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第七章 王国と帝国
対面
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二週間後、皇帝一行が王都に着いた。
王国は迎賓館に皇帝を迎え入れた。通訳媒体として、おばばが参上していた。おばばの脳内で女王と皇帝が霊話することで、言葉の壁がなくなるのだ。
「遠路はるばる神の王国にようこそおいでくださいました、皇帝殿。私が神霊様より本王国を治めるよう命じられておりますキララです」
「キララ殿、歓迎痛み入る。東の森の先のミサト帝国の皇帝カイザーだ。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたします、皇帝殿。ところで、貴国はミサト帝国というのですか。神霊ミサト様の名を冠するご許可は頂いているのかしら?」
「たまたま光栄にも神霊様と同じ名前だったのだ。ミサト様には改めてご許可いただく」
「あら? ミサト様をご存じなのでしょうか?」
「貴国に来るまでの道中をミサト様の使徒様であらせられるモモ様、シロ様に護衛頂いたのだ」
「ああ、そうでした。ゆうき様からそのようにお伺いしておりました」
女王と皇帝の虎の威ならぬ神の威を持ち出しての舌戦は続く。
流石に堂々とした佇まいの皇帝だが、年端も行かぬ弱冠十六歳のキララが、皇帝相手によく頑張っている。バックについてくれると神霊二柱からお墨付きをもらっていることが、キララの大きな支えになっていた。
皇帝は今回の訪問で、帝国の軍事力によって王国に圧力をかけ、王国を帝国の属国にするか、悪くても帝国が有利な通商条約を結ぶつもりだった。だが、キララの口調は神霊がバックについていることを匂わせている。さすがに神霊を敵にまわすことは出来ない。
「キララ殿は貴国を神の王国と呼ばれたが、どういったいわれがあるのだろうか?」
「この王国は私のものでも民のものでもなく、ゆうき様、ミサト様のものなのです。私自身、偉大なる神霊様に生涯の忠誠を誓っておりますし、民はそもそも神霊様に生かされているだけの存在に過ぎません。近く『ゆうき神国』と国名を改める予定でおります」
神霊は人間に興味がなく、自分が何をしてもお咎めなしと予想していた皇帝だったが、考えを改めねばなるまい。
「キララ殿は神霊様に近しいのか?」
「どうでしょうか。いっしょに旅をさせて頂いたり、気軽に会って頂いたりはしています。ゆうき様から庇護を受ける身でもあります。あと、こちらの聖女はミサト様のご学友で、ミサト様からの覚えがよいです」
女王と聖女を神霊と仲違いさせない限り、この国には手を出せないと皇帝は認識した。簡単に諦める気はないが、しばらくは友好関係でいるしかないようだ。
「神霊様の使徒たる霊王様十二柱は全て我が国の神社でお祀りしている。また、こたび神霊様がお住まいになる大神殿も我が国に建立いたす。お互い神霊様に献身する国である。友好条約を締結し、対等の立場で交流して行きたいと思うが、ご賛同頂けるか?」
「ええ、もちろんです。神の御前では我ら人など小さな存在です。いがみ合い、敵対して何になりますでしょうか」
政治的な話は大筋で確定した。事務レベルでの決め事は臣下たちが進める。皇帝に随行してきた皇妃が話に加わり、以降はそれぞれの国の文化などの話に興じた。
皇帝一行は、その後一週間ほど王都に滞在し、臣下数名を残して、帰途についた。
王国は迎賓館に皇帝を迎え入れた。通訳媒体として、おばばが参上していた。おばばの脳内で女王と皇帝が霊話することで、言葉の壁がなくなるのだ。
「遠路はるばる神の王国にようこそおいでくださいました、皇帝殿。私が神霊様より本王国を治めるよう命じられておりますキララです」
「キララ殿、歓迎痛み入る。東の森の先のミサト帝国の皇帝カイザーだ。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたします、皇帝殿。ところで、貴国はミサト帝国というのですか。神霊ミサト様の名を冠するご許可は頂いているのかしら?」
「たまたま光栄にも神霊様と同じ名前だったのだ。ミサト様には改めてご許可いただく」
「あら? ミサト様をご存じなのでしょうか?」
「貴国に来るまでの道中をミサト様の使徒様であらせられるモモ様、シロ様に護衛頂いたのだ」
「ああ、そうでした。ゆうき様からそのようにお伺いしておりました」
女王と皇帝の虎の威ならぬ神の威を持ち出しての舌戦は続く。
流石に堂々とした佇まいの皇帝だが、年端も行かぬ弱冠十六歳のキララが、皇帝相手によく頑張っている。バックについてくれると神霊二柱からお墨付きをもらっていることが、キララの大きな支えになっていた。
皇帝は今回の訪問で、帝国の軍事力によって王国に圧力をかけ、王国を帝国の属国にするか、悪くても帝国が有利な通商条約を結ぶつもりだった。だが、キララの口調は神霊がバックについていることを匂わせている。さすがに神霊を敵にまわすことは出来ない。
「キララ殿は貴国を神の王国と呼ばれたが、どういったいわれがあるのだろうか?」
「この王国は私のものでも民のものでもなく、ゆうき様、ミサト様のものなのです。私自身、偉大なる神霊様に生涯の忠誠を誓っておりますし、民はそもそも神霊様に生かされているだけの存在に過ぎません。近く『ゆうき神国』と国名を改める予定でおります」
神霊は人間に興味がなく、自分が何をしてもお咎めなしと予想していた皇帝だったが、考えを改めねばなるまい。
「キララ殿は神霊様に近しいのか?」
「どうでしょうか。いっしょに旅をさせて頂いたり、気軽に会って頂いたりはしています。ゆうき様から庇護を受ける身でもあります。あと、こちらの聖女はミサト様のご学友で、ミサト様からの覚えがよいです」
女王と聖女を神霊と仲違いさせない限り、この国には手を出せないと皇帝は認識した。簡単に諦める気はないが、しばらくは友好関係でいるしかないようだ。
「神霊様の使徒たる霊王様十二柱は全て我が国の神社でお祀りしている。また、こたび神霊様がお住まいになる大神殿も我が国に建立いたす。お互い神霊様に献身する国である。友好条約を締結し、対等の立場で交流して行きたいと思うが、ご賛同頂けるか?」
「ええ、もちろんです。神の御前では我ら人など小さな存在です。いがみ合い、敵対して何になりますでしょうか」
政治的な話は大筋で確定した。事務レベルでの決め事は臣下たちが進める。皇帝に随行してきた皇妃が話に加わり、以降はそれぞれの国の文化などの話に興じた。
皇帝一行は、その後一週間ほど王都に滞在し、臣下数名を残して、帰途についた。
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