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第八章 神の統治
日本
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「レン、日本に帰るぞ」
えっと、こんなやつだっけ?
レンは人が違ったようにやつれてしまっていた。しかし、日本に帰れると知ってか、表情は明るかった。
「神様、あの恐ろしい女たちから命を救って頂いたばかりでなく、日本に帰していただけるなんて、感謝しきれません!」
そうだった。こいつ勇者じゃなきゃ死んでたぐらいに、ボッコボコにされていたな。
「おう、日本に帰って、静かに暮らすんだな。早速帰るぞ」
「はいっ」
こんな素直でいいやつだったっけ? 傲慢で自信過剰な嫌なやつだったような記憶があるが、どうでもいいか。俺はイカ次郎の方に向き直った。
「では、イカ次郎さん、よろしくお願いいたします」
「ちょいとお時間いただきます。この格好ですとタコ焼きにされてしまいますさかいに」
すげえ、イカ次郎、ワインと同じ変化が使えるのか。
「こんなもんでどうでっしゃろ」
む、正直微妙だ。かろうじて人間に見えるが、かなりブサイクだ。
「あれ? いけませんか。人型の美的感覚がようわかりませんねや。そうや、ワインはんに化けまひょ」
さっきよりは随分マシだが、ワインのタコ版だな、これは。それにワインのスタイルでガニ股だとちょっとな。でも、面倒だからこれでいいや。
「いいと思いますよ。権現して下さい」
「ワイ、権現の仕方わかりまへんのや」
「え? そうなんですか? じゃあ、何で変化を?」
「レンさん、見えるんとちゃいますか?」
「こいつ、見えないです。声も聞こえないです」
しかし、どうやって権現しないで水中を泳げるんだ?
レンが不思議がって話しかけてきた。
「あのう、神様、どなたかいらっしゃるんでしょうか?」
「うん、イカ次郎さんていう案内人と話している。もう少し待っていてくれ」
「なんや、勇者の出来損ないでっせ、その方。苦労して損しましたがな。元のワイの姿に戻ります」
うん、それがいいだろう。ワインが見たら、殺されると思うぞ。
「確か神が敵認定したら、その人間には触れるようになるんでしたよね」
「触れられなくても、大丈夫です。それでは、やりますよ」
「え? ここでですか。てっきり次元の狭間まで案内されるのかと思ってました」
「向こう側の交番から召喚してもらうんです。今、電話しますよって、少々お待ちください」
「電話? 何かイメージが随分と違うな」
イカ次郎が相手と話している。もろ日本語だ。何か揉めてるな。
「ゆうき様、霊の同伴は問題ないんですが、さすがに神霊様はちょっと困るようで、上の許可がいるらしいです。お名前お出ししても構いまへんか?」
「どうぞ」
「真名を教えていただけませんか」
「そう言われても、俗世の苗字も忘れちゃってるぐらいなんですよ」
「では、私から天雷久我忘命様とお伝えしておきます」
「え? 俺ってそんな名前なんですか?」
「多分です。間違ってても問題ないです。ヨロズ国にはいらっしゃらない神さんですので」
「でも、ほら、何か俺やらかしてるっぽいじゃないですか」
「ゆうき様ご一柱であれば問題ございません。奥方様がそのう、少々というか、神界ではかなり有名なお方でして……」
「そうなんですか。その辺詳しく教えてもらえますか」
「む、無理です。自然と思い出されるはずです」
神の関係者って、大抵はこんな感じなんだよな。むしろイカ次郎はよく話す方だ。自分が話すことで自分以外の霊が影響されることを極度に避けるのだ。
「とりあえず、相手に真名を伝えます」
「どうぞ」
うまく行きそうだが、イカ次郎が何度も奥方様の同伴はないからと念押ししているのが気になる。
レンが心配そうにこっちを見ていた。そうだ、こいつにミサトのことを聞いてみるか。
「レン、ミサトのことは覚えているか?」
突然、帰国と関係のない話を振られて、レンは驚いたようだった。
「ミサト、さん? ですか?」
「そう、初詣一緒に来てただろう」
「初詣ですか? すごく懐かしいです。バイト先の仲間と一緒に来てましたが、ミサトって方は存じ上げないです」
「おかしいな。ケーキ屋のオーナーの娘だが」
「え? オーナーの娘さんですか? 息子さんしかいらっしゃらないはずです」
そうか、記憶から消され始めているのか。
「エリコさんは知ってるだろう。あとキララも」
「はい、知ってます」
「お前を半殺しにしたのは三人の女だったろう。もう一人は誰だ?」
「女神様です。改心して真面目に生きますので、もう神罰はご容赦下さいませっ」
レンは真っ青になってガタガタと震え出した。よほど怖かったようだ。
「大丈夫だ。もうお前に何もしないから安心してくれ」
どうやらイカ次郎が話をつけてくれたようだ。イカ次郎も同伴するらしい。おっ、何か聞こえて来た。召喚の祝詞だ。
数十秒後、俺たちは上野の浅草寺の境内にいた。
えっと、こんなやつだっけ?
レンは人が違ったようにやつれてしまっていた。しかし、日本に帰れると知ってか、表情は明るかった。
「神様、あの恐ろしい女たちから命を救って頂いたばかりでなく、日本に帰していただけるなんて、感謝しきれません!」
そうだった。こいつ勇者じゃなきゃ死んでたぐらいに、ボッコボコにされていたな。
「おう、日本に帰って、静かに暮らすんだな。早速帰るぞ」
「はいっ」
こんな素直でいいやつだったっけ? 傲慢で自信過剰な嫌なやつだったような記憶があるが、どうでもいいか。俺はイカ次郎の方に向き直った。
「では、イカ次郎さん、よろしくお願いいたします」
「ちょいとお時間いただきます。この格好ですとタコ焼きにされてしまいますさかいに」
すげえ、イカ次郎、ワインと同じ変化が使えるのか。
「こんなもんでどうでっしゃろ」
む、正直微妙だ。かろうじて人間に見えるが、かなりブサイクだ。
「あれ? いけませんか。人型の美的感覚がようわかりませんねや。そうや、ワインはんに化けまひょ」
さっきよりは随分マシだが、ワインのタコ版だな、これは。それにワインのスタイルでガニ股だとちょっとな。でも、面倒だからこれでいいや。
「いいと思いますよ。権現して下さい」
「ワイ、権現の仕方わかりまへんのや」
「え? そうなんですか? じゃあ、何で変化を?」
「レンさん、見えるんとちゃいますか?」
「こいつ、見えないです。声も聞こえないです」
しかし、どうやって権現しないで水中を泳げるんだ?
レンが不思議がって話しかけてきた。
「あのう、神様、どなたかいらっしゃるんでしょうか?」
「うん、イカ次郎さんていう案内人と話している。もう少し待っていてくれ」
「なんや、勇者の出来損ないでっせ、その方。苦労して損しましたがな。元のワイの姿に戻ります」
うん、それがいいだろう。ワインが見たら、殺されると思うぞ。
「確か神が敵認定したら、その人間には触れるようになるんでしたよね」
「触れられなくても、大丈夫です。それでは、やりますよ」
「え? ここでですか。てっきり次元の狭間まで案内されるのかと思ってました」
「向こう側の交番から召喚してもらうんです。今、電話しますよって、少々お待ちください」
「電話? 何かイメージが随分と違うな」
イカ次郎が相手と話している。もろ日本語だ。何か揉めてるな。
「ゆうき様、霊の同伴は問題ないんですが、さすがに神霊様はちょっと困るようで、上の許可がいるらしいです。お名前お出ししても構いまへんか?」
「どうぞ」
「真名を教えていただけませんか」
「そう言われても、俗世の苗字も忘れちゃってるぐらいなんですよ」
「では、私から天雷久我忘命様とお伝えしておきます」
「え? 俺ってそんな名前なんですか?」
「多分です。間違ってても問題ないです。ヨロズ国にはいらっしゃらない神さんですので」
「でも、ほら、何か俺やらかしてるっぽいじゃないですか」
「ゆうき様ご一柱であれば問題ございません。奥方様がそのう、少々というか、神界ではかなり有名なお方でして……」
「そうなんですか。その辺詳しく教えてもらえますか」
「む、無理です。自然と思い出されるはずです」
神の関係者って、大抵はこんな感じなんだよな。むしろイカ次郎はよく話す方だ。自分が話すことで自分以外の霊が影響されることを極度に避けるのだ。
「とりあえず、相手に真名を伝えます」
「どうぞ」
うまく行きそうだが、イカ次郎が何度も奥方様の同伴はないからと念押ししているのが気になる。
レンが心配そうにこっちを見ていた。そうだ、こいつにミサトのことを聞いてみるか。
「レン、ミサトのことは覚えているか?」
突然、帰国と関係のない話を振られて、レンは驚いたようだった。
「ミサト、さん? ですか?」
「そう、初詣一緒に来てただろう」
「初詣ですか? すごく懐かしいです。バイト先の仲間と一緒に来てましたが、ミサトって方は存じ上げないです」
「おかしいな。ケーキ屋のオーナーの娘だが」
「え? オーナーの娘さんですか? 息子さんしかいらっしゃらないはずです」
そうか、記憶から消され始めているのか。
「エリコさんは知ってるだろう。あとキララも」
「はい、知ってます」
「お前を半殺しにしたのは三人の女だったろう。もう一人は誰だ?」
「女神様です。改心して真面目に生きますので、もう神罰はご容赦下さいませっ」
レンは真っ青になってガタガタと震え出した。よほど怖かったようだ。
「大丈夫だ。もうお前に何もしないから安心してくれ」
どうやらイカ次郎が話をつけてくれたようだ。イカ次郎も同伴するらしい。おっ、何か聞こえて来た。召喚の祝詞だ。
数十秒後、俺たちは上野の浅草寺の境内にいた。
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