38 / 47
第四章 復讐
衝突
しおりを挟む
グリム将軍率いる王家の軍が北上し、アードレー家との境界線付近に布陣したとの一報が前線から届けられた。
アードレー家の現当主ロバートは大胆な戦略をとった。ルイーゼを総大将に任命したのである。
「お父様は何をお考えなのかしら。戦争ど素人の私にどうしろと思ってらっしゃるのかしら」
ルイーゼは珍しく愚痴った。
「姉さま、いつもリンクが言ってるじゃないですか。出来る人に任せれば良いのです」
最近はアンリがずっと参謀役としてルイーゼについていた。リンクは契約貴族の領地に侵攻してくる王家軍を撃退しており、各地を転々としていたのである。
「クラウスね。クラウスを呼んできてくれる?」
ルイーゼは安心した。そうだった。自分には戦争の専門家がいたのだった。
「クラウス様は毎日ドアの外で待機されています」
「え? そうなの? クラウス、お入りなさい」
クラウスがすぐにルイーゼの御前に片膝をつく。
「何なりとご用命を」
「王家の兵が国境線に現れたそうなの。対応をお願いしたいのよ」
「かしこまりました。撃退するだけでよいでしょうか。それとも、二度と反抗できないように徹底的に潰しましょうか」
「そうね。徹底的に潰した後、王宮まで攻め込んで、アルバートに失禁させることはできるかしら?」
クラウスは目を見開いた。
「かしこまりました。生ぬるい提案をしてしまいました。必ずや失禁させて参ります」
「お願いね」
(私はリンクさんのことに集中したいの。アルバート、邪魔するなら死んでもらうわよ)
クラウスは詰所に直行した。ベンツはクラウスが騎士になった時点で『逃がし屋』の任務は完了とのことだったが、王家との戦闘時には友情参戦してくれることになっていた。
クラウスは詰所にいた兵士にベンツへの伝令を依頼した。アードレー家の守備をベンツに依頼し、アードレー家直轄領の全兵力20万を徴兵し、グリム隊を蟻の如く踏み潰し、そのまま王都に侵攻する作戦である。
ただでさえアードレー家が戦力で圧倒しているのに、兵力を分散させ、少数で直轄領を攻めるとは愚の骨頂である。契約貴族の連携を阻止する狙いがあったのだろうが、アードレー家の力を見誤り過ぎだ。愚か者には死の鉄槌を下す。
ただ、クラウスはこれだけの兵力差があっても、力任せに踏み潰すような作戦はとらない。兵の消耗をできる限り少なくするため、ありとあらゆる戦術を使用して、相手の戦力を削る作戦に出た。
クラウスが国境線に配備した兵は五千だった。その後方に20万の兵を待機させた。グリム将軍がアードレー家本領奥深くまで突撃するという情報を宰相代理のリットンから入手していたからである。
***
グリム将軍が偵察隊の報告を聞いていた。
「敵兵は約五千です」
「そうかそうか、陽動作戦がうまく行ったようだな。よし、時間との勝負だ。他の貴族の支援が入る前にアードレー卿の首をあげるぞ」
王家軍一万が境界戦を越えて進軍した。アードレー軍の五千は少し矛を交えた後、すぐに敗走を始めた。自軍のトラップ地帯に誘導するためである。
かなりバレバレの挑発と敗走だったが、脳筋グリムにはよく効いた。また、敵陣ではもっと慎重に行動した方がいいといった提案をするものは王家軍にはいなかった。
「ははは、やはり百戦錬磨の王家軍には敵わぬと見えるな。一気に畳み掛けるぞ」
自身の武力に頼って猪突猛進を繰り返すグリム将軍のことを熟知するクラウスによって、王家軍はアードレー家の術中にどっぷりとはまって行く。
落とし穴に落ち、崖から岩を落とされ、伏兵に矢を放たれ、百人、二百人と兵を削られて行く。
「グリム将軍、罠です! 兵が至る所で攻撃や罠にやられています」
王家軍は境界線から五キロの地点で進軍を止められ、大混乱となっていた。
そんな混乱状態の王家軍の前に20万の兵が姿を現した。
「て、敵の援軍です。多過ぎて分かりませんが、十万以上います」
「何だとっ!?」
「グリム将軍、敵からの伝言です。敵対するなら殺す。一緒に王都を攻めるなら傭兵として雇う、だそうです」
「傭兵だと!? 我が映えある王家軍が傭兵などになるかっ」
と叫んだ瞬間、グリム将軍は護衛の部下たちに惨殺された。
王家軍は白旗を上げ、アードレー軍に次々に投降した。
アードレー家の現当主ロバートは大胆な戦略をとった。ルイーゼを総大将に任命したのである。
「お父様は何をお考えなのかしら。戦争ど素人の私にどうしろと思ってらっしゃるのかしら」
ルイーゼは珍しく愚痴った。
「姉さま、いつもリンクが言ってるじゃないですか。出来る人に任せれば良いのです」
最近はアンリがずっと参謀役としてルイーゼについていた。リンクは契約貴族の領地に侵攻してくる王家軍を撃退しており、各地を転々としていたのである。
「クラウスね。クラウスを呼んできてくれる?」
ルイーゼは安心した。そうだった。自分には戦争の専門家がいたのだった。
「クラウス様は毎日ドアの外で待機されています」
「え? そうなの? クラウス、お入りなさい」
クラウスがすぐにルイーゼの御前に片膝をつく。
「何なりとご用命を」
「王家の兵が国境線に現れたそうなの。対応をお願いしたいのよ」
「かしこまりました。撃退するだけでよいでしょうか。それとも、二度と反抗できないように徹底的に潰しましょうか」
「そうね。徹底的に潰した後、王宮まで攻め込んで、アルバートに失禁させることはできるかしら?」
クラウスは目を見開いた。
「かしこまりました。生ぬるい提案をしてしまいました。必ずや失禁させて参ります」
「お願いね」
(私はリンクさんのことに集中したいの。アルバート、邪魔するなら死んでもらうわよ)
クラウスは詰所に直行した。ベンツはクラウスが騎士になった時点で『逃がし屋』の任務は完了とのことだったが、王家との戦闘時には友情参戦してくれることになっていた。
クラウスは詰所にいた兵士にベンツへの伝令を依頼した。アードレー家の守備をベンツに依頼し、アードレー家直轄領の全兵力20万を徴兵し、グリム隊を蟻の如く踏み潰し、そのまま王都に侵攻する作戦である。
ただでさえアードレー家が戦力で圧倒しているのに、兵力を分散させ、少数で直轄領を攻めるとは愚の骨頂である。契約貴族の連携を阻止する狙いがあったのだろうが、アードレー家の力を見誤り過ぎだ。愚か者には死の鉄槌を下す。
ただ、クラウスはこれだけの兵力差があっても、力任せに踏み潰すような作戦はとらない。兵の消耗をできる限り少なくするため、ありとあらゆる戦術を使用して、相手の戦力を削る作戦に出た。
クラウスが国境線に配備した兵は五千だった。その後方に20万の兵を待機させた。グリム将軍がアードレー家本領奥深くまで突撃するという情報を宰相代理のリットンから入手していたからである。
***
グリム将軍が偵察隊の報告を聞いていた。
「敵兵は約五千です」
「そうかそうか、陽動作戦がうまく行ったようだな。よし、時間との勝負だ。他の貴族の支援が入る前にアードレー卿の首をあげるぞ」
王家軍一万が境界戦を越えて進軍した。アードレー軍の五千は少し矛を交えた後、すぐに敗走を始めた。自軍のトラップ地帯に誘導するためである。
かなりバレバレの挑発と敗走だったが、脳筋グリムにはよく効いた。また、敵陣ではもっと慎重に行動した方がいいといった提案をするものは王家軍にはいなかった。
「ははは、やはり百戦錬磨の王家軍には敵わぬと見えるな。一気に畳み掛けるぞ」
自身の武力に頼って猪突猛進を繰り返すグリム将軍のことを熟知するクラウスによって、王家軍はアードレー家の術中にどっぷりとはまって行く。
落とし穴に落ち、崖から岩を落とされ、伏兵に矢を放たれ、百人、二百人と兵を削られて行く。
「グリム将軍、罠です! 兵が至る所で攻撃や罠にやられています」
王家軍は境界線から五キロの地点で進軍を止められ、大混乱となっていた。
そんな混乱状態の王家軍の前に20万の兵が姿を現した。
「て、敵の援軍です。多過ぎて分かりませんが、十万以上います」
「何だとっ!?」
「グリム将軍、敵からの伝言です。敵対するなら殺す。一緒に王都を攻めるなら傭兵として雇う、だそうです」
「傭兵だと!? 我が映えある王家軍が傭兵などになるかっ」
と叫んだ瞬間、グリム将軍は護衛の部下たちに惨殺された。
王家軍は白旗を上げ、アードレー軍に次々に投降した。
0
お気に入りに追加
910
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる