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第六章 帝国
神官長
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俺たちは女官に案内され、客室に通された。さすがに女官はシースルーな俺たちに戸惑っていた。
部屋に入って、早速ミサトに話しかけた。
「相手の言葉を耳ではなく、何て言うか、額で受け止めるようにすると、分かるようになるな」
ミサトは部屋を見回している。かなり豪華な装飾が施された部屋だった。
「ゆうきも分かるようになったのね。文字はどうやって読んでるの?」
「どうって、普通だが。男性脳と女性脳の違いなのかな」
「まあ、いいかな。文字はゆうきに読んでもらうってことで」
小一時間ほどミサトと話していたら、先ほどの女官が神官長の到着を知らせに来てくれた。えらく早いな。
『どうぞ、入って頂いて』
ミサトが拡声器で答えると、神官長が巫女二名を連れて現れた。神官長は男だとばかり思っていたが、落ち着いた感じの三十前後の美しい女性だった。
三名は客室に入るなり跪いた。
「神官長マリアが神霊様にご挨拶を申し上げます」
視線がしっかりと俺たちのいる方向を向いている。オーラの効果はすでに消えているのにだ。
「私たちが見えるの?」
ミサトが驚いた顔で肉声で尋ねた。当然、俺も驚いている。
「はい、私は霊視と霊話の能力を授かっております。こちらの巫女二名も同様です。ご挨拶をなさい」
「ララと申します」
「ルルと申します」
まだ中学生ぐらいだろうか。双子の可愛らしい女の子たちだった。
「よろしく」
「よろしくね」
ってことは、他にも神霊がいるってことだよな。ミサトもそう思ったようだ。
「私たち以外にも神霊がいるってこと?」
「いいえ、霊王様はいらっしゃいますが、神霊様にお会いするのは初めてです」
「霊王は多いの?」
「神社は霊王様をお祀りするもので、神社の数だけいらっしゃいます。帝国内に十二ヶ所ございます」
「神社に行けば会えるかな?」
「もちろんです。霊王様は神霊様の使徒ですから」
「そうなのね。神器はあるかしら」
「はい、各神社の宝物殿で管理しております」
ミサトは少し考えてから、再び口を開いた。
「まずは一番大きい神社に案内してくれるかな」
「かしこまりました。今からご案内してよろしいでしょうか」
「お願いするわ」
「では、こちらに」
俺たちはマリアの後についていった。ララとルルは後ろについてくる。俺は彼女たちに庇護欲を感じない。人間に対する興味のなさも感じない。同等の関係を感じる。要するに恋愛関係になる可能性があるのだ。
「ねえ、何考えてるの」
ミサトが俺をジロリと睨んだ。
「この人たちさ」
「ええ、対等の関係を結べるわね。ねえ、マリア、あなたたちは私たちに触れられるのかしら」
「私たちから触れることはできませんが、神霊様からは触れることが出来ます」
「どういうこと? ちょっと触ってみていい?」
「あ、あの、同性は触れられません。異性のみなのです」
「え? どういうことなの?」
「私たちは神霊様からお情けを頂戴する存在なのです。そう言い伝えられて来ましたが、実際に神霊様はいらっしゃらなかったので、本当なのかどうかは分からないですが」
気温が急激に下がった。気のせいではない。ミサトが冷気を発しているのだ。マリアの吐く息が白い。
「お、お怒りをお鎮め下さい。そう言い伝えられて来ただけです」
「私の前でよくも堂々と言えたものね。死にたいの?」
「し、神霊様の言うことには、絶対服従するよう私たちは育てられて来ました。ご質問に出来る限り、お答えした結果でございます。神霊様のお気に触ったようでしたら、何なりとご処分下さい」
頭を下げて震えるマリアをミサトがじっとみている。ララとルルも恐縮して縮こまっている。
「何なのよ、この性奴隷制度は! ゆうき、浮気は許さないわよ!」
こ、怖え。マリアがガチガチ震えているのは、寒さだけが原因じゃないよな。
「ミサト、前から言っている通り、俺はミサト一筋だぜ」
というものの、マリアに誘惑されたら、断れる自信がない。ララとルルは今は大丈夫だが、五年後は自信がない。
「は、どうだか。もう、キララといい、この三人といい、女子力高すぎよっ。私にだけ敵が増えて、不公平だわ。マリア、あなたたちの男版はないの?」
「神社は女性のみですが、教会は男性のみです。教会でそういったお役目があるかどうかは分かりかねます」
「分かったわ。念のため、触れられるかどうか試すわよ」
「どうぞ」
ミサトはマリアの二の腕をソフトなタッチで触れた。他の人間と同じように、最初のタッチの感触はあるが、その後は透過してしまう。
「ゆうき、あなたも触ってみて」
俺は二の腕はちょっとまずいと思い、肩に触れてみた。マリアが顔を真っ赤にしている。その反応は非常に不味い。案の定、ミサトの目が三角になっている。
「あ、触れる。すごい、すごい!」
あまりの喜びに、俺はミサトの目のことをすっかり忘れてしまい、マリアの両手をとって、くるくる回ってしまった。
「あ、あの、ゆうき様」
マリアが戸惑っている。
「ゆうき、はしゃぎすぎよっ」
ミサトの鋭い声で俺は我に返った。俺はすぐにマリアの手を離した。
「マリア、ゆうきを触ってみて」
マリアが言われた通り、俺の胸に手を当てようとした。その位置はどうかな、と思ったが、すうっとすり抜けてしまった。
「ほんと、言う通りね。あなたたちはどういう存在なの?」
「『神の使徒』と呼ばれています。帝国では女子は五歳になると、神社で無病息災の祈祷を受けます。そのとき、ごく稀に神託が降りることがあり、希望者は神社で修行をすることが出来ます。その中の一部が能力を授かり、『神の使徒』となります」
「『神の使徒』は何人いるの?」
「五人です。あと二人いますが、未成年ですので、お役目は果たせません」
「あなたたちもお役目なんか果たさなくていいわよ」
ミサトの機嫌はしばらく直りそうもない。
部屋に入って、早速ミサトに話しかけた。
「相手の言葉を耳ではなく、何て言うか、額で受け止めるようにすると、分かるようになるな」
ミサトは部屋を見回している。かなり豪華な装飾が施された部屋だった。
「ゆうきも分かるようになったのね。文字はどうやって読んでるの?」
「どうって、普通だが。男性脳と女性脳の違いなのかな」
「まあ、いいかな。文字はゆうきに読んでもらうってことで」
小一時間ほどミサトと話していたら、先ほどの女官が神官長の到着を知らせに来てくれた。えらく早いな。
『どうぞ、入って頂いて』
ミサトが拡声器で答えると、神官長が巫女二名を連れて現れた。神官長は男だとばかり思っていたが、落ち着いた感じの三十前後の美しい女性だった。
三名は客室に入るなり跪いた。
「神官長マリアが神霊様にご挨拶を申し上げます」
視線がしっかりと俺たちのいる方向を向いている。オーラの効果はすでに消えているのにだ。
「私たちが見えるの?」
ミサトが驚いた顔で肉声で尋ねた。当然、俺も驚いている。
「はい、私は霊視と霊話の能力を授かっております。こちらの巫女二名も同様です。ご挨拶をなさい」
「ララと申します」
「ルルと申します」
まだ中学生ぐらいだろうか。双子の可愛らしい女の子たちだった。
「よろしく」
「よろしくね」
ってことは、他にも神霊がいるってことだよな。ミサトもそう思ったようだ。
「私たち以外にも神霊がいるってこと?」
「いいえ、霊王様はいらっしゃいますが、神霊様にお会いするのは初めてです」
「霊王は多いの?」
「神社は霊王様をお祀りするもので、神社の数だけいらっしゃいます。帝国内に十二ヶ所ございます」
「神社に行けば会えるかな?」
「もちろんです。霊王様は神霊様の使徒ですから」
「そうなのね。神器はあるかしら」
「はい、各神社の宝物殿で管理しております」
ミサトは少し考えてから、再び口を開いた。
「まずは一番大きい神社に案内してくれるかな」
「かしこまりました。今からご案内してよろしいでしょうか」
「お願いするわ」
「では、こちらに」
俺たちはマリアの後についていった。ララとルルは後ろについてくる。俺は彼女たちに庇護欲を感じない。人間に対する興味のなさも感じない。同等の関係を感じる。要するに恋愛関係になる可能性があるのだ。
「ねえ、何考えてるの」
ミサトが俺をジロリと睨んだ。
「この人たちさ」
「ええ、対等の関係を結べるわね。ねえ、マリア、あなたたちは私たちに触れられるのかしら」
「私たちから触れることはできませんが、神霊様からは触れることが出来ます」
「どういうこと? ちょっと触ってみていい?」
「あ、あの、同性は触れられません。異性のみなのです」
「え? どういうことなの?」
「私たちは神霊様からお情けを頂戴する存在なのです。そう言い伝えられて来ましたが、実際に神霊様はいらっしゃらなかったので、本当なのかどうかは分からないですが」
気温が急激に下がった。気のせいではない。ミサトが冷気を発しているのだ。マリアの吐く息が白い。
「お、お怒りをお鎮め下さい。そう言い伝えられて来ただけです」
「私の前でよくも堂々と言えたものね。死にたいの?」
「し、神霊様の言うことには、絶対服従するよう私たちは育てられて来ました。ご質問に出来る限り、お答えした結果でございます。神霊様のお気に触ったようでしたら、何なりとご処分下さい」
頭を下げて震えるマリアをミサトがじっとみている。ララとルルも恐縮して縮こまっている。
「何なのよ、この性奴隷制度は! ゆうき、浮気は許さないわよ!」
こ、怖え。マリアがガチガチ震えているのは、寒さだけが原因じゃないよな。
「ミサト、前から言っている通り、俺はミサト一筋だぜ」
というものの、マリアに誘惑されたら、断れる自信がない。ララとルルは今は大丈夫だが、五年後は自信がない。
「は、どうだか。もう、キララといい、この三人といい、女子力高すぎよっ。私にだけ敵が増えて、不公平だわ。マリア、あなたたちの男版はないの?」
「神社は女性のみですが、教会は男性のみです。教会でそういったお役目があるかどうかは分かりかねます」
「分かったわ。念のため、触れられるかどうか試すわよ」
「どうぞ」
ミサトはマリアの二の腕をソフトなタッチで触れた。他の人間と同じように、最初のタッチの感触はあるが、その後は透過してしまう。
「ゆうき、あなたも触ってみて」
俺は二の腕はちょっとまずいと思い、肩に触れてみた。マリアが顔を真っ赤にしている。その反応は非常に不味い。案の定、ミサトの目が三角になっている。
「あ、触れる。すごい、すごい!」
あまりの喜びに、俺はミサトの目のことをすっかり忘れてしまい、マリアの両手をとって、くるくる回ってしまった。
「あ、あの、ゆうき様」
マリアが戸惑っている。
「ゆうき、はしゃぎすぎよっ」
ミサトの鋭い声で俺は我に返った。俺はすぐにマリアの手を離した。
「マリア、ゆうきを触ってみて」
マリアが言われた通り、俺の胸に手を当てようとした。その位置はどうかな、と思ったが、すうっとすり抜けてしまった。
「ほんと、言う通りね。あなたたちはどういう存在なの?」
「『神の使徒』と呼ばれています。帝国では女子は五歳になると、神社で無病息災の祈祷を受けます。そのとき、ごく稀に神託が降りることがあり、希望者は神社で修行をすることが出来ます。その中の一部が能力を授かり、『神の使徒』となります」
「『神の使徒』は何人いるの?」
「五人です。あと二人いますが、未成年ですので、お役目は果たせません」
「あなたたちもお役目なんか果たさなくていいわよ」
ミサトの機嫌はしばらく直りそうもない。
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