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第八章 ダルムンド

エーデンリッヒ伯爵家

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ダルムントでは王の勅命を受け、宰相以下の政務担当者がエーデンリッヒ伯爵家の取り潰し作業に奔走していた。

エーデンリッヒ伯爵家は数百年に渡って、現王朝の歴代の王を支えてきた忠臣の家系であり、貴族の中の貴族とまで言われる名門である。当然、宰相以下、全家臣が勅命の撤回を求めたのだが、王の意志は固かった。

反対者は全員罷免し、賛成多数になるまで罷免し続けると言われ、さらに、軍隊を動かして軍事政権に切り替えるとまで言われては、勅命に従うしかなかった。

現王はここ数代の王の中でも突出した政治手腕と人徳を持ち合わせ、ダルムントに最盛期をもたらしている稀代の名君だ。きっと何らかの理由があるのだろう。

勅命に従うと決めてからの宰相たちの動きは早かった。これだけの名門貴族を取り潰すには大義名分が必要だ。現エーデンリッヒ伯爵当主の身辺調査、過去の所業などを徹底的に洗い出し、取り潰しするに値する理由を作り上げた。

そして、勅命を受けてから、わずか3日後には、王に取り潰しの上奏文を隣領のカイエン侯爵の名で提出するまでに至ったのである。

1週間に1度開かれる貴族会議の席に、エーデンリッヒ伯爵も参列していた。いつものように各議題が処理されて行き、最後に宰相から本日はある上奏文の採決をしたい旨、議長に申請があった。上奏文が書記官によって高々と読み上げられた。

上奏文の内容を聞いて、エーデンリッヒ伯爵を我が耳を疑った。

エーデンリッヒ伯爵家の取り潰しだと?

理由がつらつらと並べ立てられる。そのほとんどは身に覚えのないものだが、中には真実も混じっていた。ただ、それはどこの貴族もやっていることであり、通常であればお咎めどころか、話題にすらならないものだ。

議長が裁決を取っている。なんと、エーデンリッヒ伯爵以外は全員が賛成だった。

「な、何かの間違いだ。反論する機会を与えてほしい」

エーデンリッヒ伯爵は叫ぶが、今まで面倒を見てやった貴族を含め、だれも取り合おうとしない。エーデンリッヒ伯爵の発言は無視されたまま、貴族会議は終了し、エーデンリッヒ伯爵家取り潰しの件は決定となってしまった。

王が玉座を立ち、去って行く。

「陛下、いったい私が何をしたというのです!? ご再考をお願いします!!」

エーデンリッヒ伯爵が王に向かって叫ぶと、衛兵たちがエーデンリッヒ伯爵を取り押さえた。王は振り返って言った。

「貴殿の妻が腹黒だから取り潰せ、との神からの詔があった。国を潰す代わりに、伯爵家を潰すのだ。最後の忠義、ありがたく受け取るぞ」

王が退出し、貴族も退出していく、衛兵も下がり、エーデンリッヒ伯爵が1人残された。

「父さま」

エーデンリッヒ伯爵は顔を上げた。そこには我が息子リンリンと2人の美しい女性が立っていた。

「リンリンか! 生きていたのか!?」

不幸中の幸いか。絶望視していたリンリンが生きていた。亡き妻の忘れ形見だ。ずっと心配していた。

「ええ、母さまに崖から落とされて、殺されかけましたけど、何とか生き延びました」

「まさか、そんなバカな。いくらなんでも・・・」

「セシルさんが守ってくれなかったら死んでました」

「王の言っていた腹黒というのはそのことか?」

そういえば息子は周りの大人から好かれる子供だった。しかし、さすがに王を動かせるとは思えない。

「まあ、そんなところです。僕から王に頼みました」

「お前、なんてことを。先祖代々引き継いで来たエーデンリッヒ家を潰すなんてことを」

「そうでもしないと母さまは目を覚しませんよ」

そうかも知れないが、エーデンリッヒ伯爵にはなかなか受け入れられない選択だった。ふと美しい女性たちがリンリンを守るように立っていることに気がついた。

「ところで、そちらの女性はどういった方々なんだ?」

「こちらは妻のマリ、こちらは女神のラクタさん」

「妻? お前まだ子供だぞ。あと女神だと?」

「父さま、まずは一度、受け入れて下さい。少なくとも父さまとセイラは救いますから」

「いや、そうは言ってもだな」

「もう取り潰しは決まったのですよ。少し休んで下さい。不安はほら、なくなったでしょう?」

確かに不思議なことに心が落ちいて行く。女神という女性の力なのだろう。

「分かった。女神さま、リンリンをよろしくお願いします」

今さらジタバタしても仕方がない。あの王や貴族たちの態度を見るに、今の状況をエーデンリッヒ伯爵がどうこう出来るとは思えなかった。まだ子供だが、不思議な力を持つ息子に託すしかないだろう。
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