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新たな決意

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「もうあなたは黙っていて下さい」

お母さんがお父さんを叱りつけた。お父さんを黙らせて、お母さんが俺の方に話しかけてきた。

「ニンゲンの男、危害は加えさせないから逃げないでおくれ」

俺はお父さんをリトマス紙にかける。紫になっている。一安心だ。

「わかりました。逃げません」

そう言って、エリカさんの手を取って、お母さんの前まで戻った。

「ニンゲンの男、名はなんという?」

「ランスロット・シラーです」

「ふむ。ランスと呼んでよいか?」

「はい、大丈夫です」

「では、ランスよ、マリンのことは嫌いか?」

泣き崩れていたマリンが、ピクリと聞き耳を立てているのがわかる。

「いいえ、嫌いではないのですが、まだ1回会っただけで、好きかどうかはわからないです」

マリンががっかりとしている。

「では、マリンは美しいか、醜いか、どちらか?」

「それは間違いなく美しいです」

お母さんもマリンもかっと目を見開いた。

いや、美しいか、醜いかで言ったら、美しいに決まっているじゃないか。

「やはりな、マリン」

(ええ、母様)

「な、何がやはり何でしょうか?」

「美しいものと結婚するのがニンゲンではないかのか?」

「いや、かなり誤解があるような……」

「美しければ娶ればよかろう」

「いえ、そもそも私には、ほら、ここに妻がおりまして」

「娘、名を何という」

「エリカです」

「エリカは美しいのお、ランスよ」

「はい、美しいです」

「ほら、見なさい。美しいものを娶っているではないか。マリンも娶るがよい」

「え?」

(相変わらず、人魚とは話しにくいな)

「え? ではない、さっさと娶るがよい」

ちょっと待て、一度会って、少し話しただけで、なぜこうなる? リトマス紙か?

「す、すいません。ちょっと妻と相談します。少しお待ちください」

(あのう、エリカさん、僕のことはそのう、なぜ好きになったのでしょうか?)

(そんなこと今聞いてどうするのよ!?)

(ちょっとおかしいんです。マリンとは1回しか会ってなくて、しかも話したのは10分ぐらいなんです)

(人魚のことはわからんが、一目ぼれってのはあるぞ)

(エリカさんは僕に一目ぼれなんですか?)

(ふふふ、内緒にしておこう)

(いや、大事なことなんです。僕のスキルで好きになっちゃったりしてませんか?)

(そんなスキルがあるか、ばかもの。私は兄からラン君のことを聞いていて、ずっと会いたいと思っていたのだぞ)

(そうなんですか。では、マリンは何で俺に嫁ごうと思ったのだろう)

(本人に聞いてみればいいのでは?)

(そうですね。そうします)

俺はこちらを見ているマリンに話しかけた。

「マリン、なぜ俺を家に招待しようとしたの?」

(ランスと呼んでいいか)

「いいよ」

(ランスは私のことをきれいな顔と思ってくれたから。私のことをきれいだと思った人は、あなたが初めて。人魚は自分のことをきれいだと思う人に嫁ぐと幸せになれる)

「マリンはこんなにきれいなんだから、きれいだと思うのは当たり前じゃないか!」

俺は力を込めて言い放った。そう、当たり前のことを思っただけなのだ。

マリンはぽっと顔を赤らめて、俯いてしまった。

あ、あれ?

エリカさんがおれの耳元で囁いた。

(ねえ、ラン君、あなた、口説いているの?)

「ランスよ。お前の想いはよく分かった。ふつつかな娘だが、わしの大切な娘だ。幸せにしてやってくれ」

あれ? お父さん?

お父さんをリトマス試験してみたら、赤になっていた。

「いや、あのですね。僕にはもう妻が3人いるんですよ?」

「ほう。ではマリンは4人目じゃな」

「はい、じゃなくて、いいんですか?」

「何がじゃ? ニンゲンとはいつも話が噛み合わんのう」

そっちもそう思っていたか。言葉は同じだけど文化や習慣が違いすぎて、なんか噛み合わないんだよな。

「妻が沢山いるのは、人魚は気にならないんですか?」

「そっちの方が楽しかろう。わしは1人しか娶っておらず、皆に寂しい思いをさせてしまっておる」

マリンもお母さんも妻は多い方が楽しいという。

俺はエリカさんの方を見た。

「ラン君、責任取りなさい」

俺は觀念した。なんと言ってもこんなにウブなマリンを振るなんて出来ない。

「分かりました。マリンさんを娶ります」

「うむ。幸せにしてやってくれ」

とお父さん。

「マリン、旦那様にしっかり尽くすのよ」

とお母さん。

(うん、幸せになる。ランス、ふつつかものですが、よろしくお願いします)

こうなった以上大切にしよう。

「はい、大切にします」

人魚は嫁いだその日から旦那と一緒に暮らすという。結婚式などはないそうだが、嫁入り道具があるそうで、それは後ほどカメたちが届けてくれるらしい。

俺はマリンを連れて島に帰った。というか、マリンとカメが俺たちを島まで連れ帰ってくれた。

マリンはしばらくは二本足で暮らすそうだ。声が出ない以外には全く問題がないらしい。妻2人にはエリカさんが説明してくれると言ってくれた。

よし、ちょっと想定外のことがありすぎたけど、沢山できた嫁たちを養うためにも、頑張ってお金を稼ぐぞ。

そして、俺たちの敵は全てぶちのめす。
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