見知らぬ美女と一緒に異世界召喚され、お互い幽霊になりました。勇者たちよりも強い最強な俺たちですが、俺は彼女とラブコメしたいです

もぐすけ

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第九章 皇帝選出

選ばれた女

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 私の名はミル。父の経営する帝都の貿易会社で社長秘書をしている。

 私は帝都にある商家の長女に生まれた。娘の結婚相手は親が決めるのが当たり前の時代だが、私の嫁ぎ先はあろうことか、悪名高い金貸しのグブタになってしまった。

 グブタはその名の通り、太った豚のような醜悪な男だ。もうすぐ六十歳になるというのに、性欲は衰えるどころか増す一方で、年頃の美しい娘のいる商家に融資を持ちかけては、借金の肩代わりに娘を奪うことに生き甲斐を感じるどうしようもない男だった。

 こういう低俗な男が社会で力を持つことはよくある話で、グブタは傘下に多くの金貸し業者を従えており、裏社会にも大きな影響力を持っていた。私はどこでグブタの目に留まったのか分からないが、標的にされてしまったのだ。

 父が資金繰りで苦労しているタイミングを見計らって、グブタの配下のアント商会という業者が、低利での運転資金の融資を持ち掛けて来た。

 オールバックの細面の担当者は、メガネをクイっと持ち上げ、自信満々だった。

「貴社の将来性を見込んで、特別レートでのご融資です」

 提示された好条件に父は飛びついた。

 その後も何度か融資をしてくれ、父は資金調達に頭を悩ませる必要がなくなったと喜んでいた。

 アント商会は商売の手助けも行う。取引先の紹介や事業拡張のためのアドバイスや投資計画の相談に乗ってくれるのだ。父は少しずつではあるが、事業を拡大することができ、アント商会の勧めで、新たな商材の取り扱いを始めるための大きな投資を決意した。

 この社運をかけた新規事業が動き出してしばらくしてから、アント商会の担当者が父に面会に来た。

「え? 融資を打ち切りたいですって?」

 私が来客にお茶を出そうと社長室に入ろうとしたところで、父の驚いた声が廊下まで聞こえて来た。

「そうなんです。親会社の判断でして、これまでの融資の回収を命じられました。新規の融資も打ち切りです。返済期限の迫っているこちらの五件の融資について、期日通りの返済をお願いします」

 私は入るに入れなくなり、社長室の前で話を盗み聞きする形になってしまった。
 
「そんなっ! 今回の計画を後押ししてくれるということで、返済期限を延ばす約束だったじゃないですか。新たな融資も止めるだなんて、うちの会社は倒産してしまうっ」

 父の焦った声が廊下にまで聞こえて来た。

「弊社が紹介した取引先にご相談していただいて、債権を早めに回収してはいかがでしょうか? 私どもからも口添えいたします」

 父は頭の中で素早く計算したのだろう。

「そ、そうですね。そうして頂ければ、急場はしのげるかもしれません。でも、ここを乗り切っても、その後の資金繰りは綱渡りです。何とか考え直して頂けないでしょうか」

「分かりました。私からもう一度、親会社に掛け合ってみます」

 何とか話が落ち着いたタイミングで私は社長室に入り、お茶出しをしてから退室した。担当者の私を見る目が、いつもと違うことに違和感を持った。ねっとりとした視線だったのだ。

***

 担当者は嘘をついていた。父の会社の主要取引先はアント商会から紹介された会社だった。そのため、アント商会から話が通っていると思った父が、債権回収を早めたいと相談を持ちかけたところ、契約を守れない会社とは今後取引をしない、とむべもなく断られたのだ。

 父が最初に相談に行った会社から噂を聞いたということで、他の取引先も次々と取引の停止を通告して来た。

 いくらなんでもおかしすぎる。父は嵌められたのだ。アント商会は融資と取引先を絶妙なタイミングで一気に引き揚げたのだった。

 父は昔から付き合いのある取引先や銀行に頭を下げて回ったが、色良い返事はもらえなかった。

 万策尽き果てた父の前に、アント商会の担当者が再び訪ねてきた。私は後日、このやり取りを知ることになるが、おおよそ以下の通りだったようだ。

「資金の回収に参りました。社長、ご用意して頂けましたか?」

 担当者が憔悴しきった父に構うことなく、淡々と話を切り出した。

「無理でした。それどころか、貴社からご紹介頂いた取引先様からは、今後、新規取引はしないとまで言われてしまいました。親会社に融資の再開の件をお願いしていただけましたでしょうか」

 父はまだ騙されていることに気づいていなかった。こんなことだから騙されてしまうのだろう。父は人を信用しすぎるのだ。

「親会社のグブタ商会に再考をお願いしに行って来ました」

 父の顔色が変わった。

「グブタ商会!? ま、まさか、狙いは娘かっ」

 さすがに父もグブタ商会の手口は噂に聞いていた。担当者の顔が下品に歪んだ。

「話が早くて助かります。家族であれば融資を続けるとグブタ会長が申しておりました。娘さんを会長に嫁がせれば、一気に解決ですよっ、社長!」

「お、おのれ、騙したなっ」

「え? 騙してなんかいませんよ。契約通りにビジネスを進めただけです。投資方針の変更も、貴社の事業に将来性なし、とのビジネス上での判断です。お嬢様が無理ということであれば、返済をお願いします。これも契約にのっとった取引ですよ」

「き、貴様、よくもっ」

 父は護身用に持っていたファイアのマジックロールを取り出した。

「社長っ、何を!」

 父は慌てふためく担当者に向かってファイアの魔法を放ち、担当者は一瞬で消し炭となった。

「ふん、娘に対してそんな嫌らしい目をする男を俺が生かしているとでも思ったか、愚か者め。次はグブタを殺してやる。娘を好きにさせてたまるものか」

 父の水死体が見つかったと役人から報告を受けたのは、その翌日だった。
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