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第二章 学校生活
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しおりを挟む グロリアス騎士学園の敷地内には、訓練用に管理されたダンジョンが存在している。
ここはゲームではチュートリアルダンジョンであると同時に、やりこみ要素にもなっており、地下99階以上もある世界一広大なダンジョンだ。
なんでも、ここから魔物が出てこないように監視するための砦として建築されたのが、学園の始まりだったとか。
俺たち3人は放課後、ここの入り口に集合した。
「地下5階がレベル上げに最適な場所だから、まずはそこまで移動しよう」
「へぇ~。レベル上げに最適な場所。どんなところなの? さっそく行ってみましょう!」
セリカがやる気満々で、俺の手を引いて歩き出す。
「セリカ様! やる気を出されるのは結構ですが、決して油断なさらないでください。地下5階は10レベルのモンスターが出現する危険地帯。そこに至るまでの道中でも、毎年、生徒が行方不明になったり、亡くなったりしています!」
「も、もちろん、油断なんかしていないわよ」
真面目なエレナの警告を受けて、セリカはタジタジになった。
「そうですか? ヴァイス兄様にくっついて、どこか浮ついているように見えましたが? 【回復術士《ヒーラー》】が前衛と手を繋いで密着などしていたら、前衛の意味がありません。油断せず地下1階から適切な配置を心掛けてください」
「うっ……!」
正論にセリカは二の句が継げないようだった。
エレナは、かなりピリピリしているな。
「いいですか? 学園が管理し、安全を確保できているのは、地下3階までです。地下5階からは、非常に危険な罠が増えてきます。何が起きてもおかしくありません!」
さらにエレナは強い口調で続ける。
「なにより、【傾国】のジゼルが、セリカ様をつけ狙っていることをお忘れですか!? ダンジョン内で、ジゼルの手下の襲撃が無いとは言い切れませんよ!」
「うっ……まあ、そうだよね。ごめんなさい、私の認識が甘かったわ」
セリカは言葉を失って、俺から離れた。
しょんぼりし過ぎて、戦闘で消極的になるのも問題なので、セリカにフォローを入れることにする。こういった配慮は、ゲームのレイドバトルで覚えた。
「大丈夫だ。地下5階でのレベル上げに成功すれば、セリカのレベルは一気に10近くまで跳ね上がる。そうすれば、ジゼルの手下ごときには、簡単に遅れを取ることはなくなるぞ」
「「い、一気に10!?」」
「それにセリカは何があっても、俺が守るから」
「うわっ! ヴァイス君から、こんなにも愛されるなんて幸せだわ!」
セリカは一気にテンションがマックスになった。
「だけど、エレナの言っていることも正しい。油断は禁物だ。もし俺が危険だと判断したら、すぐに撤退するから、そのつもりでいてくれ」
「はい! その際は、パーティ内で最高レベルの私がしんがりを務めます。地下5階はすでに何度かクリアしているので、問題有りません」
エレナが誇らしげに頷いた。
「うん! 私はヴァイス君の指示にちゃんと従うから、安心して。エレナも頼りにしているからね!」
「はい、セリカ様。今度こそ、セリカ様を守り抜いてみせます! シルフィード伯爵家の名にかけて」
エレナはかなりの気合の入りようだった。
もしかして、この前、魔族化したガロンに負けて気絶してしまったことを気に病んでいるのか?
「それでは、参りましょう。露払いは、すべてこの私にお任せください!」
俺たちは、エレナを先頭にサクサク地下5階まで進んだ。
途中で出現するモンスターは、エレナが一刀のもとに斬り捨てる。
本番である地下5階にたどり着くまで、俺たちに負担をかけたくないという、エレナの心遣いだった。
少々、気負い過ぎなのが気になったが、エレナは、今回のダンジョン探索を名誉挽回のチャンスだと捉えているようだ。
なら水を差すのは野暮だろう。俺はあえて何も言わないことにした。
やがて俺たちは、地下5階に到達した。
ここは特殊なエリアで、地下12階まで続く吹き抜けの巨大な穴が、フロア全体にポッカリと空いている。下を見ると、底の見えない深淵に飲み込まれそうだった。
穴には巨大な石橋がかかっており、これを渡らないと、次の階層に降りる階段に到着できない。
「えっ!? 石橋の上に、モンスターが大量に陣取っているじゃないの!?」
セリカはすぐに、このエリアの危険性に気付いたようだ。
迂回することのできない一本道で、モンスターの群れとの殴り合いを強要されるのが、この地下5階の特徴だった。
「……よし、これならイケそうだな」
俺はこの地形を見て、ゲームで使えた裏技が使えることを確信した。
「イケそうって。まさかヴァイス君はこの数を全部相手にするつもりなの。さ、30体近くはいるけど!?」
「いや、ちょっと違う」
「セリカ様、ここでの戦闘は、橋からの落下に気をつけてください。奴らはそれを狙ってきます」
エレナは油断なく剣を構える。
橋の上にひしめいているのは、棍棒を持った巨体のオークだ。
怪力でここを通る者を、穴に突き落とすのが奴らの得意戦法だった。
「うぇ~! しかも、次から次に!」
オークは太鼓を打ち鳴らした。奴らの仲間が、続々と向こう岸にある巣穴から出てきて、数を増やしていく。
「エレナ、橋には踏み込まずに、ここで待機だ。セリカは俺の後ろに隠れていてくれ」
「はい、兄様!」
「ちょ、ちょっとヤバくない!? なんか……ゾロソロたくさん出てくるわよ!」
「うん。このエリアは、仲間を呼ばれる前に強行突破しないと詰む仕様なんだ」
「そうなの!? って、いいの!?」
「もちろん、大丈夫だ。団体さんの到着は、大歓迎だ」
セリカは腰が引けてしまっていた。
やがてオークは、200体以上に増えて橋を完全封鎖してしまう。
奴らは勝利を確信して、ゲラゲラ笑い出した。
「うほっ! 久々に、かわい子ちゃんがやってきたぞ!」
「たっぷり、かわいがってやる!」
「女を捕まえろ。男は投げ落として殺せ!」
奴らが投げ掛けてきた下衆な言葉に、セリカとエレナの顔が引き攣った。
「んじゃ、さよならだ。【超重量】!」
俺は石橋に手を触れて、ユニークスキル【超重量】を発動させた。
ドドドォオオオオン!
「ええっ!?」
「ブヒィイイイイ!?」
石橋が突如、崩壊して200体以上のオークが奈落の底に落ちていった。
セリカとエレナが唖然として、悲鳴を上げて遠ざかる彼らを見送る。
「なっ、ななななにが、起こったんですか!?」
「石橋が崩れたぁ!?」
『オーク207体を倒しました!
レベルアップ!
レベルアップ!
レベルアップ!
おめでとうございます!
レベルが13に上がりました!』
「おおっ、狙い通りの大量の経験値だ!」
しかも、これで【超重量】の進化条件である『スキルを使って魔物を500体倒す』に一気に近づくことができたぞ。
「今のは【超重量】で、石橋の重量を1000倍に上げて、自重で崩壊させたんだ」
「は、はい……? そんなことができるんですか!?」
エレナは驚きに目を見張る。
「本来なら、爆弾か爆裂魔法を橋台にぶつけるんだけどな。実は敵を大量に倒すには、フィールドギミックを利用して落下死させるのが、最も効率が良いんだ」
キマると格上の敵も一撃死させられて、めちゃくちゃ気持ち良い。だからゲームでは狙って良くやっていた。
落下死が狙えるフィールドは、自分が落下死する危険と隣り合わせなので、非常にエキサイティングだ。
「す、すごいわ! 経験値がドカッと入ってきて、私、一気に10レベルになっちゃたわ!」
セリカが歓喜を爆発させた。
レベルを1上げるだけでも、それなりの困難が伴う。それが一気に5レベルも上がったとなれば、その感動はひとしおだろう。
このゲームはモンスターを倒すと、パーティメンバーに均等に経験値が入る仕様だった。
「俺もレベルが13まで一気に上がった。エレナにも経験値が分配されているだろう?」
「は、はい! 私もレベルが2上がって16になりました! 信じられません!」
エレナも身を震わせて、感動を味わっているようだった。
「よし、やったな! あとは、毎日、これを繰り返せば多分、1週間で全員レベル20まで上げられると思う」
ダンジョン内の壁や橋、罠といったギミックは1日経過すると、不思議な力ですべて復元される。生息するモンスターも一定数がリポップされて、再配置された。
ダンジョンが神の造形物であり、物理法則を超越した空間だからだと言われている。
「ぶっつけ本番だったけど。思った通り【超重量】は構造物の破壊に役立つな。まだまだ、いろいろ応用できそうだ」
「こんな方法でレベルを上げられるなんて、すごい! ヴァイス君なら【傾国】のジゼルに勝てるに違いないわ!」
「ヴァイス兄様はこの秘策があったからこそ、レオナルド先輩に勝負を持ちかけたのですね!? お見逸れしました!」
セリカとエレナが驚嘆していた。
そんな風に褒められると、照れるな。
「まあ、このエリアで上げられるのは20までが限度だけどな。それ以上を目指すなら、もっと危険な下層に踏み込む必要がある」
レベルが上がると、同じ魔物を倒して得られる経験値が少なくなり、レベルアップは頭打ちとなる。
だが、この狩り場でレベル上げをすれば、少なくとも爆速でレオナルドと戦えるレベル域に到達できる。
ヤツもこの一週間で、最低でも3レベルは上げてくるだろうから、まだ俺の方法が不利だけどな。
「ねっ、ヴァイス君。私、もしやれるなら、フィアナに勝ちたいんだけど。どんなステ振りやビルドをしたら、良いかな!?」
セリカが途方も無いことを言ってきた。
「ほ、本気でフィアナ様に勝つおつもりなんですか、セリカ様!?」
「ヴァイス君が飛躍する姿を見ていたら、私もやれそうな気がしてきたわ! 最初からダメだと決めつけていたら、何もできないでしょ?」
「そ、そうですが、あのフィアナ様ですよ!?」
「ヴァイス君は昨晩、エレナに適切なアドバイスをしていたじゃない? 私にもお願い!」
セリカが手を合わせて、懇願してくる。
「……そうだな」
フィアナの現在のレベルは35。
この域に到達するのは、生半可なことじゃない。
しかも、攻撃力の低い【回復術士《ヒーラー》】のセリカが、バリバリの前衛であるフィアナに勝つとしたら、手段は一つしか思い浮かばなかった。
「それじゃセリカ。レベルアップで手に入れた能力値ポイントは、全部『防御』に割り振ってくれないか? セリカには『絶対に死なないド根性聖女ビルド』を目指してもらう」
「『絶対に死なないド根性聖女ビルド』……? ありがとう! すぐにやるわ! ヴァイス君の言うことなら、間違いないものね!」
笑顔で頷くセリカは、すっかり俺を信頼してくれているようだった。
ここはゲームではチュートリアルダンジョンであると同時に、やりこみ要素にもなっており、地下99階以上もある世界一広大なダンジョンだ。
なんでも、ここから魔物が出てこないように監視するための砦として建築されたのが、学園の始まりだったとか。
俺たち3人は放課後、ここの入り口に集合した。
「地下5階がレベル上げに最適な場所だから、まずはそこまで移動しよう」
「へぇ~。レベル上げに最適な場所。どんなところなの? さっそく行ってみましょう!」
セリカがやる気満々で、俺の手を引いて歩き出す。
「セリカ様! やる気を出されるのは結構ですが、決して油断なさらないでください。地下5階は10レベルのモンスターが出現する危険地帯。そこに至るまでの道中でも、毎年、生徒が行方不明になったり、亡くなったりしています!」
「も、もちろん、油断なんかしていないわよ」
真面目なエレナの警告を受けて、セリカはタジタジになった。
「そうですか? ヴァイス兄様にくっついて、どこか浮ついているように見えましたが? 【回復術士《ヒーラー》】が前衛と手を繋いで密着などしていたら、前衛の意味がありません。油断せず地下1階から適切な配置を心掛けてください」
「うっ……!」
正論にセリカは二の句が継げないようだった。
エレナは、かなりピリピリしているな。
「いいですか? 学園が管理し、安全を確保できているのは、地下3階までです。地下5階からは、非常に危険な罠が増えてきます。何が起きてもおかしくありません!」
さらにエレナは強い口調で続ける。
「なにより、【傾国】のジゼルが、セリカ様をつけ狙っていることをお忘れですか!? ダンジョン内で、ジゼルの手下の襲撃が無いとは言い切れませんよ!」
「うっ……まあ、そうだよね。ごめんなさい、私の認識が甘かったわ」
セリカは言葉を失って、俺から離れた。
しょんぼりし過ぎて、戦闘で消極的になるのも問題なので、セリカにフォローを入れることにする。こういった配慮は、ゲームのレイドバトルで覚えた。
「大丈夫だ。地下5階でのレベル上げに成功すれば、セリカのレベルは一気に10近くまで跳ね上がる。そうすれば、ジゼルの手下ごときには、簡単に遅れを取ることはなくなるぞ」
「「い、一気に10!?」」
「それにセリカは何があっても、俺が守るから」
「うわっ! ヴァイス君から、こんなにも愛されるなんて幸せだわ!」
セリカは一気にテンションがマックスになった。
「だけど、エレナの言っていることも正しい。油断は禁物だ。もし俺が危険だと判断したら、すぐに撤退するから、そのつもりでいてくれ」
「はい! その際は、パーティ内で最高レベルの私がしんがりを務めます。地下5階はすでに何度かクリアしているので、問題有りません」
エレナが誇らしげに頷いた。
「うん! 私はヴァイス君の指示にちゃんと従うから、安心して。エレナも頼りにしているからね!」
「はい、セリカ様。今度こそ、セリカ様を守り抜いてみせます! シルフィード伯爵家の名にかけて」
エレナはかなりの気合の入りようだった。
もしかして、この前、魔族化したガロンに負けて気絶してしまったことを気に病んでいるのか?
「それでは、参りましょう。露払いは、すべてこの私にお任せください!」
俺たちは、エレナを先頭にサクサク地下5階まで進んだ。
途中で出現するモンスターは、エレナが一刀のもとに斬り捨てる。
本番である地下5階にたどり着くまで、俺たちに負担をかけたくないという、エレナの心遣いだった。
少々、気負い過ぎなのが気になったが、エレナは、今回のダンジョン探索を名誉挽回のチャンスだと捉えているようだ。
なら水を差すのは野暮だろう。俺はあえて何も言わないことにした。
やがて俺たちは、地下5階に到達した。
ここは特殊なエリアで、地下12階まで続く吹き抜けの巨大な穴が、フロア全体にポッカリと空いている。下を見ると、底の見えない深淵に飲み込まれそうだった。
穴には巨大な石橋がかかっており、これを渡らないと、次の階層に降りる階段に到着できない。
「えっ!? 石橋の上に、モンスターが大量に陣取っているじゃないの!?」
セリカはすぐに、このエリアの危険性に気付いたようだ。
迂回することのできない一本道で、モンスターの群れとの殴り合いを強要されるのが、この地下5階の特徴だった。
「……よし、これならイケそうだな」
俺はこの地形を見て、ゲームで使えた裏技が使えることを確信した。
「イケそうって。まさかヴァイス君はこの数を全部相手にするつもりなの。さ、30体近くはいるけど!?」
「いや、ちょっと違う」
「セリカ様、ここでの戦闘は、橋からの落下に気をつけてください。奴らはそれを狙ってきます」
エレナは油断なく剣を構える。
橋の上にひしめいているのは、棍棒を持った巨体のオークだ。
怪力でここを通る者を、穴に突き落とすのが奴らの得意戦法だった。
「うぇ~! しかも、次から次に!」
オークは太鼓を打ち鳴らした。奴らの仲間が、続々と向こう岸にある巣穴から出てきて、数を増やしていく。
「エレナ、橋には踏み込まずに、ここで待機だ。セリカは俺の後ろに隠れていてくれ」
「はい、兄様!」
「ちょ、ちょっとヤバくない!? なんか……ゾロソロたくさん出てくるわよ!」
「うん。このエリアは、仲間を呼ばれる前に強行突破しないと詰む仕様なんだ」
「そうなの!? って、いいの!?」
「もちろん、大丈夫だ。団体さんの到着は、大歓迎だ」
セリカは腰が引けてしまっていた。
やがてオークは、200体以上に増えて橋を完全封鎖してしまう。
奴らは勝利を確信して、ゲラゲラ笑い出した。
「うほっ! 久々に、かわい子ちゃんがやってきたぞ!」
「たっぷり、かわいがってやる!」
「女を捕まえろ。男は投げ落として殺せ!」
奴らが投げ掛けてきた下衆な言葉に、セリカとエレナの顔が引き攣った。
「んじゃ、さよならだ。【超重量】!」
俺は石橋に手を触れて、ユニークスキル【超重量】を発動させた。
ドドドォオオオオン!
「ええっ!?」
「ブヒィイイイイ!?」
石橋が突如、崩壊して200体以上のオークが奈落の底に落ちていった。
セリカとエレナが唖然として、悲鳴を上げて遠ざかる彼らを見送る。
「なっ、ななななにが、起こったんですか!?」
「石橋が崩れたぁ!?」
『オーク207体を倒しました!
レベルアップ!
レベルアップ!
レベルアップ!
おめでとうございます!
レベルが13に上がりました!』
「おおっ、狙い通りの大量の経験値だ!」
しかも、これで【超重量】の進化条件である『スキルを使って魔物を500体倒す』に一気に近づくことができたぞ。
「今のは【超重量】で、石橋の重量を1000倍に上げて、自重で崩壊させたんだ」
「は、はい……? そんなことができるんですか!?」
エレナは驚きに目を見張る。
「本来なら、爆弾か爆裂魔法を橋台にぶつけるんだけどな。実は敵を大量に倒すには、フィールドギミックを利用して落下死させるのが、最も効率が良いんだ」
キマると格上の敵も一撃死させられて、めちゃくちゃ気持ち良い。だからゲームでは狙って良くやっていた。
落下死が狙えるフィールドは、自分が落下死する危険と隣り合わせなので、非常にエキサイティングだ。
「す、すごいわ! 経験値がドカッと入ってきて、私、一気に10レベルになっちゃたわ!」
セリカが歓喜を爆発させた。
レベルを1上げるだけでも、それなりの困難が伴う。それが一気に5レベルも上がったとなれば、その感動はひとしおだろう。
このゲームはモンスターを倒すと、パーティメンバーに均等に経験値が入る仕様だった。
「俺もレベルが13まで一気に上がった。エレナにも経験値が分配されているだろう?」
「は、はい! 私もレベルが2上がって16になりました! 信じられません!」
エレナも身を震わせて、感動を味わっているようだった。
「よし、やったな! あとは、毎日、これを繰り返せば多分、1週間で全員レベル20まで上げられると思う」
ダンジョン内の壁や橋、罠といったギミックは1日経過すると、不思議な力ですべて復元される。生息するモンスターも一定数がリポップされて、再配置された。
ダンジョンが神の造形物であり、物理法則を超越した空間だからだと言われている。
「ぶっつけ本番だったけど。思った通り【超重量】は構造物の破壊に役立つな。まだまだ、いろいろ応用できそうだ」
「こんな方法でレベルを上げられるなんて、すごい! ヴァイス君なら【傾国】のジゼルに勝てるに違いないわ!」
「ヴァイス兄様はこの秘策があったからこそ、レオナルド先輩に勝負を持ちかけたのですね!? お見逸れしました!」
セリカとエレナが驚嘆していた。
そんな風に褒められると、照れるな。
「まあ、このエリアで上げられるのは20までが限度だけどな。それ以上を目指すなら、もっと危険な下層に踏み込む必要がある」
レベルが上がると、同じ魔物を倒して得られる経験値が少なくなり、レベルアップは頭打ちとなる。
だが、この狩り場でレベル上げをすれば、少なくとも爆速でレオナルドと戦えるレベル域に到達できる。
ヤツもこの一週間で、最低でも3レベルは上げてくるだろうから、まだ俺の方法が不利だけどな。
「ねっ、ヴァイス君。私、もしやれるなら、フィアナに勝ちたいんだけど。どんなステ振りやビルドをしたら、良いかな!?」
セリカが途方も無いことを言ってきた。
「ほ、本気でフィアナ様に勝つおつもりなんですか、セリカ様!?」
「ヴァイス君が飛躍する姿を見ていたら、私もやれそうな気がしてきたわ! 最初からダメだと決めつけていたら、何もできないでしょ?」
「そ、そうですが、あのフィアナ様ですよ!?」
「ヴァイス君は昨晩、エレナに適切なアドバイスをしていたじゃない? 私にもお願い!」
セリカが手を合わせて、懇願してくる。
「……そうだな」
フィアナの現在のレベルは35。
この域に到達するのは、生半可なことじゃない。
しかも、攻撃力の低い【回復術士《ヒーラー》】のセリカが、バリバリの前衛であるフィアナに勝つとしたら、手段は一つしか思い浮かばなかった。
「それじゃセリカ。レベルアップで手に入れた能力値ポイントは、全部『防御』に割り振ってくれないか? セリカには『絶対に死なないド根性聖女ビルド』を目指してもらう」
「『絶対に死なないド根性聖女ビルド』……? ありがとう! すぐにやるわ! ヴァイス君の言うことなら、間違いないものね!」
笑顔で頷くセリカは、すっかり俺を信頼してくれているようだった。
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