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リヴァイアサン

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アラは慣れた様子で一本道をスタスタと先を歩いて行く。少し上に勾配している。

俺たち3人は置いて行かれないように歩みを速める。あ、前を歩いていたレラが消えた。

「アラ、レラがいなくなった!」

(大丈夫、待機室に移動させられたか、先に会っているかのどちらか)

後ろを振り返ってみたら、エリカさんはいた。エリカさんもレラがいなくなって驚いている。

そのまま歩みを再開した。エリカさんが俺をガードするために腕を組んで歩いてくれた。花の香りがふんわりとする。横顔もとても美しい。腕にたまに柔らかいものが当たるが、極力気にしないようにする。

(もうあと少し)

アラが教えてくれる。

勾配がなくなり、道が水平になる。前を行くアラが立ち止まった。さっきまで何も見えていなかったところに、入り口と同じような扉が出現している。

「リヴァイアサン様、リンリンとエリカです」

アラが声に出して告げた。

扉がギギギと音を立てて開いた。薄暗い部屋の中が見えて来た。奥の椅子に美しい少女が座っていて、その左側にはレラが伏していた。無事そうで安心した。

「アラ、お前も入ってよいぞ。3人とも近くまで来い」

奥の少女が声を発した。見た目にそぐわない大人の女性の艶のある声だった。

部屋は10メートル四方ぐらいだと思う。窓のない真っ暗な部屋を電球色の光が四隅の燭台から発せられ、部屋をやんわりと控えめに明るくしていた。

俺を真ん中にして、左側にアラ、右側にエリカさんで前に進む。もう腕は組んでいない。俺が一歩前を歩く感じだ。

「そこまででよいぞ」

俺たちは立ち止まった。非常に美しい少女だが、紫色の髪と銀色の目をしていて、人間ではないことがわかる。俺はリトマス紙を当ててみた。

「ほう、面白いスキルを持っているな。妾は永久に紫じゃぞ。敵にも味方にもならん」

どきりとした。確かに紫だった。

「大変失礼致しました。ランスロット・シラーと申します」

「エリカ・ウェストウッドと申します」

「まあ、そう堅苦しくしなくてもよい。楽に致せ。早速じゃが、ランスロット、おぬし、おいしいものを作っては魔獣たちを味方につけているそうじゃな。妾もちょいと試食してみたいんじゃが、よいか?」

「もちろんでございます。なんでもお持ちいたします」

「うむ。ただ、ここに持ってくるまでに冷めてしまうし、欲しいときに欲しいものを食べられないではないか。妾がおぬしの小屋にしばし滞在したいと思うのじゃが、よいかの?」

「え? 小屋にですか? は、はい、大丈夫でございます。いつからいらっしゃいますか?」

「もちろん、今からじゃ」

大変なことになってしまった。リヴァイアサンは海神様だ。こんな方がいらっしゃるなんて。客間を作ってもらっておいてよかったよ。

めっちゃ緊張したが、なんとか小屋までリヴァイアサンをご案内した。事前にレラからいくつかのメニューを聞いていたようで、まずはカレイの煮つけをご所望だった。レラを先に呼んだのはそういうことだったのか。

母さんとすみれさんに少女の正体を知らせ、さっそくカレイの煮つけを作ってもらった。

「な、なんと、なんという美味じゃ!!」

リヴァイアサンの目がこれでもかというほど見開いている。

「妾の真名はリューシュじゃ。そちたちには真名を呼ぶことを許そう」

アラさんがびっくりしている。

「あ、あの、リヴァイアサン様、私も真名をお呼びしてよろしいでしょうか?」

「もちろんじゃ、アラがこの者たちを紹介せねば、妾はこれを食する機会に恵まれなかったのじゃからな」

アラさんが感激して涙を流している。そんなにすごいことなのか?

「では、次は牛丼とやらを食したい」

リューシュさんは見た目に似ず、とても食いしん坊だった。
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