50 / 91
第七章 王国と帝国
再会
しおりを挟む
「あら、エリコ、キララ、どうしてここに?」
ミサトが大浴場から部屋に戻って来ると、部屋の前にエリコとキララがいた。ワインは大浴場に向かっており、すれ違ってしまっていた。ゆうきとアオは家族風呂の見学に行っている。
エリコとキララは、女将から聞いてはいたものの、ミサトが普通に姿を現していることに驚いた。
「ミサト、姿を見せられるようになったの?」
「そうなのよ。あれから色々あってね。『権現』というスキルを身につけたの」
「あのゆうくんもご一緒でしょうか」
キララはやはりゆうきのことが気になるようだ。
「ゆうきは女湯をのぞいていたので、ブッ飛ばしてやったところよ。でも、何だか可哀想になっちゃって、家族風呂に一緒に入ってあげるって言ったら、猛ダッシュで家族風呂をチェックしに行ったわ」
「ゆうくんも姿を見せられるようになったのでしょうか」
キララは少し期待しているようだ。
「まだだけど、家族風呂に普通に入るために気合いで思い出すと思うわよ。どうやら私たちは、元々はこっちの世界の神霊だったみたいなの。ねえ、こんなところで、長話も何だから、部屋に入って話しましょうか」
部屋に入ると、キララは女王なのにお茶係を買って出た。
「で、どうしてここにいるの?」
ミサトはテキパキと働くキララを見ながら、エリコに尋ねた。
「それはこっちのセリフよ。しばらく古代寺で暮らすんじゃなかったの?」
「そっか。色々あったんで、ずいぶん長い間、あなたたちと会ってなかったような気がするけど、まだ一週間も経ってなかったっけ? ひょっとして、藪神社に帰る途中?」
「そうよ。魔王区で少し荷物の整理をしてから、出発したのよ。いつの間にか抜かれてたのね」
キララがちょうどお茶を出し終わったころに、ワインが部屋に帰って来た。ワインは権現していないため、エリコやキララは気づいていない。
「ミサト様、この人間たちはお知り合いでしょうか」
「ワイン、権現して頂戴。皆に紹介するから、事情の説明をお願いね」
ミサトはこれまでの経緯の説明をワインに丸投げした。
「かしこまりました」
ミサトの後ろに背の高い美女がすうっと現れた。ワイン色の髪と目をした色白で彫りの深い容姿をしている。ワインの現実離れした美しさに、エリコとキララは神々の一人だと直感した。
「人間よ、私はワイン。ミサト様にお仕えする霊王の一人だ」
ワインは神霊様がいかに尊い存在であるかの説明から始めた。ミサトはすぐにワインの話を止めた。
「ワイン、神霊の宣伝はいいから、帝国のことと、アオがこれからすることを説明してよ」
「し、失礼しました。では、よく聞け、人間よ」
エリコはワインのミサトに対する態度を見て、ミサトって本当に神様なんだと実感した。まあ、日本でも女帝と呼ばれていて、普通ではなかったが。
ワインの説明は終わった。人間のために説明したやった感が満載の偉そうな説明だったが、本来神々とはこういうものなんだろう。
「あの、ミサト様、よろしいでしょうか」
やはりキララが質問したいようだ。帝国の存在など寝耳に水だろう。
「いいわよ」
「帝国の目的は何でしょうか」
「よく知らないのよ。ワイン何か知ってる?」
「皇帝の考えですか? 大陸の統一だと思います。人間の誰が王になろうと、この世界を統べるのは神霊様だというのに、愚かなことです」
「ミサト様、私はゆうくんとミサト様から王国の女王に指名されました。守って頂けるのでしょうか」
「キララはゆうきが守ると思うわよ。そうね、エリコとゲンムとメルサのいる国だし、この国はいわば神の国よ。帝国には何もさせないわ。安心していいわよ」
キララはホッとした表情になった。キララは大人びていても、まだ高校生になったばかりの年齢だ。いきなり強大な隣国の存在を聞かされて、不安だったに違いない。
「ミサト、私とキララは藪神社を拠点にしていても大丈夫かな」
「人間、口の利き方を知らぬようだな」
エリコの話し方が不快だったようで、ワインがずいと前に出た。
「ワイン、エリコはいいのよ。異世界のときの友達なの。大目に見てあげて」
「何と、ご学友であられましたか。これは失礼いたしました」
ワインが下がって、ミサトの後ろの位置に戻った。エリコはかなりビビったようだ。
「あの、ミ、ミサト、ほかにも霊王様がいらっしゃるようだし、言葉遣い変えた方がいいかな」
「好きにするといいわ。だんだん私は記憶が戻って来ているのよ。前みたいな関係にはなれないけど、エリコのことは大切にするわよ。ワイン、ほかの霊王にもエリコはご学友って言っておいてね」
「かしこまりました。エリコ、キララ、ゲンム、メルサの四名は害さないよう徹底させます」
「あ、エリコ、藪神社のことだったわね。大丈夫よ。でも、ネットも電気もどこにでも敷けるみたいよ」
「藪神社が日本に一番近い感じがして安心するのよ。ミサトたちはこの後どうするの」
「今夜はここでゆうきと家族風呂に入る約束しているから、出発は明日の朝ね。携帯で通話できるようになるみたいだから、これからはいつでも連絡出来るわよ。大神殿が出来たら招待するわね」
「あの、ミサト様、ご滞在中にゆうくんにお会いしてもよろしいでしょうか」
キララが遠慮がちに尋ねた。
「いいわよ。そうやって私に許可を取るところが気に入ったわ。今後も分をわきまえていれば、不幸なことにはならないわよ」
「ありがとうございます」
キララは深々と頭を下げた。
「さあ、そろそろ人間は下がりなさい。ミサト様はこれからゆうき様とのご入浴のご準備に入られます」
「ワインは大袈裟ね。でも、エリコもキララも自分たちのお部屋でゆっくりしたら? 明日出るときにまた声をかけるわね」
エリコとキララはミサトとワインに一礼して退室した。
ミサトが大浴場から部屋に戻って来ると、部屋の前にエリコとキララがいた。ワインは大浴場に向かっており、すれ違ってしまっていた。ゆうきとアオは家族風呂の見学に行っている。
エリコとキララは、女将から聞いてはいたものの、ミサトが普通に姿を現していることに驚いた。
「ミサト、姿を見せられるようになったの?」
「そうなのよ。あれから色々あってね。『権現』というスキルを身につけたの」
「あのゆうくんもご一緒でしょうか」
キララはやはりゆうきのことが気になるようだ。
「ゆうきは女湯をのぞいていたので、ブッ飛ばしてやったところよ。でも、何だか可哀想になっちゃって、家族風呂に一緒に入ってあげるって言ったら、猛ダッシュで家族風呂をチェックしに行ったわ」
「ゆうくんも姿を見せられるようになったのでしょうか」
キララは少し期待しているようだ。
「まだだけど、家族風呂に普通に入るために気合いで思い出すと思うわよ。どうやら私たちは、元々はこっちの世界の神霊だったみたいなの。ねえ、こんなところで、長話も何だから、部屋に入って話しましょうか」
部屋に入ると、キララは女王なのにお茶係を買って出た。
「で、どうしてここにいるの?」
ミサトはテキパキと働くキララを見ながら、エリコに尋ねた。
「それはこっちのセリフよ。しばらく古代寺で暮らすんじゃなかったの?」
「そっか。色々あったんで、ずいぶん長い間、あなたたちと会ってなかったような気がするけど、まだ一週間も経ってなかったっけ? ひょっとして、藪神社に帰る途中?」
「そうよ。魔王区で少し荷物の整理をしてから、出発したのよ。いつの間にか抜かれてたのね」
キララがちょうどお茶を出し終わったころに、ワインが部屋に帰って来た。ワインは権現していないため、エリコやキララは気づいていない。
「ミサト様、この人間たちはお知り合いでしょうか」
「ワイン、権現して頂戴。皆に紹介するから、事情の説明をお願いね」
ミサトはこれまでの経緯の説明をワインに丸投げした。
「かしこまりました」
ミサトの後ろに背の高い美女がすうっと現れた。ワイン色の髪と目をした色白で彫りの深い容姿をしている。ワインの現実離れした美しさに、エリコとキララは神々の一人だと直感した。
「人間よ、私はワイン。ミサト様にお仕えする霊王の一人だ」
ワインは神霊様がいかに尊い存在であるかの説明から始めた。ミサトはすぐにワインの話を止めた。
「ワイン、神霊の宣伝はいいから、帝国のことと、アオがこれからすることを説明してよ」
「し、失礼しました。では、よく聞け、人間よ」
エリコはワインのミサトに対する態度を見て、ミサトって本当に神様なんだと実感した。まあ、日本でも女帝と呼ばれていて、普通ではなかったが。
ワインの説明は終わった。人間のために説明したやった感が満載の偉そうな説明だったが、本来神々とはこういうものなんだろう。
「あの、ミサト様、よろしいでしょうか」
やはりキララが質問したいようだ。帝国の存在など寝耳に水だろう。
「いいわよ」
「帝国の目的は何でしょうか」
「よく知らないのよ。ワイン何か知ってる?」
「皇帝の考えですか? 大陸の統一だと思います。人間の誰が王になろうと、この世界を統べるのは神霊様だというのに、愚かなことです」
「ミサト様、私はゆうくんとミサト様から王国の女王に指名されました。守って頂けるのでしょうか」
「キララはゆうきが守ると思うわよ。そうね、エリコとゲンムとメルサのいる国だし、この国はいわば神の国よ。帝国には何もさせないわ。安心していいわよ」
キララはホッとした表情になった。キララは大人びていても、まだ高校生になったばかりの年齢だ。いきなり強大な隣国の存在を聞かされて、不安だったに違いない。
「ミサト、私とキララは藪神社を拠点にしていても大丈夫かな」
「人間、口の利き方を知らぬようだな」
エリコの話し方が不快だったようで、ワインがずいと前に出た。
「ワイン、エリコはいいのよ。異世界のときの友達なの。大目に見てあげて」
「何と、ご学友であられましたか。これは失礼いたしました」
ワインが下がって、ミサトの後ろの位置に戻った。エリコはかなりビビったようだ。
「あの、ミ、ミサト、ほかにも霊王様がいらっしゃるようだし、言葉遣い変えた方がいいかな」
「好きにするといいわ。だんだん私は記憶が戻って来ているのよ。前みたいな関係にはなれないけど、エリコのことは大切にするわよ。ワイン、ほかの霊王にもエリコはご学友って言っておいてね」
「かしこまりました。エリコ、キララ、ゲンム、メルサの四名は害さないよう徹底させます」
「あ、エリコ、藪神社のことだったわね。大丈夫よ。でも、ネットも電気もどこにでも敷けるみたいよ」
「藪神社が日本に一番近い感じがして安心するのよ。ミサトたちはこの後どうするの」
「今夜はここでゆうきと家族風呂に入る約束しているから、出発は明日の朝ね。携帯で通話できるようになるみたいだから、これからはいつでも連絡出来るわよ。大神殿が出来たら招待するわね」
「あの、ミサト様、ご滞在中にゆうくんにお会いしてもよろしいでしょうか」
キララが遠慮がちに尋ねた。
「いいわよ。そうやって私に許可を取るところが気に入ったわ。今後も分をわきまえていれば、不幸なことにはならないわよ」
「ありがとうございます」
キララは深々と頭を下げた。
「さあ、そろそろ人間は下がりなさい。ミサト様はこれからゆうき様とのご入浴のご準備に入られます」
「ワインは大袈裟ね。でも、エリコもキララも自分たちのお部屋でゆっくりしたら? 明日出るときにまた声をかけるわね」
エリコとキララはミサトとワインに一礼して退室した。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる