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第十章 強者の育成
修行の開始
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(ミサ様とゆうくんは私たちのレベルアップをしてくれてるのよね)
ダンジョン戦が始まってからも、エルフ二人は防御に専念しているため、魂ポイントは全てメルサたちに入ってくる。ホーリーライトもこの調子で行くと、数秒で撃てるようになるだろう。まだ使っていないが、ソウルドレインという凶悪な魔法も構築できる。
(私たちをこんなに強くして、神霊様は私たちに何をさせるおつもりなのかしら)
メルサがそう考えていると、前を歩いていた二人がセーフティゾーンに入るぞと合図をしてきた。各階のスタート地点には敵が侵入できないセーフティゾーンと呼ばれる休憩部屋のような空間が用意されている。
四人はセーフティゾーンに入った。他のフロアと同じで、四人がけのテーブルが三つ用意されていた。メルサたちは真ん中のテーブルに座った。
ミサがメルサに話しかけてきた。
「あなたたちはダンジョンを出たことになっているわ。ここからは秘密の特訓よ。地下七階はエルフフロア、八階はドワーフフロア、九階がオークフロア、そして、最下層の地下十階はドラゴンフロアになっているの」
「なぜご存知なのですか?」
メルサは反射的に質問してしまった。ミサが不機嫌そうな顔になる。
「私が何を知ろうと関係ないわよね。下らない質問はしないこと。あなたたちには人類最強になってもらうわよ。これから二年以内に二人だけの力で、地下十階まで攻略しなさい。いいわね」
「あの、学校はどうなるのでしょうか」
メルサは遠慮がちに聞いた。ミサが表情を緩めた。
「そうそう、そういう質問をしなさい。学校のある日は学校に行っていいわ。学校が休みのときはダンジョン攻略に全ての時間を捧げること。この二年間が魂エネルギーを最も効果的に吸収できるのよ」
「だったら、学校休んで特訓したほうがよくないですか?」
今度はゲンムが質問した。
「がむしゃらにやるよりも、適度に休んだほうがいいのよ。学校のあるときは、放課後にモモとシロから指導を受けるといいわ。そういう時間も大切よ」
(やはりお二方はエルフなんかじゃない。神霊様だ。モモ様とシロ様を呼び捨てですもの)
メルサは確信した。であれば、従うことが最良だ。
「かしこまりました。でも、私たち二人で大丈夫でしょうか?」
この問いには、今まで黙っていたゆうが答えた。
「今の力では無理だ。修行しながら、少しずつ進んでいくんだ。仮に死んでしまっても、ダンジョン内は復活の奇跡が発動するので、死ぬことはない。その点は安心するといい」
「今から特訓よ。明日の日曜日までに、二人で進めるだけ進んでみなさい。睡眠と食事とトイレはセーフティゾーンで出来ることは知っているわよね。私とゆうは離脱するから、頑張ってね」
ミサはそう言うと、ゆうと腕を組んで、そのまま消えてしまった。
「メルサ、あの方々、間違いなく神霊様だよね」
「それ以外に考えられないでしょ。それよりも作戦会議よ。これからゆうくんたちの防御抜きで戦わないといけないのよ」
「でも、死なないっておっしゃってたよ」
「バカね。死なないではなく、死んでも復活する、とおっしゃったのよ。死ぬのはかなり痛いはずよ。そうはなりたくないでしょ」
「死にたくないよ」
ゲンムは泣きそうな顔をした。
「だから作戦を練るのよ。私はとにかく痛いのは嫌だから、敵の攻撃が絶対に当たらないようにしたいのよ」
二人は作戦を話し合った。
だが、戦闘を開始して、二人が実際に直面した問題は、敵がヒトと同じ姿をしてることだった。
地下七階はエルフフロアと呼ばれている。それは出てくる敵全てがエルフであるということであった。
対人戦はリーグ戦で経験しているが、それは試合としての対戦であって、殺し合いではない。敵も奇跡で復活するとはいえ、ヒトの姿の敵を殺すことが二人には出来なかったのである。
だが、魂ポイントによる精神力強化はここでも威力を発揮した。
「メルサ、早く魔法を撃て。これ以上耐えられないぞ」
ゲンムが三人の男エルフ剣士と剣戟を交わしているが、徐々に押され気味となっており、生傷が増えてきている。後方の女エルフ三人からの魔法攻撃も全てガードしているゲンムは一人で六人を相手にしていた。
このままではゲンムが死んでしまう。見惚れるほど美しいエルフの六人組になかなか魔法を撃つことが出来なかったメルサであったが、遂に覚悟を決めた。
「ごめんなさい。死んでちょうだい」
生あるものの魂エネルギーを奪い取り、自分の魂エネルギーにしてしまう禁断の凶悪魔法ソウルドレインが放たれた。
禍々しい気配を発するどす黒いオーラがメルサの背中から発せられ、黒いオーラが何本もの触手のようになってエルフたちに襲いかかる。
黒い触手は剣では切れず、魔法も弾き返してしまう。エルフたちはなすすべもなく触手に絡め取られ、魂を吸い上げられていく。耐えがたい苦痛にエルフたちが絶叫し、ひとり、またひとりと息絶えていった。
「えげつない魔法だな」
横たわった六人の遺体を見ながら、ゲンムがポツリと言った。
「仕方ないでしょう。やらないとこっちが殺されるのよ」
「それは分かってるが、もっと優しい魔法はないのか? ものすごく痛そうだったぞ」
「燃やして肉が焼けたり、切って内臓が出たりする魔法がいいの? 痛いのは仕方ないよ。この魔法が一番綺麗に死ねるのよ」
確かに死体には傷ひとつなかった。ゲンムはメルサの方を見て、メルサの顔色が真っ青になっていることに気づいた。
「メルサ、大丈夫か」
メルサは初めて人を殺したのだ。ゲンムはメルサの気持ちをもっと労わるべきだった。
「大丈夫じゃないわよ。精神力が強化されてなかったら、そもそも殺すなんて出来なかったと思うし、殺してしまった後も立っていられなかったと思う。今でもオシッコ漏れちゃいそうよ。でも、何とか耐えているわ。次に行きましょう。神霊様の期待に応えなくちゃ」
メルサたちはまだ十歳であったが、魂ポイントによる精神力強化のお陰で、精神年齢は百歳を超えていて、雰囲気はまるで大人のようだった。
この後、メルサの精神力はソウルドレインによって、ゲンムの数倍の勢いで強化されていくのであった。
ダンジョン戦が始まってからも、エルフ二人は防御に専念しているため、魂ポイントは全てメルサたちに入ってくる。ホーリーライトもこの調子で行くと、数秒で撃てるようになるだろう。まだ使っていないが、ソウルドレインという凶悪な魔法も構築できる。
(私たちをこんなに強くして、神霊様は私たちに何をさせるおつもりなのかしら)
メルサがそう考えていると、前を歩いていた二人がセーフティゾーンに入るぞと合図をしてきた。各階のスタート地点には敵が侵入できないセーフティゾーンと呼ばれる休憩部屋のような空間が用意されている。
四人はセーフティゾーンに入った。他のフロアと同じで、四人がけのテーブルが三つ用意されていた。メルサたちは真ん中のテーブルに座った。
ミサがメルサに話しかけてきた。
「あなたたちはダンジョンを出たことになっているわ。ここからは秘密の特訓よ。地下七階はエルフフロア、八階はドワーフフロア、九階がオークフロア、そして、最下層の地下十階はドラゴンフロアになっているの」
「なぜご存知なのですか?」
メルサは反射的に質問してしまった。ミサが不機嫌そうな顔になる。
「私が何を知ろうと関係ないわよね。下らない質問はしないこと。あなたたちには人類最強になってもらうわよ。これから二年以内に二人だけの力で、地下十階まで攻略しなさい。いいわね」
「あの、学校はどうなるのでしょうか」
メルサは遠慮がちに聞いた。ミサが表情を緩めた。
「そうそう、そういう質問をしなさい。学校のある日は学校に行っていいわ。学校が休みのときはダンジョン攻略に全ての時間を捧げること。この二年間が魂エネルギーを最も効果的に吸収できるのよ」
「だったら、学校休んで特訓したほうがよくないですか?」
今度はゲンムが質問した。
「がむしゃらにやるよりも、適度に休んだほうがいいのよ。学校のあるときは、放課後にモモとシロから指導を受けるといいわ。そういう時間も大切よ」
(やはりお二方はエルフなんかじゃない。神霊様だ。モモ様とシロ様を呼び捨てですもの)
メルサは確信した。であれば、従うことが最良だ。
「かしこまりました。でも、私たち二人で大丈夫でしょうか?」
この問いには、今まで黙っていたゆうが答えた。
「今の力では無理だ。修行しながら、少しずつ進んでいくんだ。仮に死んでしまっても、ダンジョン内は復活の奇跡が発動するので、死ぬことはない。その点は安心するといい」
「今から特訓よ。明日の日曜日までに、二人で進めるだけ進んでみなさい。睡眠と食事とトイレはセーフティゾーンで出来ることは知っているわよね。私とゆうは離脱するから、頑張ってね」
ミサはそう言うと、ゆうと腕を組んで、そのまま消えてしまった。
「メルサ、あの方々、間違いなく神霊様だよね」
「それ以外に考えられないでしょ。それよりも作戦会議よ。これからゆうくんたちの防御抜きで戦わないといけないのよ」
「でも、死なないっておっしゃってたよ」
「バカね。死なないではなく、死んでも復活する、とおっしゃったのよ。死ぬのはかなり痛いはずよ。そうはなりたくないでしょ」
「死にたくないよ」
ゲンムは泣きそうな顔をした。
「だから作戦を練るのよ。私はとにかく痛いのは嫌だから、敵の攻撃が絶対に当たらないようにしたいのよ」
二人は作戦を話し合った。
だが、戦闘を開始して、二人が実際に直面した問題は、敵がヒトと同じ姿をしてることだった。
地下七階はエルフフロアと呼ばれている。それは出てくる敵全てがエルフであるということであった。
対人戦はリーグ戦で経験しているが、それは試合としての対戦であって、殺し合いではない。敵も奇跡で復活するとはいえ、ヒトの姿の敵を殺すことが二人には出来なかったのである。
だが、魂ポイントによる精神力強化はここでも威力を発揮した。
「メルサ、早く魔法を撃て。これ以上耐えられないぞ」
ゲンムが三人の男エルフ剣士と剣戟を交わしているが、徐々に押され気味となっており、生傷が増えてきている。後方の女エルフ三人からの魔法攻撃も全てガードしているゲンムは一人で六人を相手にしていた。
このままではゲンムが死んでしまう。見惚れるほど美しいエルフの六人組になかなか魔法を撃つことが出来なかったメルサであったが、遂に覚悟を決めた。
「ごめんなさい。死んでちょうだい」
生あるものの魂エネルギーを奪い取り、自分の魂エネルギーにしてしまう禁断の凶悪魔法ソウルドレインが放たれた。
禍々しい気配を発するどす黒いオーラがメルサの背中から発せられ、黒いオーラが何本もの触手のようになってエルフたちに襲いかかる。
黒い触手は剣では切れず、魔法も弾き返してしまう。エルフたちはなすすべもなく触手に絡め取られ、魂を吸い上げられていく。耐えがたい苦痛にエルフたちが絶叫し、ひとり、またひとりと息絶えていった。
「えげつない魔法だな」
横たわった六人の遺体を見ながら、ゲンムがポツリと言った。
「仕方ないでしょう。やらないとこっちが殺されるのよ」
「それは分かってるが、もっと優しい魔法はないのか? ものすごく痛そうだったぞ」
「燃やして肉が焼けたり、切って内臓が出たりする魔法がいいの? 痛いのは仕方ないよ。この魔法が一番綺麗に死ねるのよ」
確かに死体には傷ひとつなかった。ゲンムはメルサの方を見て、メルサの顔色が真っ青になっていることに気づいた。
「メルサ、大丈夫か」
メルサは初めて人を殺したのだ。ゲンムはメルサの気持ちをもっと労わるべきだった。
「大丈夫じゃないわよ。精神力が強化されてなかったら、そもそも殺すなんて出来なかったと思うし、殺してしまった後も立っていられなかったと思う。今でもオシッコ漏れちゃいそうよ。でも、何とか耐えているわ。次に行きましょう。神霊様の期待に応えなくちゃ」
メルサたちはまだ十歳であったが、魂ポイントによる精神力強化のお陰で、精神年齢は百歳を超えていて、雰囲気はまるで大人のようだった。
この後、メルサの精神力はソウルドレインによって、ゲンムの数倍の勢いで強化されていくのであった。
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