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第四章 復讐

衝突

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グリム将軍率いる王家の軍が北上し、アードレー家との境界線付近に布陣したとの一報が前線から届けられた。

アードレー家の現当主ロバートは大胆な戦略をとった。ルイーゼを総大将に任命したのである。

「お父様は何をお考えなのかしら。戦争ど素人の私にどうしろと思ってらっしゃるのかしら」

ルイーゼは珍しく愚痴った。

「姉さま、いつもリンクが言ってるじゃないですか。出来る人に任せれば良いのです」

最近はアンリがずっと参謀役としてルイーゼについていた。リンクは契約貴族の領地に侵攻してくる王家軍を撃退しており、各地を転々としていたのである。

「クラウスね。クラウスを呼んできてくれる?」

ルイーゼは安心した。そうだった。自分には戦争の専門家がいたのだった。

「クラウス様は毎日ドアの外で待機されています」

「え? そうなの? クラウス、お入りなさい」

クラウスがすぐにルイーゼの御前に片膝をつく。

「何なりとご用命を」

「王家の兵が国境線に現れたそうなの。対応をお願いしたいのよ」

「かしこまりました。撃退するだけでよいでしょうか。それとも、二度と反抗できないように徹底的に潰しましょうか」

「そうね。徹底的に潰した後、王宮まで攻め込んで、アルバートに失禁させることはできるかしら?」

クラウスは目を見開いた。

「かしこまりました。生ぬるい提案をしてしまいました。必ずや失禁させて参ります」

「お願いね」

(私はリンクさんのことに集中したいの。アルバート、邪魔するなら死んでもらうわよ)

クラウスは詰所に直行した。ベンツはクラウスが騎士になった時点で『逃がし屋』の任務は完了とのことだったが、王家との戦闘時には友情参戦してくれることになっていた。

クラウスは詰所にいた兵士にベンツへの伝令を依頼した。アードレー家の守備をベンツに依頼し、アードレー家直轄領の全兵力20万を徴兵し、グリム隊を蟻の如く踏み潰し、そのまま王都に侵攻する作戦である。

ただでさえアードレー家が戦力で圧倒しているのに、兵力を分散させ、少数で直轄領を攻めるとは愚の骨頂である。契約貴族の連携を阻止する狙いがあったのだろうが、アードレー家の力を見誤り過ぎだ。愚か者には死の鉄槌を下す。

ただ、クラウスはこれだけの兵力差があっても、力任せに踏み潰すような作戦はとらない。兵の消耗をできる限り少なくするため、ありとあらゆる戦術を使用して、相手の戦力を削る作戦に出た。

クラウスが国境線に配備した兵は五千だった。その後方に20万の兵を待機させた。グリム将軍がアードレー家本領奥深くまで突撃するという情報を宰相代理のリットンから入手していたからである。

***

グリム将軍が偵察隊の報告を聞いていた。

「敵兵は約五千です」

「そうかそうか、陽動作戦がうまく行ったようだな。よし、時間との勝負だ。他の貴族の支援が入る前にアードレー卿の首をあげるぞ」

王家軍一万が境界戦を越えて進軍した。アードレー軍の五千は少し矛を交えた後、すぐに敗走を始めた。自軍のトラップ地帯に誘導するためである。

かなりバレバレの挑発と敗走だったが、脳筋グリムにはよく効いた。また、敵陣ではもっと慎重に行動した方がいいといった提案をするものは王家軍にはいなかった。

「ははは、やはり百戦錬磨の王家軍には敵わぬと見えるな。一気に畳み掛けるぞ」

自身の武力に頼って猪突猛進を繰り返すグリム将軍のことを熟知するクラウスによって、王家軍はアードレー家の術中にどっぷりとはまって行く。

落とし穴に落ち、崖から岩を落とされ、伏兵に矢を放たれ、百人、二百人と兵を削られて行く。

「グリム将軍、罠です! 兵が至る所で攻撃や罠にやられています」

王家軍は境界線から五キロの地点で進軍を止められ、大混乱となっていた。

そんな混乱状態の王家軍の前に20万の兵が姿を現した。

「て、敵の援軍です。多過ぎて分かりませんが、十万以上います」

「何だとっ!?」

「グリム将軍、敵からの伝言です。敵対するなら殺す。一緒に王都を攻めるなら傭兵として雇う、だそうです」

「傭兵だと!? 我が映えある王家軍が傭兵などになるかっ」

と叫んだ瞬間、グリム将軍は護衛の部下たちに惨殺された。

王家軍は白旗を上げ、アードレー軍に次々に投降した。
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