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第九章 皇帝選出
選ばれた男
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ー 現代日本、千葉県浦安市 ー
その美女は突然訪ねて来た。
リモートワークで自宅のマンションでプログラミングしていたら、インターホンが鳴った。宅急便だと思って、ろくに確かめもせずドアを開けたら、紺のスーツ姿のとんでもない美人が立っていた。
「あなた、トドロキさん?」
「そうですが……」
何かの営業だろうか。学生時代に美人の営業に騙されて、百万円もする英会話教材を買わされたことがある。そのとき以来、俺は美人を見ると、自然と警戒態勢になるのだった。
(気をつけろ、こんな極上美人に関わると大火傷するぞ)
女は俺の顔を見た後、体付きをジロジロと見た。何だかチェックされているような気分だ。
「まあ、こんなものかしら。今から行くわよ」
初対面の俺を見てため息をついた女は、顎で行くぞってゼスチャーをした。この美人、失礼すぎやしないか? だが、いったいどこに行くのだ?
「ほら、ぼーっとしない。少し目が回るわよ」
女は俺の手をつかんだ。美人に手を握られてドキッとした瞬間、強烈なめまいがした。立っていられないほどで、俺はへたり込んでしまった。
「え? ここは?」
どこかのホテルのフロアなのだろうか、真っ直ぐに絨毯の廊下がのびていて、左右に客室がずらりと並んでいる。
「ここは生産場よ」
女は面倒くさそうに言った。
「生産場?」
「そう、人間のね」
俺は夢でも見ているのだろうか。この美人の会話に全くついていけてない。
「あなた、女好きでしょ」
さっきから本当に失礼な女だが、綺麗すぎてつい見惚れてしまう。女好き? 好きに決まっているじゃないか。
「まあ、好きです。かなり」
俺はぶっちゃけた。もう三十半ばだが、まだ結婚しないのは、一人の女に決めたくないからだった。自分で言うのもなんだが、かなりモテる方だと思う。
「五十人いるわよ。左右二十五部屋ずつ。一部屋に一人いるのよ、女が」
頭の中の警戒音が再び鳴り始めた。全く状況がよく分からないが、ぼったくりの風俗か何かか?
「お、俺、お金持ってきてないです」
美人がキョトンとした顔をした。いや、本当に綺麗だよ、この人。
「あはは、面白いね、人間」
人間? 俺のことを人間って呼ぶ彼女は、人間じゃないに違いない。さっきからやっていることが人外過ぎる。
「あ、あなたはいったい」
「ああ、私? 女神よ。ちょっと事情があってね。これからあなたにはここで子作りしてほしいのよ」
「こ、子作りですか? ひょっとして、ご、五十人と!?」
「ええ、そうよ。もっと行けるのかしら? 三ヵ月以内に全員妊娠させないと殺すけど、女をもっと増やす?」
「え? 殺す? あの、断るって選択肢は……」
「あはは、さっきから面白いわね、あなた。断ったらすぐに殺すわよ。代わりはいくらでもいるから」
「い、いえ、死にたくないです。その、子供のできない女の人もいるのではないでしょうか?」
俺は何とか会話して、少しでも情報を得ようと必死だった。この女が殺すというのが、ハッタリでないことは直感で分かる。
「そこのところは確認済よ。タイミングさえ逃さなければ、間違いなく妊娠するわ」
これは褒美なのか、それとも罰なのか。結婚している奴が、子作りは地獄だと言っていた。間違いなく、罰だろう。
「あの、成功したら帰してくれるのでしょうか?」
女神は顎に手を当て、首をかしげて、考えるポーズを取っている。いちいちやることが男好きすぎる。
「そうね、考えてあげるわ」
この女神、神ではなく悪魔じゃないだろうか。この目は絶対に帰さないつもりだ。
「成功報酬はないのでしょうか? そういうのがあった方がモチベーションが上がって、成功率も上がると思います。それに、失敗したら死ってのは、ストレスが半端ないです。本体が元気じゃないと、精子も元気が出ないと思います」
女神は俺をじっと見つめている。大きな潤んだ目。形のいい鼻とふくよかなピンクの唇。胸は大きくプロポーションも素晴らしい。最高に美しい女なのだが、とてつもなく恐ろしい。俺は恐怖で全身に鳥肌が立っていた。
「成功すれば皇帝にしてあげるんだけど、人によっては褒美にはならないかもね。ストレスで精子が弱らないようにジムやプールもあるし、食事も最高のものを用意しているけど、確かに失敗が死というのはストレスかもね。考えておくわ」
そう言い残して、女神は消えてしまった。
「え? 消えちゃった。俺はどうすればいいんだ」
「どうするって、早く交尾しないと、殺されちゃうわよ」
突然別の女の声が天井から降って来た。
「うおっ」
俺は驚いて天井を見上げた。ピンク一色の女が、天井に張り付いてこちらを見ていた。忍者か?
女はフワッと廊下に降りてきた。美しい少女だった。ピンクのセミロングの髪に目の色もピンク色だ。これまたピングが基調のローブ姿だが、ピンクのミニスカートを履いている。この格好で天井から降りて来たからパンツが丸見えだったのだが、パンツもピンクだった。
「私はモモ。やんごとなきお方にお仕えする大魔法使いよ。単なる魔法使いではなく、『大』がつくから、そこんところよろしく。さあ、どの部屋の女から行く? 危険日の女の部屋には赤札が貼ってあるわよ。それと、顔写真の一覧もあるけど見る?」
俺はほんの三十分ぐらい前まで、普通に仕事していたんだが、一体どうしてこんなことになっているんだ。とりあえず、やるしかない。顔写真で指名とか風俗そのものだが、命がかかっているから、そんな気分ではない。俺は一番近くの赤札の貼ってあるドアを指差した。
「501号室ね。ミルちゃん、ご指名でーす!」
右手のドアが開いた。中は和室のようで、奥に布団が敷いてあるのが見える。女性がドアのところで正座して三つ指をついてお辞儀をしていた。
「ミルです。お情けを頂戴いたします」
その美女は突然訪ねて来た。
リモートワークで自宅のマンションでプログラミングしていたら、インターホンが鳴った。宅急便だと思って、ろくに確かめもせずドアを開けたら、紺のスーツ姿のとんでもない美人が立っていた。
「あなた、トドロキさん?」
「そうですが……」
何かの営業だろうか。学生時代に美人の営業に騙されて、百万円もする英会話教材を買わされたことがある。そのとき以来、俺は美人を見ると、自然と警戒態勢になるのだった。
(気をつけろ、こんな極上美人に関わると大火傷するぞ)
女は俺の顔を見た後、体付きをジロジロと見た。何だかチェックされているような気分だ。
「まあ、こんなものかしら。今から行くわよ」
初対面の俺を見てため息をついた女は、顎で行くぞってゼスチャーをした。この美人、失礼すぎやしないか? だが、いったいどこに行くのだ?
「ほら、ぼーっとしない。少し目が回るわよ」
女は俺の手をつかんだ。美人に手を握られてドキッとした瞬間、強烈なめまいがした。立っていられないほどで、俺はへたり込んでしまった。
「え? ここは?」
どこかのホテルのフロアなのだろうか、真っ直ぐに絨毯の廊下がのびていて、左右に客室がずらりと並んでいる。
「ここは生産場よ」
女は面倒くさそうに言った。
「生産場?」
「そう、人間のね」
俺は夢でも見ているのだろうか。この美人の会話に全くついていけてない。
「あなた、女好きでしょ」
さっきから本当に失礼な女だが、綺麗すぎてつい見惚れてしまう。女好き? 好きに決まっているじゃないか。
「まあ、好きです。かなり」
俺はぶっちゃけた。もう三十半ばだが、まだ結婚しないのは、一人の女に決めたくないからだった。自分で言うのもなんだが、かなりモテる方だと思う。
「五十人いるわよ。左右二十五部屋ずつ。一部屋に一人いるのよ、女が」
頭の中の警戒音が再び鳴り始めた。全く状況がよく分からないが、ぼったくりの風俗か何かか?
「お、俺、お金持ってきてないです」
美人がキョトンとした顔をした。いや、本当に綺麗だよ、この人。
「あはは、面白いね、人間」
人間? 俺のことを人間って呼ぶ彼女は、人間じゃないに違いない。さっきからやっていることが人外過ぎる。
「あ、あなたはいったい」
「ああ、私? 女神よ。ちょっと事情があってね。これからあなたにはここで子作りしてほしいのよ」
「こ、子作りですか? ひょっとして、ご、五十人と!?」
「ええ、そうよ。もっと行けるのかしら? 三ヵ月以内に全員妊娠させないと殺すけど、女をもっと増やす?」
「え? 殺す? あの、断るって選択肢は……」
「あはは、さっきから面白いわね、あなた。断ったらすぐに殺すわよ。代わりはいくらでもいるから」
「い、いえ、死にたくないです。その、子供のできない女の人もいるのではないでしょうか?」
俺は何とか会話して、少しでも情報を得ようと必死だった。この女が殺すというのが、ハッタリでないことは直感で分かる。
「そこのところは確認済よ。タイミングさえ逃さなければ、間違いなく妊娠するわ」
これは褒美なのか、それとも罰なのか。結婚している奴が、子作りは地獄だと言っていた。間違いなく、罰だろう。
「あの、成功したら帰してくれるのでしょうか?」
女神は顎に手を当て、首をかしげて、考えるポーズを取っている。いちいちやることが男好きすぎる。
「そうね、考えてあげるわ」
この女神、神ではなく悪魔じゃないだろうか。この目は絶対に帰さないつもりだ。
「成功報酬はないのでしょうか? そういうのがあった方がモチベーションが上がって、成功率も上がると思います。それに、失敗したら死ってのは、ストレスが半端ないです。本体が元気じゃないと、精子も元気が出ないと思います」
女神は俺をじっと見つめている。大きな潤んだ目。形のいい鼻とふくよかなピンクの唇。胸は大きくプロポーションも素晴らしい。最高に美しい女なのだが、とてつもなく恐ろしい。俺は恐怖で全身に鳥肌が立っていた。
「成功すれば皇帝にしてあげるんだけど、人によっては褒美にはならないかもね。ストレスで精子が弱らないようにジムやプールもあるし、食事も最高のものを用意しているけど、確かに失敗が死というのはストレスかもね。考えておくわ」
そう言い残して、女神は消えてしまった。
「え? 消えちゃった。俺はどうすればいいんだ」
「どうするって、早く交尾しないと、殺されちゃうわよ」
突然別の女の声が天井から降って来た。
「うおっ」
俺は驚いて天井を見上げた。ピンク一色の女が、天井に張り付いてこちらを見ていた。忍者か?
女はフワッと廊下に降りてきた。美しい少女だった。ピンクのセミロングの髪に目の色もピンク色だ。これまたピングが基調のローブ姿だが、ピンクのミニスカートを履いている。この格好で天井から降りて来たからパンツが丸見えだったのだが、パンツもピンクだった。
「私はモモ。やんごとなきお方にお仕えする大魔法使いよ。単なる魔法使いではなく、『大』がつくから、そこんところよろしく。さあ、どの部屋の女から行く? 危険日の女の部屋には赤札が貼ってあるわよ。それと、顔写真の一覧もあるけど見る?」
俺はほんの三十分ぐらい前まで、普通に仕事していたんだが、一体どうしてこんなことになっているんだ。とりあえず、やるしかない。顔写真で指名とか風俗そのものだが、命がかかっているから、そんな気分ではない。俺は一番近くの赤札の貼ってあるドアを指差した。
「501号室ね。ミルちゃん、ご指名でーす!」
右手のドアが開いた。中は和室のようで、奥に布団が敷いてあるのが見える。女性がドアのところで正座して三つ指をついてお辞儀をしていた。
「ミルです。お情けを頂戴いたします」
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