公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
46 / 47
第五章 告白

結婚式と十四年後

しおりを挟む
戴冠式は豪華な衣装に身を包んだルイーゼが、教皇から最後に王冠を受け取り、自ら装着することで完了した。

その後、ルイーゼはウェディングドレスに着替え、三千人の参加者が見守る中、正装で身を固めた緊張気味のリンクの隣に進み、教皇の前で二人で交互に宣誓し、指輪の交換を行った。

そして、ルイーゼはリンクと誓いの口づけを交わした。

結婚式は無事終了し、ルイーゼは初夜を迎えた。初めてはすでに先日フライングしてしまっている。婚前交渉が死罪という法律も撤廃しようと思うが、あの日は二人で夫婦になると誓ったのだから、ギリギリセーフということにしている。

寝室にリンクが入って来た。リンクはルイーゼに優しい。寝所でも最初から最後までソフトに扱ってくれる。自分勝手な動きがなく、常にルイーゼを第一に考えてくれた。

(私、幸せすぎて、とろけそうですわ)

***

そして、十四年の時が経過した。

今日はルイーゼの命日だった日だ。

朝からリンクは緊張していた。クラウスは死を回避して、すでに子供が二十人もいて、殺しても死にそうにないが、ルイーゼが死を回避しているかどうか、今日が過ぎないと安心できない。

リンクとルイーゼの間にはまだ子供がいない。避妊しているわけではないので、リンクに問題があるのではないかとリンクは心配していた。別の世界のルイーゼはアンリを産んでいるから母体に問題はないからだ。

今日という日が無事に終わって欲しい。リンクはそう願うのだった。

***

アンリは組織の魔法使いのところにいた。整形魔法を解除するためだ。

アンリは三十歳になったが、美貌はいささかも衰えていない。マッチョ二人は依然健在で、相変わらずアンリは二人と仲良くお付き合いしている。

マッチョ二人はアンリの素顔を知らない。今日、整形魔法を解くことで、二人とも失うかもしれないが、アンリは母親に激似している本来の自分の容姿が好きだった。

「魔法を解くわよ。いいわね?」

「はい、お願いします」

魔法使いは魔法を解いた。髪と目の色も元に戻した。そして、黙って鏡を置いた。

「ああ、本当の私だわ。お帰りなさい。アンリ・アードレー」

アンリの美貌はさらに磨きがかかり、母のルイーゼとはわずか二歳の差で、双子かと見紛うほど酷似していた。

アンリは普段通り、アードレー家に出勤した。使用人たちが狼狽えているのがおかしい。それはそうだ。ルイーゼがアンリのコスプレをして歩いているように見えたからだ。

アンリは執務室のドアの前まで来た。緊張する。ルイーゼが自分を受け入れてくれるかどうか、一抹の不安があった。

「姉さま、おはようございます」

「あら? 髪の色と目の色を変えたの? 化粧の仕方も変わって、随分と見た目が変わったわね、アンリ。ひょっとして結婚相手を決めたのかしら?」

「姉さま、結婚もですが、その前にお話が」

「なあに?」

(姉さまは私の容姿を見て、自分に似ていると思わないのかしら。毎回、姉さまには拍子抜けさせられるわ)

「今の私の容姿が本来の私の容姿で、今までは魔法で姿を少し変えてました」

「ええ、知ってたわよ」

「え? リンクがすでに話したのでしょうか」

「いいえ、最初から気づいていたわよ。元の髪と目の色は分からなかったけれど、顔が私に似ていることには気づいていたわよ。ただ、ここまで似ているとは思わなかったけど。あなた、お母様の隠し子でしょう!」

(なるほど、そう来たか。ただ、完全に間違っているのに、言ってやったみたいなドヤ顔を決めるのはやめてほしい)

「いいえ、姉さま、私はあなたの娘です」

ルイーゼの目が点になった。そして、そのまま椅子の上で気を失ってしまった。

アンリは慌ててルイーゼのところに駆け寄った。よかった、死んではいない。

「姉さま、大丈夫? 医者を、誰か医者を呼んできてっ」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...