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第八章 ダルムンド
ロザンヌ姫
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宰相たちが奔走していた頃、後宮でも王妃が難題に取り組んでいた。ロザンヌ王女の説得である。
ダルムンド一の美女である我が娘はダルムンド一のわがまま娘でもあった。
どこの誰とも分からぬ子供の24番目の妃で、かつ、最初は妻ではなく愛人からのスタートという条件に納得するはずはなかった。
王である夫が溺愛している娘をなぜこのような悪条件の相手に無理矢理嫁がせようとするのか、王妃にも理由が分からなかった。
夫は国のためでもあるし、娘のためでもある、と繰り返すばかり。王妃自身が納得できないのに、娘の説得は無理だと何度も訴えたところ、縁組みをする前に、相手が一度会ってくれることになった。
当然相手が後宮に出向いて来るかと思いきや、こちらから相手の城に参上しなければならないという。ダルムンドの国において、王妃が出向くのは、王か王太后だけだ。娘の相手は王と同等以上だというのか。
「母上様、リンリンというものはいったい何者なのです。私だけではなく、母上様まで出向かなければいけない相手など、あり得ません」
「ロザンヌ、一度見て、気に食わなければ破談にしましょう。今回だけは王の決定が理解できません。ただ、王も何だか必死なのです。少しだけ付き合ってあげましょう」
リンリンの城はアスタロト城という名前らしい。湖の真ん中に土を盛って建てられた美しい城だった。城までは船で行くという。船を操舵しているのは女性だったが、ロザンヌに匹敵するとても美しい女性だった。
王妃は女性があまりにも美しいため、興味を持った。
「娘、名はなんという」
「ラクタでございます」
「その、リンリン殿は、そちのような美しい娘を船頭にしておるのか?」
「この城にはリン君以外は美しい女性しかおりません」
「リン君?」
「さあ、着きました。お足元にお気をつけ下さい」
ロザンヌは思った。このラクタという娘、言葉は丁寧だが、王妃に対してへりくだった様子が全くない。むしろ対等以上の態度だ。どうにも気に食わないが、今は様子を見よう。
「謁見の間までご案内します」
王妃は思った。謁見? やはり我らよりも目上だというのか。屈辱的な対応だが、ここで怒って帰っても仕方がない。とことん付き合ってあげようじゃないの。
ラクタという娘が恐らく魔法で扉を開けたのだろう。観音開きの重厚な扉がゆっくりと開いていく。
一番奥の玉座なような椅子に小さい子供が座っている。恐らくあれがリンリンだろう。大理石のフロアだが、その玉座まで真っ直ぐに絨毯の道がのびていて、左右に非常に美しい女性たちが並んでいる。王妃から見て左側に11名、右側に12名だ。
なるほど、12名の方が妻、11名の方が愛人か。ロザンヌはこの左側の一番末席だということか。とことん貶めてくれるわね。ふとロザンヌを見ると、怒り心頭といった感じで顔を真っ赤にしている。
(気持ちは分かるけどもう少しだけ我慢してね)
(お母様、こんな屈辱は初めてですわ。この私が24番目ですの?)
娘の気持ちは分かるが、王妃は少しリンリンという子供に興味が出て来た。勢揃いしている女性達は神がかった美しい女性ばかり。今まで我が娘ほど美しい女性はいないと思っていたが、ここに23人もいる。さっきのラクタという娘を入れると24人もだ。これだけの女性を率いる魅力が、あの幼児にあるということだ。それは一体なんなのか。
「リン君、ダルムンドの王妃と王女よ。王妃の方は王を愛しているから、話しても大丈夫よ」
(な、何を言っているのだ、このラクタという娘は。王妃である私に失礼であろう)
「ラクタさん、失礼ですよ。王妃さま、王女さま、お呼びだてして申し訳ございませんでした」
子供が立って謝罪を口にした。その瞬間、そんなに謝らせてしまって、ものすごく申し訳ない気持ちになる。
「しのぶさん、かなえさん、お二人に椅子を」
愛人列から2人出て、椅子を用意してくれた。王妃はリンリンの心遣いに涙が出るほど感動してしまっていた。横の娘を見ると娘も目を潤ませていた。
「今日はわざわざお越し頂きありがとうございました。道中お疲れでしょう。冷たいお茶をご用意しています」
王妃には妻の列の筆頭の女性が、ロザンヌにはリンリンがお茶を持っていった。
えっ? リンリンさん自らお茶を運んでくださるなんて。ロザンヌは感激のあまり、全身に鳥肌が立ち、身体中を悦びが駆け抜ける。こんな殿方が世の中にいたなんて。ロザンヌは女に生まれて来たことを神に感謝した。
「ロザンヌさん、僕には妻が12名、愛人が11名いますが、皆に等しく愛を捧げています。ロザンヌさんが入ると愛人の12番目ですが、皆と同じ愛を捧げることを約束します」
「ありがとうございます。リンリン殿、ロザンヌ、この身も心もリンリン殿に捧げます」
ロザンヌは今までの憤怒はどこに行ったやら、ここでリンリンにかじりついででもお側においていただかないと、一生後悔すると思ったのだ。
隣りの娘の豹変ぶりを目の当たりにしていた王妃も、至極当然だと思っていた。王がいなければ、王妃がリンリンに嫁ぎたいほどなのだ。王を愛してはいるが、リンリンには抗うのが難しいほどの魅力がある。想い人のいない娘が一瞬で陥落してしまうのは仕方のないことだった。
妻の列の筆頭の位置の女性が発言した。
「ロザンヌ、これからあなたは王妃ではないわ。私たちの仲間よ。同じ夫を愛する絆で結ばれた一蓮托生の関係よ。私はフローラ、リンリン君の第一夫人よ。覚えておきなさい」
第一夫人という言葉に妻の列がざわついたが、確かに一番最初の妻には違いない。特に異論はでなかった。
「王妃さま、ロザンヌ姫も僕を認めてくれたようですので、婚儀の儀をよろしくお願いいたします」
「かしこまりましたわ、リンリン殿。娘をよろしくお願いいたします。本日はこれにて引き取らせていただきます」
王妃と王女は2人とも満足した面持ちで、岐路についた。
ダルムンド一の美女である我が娘はダルムンド一のわがまま娘でもあった。
どこの誰とも分からぬ子供の24番目の妃で、かつ、最初は妻ではなく愛人からのスタートという条件に納得するはずはなかった。
王である夫が溺愛している娘をなぜこのような悪条件の相手に無理矢理嫁がせようとするのか、王妃にも理由が分からなかった。
夫は国のためでもあるし、娘のためでもある、と繰り返すばかり。王妃自身が納得できないのに、娘の説得は無理だと何度も訴えたところ、縁組みをする前に、相手が一度会ってくれることになった。
当然相手が後宮に出向いて来るかと思いきや、こちらから相手の城に参上しなければならないという。ダルムンドの国において、王妃が出向くのは、王か王太后だけだ。娘の相手は王と同等以上だというのか。
「母上様、リンリンというものはいったい何者なのです。私だけではなく、母上様まで出向かなければいけない相手など、あり得ません」
「ロザンヌ、一度見て、気に食わなければ破談にしましょう。今回だけは王の決定が理解できません。ただ、王も何だか必死なのです。少しだけ付き合ってあげましょう」
リンリンの城はアスタロト城という名前らしい。湖の真ん中に土を盛って建てられた美しい城だった。城までは船で行くという。船を操舵しているのは女性だったが、ロザンヌに匹敵するとても美しい女性だった。
王妃は女性があまりにも美しいため、興味を持った。
「娘、名はなんという」
「ラクタでございます」
「その、リンリン殿は、そちのような美しい娘を船頭にしておるのか?」
「この城にはリン君以外は美しい女性しかおりません」
「リン君?」
「さあ、着きました。お足元にお気をつけ下さい」
ロザンヌは思った。このラクタという娘、言葉は丁寧だが、王妃に対してへりくだった様子が全くない。むしろ対等以上の態度だ。どうにも気に食わないが、今は様子を見よう。
「謁見の間までご案内します」
王妃は思った。謁見? やはり我らよりも目上だというのか。屈辱的な対応だが、ここで怒って帰っても仕方がない。とことん付き合ってあげようじゃないの。
ラクタという娘が恐らく魔法で扉を開けたのだろう。観音開きの重厚な扉がゆっくりと開いていく。
一番奥の玉座なような椅子に小さい子供が座っている。恐らくあれがリンリンだろう。大理石のフロアだが、その玉座まで真っ直ぐに絨毯の道がのびていて、左右に非常に美しい女性たちが並んでいる。王妃から見て左側に11名、右側に12名だ。
なるほど、12名の方が妻、11名の方が愛人か。ロザンヌはこの左側の一番末席だということか。とことん貶めてくれるわね。ふとロザンヌを見ると、怒り心頭といった感じで顔を真っ赤にしている。
(気持ちは分かるけどもう少しだけ我慢してね)
(お母様、こんな屈辱は初めてですわ。この私が24番目ですの?)
娘の気持ちは分かるが、王妃は少しリンリンという子供に興味が出て来た。勢揃いしている女性達は神がかった美しい女性ばかり。今まで我が娘ほど美しい女性はいないと思っていたが、ここに23人もいる。さっきのラクタという娘を入れると24人もだ。これだけの女性を率いる魅力が、あの幼児にあるということだ。それは一体なんなのか。
「リン君、ダルムンドの王妃と王女よ。王妃の方は王を愛しているから、話しても大丈夫よ」
(な、何を言っているのだ、このラクタという娘は。王妃である私に失礼であろう)
「ラクタさん、失礼ですよ。王妃さま、王女さま、お呼びだてして申し訳ございませんでした」
子供が立って謝罪を口にした。その瞬間、そんなに謝らせてしまって、ものすごく申し訳ない気持ちになる。
「しのぶさん、かなえさん、お二人に椅子を」
愛人列から2人出て、椅子を用意してくれた。王妃はリンリンの心遣いに涙が出るほど感動してしまっていた。横の娘を見ると娘も目を潤ませていた。
「今日はわざわざお越し頂きありがとうございました。道中お疲れでしょう。冷たいお茶をご用意しています」
王妃には妻の列の筆頭の女性が、ロザンヌにはリンリンがお茶を持っていった。
えっ? リンリンさん自らお茶を運んでくださるなんて。ロザンヌは感激のあまり、全身に鳥肌が立ち、身体中を悦びが駆け抜ける。こんな殿方が世の中にいたなんて。ロザンヌは女に生まれて来たことを神に感謝した。
「ロザンヌさん、僕には妻が12名、愛人が11名いますが、皆に等しく愛を捧げています。ロザンヌさんが入ると愛人の12番目ですが、皆と同じ愛を捧げることを約束します」
「ありがとうございます。リンリン殿、ロザンヌ、この身も心もリンリン殿に捧げます」
ロザンヌは今までの憤怒はどこに行ったやら、ここでリンリンにかじりついででもお側においていただかないと、一生後悔すると思ったのだ。
隣りの娘の豹変ぶりを目の当たりにしていた王妃も、至極当然だと思っていた。王がいなければ、王妃がリンリンに嫁ぎたいほどなのだ。王を愛してはいるが、リンリンには抗うのが難しいほどの魅力がある。想い人のいない娘が一瞬で陥落してしまうのは仕方のないことだった。
妻の列の筆頭の位置の女性が発言した。
「ロザンヌ、これからあなたは王妃ではないわ。私たちの仲間よ。同じ夫を愛する絆で結ばれた一蓮托生の関係よ。私はフローラ、リンリン君の第一夫人よ。覚えておきなさい」
第一夫人という言葉に妻の列がざわついたが、確かに一番最初の妻には違いない。特に異論はでなかった。
「王妃さま、ロザンヌ姫も僕を認めてくれたようですので、婚儀の儀をよろしくお願いいたします」
「かしこまりましたわ、リンリン殿。娘をよろしくお願いいたします。本日はこれにて引き取らせていただきます」
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