見知らぬ美女と一緒に異世界召喚され、お互い幽霊になりました。勇者たちよりも強い最強な俺たちですが、俺は彼女とラブコメしたいです

もぐすけ

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第九章 皇帝選出

選んだ男

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 父の死後、借金の取り立ては私に向けられた。母は幼い頃に他界しており、私は父の負の遺産を相続する立場にいた。

 父の葬儀の時間も与えられず、グブタから派遣された取り立て屋たちが、再三私の元に現れた。金を返すか、なければ体で払えとの罵詈雑言を近隣の住民に聞こえる大きな声で浴びせかけられた。

 せめて葬儀が終わるまで待って欲しいと結論を先延ばしにしていたら、胸やお尻を数人で触って来たりして、嫌がらせもだんだんとエスカレートして行った。恐怖で身が縮む毎日を繰り返していた私は、もう疲れ果ててしまい、グブタとの結婚を承諾した。

 結婚するとなった途端に、今までが嘘だったようにグブタの手下からの待遇が良くなった。また、父の会社もグブタグループの子会社として再建され、私が社長に就任した。

 グブタの妻は十人以上いるとの噂だが、私は新しい妻になり、しばらくの間、寵愛が約束されているため、誰も私に逆らえないみたいだった。

 父がグブタに殺されたことは分かってはいたが、グブタの妻も案外いいかな、と少し思い始めていたのだが、実際にグブタに会ってみて、その考えは大甘だったことが分かった。

 容姿は想像していたほど醜悪ではなかったのだが、性的嗜好が異常だった。私には絶対に無理だった。

 結婚式までにこれができるようになっておけ、と彼の今の妻の一人とのプレイを見ることを強要され、私は吐きそうだった。グブタの高笑いが響く異臭が漂う現場を私は放心しながら後にした。

 何とか家に帰った私は、死を決意した。死以外に逃げ出す手段が思いつかなかったのだ。首吊りのロープを天井の柱にかけ、椅子に上ってロープに首を掛けた。震える足で椅子を蹴れば、私も父の元に行ける。私は覚悟を決め、椅子を蹴った。

「はい、あなたの人生はここで終わりね。これからは別の人生の始まりよ」

 私は宙に浮いたままだった。下を見ると、ピンク一色の小柄な女性が魔法使いが持つようなロッドを私に向けていた。

 私は宙をゆっくりと移動して、地面に下ろされた。

「魔法? あなたは誰?」

 しばらく放心していた私はやっとのことで口を開いた。

「私はモモ。やんごとなきお方にお仕えする大魔法使いよ。単なる魔法使いではなく、『大』がつくから、そこんとこよろしく」

 モモと名乗った可愛らしい少女は、バチんとウィンクをしながら、私を椅子に座らせた。

「これからは私に従ってね。死ぬのはナシ。生きて貰うわよ」

「でも、グブタの妻になることだけは出来そうもありません」

 私は泣きながらに訴えた。この世には死ぬことよりも辛いことがあるということを初めて知った。

「ああ、あの変態ね。あいつはもうあなたには手を出せないわよ。あなたには皇帝の妃候補になってもらうから」

「皇帝の妃候補ですか?」

「そう、ここに五十人の皇帝候補がいます。貴方はどの皇帝に仕えたい?」

 てっきりカイザー皇帝の妃候補かと思っていたのだが、どうやら異国の皇帝のようだ。

 モモが五十人の男性の絵が描かれた札を床に瞬時に並べた。魔法の絵なのだろうか、今にも動きそうな実物のような非常に精巧な絵だ。

「え、選ぶのですか?」

「そうよ、貴方好みの男性を選べるのよ」

 結婚相手は親が選ぶのが当たり前の時代に、相手を選ぶことができるというのは、私にとってはとても新鮮なことだった。

 順番に絵を見て行くうちに気づいたのだが、眉目秀麗な男子が勢揃いしている。私は恥ずかしくて、顔が真っ赤になって行くのがわかった。

「あら? 熱でもあるの? 顔が真っ赤よ」

 モモは恐らく知っていてからかっているのだろう。私は恥ずかしかったが、選んでいいというのであれば、ちゃんと選ぼうと思った。

「あの、時間をかけてもいいのでしょうか?」

「うーん、三十分で決めてくれるかな」

「さ、三十分ですか。分かりました」

 実はもう決めている人がいた。美しく上品で優しそうな殿方がいるのだ。

「あのう、この方をお願いしたいです」

 私は耳まで熱くなりながら、一人だけ格の違う男性を指差した。すると、モモがやっぱりという顔をした。

「そのお方は非売品よ。札の下を見て」

 あっ、確かに非売品と記載されていた。

「なぜ、非売品がここに?」

 私は残念でならなかった。ダメだと分かると余計に恋焦がれてしまう。とてつもなく魅力的な方なのだ。

「そのお方がご自分の人気を確認しろっておっしゃるので、リストに入れているのよ。でもそのお方は諦めてね。他の人から選んでちょうだい」

 非売品男子に未練たらたらではあったが、三十分以内に選ばなければならない。非売品が素敵すぎるが、その他の男子も街で見かけたら、女子全員が振り返るような魅力的な男性たちだった。

「あのう、見た目は皆さん素敵な殿方なのですが、変な性癖とか、暴力を振るうとか問題のある方はいらっしゃるのでしょうか」

「みんな優しくて普通よ。裕福な環境で女性を大切にする国の出身だから、その点は心配ないわ。ただ、皇帝候補一人に妃候補は五十人いるの。夫となる人を独占することは出来ないし、他の女性と仲良くする必要もある。その点は我慢してね」

 なるほど、そういうことか。でも、皇帝の妃ならきっとそういうものよね。グブタとの結婚生活を考えれば、天国に等しいわ。

「このお方を希望します」

 私はとても恥ずかしかったが、少し年配の優しそうな方を選んだ。

「おっ、その人三十五歳で、この中では最年長よ。あなたとは年齢差が十七歳もあるけど大丈夫?」

「大丈夫です。年上が好きなんです」

 私ったら、なんて恥ずかしいことを言っているんだろう。ちょっとテンション上がっているかもしれない。

「了解。トドロキくんね。じゃあ、こっちに来て。今から転移するわよ。目まいがするけど我慢してね」

 モモが私の手をにぎった瞬間、私は猛烈なめまいに襲われた。気分があり得ないほど悪い。目をつぶって耐えているが、気分は悪くなる一方だ。

 もう限界かもしれないと思ったあたりから、徐々に回復し始めた。かなり気持ち悪さが治って、ようやく目を開けられるようになった。目を開けると、私は左右に部屋がずらりと並ぶ奇妙な場所にいた。

「ここがあなたのお部屋よ。侍女を一人つけているので、何でも彼女に聞くといいわ。じゃあ、またね。第二の人生、頑張るのよ」

 モモは一番手前の部屋を指差したまま、すうっと消えてしまった。
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