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第二章 学校生活
宿屋
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「せっかく旅をしていててもこの赤黒い景色何とかならないのかな」
馬車から外に出た俺の第一声だ。
「神の眼鏡とかあるんじゃない?」
ミサトも仏頂面している。
「写真のネガみたいだから、ポジに変換してくれる眼鏡か。いつか神社巡りしようよ」
何気なく二人旅に誘ってみた。
「そうね。あなたのことが好きになったら考えるわ」
くっ、覗きがバレて以来、ガードが固過ぎる。レンなんか好きになるぐらいだからチョロいと思ったんだが、レンで学習しちゃったのかもな。
「何よ」
「別に」
いやあ、鋭い。ってか、俺って顔に出ちゃうんだろうか。
旅の一行は予約している宿屋に入って行った。さすが公爵家が宿泊する宿屋だ。大名屋敷みたいだった。しかも、温泉宿だ。
今回の調査団は、メルサとゲンムの両公爵家を中心に寄子の数貴族からなっていて、さっき数えてみたら、総勢五十名ぐらいだ。子供は他にも数名いたが、メルサとゲンムとは馴れ合わない。学校ではそうでもないが、外では身分差を気にしないといけないようだ。
メルサとゲンムは当然別々の部屋で、ミサトはゲンムの方に行ってしまった。当然、拡声器はミサトが持って行ってしまっている。
「ゆうくん、ミサトさんに完全に尻に敷かれちゃってるんですか? ハイなら肩をトン、いいえなら肩をトントンして下さい」
俺はメルサの小さな肩を一回だけ叩いた。
「トンってことはハイね。拡声器も持って行かれちゃったと。なるほどね」
俺には姉と妹がいた。人物は忘れてしまっているが、とにかくよく喋ったことは覚えている。奴らは朝から晩までずっと話しているのだ。今のメルサがそうだ。ずっと話している。むしろ、俺がトンかトントンしかしない方が都合がいいらしい。
ほとんどがどうでもいい話だし、こちらも半分聞き流しているので、よく分からない話もあるが、たまにおっという話が混じる。
それなりにメルサからのほぼ一方的な話を楽しんでいたら、ミサトが入って来た。
「ねえ、神社があるわよっ。一緒に行くわよ」
拡声器で神社に行くとメルサに伝えた。メルサも行きたそうだったが、少し離れていて、親の許可が取りにくいので、今回は我慢してもらった。
少しどころか、歩いてというか浮遊で一時間かかった。途中で何度も道を間違えたんじゃないかと思ったぐらいだ。
神社は小高い丘の上にあった。
「思ったより立派ね」
「いや、これすごいんじゃないか。城下町の数倍だぞ」
参拝客もそれなりに多い。
「問題は宝物殿に入れるかどうかね」
「あそこだな。行ってみよう」
楽勝だった。有料で一般公開されているのだ。ガラスケースに展示されているが、触れられることを確認した。割ることはできそうだ。
「神器はないみたいだな」
「ゆうき、あれっ!」
「あっ、俺の携帯、しかも充電コード付き……。しかも、ガラスケースなし。これ、持っていって下さいと言わんばかりじゃないかっ。いや、そもそも俺のものだから返してもらおう」
俺は躊躇することなく、携帯を手に取った。電池切れか。すぐに充電を始めた。ソーラーバッテリーは、失くすと大変なので持ち歩いているのだ。もちろん俺が。
陳列されているものが突然消えたわけだが、誰かがずっと見ている訳ではないので、すぐには騒ぎにはならない。
俺たちは堂々と宝物殿を出た。
携帯を起動してみる。
「充電しながら起動しちゃダメって言われているが……」
「そんなのどうでもいいわよっ」
「ちょっとしたボケじゃないか」
OSが起動している時間が妙に長く感じる。
「やっぱり圏外か。でも、一度、転移した神社でも圏外かどうか確認したいな。ミサト、せっかくだから写真撮らないか?」
圏外と知ってミサトはガッカリしていた。ミサトの携帯とは充電コードのタイプが違うので、今は俺の携帯しか充電出来ない。
俺はカメラを起動した。
「あっ、色がついてる!」
「えっ? どれどれ!?」
うおっ、カメラを覗くためにミサトのちっちゃな顔が俺の顔のすぐ横に来た。
(激かわっす! 先生、激かわいいっす!)
先生ってのが俺にもよく分からないのだが、とにかく俺は夢中でシャッターボタンを押した。いい感じで顔が重なった仲良し写真が撮れた。
「ちょっと、何変な写真撮ってるのよ。あっ、それより、すごいじゃない。本当に色がついてるよ」
「ほら、好きにいじっていいよ」
俺はミサトに携帯を渡した。ミサトはありがとうと言って、あちこちをカメラ越しに見て、はしゃいでいる。本当に可愛いなあ。
「あっ、私ばかりごめんね」
「いいよ、いいよ。男は景色とか興味ないから、ミサトの携帯が動くようになるまで、ずっと使っていていいよ」
「本当!? ゆうき、ありがとう。ポイントアップだぞ!」
携帯は数日後に返ってくるのだが、ミサトとの仲良し写真は消されていた。ちくしょう。恩を仇で返すって、このことだよな。
馬車から外に出た俺の第一声だ。
「神の眼鏡とかあるんじゃない?」
ミサトも仏頂面している。
「写真のネガみたいだから、ポジに変換してくれる眼鏡か。いつか神社巡りしようよ」
何気なく二人旅に誘ってみた。
「そうね。あなたのことが好きになったら考えるわ」
くっ、覗きがバレて以来、ガードが固過ぎる。レンなんか好きになるぐらいだからチョロいと思ったんだが、レンで学習しちゃったのかもな。
「何よ」
「別に」
いやあ、鋭い。ってか、俺って顔に出ちゃうんだろうか。
旅の一行は予約している宿屋に入って行った。さすが公爵家が宿泊する宿屋だ。大名屋敷みたいだった。しかも、温泉宿だ。
今回の調査団は、メルサとゲンムの両公爵家を中心に寄子の数貴族からなっていて、さっき数えてみたら、総勢五十名ぐらいだ。子供は他にも数名いたが、メルサとゲンムとは馴れ合わない。学校ではそうでもないが、外では身分差を気にしないといけないようだ。
メルサとゲンムは当然別々の部屋で、ミサトはゲンムの方に行ってしまった。当然、拡声器はミサトが持って行ってしまっている。
「ゆうくん、ミサトさんに完全に尻に敷かれちゃってるんですか? ハイなら肩をトン、いいえなら肩をトントンして下さい」
俺はメルサの小さな肩を一回だけ叩いた。
「トンってことはハイね。拡声器も持って行かれちゃったと。なるほどね」
俺には姉と妹がいた。人物は忘れてしまっているが、とにかくよく喋ったことは覚えている。奴らは朝から晩までずっと話しているのだ。今のメルサがそうだ。ずっと話している。むしろ、俺がトンかトントンしかしない方が都合がいいらしい。
ほとんどがどうでもいい話だし、こちらも半分聞き流しているので、よく分からない話もあるが、たまにおっという話が混じる。
それなりにメルサからのほぼ一方的な話を楽しんでいたら、ミサトが入って来た。
「ねえ、神社があるわよっ。一緒に行くわよ」
拡声器で神社に行くとメルサに伝えた。メルサも行きたそうだったが、少し離れていて、親の許可が取りにくいので、今回は我慢してもらった。
少しどころか、歩いてというか浮遊で一時間かかった。途中で何度も道を間違えたんじゃないかと思ったぐらいだ。
神社は小高い丘の上にあった。
「思ったより立派ね」
「いや、これすごいんじゃないか。城下町の数倍だぞ」
参拝客もそれなりに多い。
「問題は宝物殿に入れるかどうかね」
「あそこだな。行ってみよう」
楽勝だった。有料で一般公開されているのだ。ガラスケースに展示されているが、触れられることを確認した。割ることはできそうだ。
「神器はないみたいだな」
「ゆうき、あれっ!」
「あっ、俺の携帯、しかも充電コード付き……。しかも、ガラスケースなし。これ、持っていって下さいと言わんばかりじゃないかっ。いや、そもそも俺のものだから返してもらおう」
俺は躊躇することなく、携帯を手に取った。電池切れか。すぐに充電を始めた。ソーラーバッテリーは、失くすと大変なので持ち歩いているのだ。もちろん俺が。
陳列されているものが突然消えたわけだが、誰かがずっと見ている訳ではないので、すぐには騒ぎにはならない。
俺たちは堂々と宝物殿を出た。
携帯を起動してみる。
「充電しながら起動しちゃダメって言われているが……」
「そんなのどうでもいいわよっ」
「ちょっとしたボケじゃないか」
OSが起動している時間が妙に長く感じる。
「やっぱり圏外か。でも、一度、転移した神社でも圏外かどうか確認したいな。ミサト、せっかくだから写真撮らないか?」
圏外と知ってミサトはガッカリしていた。ミサトの携帯とは充電コードのタイプが違うので、今は俺の携帯しか充電出来ない。
俺はカメラを起動した。
「あっ、色がついてる!」
「えっ? どれどれ!?」
うおっ、カメラを覗くためにミサトのちっちゃな顔が俺の顔のすぐ横に来た。
(激かわっす! 先生、激かわいいっす!)
先生ってのが俺にもよく分からないのだが、とにかく俺は夢中でシャッターボタンを押した。いい感じで顔が重なった仲良し写真が撮れた。
「ちょっと、何変な写真撮ってるのよ。あっ、それより、すごいじゃない。本当に色がついてるよ」
「ほら、好きにいじっていいよ」
俺はミサトに携帯を渡した。ミサトはありがとうと言って、あちこちをカメラ越しに見て、はしゃいでいる。本当に可愛いなあ。
「あっ、私ばかりごめんね」
「いいよ、いいよ。男は景色とか興味ないから、ミサトの携帯が動くようになるまで、ずっと使っていていいよ」
「本当!? ゆうき、ありがとう。ポイントアップだぞ!」
携帯は数日後に返ってくるのだが、ミサトとの仲良し写真は消されていた。ちくしょう。恩を仇で返すって、このことだよな。
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