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第十一章 エルフの国
交渉成立
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サビーヌの前には人間の使者が用意した椅子に座ってふんぞりかえっていた。金色に輝く奇妙な若い男だ。エルフでは百五十歳ぐらいの見た目だ。人間は短命と聞いているが、この少年からは千歳を超えるエルフの長老たちのようなオーラを感じる。
「俺のことはゲンムと呼んでくれ。お姉さんたちは無条件降伏したいそうだな」
ゲンムは念話が出来るようだが、サビーヌにしか話さないつもりのようだ。謁見部屋には中央区画から派遣された宰相のマルクスも同席しているが、彼には聞かせないようだ。
マルクスが気づいたようで何か言おうとしたが、サビーヌが手で制した。
「そうよ、農業したいのよ、私たちは」
「わかった。では、首都サブリンの境界線から東側一帯を我々人間が貰い受ける。我々人間の皇帝が農業改革をその地で行うから、とりあえず、五千人のエルフを移住させてくれ。それでお前の国は独立を保てる。いいな」
サビーヌは一方的な要求に一瞬唖然としたが、冷静に内容をマルクスに伝えた。マルクスの顔がみるみる赤くなる。
「ふ、ふざけるなよ、人間っ!」
「何だ、お前とは話すつもりはなかったんだが、まあ、いいか。お姉さん、無条件降伏ではないのか? 別に力づくでもいいのだぞ」
ゲンムはマルクスにも念話を届けた。
「こいつ、言わせておけばっ。敵地の中に単身乗り込んできて、生きて帰れると思うなよっ」
「はん、威勢がいいな、おっさん。でも、生きて帰れるさ。俺に何か出来ると本当に思っているのか? じゃあ、おっさんからまずは片付けようか? やっちゃっていいのだろう?」
ゲンムはサビーヌにチラリと視線を向けた。
「待って、要求を飲むわ」
サビーヌがゲンムとマルクスの念話に割って入った。
「サビーヌ様……」
マルクスは信じられないといった表情だ。
「五千人のエルフの人員構成はこちらで決めていいのかしら?」
「軍人はダメだ。軍人と判明した場合、その場で感電死させるからそのつもりでいてくれ。皇帝陛下は軍人が嫌いなんでね」
「わかったわ。軍人以外であれば誰でもいいのね」
「ああ。そのうち、五十人の女に皇帝の後宮に入ってもらうので、最低でも五十人は未婚の若い女性にして欲しい」
「何ですって!?」
「おっ、お姉さん、初めて怒ったな。人間とエルフは性交可能だ。仲良くしようぜ」
「サビーヌ様、このような屈辱に耐える必要はございませんぞ」
マルクスはわなわなと震えている。ゲンムはフッと笑った。
「屈辱? そんなつもりはないさ。友好の証さ。我が皇帝陛下は子供好きでな。人間の妃も五十人いて、子供も五十人以上いるんだ。賑やかで楽しいぞ。なんなら姉さんもどうだ? 正妻にするぞ」
「お断りするわ。エルフは夫も妻も一人なの」
サビーヌは表情を変えずに即答した。
「そうか、残念だな。ところで、外から俺を狙っていたエルフが六人いたが、全員チリになった。悪く思うなよ。自業自得というやつだ。それと、そこの男、変な真似するとチリになるぞ」
「チリって?」
サビーヌは美しい眉を寄せ、怪訝な顔をした。
「こうなるのさ」
マルクスの後ろに控えていた男が、ナイフのようなものをゲンムに投げようとして、一瞬で消えてしまった。男のいたところに灰のようなものが積もっていた。
「な、何をしたのっ!?」
「何もしてないさ。その男が俺を殺そうとしたから、邪神の怒りに触れたのさ。俺の能力なんだが、まだまだ未熟者で止められないんだよ。だから、俺に殺意を向けない方がいいぞ」
サビーヌの顔が強張る。この男は化け物だ。
「ね、ねえ、人間ってみんなあなたみたいに強いの?」
「俺は六番目だ。俺より強いのは五人全員女だから、男子では最強だぞ。で、五千人はいつ送る?」
「すぐに募集するわ。そうだわ、サツマイモというのを出来るだけ多くいただけるかしら。餌で希望者を募るわ」
「いいぜ。送るようにする。交渉成立ってことでいいかな」
「いいわ」
「エルフには世話になった人がいる。あまり殺したくはないから、順調に行くと助かる。お姉さん、一度、トドロキ皇帝に挨拶に行くといい。皇帝は神の祝福を受けていて不老だから、長い付き合いになるぞ」
「神ですって!? ひょっとして、人間の神は復活したの?」
「夫婦で復活されておられるぜ。お前たちの神はまだお隠れだそうだ」
ダメだ。絶望的だ。エルフの地は人間に支配される。だが、暴力での支配ではなさそうだ。
「どうやって私たちを支配するつもりなの?」
「支配ねえ。まあ当面はそういうことになるかもしれないが、逆転は可能だぜ。これから農業改革が起き、次に産業革命が起きる。それで、資本主義って世界になるんだが、そこでの競争を勝ち抜くチャンスは誰にでもある。だから、誰もが支配者なる可能性があるのさ」
「よくわからないけど、暴力で支配するわけではないのね?」
「そういう輩も出てくるかもしれないが、いずれは淘汰される。人間はお前たちの十分の一しか生きられないから、暴力なんていう一時的な力で優位に立とうとは思っていない」
「優位には立とうとはするのね」
「人間の性なんだよ。他人よりも優位に立とうとするんだ。エルフは違うのか」
「そうね。そういうのはあまりないかもね。でも、支配されるのは嫌よ。対等がいいし、何よりも調和を重んじるわ」
「そうか。人間は命が短い分、エルフより恐らく勤勉だぜ。そして、支配したがるんだよ。牛耳られないよう頑張るんだな」
「分かったわ。今後、ゲンムに連絡するにはどうすればいいの?」
「俺はここにいるように言われている。どこか住むところを用意してくれるか? 大使館ってやつだ」
こんなのがずっといるのか!?
「まあそう驚くなよ。俺がいれば、人間も無茶なことはしないぜ。いてくれてよかったと思うはずさ。お姉さん、よろしくな」
「俺のことはゲンムと呼んでくれ。お姉さんたちは無条件降伏したいそうだな」
ゲンムは念話が出来るようだが、サビーヌにしか話さないつもりのようだ。謁見部屋には中央区画から派遣された宰相のマルクスも同席しているが、彼には聞かせないようだ。
マルクスが気づいたようで何か言おうとしたが、サビーヌが手で制した。
「そうよ、農業したいのよ、私たちは」
「わかった。では、首都サブリンの境界線から東側一帯を我々人間が貰い受ける。我々人間の皇帝が農業改革をその地で行うから、とりあえず、五千人のエルフを移住させてくれ。それでお前の国は独立を保てる。いいな」
サビーヌは一方的な要求に一瞬唖然としたが、冷静に内容をマルクスに伝えた。マルクスの顔がみるみる赤くなる。
「ふ、ふざけるなよ、人間っ!」
「何だ、お前とは話すつもりはなかったんだが、まあ、いいか。お姉さん、無条件降伏ではないのか? 別に力づくでもいいのだぞ」
ゲンムはマルクスにも念話を届けた。
「こいつ、言わせておけばっ。敵地の中に単身乗り込んできて、生きて帰れると思うなよっ」
「はん、威勢がいいな、おっさん。でも、生きて帰れるさ。俺に何か出来ると本当に思っているのか? じゃあ、おっさんからまずは片付けようか? やっちゃっていいのだろう?」
ゲンムはサビーヌにチラリと視線を向けた。
「待って、要求を飲むわ」
サビーヌがゲンムとマルクスの念話に割って入った。
「サビーヌ様……」
マルクスは信じられないといった表情だ。
「五千人のエルフの人員構成はこちらで決めていいのかしら?」
「軍人はダメだ。軍人と判明した場合、その場で感電死させるからそのつもりでいてくれ。皇帝陛下は軍人が嫌いなんでね」
「わかったわ。軍人以外であれば誰でもいいのね」
「ああ。そのうち、五十人の女に皇帝の後宮に入ってもらうので、最低でも五十人は未婚の若い女性にして欲しい」
「何ですって!?」
「おっ、お姉さん、初めて怒ったな。人間とエルフは性交可能だ。仲良くしようぜ」
「サビーヌ様、このような屈辱に耐える必要はございませんぞ」
マルクスはわなわなと震えている。ゲンムはフッと笑った。
「屈辱? そんなつもりはないさ。友好の証さ。我が皇帝陛下は子供好きでな。人間の妃も五十人いて、子供も五十人以上いるんだ。賑やかで楽しいぞ。なんなら姉さんもどうだ? 正妻にするぞ」
「お断りするわ。エルフは夫も妻も一人なの」
サビーヌは表情を変えずに即答した。
「そうか、残念だな。ところで、外から俺を狙っていたエルフが六人いたが、全員チリになった。悪く思うなよ。自業自得というやつだ。それと、そこの男、変な真似するとチリになるぞ」
「チリって?」
サビーヌは美しい眉を寄せ、怪訝な顔をした。
「こうなるのさ」
マルクスの後ろに控えていた男が、ナイフのようなものをゲンムに投げようとして、一瞬で消えてしまった。男のいたところに灰のようなものが積もっていた。
「な、何をしたのっ!?」
「何もしてないさ。その男が俺を殺そうとしたから、邪神の怒りに触れたのさ。俺の能力なんだが、まだまだ未熟者で止められないんだよ。だから、俺に殺意を向けない方がいいぞ」
サビーヌの顔が強張る。この男は化け物だ。
「ね、ねえ、人間ってみんなあなたみたいに強いの?」
「俺は六番目だ。俺より強いのは五人全員女だから、男子では最強だぞ。で、五千人はいつ送る?」
「すぐに募集するわ。そうだわ、サツマイモというのを出来るだけ多くいただけるかしら。餌で希望者を募るわ」
「いいぜ。送るようにする。交渉成立ってことでいいかな」
「いいわ」
「エルフには世話になった人がいる。あまり殺したくはないから、順調に行くと助かる。お姉さん、一度、トドロキ皇帝に挨拶に行くといい。皇帝は神の祝福を受けていて不老だから、長い付き合いになるぞ」
「神ですって!? ひょっとして、人間の神は復活したの?」
「夫婦で復活されておられるぜ。お前たちの神はまだお隠れだそうだ」
ダメだ。絶望的だ。エルフの地は人間に支配される。だが、暴力での支配ではなさそうだ。
「どうやって私たちを支配するつもりなの?」
「支配ねえ。まあ当面はそういうことになるかもしれないが、逆転は可能だぜ。これから農業改革が起き、次に産業革命が起きる。それで、資本主義って世界になるんだが、そこでの競争を勝ち抜くチャンスは誰にでもある。だから、誰もが支配者なる可能性があるのさ」
「よくわからないけど、暴力で支配するわけではないのね?」
「そういう輩も出てくるかもしれないが、いずれは淘汰される。人間はお前たちの十分の一しか生きられないから、暴力なんていう一時的な力で優位に立とうとは思っていない」
「優位には立とうとはするのね」
「人間の性なんだよ。他人よりも優位に立とうとするんだ。エルフは違うのか」
「そうね。そういうのはあまりないかもね。でも、支配されるのは嫌よ。対等がいいし、何よりも調和を重んじるわ」
「そうか。人間は命が短い分、エルフより恐らく勤勉だぜ。そして、支配したがるんだよ。牛耳られないよう頑張るんだな」
「分かったわ。今後、ゲンムに連絡するにはどうすればいいの?」
「俺はここにいるように言われている。どこか住むところを用意してくれるか? 大使館ってやつだ」
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