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第九章 アルデラルド
メイリンの事前調査
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第三王女の名前はメイリンという。
数カ月前、隣国の皇太子との婚約を一方的に破棄して、嫁いで来いといわれた先は、リンリンという6歳児だった。
大叔母のカトリーヌが嫁いでおり、すでに23人の妃がいて、メイリンは24番目の妃だということだ。
隣国の皇太子との婚約は。正妻としての立場だった。すなわち、次期王妃が約束されていたのだ。それを蹴ってまで、子供の24番目の妃になれとは。
最初に聞いたとき、メイリンは両親が冗談を言っているとしか思えず、しかし、両親があまりにも真剣な顔をしていたので、おかしすぎて笑ってしまったほどだ。
その後、本気だとわかってからは、むしろそこまでしてメイリンを嫁がせようとするリンリンという人物に興味が湧いて来た。
母マリアンヌに頼んで、彼女と一緒に転移を何度か行い、リンリンの情報収集を行った。マリアンヌもメイリンも王室の一員とは思えないほどフットワークが軽かった。
星のちょうど裏側のダルムンドという国がどうやら故郷らしく、そこで何かをしようとしているところまで掴んだとき、ダルムンドの王女を娶る話を聞きつけた。
しまった、先を越された、とマリアンヌと2人で地団太踏んだが、後の祭りだ。すぐに王からメイリンも娶るよう申し入れをしてもらった。王族の輿入れとしては、2番目になってしまったが、24番目か25番目の違いだ。大した差ではないだろう。
ダルムンドの王女との婚儀のパレードに一般客に紛れてマリアンヌと参加した。
まず、妃たちの美しさに圧倒された。メイリンは自分の容姿に自信を持っていたし、いまだかつて、自分以上の美人を見たことがなかったが、23人の美貌は圧倒的で、ひょっとして自分は負けているんじゃないか、と思ってしまった。特に最後の正妻の美しさにはひれ伏すしかなく、いつか自分もああなりたい、と憧れてしまった。
母のマリアンヌに言わせると、メイリンにもカトリーヌおばさんぐらいの美貌はあるから大丈夫とのことだったが、正妻の人のことを言うと、頑張りなさい、と言われてしまった。
問題のリンリンだが、全く姿を見ることができなかった。ただ、パレードの入り口あたりの群衆には仮面をかぶってはいたが、手を振ったらしい。あとで、見た人を何人か見つけて聞いたところ、女性は皆口をそろえて、あんなに優しくされたことはない、もう一度会いたい、一生ついて行きたいと言っていた。男性に聞くとただ手を振っただけらしい。
一体何が起きたのかとマリアンヌとメイリンは考えてみるが、まるで答えが出てこない。どうやら本当にただ手を振っただけで、数十人もの女性が担架で運ばれたらしい。
そういえば、冒険者組合の美女の双璧と言われ、王室も妃候補として調査に乗り出したエリーゼとキョウコもリンリンに嫁いでいるが、彼女たちの話も奇妙だった。エリーゼはリンリンとは、一度しか面識がなく、応接室ですれ違っただけで、リンリンにのぼせ上がり、組合を辞め、数週間血眼になってリンリンを探し出し、彼女自ら当時5歳だったリンリンに求婚したという。
キョウコの場合は、リマの温泉宿の大浴場で、たまたまリンリンを胸に抱いたエリーゼといっしょになり、少し話しただけだ。その1時間後、キョウコは半狂乱になって、エリーゼとリンリンを探し回り、多くの客がいる旅館の廊下で、リンリンを出せ、会わせろと大騒ぎをして、一生ついて行きたいと嘆願したらしい。
正気の沙汰ではない。誰がそんな話を信じるか、と思っていたが、パレードで手を振っただけで数十人を担架送りするほどの女性キラーぶりをみると、エリーゼとキョウコの話は本当なのかもしれない。
調査も終盤になったころ、ダルムンドの王女の侍女に接触することができた。初夜というか、真昼間から王女といたした話だ。
ダルムンドの王女は美しく気位の高い淑女と聞いていて、侍女もそのように話していたが、あの時だけは別人だったという。最初は猛獣のような叫び声を何度も何度もあげたので、拷問でも始まったのかと思ったらしい。ところが、色気のある悩ましい声が混じったり、何度も果てるような声が聞こえたり、やはりあっちの方の声だと侍女は確信したと拳を握って力説していた。
ただ、とにかくものすごい音量で、離れに待機している両親の耳にまで届いていたらしい。その声が次第に妖艶な喘ぎ声になっていき、最後に何度も何度も悦びの声をあげ、遂には失神してしまったということだ。
リンリンは何事もなかったかのような涼しい顔で姫を置いて出て行ってしまったようで、その後は、信じられないぐらい美しい女性が姫のケアをしていたという。
「お嬢様よりきれいな人を初めて見ました」
と侍女は顔を赤らめて言っていた。きっと正妻だろう。
侍女は王女が気づいた後の湯あみに付き合ったそうだが、姫は全く歩けない状態で、全身がピンク色に染まり、侍女が支えるとビクンと反応してしまうほど敏感になっていたらしい。
「あんなお嬢様は初めてです」
と侍女は顔を赤らめていた。聞いているこちらも恥ずかしくなる。
(私そんな人のお嫁さんになるのね)
メイリンはなんだかワクワクしてきた。
数カ月前、隣国の皇太子との婚約を一方的に破棄して、嫁いで来いといわれた先は、リンリンという6歳児だった。
大叔母のカトリーヌが嫁いでおり、すでに23人の妃がいて、メイリンは24番目の妃だということだ。
隣国の皇太子との婚約は。正妻としての立場だった。すなわち、次期王妃が約束されていたのだ。それを蹴ってまで、子供の24番目の妃になれとは。
最初に聞いたとき、メイリンは両親が冗談を言っているとしか思えず、しかし、両親があまりにも真剣な顔をしていたので、おかしすぎて笑ってしまったほどだ。
その後、本気だとわかってからは、むしろそこまでしてメイリンを嫁がせようとするリンリンという人物に興味が湧いて来た。
母マリアンヌに頼んで、彼女と一緒に転移を何度か行い、リンリンの情報収集を行った。マリアンヌもメイリンも王室の一員とは思えないほどフットワークが軽かった。
星のちょうど裏側のダルムンドという国がどうやら故郷らしく、そこで何かをしようとしているところまで掴んだとき、ダルムンドの王女を娶る話を聞きつけた。
しまった、先を越された、とマリアンヌと2人で地団太踏んだが、後の祭りだ。すぐに王からメイリンも娶るよう申し入れをしてもらった。王族の輿入れとしては、2番目になってしまったが、24番目か25番目の違いだ。大した差ではないだろう。
ダルムンドの王女との婚儀のパレードに一般客に紛れてマリアンヌと参加した。
まず、妃たちの美しさに圧倒された。メイリンは自分の容姿に自信を持っていたし、いまだかつて、自分以上の美人を見たことがなかったが、23人の美貌は圧倒的で、ひょっとして自分は負けているんじゃないか、と思ってしまった。特に最後の正妻の美しさにはひれ伏すしかなく、いつか自分もああなりたい、と憧れてしまった。
母のマリアンヌに言わせると、メイリンにもカトリーヌおばさんぐらいの美貌はあるから大丈夫とのことだったが、正妻の人のことを言うと、頑張りなさい、と言われてしまった。
問題のリンリンだが、全く姿を見ることができなかった。ただ、パレードの入り口あたりの群衆には仮面をかぶってはいたが、手を振ったらしい。あとで、見た人を何人か見つけて聞いたところ、女性は皆口をそろえて、あんなに優しくされたことはない、もう一度会いたい、一生ついて行きたいと言っていた。男性に聞くとただ手を振っただけらしい。
一体何が起きたのかとマリアンヌとメイリンは考えてみるが、まるで答えが出てこない。どうやら本当にただ手を振っただけで、数十人もの女性が担架で運ばれたらしい。
そういえば、冒険者組合の美女の双璧と言われ、王室も妃候補として調査に乗り出したエリーゼとキョウコもリンリンに嫁いでいるが、彼女たちの話も奇妙だった。エリーゼはリンリンとは、一度しか面識がなく、応接室ですれ違っただけで、リンリンにのぼせ上がり、組合を辞め、数週間血眼になってリンリンを探し出し、彼女自ら当時5歳だったリンリンに求婚したという。
キョウコの場合は、リマの温泉宿の大浴場で、たまたまリンリンを胸に抱いたエリーゼといっしょになり、少し話しただけだ。その1時間後、キョウコは半狂乱になって、エリーゼとリンリンを探し回り、多くの客がいる旅館の廊下で、リンリンを出せ、会わせろと大騒ぎをして、一生ついて行きたいと嘆願したらしい。
正気の沙汰ではない。誰がそんな話を信じるか、と思っていたが、パレードで手を振っただけで数十人を担架送りするほどの女性キラーぶりをみると、エリーゼとキョウコの話は本当なのかもしれない。
調査も終盤になったころ、ダルムンドの王女の侍女に接触することができた。初夜というか、真昼間から王女といたした話だ。
ダルムンドの王女は美しく気位の高い淑女と聞いていて、侍女もそのように話していたが、あの時だけは別人だったという。最初は猛獣のような叫び声を何度も何度もあげたので、拷問でも始まったのかと思ったらしい。ところが、色気のある悩ましい声が混じったり、何度も果てるような声が聞こえたり、やはりあっちの方の声だと侍女は確信したと拳を握って力説していた。
ただ、とにかくものすごい音量で、離れに待機している両親の耳にまで届いていたらしい。その声が次第に妖艶な喘ぎ声になっていき、最後に何度も何度も悦びの声をあげ、遂には失神してしまったということだ。
リンリンは何事もなかったかのような涼しい顔で姫を置いて出て行ってしまったようで、その後は、信じられないぐらい美しい女性が姫のケアをしていたという。
「お嬢様よりきれいな人を初めて見ました」
と侍女は顔を赤らめて言っていた。きっと正妻だろう。
侍女は王女が気づいた後の湯あみに付き合ったそうだが、姫は全く歩けない状態で、全身がピンク色に染まり、侍女が支えるとビクンと反応してしまうほど敏感になっていたらしい。
「あんなお嬢様は初めてです」
と侍女は顔を赤らめていた。聞いているこちらも恥ずかしくなる。
(私そんな人のお嫁さんになるのね)
メイリンはなんだかワクワクしてきた。
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