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第五章 古代寺
沼の先
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昨日の沼まで来た。やはり二時間強かかった。木も岩も何かも全て透過して一直線で進むため、毎回測ったように同じ時間だ。
浮遊というのは重力から逃れることが可能だが、上下の移動しか制御できない。前後左右は風まかせだ。そのため、走って移動している。俺たちは疲れないので、全力疾走をいつまでも続けられるのだ。
俺は百メートルを十一秒台で走る俊足の部類だったが、多分、今は当時の四倍以上の速さで走っていると思う。ミサトも難なくついて来る。人間とは違う走り方で、滑るように走るが、スケートと違って、足は左右に開かず真っ直ぐに滑る。俺たちは「神走り」と呼んでいる。
一分で二キロを走り抜けるので、時速換算すると百二十キロで、チーターよりも速い。その足でさらに二時間走って、遂に森を抜けた。一回券ゲットだぜ。森の東西は五百キロぐらいか。東京から大阪までの距離で森が続くのだから、ものすごく大きな森だ。
森を抜けたところは高台で、眼下に集落が見えた。その先には海が広がっている。海岸線と森の境界線が平行に走っていて、森と海との間の広大な平地に家と畑が点在している感じだ。
早速集落まで降りて行った。人の姿がちらほら見える。キララの国の人々と容姿が似ている。この世界の人は東洋と西洋をミックスした感じで、優しい整った顔立ちの人が多い。髪の色や目の色もカラフルで、異世界って感じがする。
「やはり俺たちは見えないようだな」
「多分、キララたちと同じ人種よね」
「お互いの存在を知らないんじゃないか」
「あの森の魔物は強いから、通り抜けるのは無理だからね」
「あっ、何だ、あれ。何してるんだ」
少し先の家で、三人の男が家から若い女性を無理矢理連れ出そうとしている。女の両親と思われる男女が、小屋の扉に寄りかかるようにして倒れている。
「どっちが悪いのかしら?」
「どう見ても男たちじゃないか? ちょっと聞いてみるか」
『そこの男たち、娘を無理矢理連れ出そうとしているように見えるが、お前たちは悪者か?』
男たちは驚いて、辺りをキョロキョロ見ている。
『お前たちには俺たちは見えない。もう一度、聞く。お前たちは悪者か?』
「ういおいうよっぽいううういっ」
男たちが何か叫んだが、何を言っているのか、さっぱりわからない。
「ミサト、何言っているかわかるか?」
「分かるわよ」
「分かるんかいっ!」
「どこのどいつか知らないが、口を出すなって、って言ったのよ」
「そんな適当なこと言って……」
「適当じゃないわよ。なぜか知らないけど分かるのよ。ゆうきの言葉は相手には伝わっているみたいよ」
「ちょっと代わってくれるか。俺には奴らの言葉がさっぱり分からないんだ」
「いいわよ」
俺は拡声器をミサトに渡した。
『悪者はどちらだって、聞いてるのよ。答えないと痛い目にあわせるわよ』
「けっ、今度は女の声か。痛い目にあわせられるなら、あわせてみろよっ」
やはり俺にはさっぱり分からない。あ、ミサトが男にデコピンした。うえっ、ありゃあ死んだんじゃないのか。
男の一人が盛大にひっくり返り、仰向けになったまま起き上がってこない。眉間が陥没しているのではないか。他の二人がどこから攻撃されたのか、必死になって探している。
『どんなに探しても見えないわよ。次答えなかったら、殺すわよ』
男二人が声のする方を見ながら、両手を上げて降参のポーズをした。
「け、契約なんです。そこでくたばっている両親が金を返せない場合は、娘で支払うという契約です」
男が紙のようなものを取り出して、広げて見せた。
「何なのよ、そんなの読めないわよ」
ミサトは読めないようだが、今度は俺が読めた。
「なんだか分からないが、俺には読めちゃうぞ。借用証書のようだな。確かに支払えないときには娘を渡す、と書いてある」
『娘をどうするの?』
ミサトが男に聞いた。
「奴隷商人に売って貸した金の回収に充てるんです」
『両親を売ればいいじゃないの。娘は関係ないでしょう』
「娘は両親の十倍の値で売れるんです」
ミサトは俺の方に振り返った。
「どうする?」
「うーん、あの娘、庇護欲わかないなあ」
「なんでよ。あんまり綺麗じゃないから?」
「多分そういう理由なのかなあ。よく分からないないんだよ」
「じゃあ、放っておく?」
「放っておこう」
『分かったわ、好きにしていいわよ』
助けて貰えると思っていた娘が固まってしまっているが、庇護欲が湧かないということは、助けてはいけないんだと俺は自分勝手に解釈した。彼女の今後の奮闘を祈ろう。
「ミサト、この国の支配者のことを聞いてくれないか」
ミサトが頷いた。そして、自分自身にオーラをかけた。
『あなたたち、この国の支配者のことを教えなさい』
突然、後光をバックにした巫女姿の透明の美しい女性が現れ、男たちと娘はびっくりしている。
ミサトがデコピンの形をした手を男の額に近づけて行くと、男が平伏して、額を地面につけて話し始めた。なるほど、あれではデコピンは出来ない。
「は、はい。申し上げます。この国はカイザー皇帝が治めております」
『皇帝はどこにいるの?』
「帝都におられます。海岸線を北に三日ほど行ったところです」
『その娘は帝都の奴隷商人に売るの?』
「は、はい。そうでございます」
『分かったわ、もう行きなさい』
男たちは倒れている男を抱えて、逃げるようにして去って行った。
「あれ? 娘は連れていかないのか?」
「本当ね。何なのかしら。で、どうするの?」
「皇帝に話をしに行こうぜ。神器の情報とか、キララの国ことを知ってるかどうかとかさ」
「そうね。トップに聞くのが一番ね」
俺たちは帝都に向かって走り出した。
浮遊というのは重力から逃れることが可能だが、上下の移動しか制御できない。前後左右は風まかせだ。そのため、走って移動している。俺たちは疲れないので、全力疾走をいつまでも続けられるのだ。
俺は百メートルを十一秒台で走る俊足の部類だったが、多分、今は当時の四倍以上の速さで走っていると思う。ミサトも難なくついて来る。人間とは違う走り方で、滑るように走るが、スケートと違って、足は左右に開かず真っ直ぐに滑る。俺たちは「神走り」と呼んでいる。
一分で二キロを走り抜けるので、時速換算すると百二十キロで、チーターよりも速い。その足でさらに二時間走って、遂に森を抜けた。一回券ゲットだぜ。森の東西は五百キロぐらいか。東京から大阪までの距離で森が続くのだから、ものすごく大きな森だ。
森を抜けたところは高台で、眼下に集落が見えた。その先には海が広がっている。海岸線と森の境界線が平行に走っていて、森と海との間の広大な平地に家と畑が点在している感じだ。
早速集落まで降りて行った。人の姿がちらほら見える。キララの国の人々と容姿が似ている。この世界の人は東洋と西洋をミックスした感じで、優しい整った顔立ちの人が多い。髪の色や目の色もカラフルで、異世界って感じがする。
「やはり俺たちは見えないようだな」
「多分、キララたちと同じ人種よね」
「お互いの存在を知らないんじゃないか」
「あの森の魔物は強いから、通り抜けるのは無理だからね」
「あっ、何だ、あれ。何してるんだ」
少し先の家で、三人の男が家から若い女性を無理矢理連れ出そうとしている。女の両親と思われる男女が、小屋の扉に寄りかかるようにして倒れている。
「どっちが悪いのかしら?」
「どう見ても男たちじゃないか? ちょっと聞いてみるか」
『そこの男たち、娘を無理矢理連れ出そうとしているように見えるが、お前たちは悪者か?』
男たちは驚いて、辺りをキョロキョロ見ている。
『お前たちには俺たちは見えない。もう一度、聞く。お前たちは悪者か?』
「ういおいうよっぽいううういっ」
男たちが何か叫んだが、何を言っているのか、さっぱりわからない。
「ミサト、何言っているかわかるか?」
「分かるわよ」
「分かるんかいっ!」
「どこのどいつか知らないが、口を出すなって、って言ったのよ」
「そんな適当なこと言って……」
「適当じゃないわよ。なぜか知らないけど分かるのよ。ゆうきの言葉は相手には伝わっているみたいよ」
「ちょっと代わってくれるか。俺には奴らの言葉がさっぱり分からないんだ」
「いいわよ」
俺は拡声器をミサトに渡した。
『悪者はどちらだって、聞いてるのよ。答えないと痛い目にあわせるわよ』
「けっ、今度は女の声か。痛い目にあわせられるなら、あわせてみろよっ」
やはり俺にはさっぱり分からない。あ、ミサトが男にデコピンした。うえっ、ありゃあ死んだんじゃないのか。
男の一人が盛大にひっくり返り、仰向けになったまま起き上がってこない。眉間が陥没しているのではないか。他の二人がどこから攻撃されたのか、必死になって探している。
『どんなに探しても見えないわよ。次答えなかったら、殺すわよ』
男二人が声のする方を見ながら、両手を上げて降参のポーズをした。
「け、契約なんです。そこでくたばっている両親が金を返せない場合は、娘で支払うという契約です」
男が紙のようなものを取り出して、広げて見せた。
「何なのよ、そんなの読めないわよ」
ミサトは読めないようだが、今度は俺が読めた。
「なんだか分からないが、俺には読めちゃうぞ。借用証書のようだな。確かに支払えないときには娘を渡す、と書いてある」
『娘をどうするの?』
ミサトが男に聞いた。
「奴隷商人に売って貸した金の回収に充てるんです」
『両親を売ればいいじゃないの。娘は関係ないでしょう』
「娘は両親の十倍の値で売れるんです」
ミサトは俺の方に振り返った。
「どうする?」
「うーん、あの娘、庇護欲わかないなあ」
「なんでよ。あんまり綺麗じゃないから?」
「多分そういう理由なのかなあ。よく分からないないんだよ」
「じゃあ、放っておく?」
「放っておこう」
『分かったわ、好きにしていいわよ』
助けて貰えると思っていた娘が固まってしまっているが、庇護欲が湧かないということは、助けてはいけないんだと俺は自分勝手に解釈した。彼女の今後の奮闘を祈ろう。
「ミサト、この国の支配者のことを聞いてくれないか」
ミサトが頷いた。そして、自分自身にオーラをかけた。
『あなたたち、この国の支配者のことを教えなさい』
突然、後光をバックにした巫女姿の透明の美しい女性が現れ、男たちと娘はびっくりしている。
ミサトがデコピンの形をした手を男の額に近づけて行くと、男が平伏して、額を地面につけて話し始めた。なるほど、あれではデコピンは出来ない。
「は、はい。申し上げます。この国はカイザー皇帝が治めております」
『皇帝はどこにいるの?』
「帝都におられます。海岸線を北に三日ほど行ったところです」
『その娘は帝都の奴隷商人に売るの?』
「は、はい。そうでございます」
『分かったわ、もう行きなさい』
男たちは倒れている男を抱えて、逃げるようにして去って行った。
「あれ? 娘は連れていかないのか?」
「本当ね。何なのかしら。で、どうするの?」
「皇帝に話をしに行こうぜ。神器の情報とか、キララの国ことを知ってるかどうかとかさ」
「そうね。トップに聞くのが一番ね」
俺たちは帝都に向かって走り出した。
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