所で警笛が鳴り、森の木々が揺れる。エルフたちは電光石火の退却を開始した。
未知の兵器に対して無策のまま待機していては、狙い撃ちにされてしまうだけだ。いったん退却して、対策を講じる必要がある。
カイゼルの判断は正しかった。クロ率いる人間の部隊は、村人の命は大切にしたが、軍人には容赦なかった。索敵魔法で数キロ先の狙撃兵の位置を把握して、雷魔法で感電死させながら進軍していたのだ。
「エルフたちは撤退を始めたようですね」
クロの後ろから隊員が囁いた。クロを先頭にして、四人一組の五チームが、適当に散開して進軍していた。索敵能力と射程距離に圧倒的な差があるため、クロたちに特に作戦はない。あるのは方針だけだった。
「判断が早いな。やることに変わりはないぞ。向かって来るものには容赦はするな。逃げるものには手は出すな。この方針のまま進軍を続ける」
クロの指示が全員の脳内に響いた。
エルフは地上に降りて活動することは殆どない。軍も例外ではなく、全軍全て樹上で待機している。人間たちは木々の間をぬって地上を進軍してくるはずで、木の上から弓矢で射止めるつもりだ。
人間たちがどのルートを通ったとしても、確実に射止められるように、五人一組の狙撃チームを広範囲に展開させている。
カイゼルは人間の進軍ルートとして想定しているルートの一つを側近を帯同して点検していた。エルフは身軽で木から木へと猿のように移動する。身体を浮かせる微力な風魔法を使えるのだ。
「なぜ五千人も必要なのでしょうか」
同じ質問をこれまでも幾度となく各チーム長から聞かされて来た。カイゼルは同じ回答を繰り返す。
「女王様のご指示だ。俺にもよくわからんが、油断するな」
もうすぐ日が沈む。人間たちは恐らく明日の日の出とともに進軍を開始するだろう。先ほどの報告では、エレン村ではなく、海岸近くの彼らの基地で、捕虜たちといっしょに賑やかに食事をしていたとのことだった。
報告を聞いて、村人がすっかり手懐けられてしまっていることにカイゼルは驚いたが、軍は上官の命令に従って任務を遂行するだけだ。村人の気持ちなんぞはどうだってよかった。
「よし、そろそろ本陣に戻るぞ」
今日は二つある月の両方とも夜に出ない無月夜だ。エルフは夜目が効くが、日が沈むと視界はかなり悪くなる。本陣に戻る頃にはすっかり日が暮れて、森の木々の間から見える夜空に星が輝いていた。
ゴロゴロ
「おい、聞こえたか?」
カイゼルは本陣部屋に一緒にいた側近のブカナンに確認した。彼は耳がいい。
「はい、雷鳴のようですが」
ドーン、バキバキバキバキ
今度はハッキリと聞こえた。先ほど点検していたルートの方向からだ。
「落雷でしょうか?」
「雲ひとつない夜空にか?」
しばらくして、また聞こえて来た。ゴロゴロという雷鳴のような音とドーンという落雷のような音とバキバキという木の裂けるような音だ。
一つだけではなく、同時に複数の音が聞こえる。
「ちょっと見てきます」
ブカナンが走り出そうとしたのをカイゼルは止めた。
「敵襲だ。全員戦闘配置につかせろっ」
夜明けから攻撃が始まると思っていたが、人間たちは夜から移動を始め、翌未明にはサビリン入りするつもりだ。
「了解しました」
ブカナンは本陣部屋から出て、笛を短く三度鳴らした。敵襲の合図だ。そして、音の鳴る方向の上空に稲妻が何本も走るのを見た。
満天の星空にヒビが入るような白い稲妻が何本か現れ、その先端が森に落ちていくのが見える。その後、少し遅れて音が聞こえて来るのだ。
ブカナンはすぐに本陣部屋に戻り、カイゼルに報告した。
「雷です。敵は自由自在に雷を発生させ、我が軍の狙撃兵に落雷させていると思われます」
「何だと? 雷が武器だと?」
そうやりとりしているうちにも音がだんだんと近づいて来る。射程距離が分からない。対応策が浮かばない。
カイゼルは決断を下した。
「全軍首都まで退却する。全軍に通知せよ」
ブカナンがピーという長い警笛を鳴らす。退却の合図だ。至る所で警笛が鳴り、森の木々が揺れる。エルフたちは電光石火の退却を開始した。
未知の兵器に対して無策のまま待機していては、狙い撃ちにされてしまうだけだ。いったん退却して、対策を講じる必要がある。
カイゼルの判断は正しかった。クロ率いる人間の部隊は、村人の命は大切にしたが、軍人には容赦なかった。索敵魔法で数キロ先の狙撃兵の位置を把握して、雷魔法で感電死させながら進軍していたのだ。
「エルフたちは撤退を始めたようですね」
クロの後ろから隊員が囁いた。クロを先頭にして、四人一組の五チームが、適当に散開して進軍していた。索敵能力と射程距離に圧倒的な差があるため、クロたちに特に作戦はない。あるのは方針だけだった。
「判断が早いな。やることに変わりはないぞ。向かって来るものには容赦はするな。逃げるものには手は出すな。この方針のまま進軍を続ける」
クロの指示が全員の脳内に響いた。
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