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第四章 復讐
騎士志望
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アードレー家の本邸は王都の北約百キロの領内最大の都市ルミナスにある。
「クラウス様が姉さまの騎士になりたいそうです」
アンリから突然言われたルイーゼは戸惑った。
「私は当主でもないのになぜ?」
「姉さまは次期当主なんですから、別に不思議じゃないですよ。どうしますか?」
ルイーゼは少し考えていたが、どう考えても自分には不要と思った。
「お断りして頂戴」
「話だけでも聞いてあげてはいかがでしょうか」
アンリが意外に粘る。そう言えば、アンリはクラウスによく話しかけるが、好意でもあるのだろうか?
「アンリはクラウス殿が好きなの?」
ルイーゼは頭がよく機智に富んでいて、美しく慈悲深く、正義感が強く、賛辞する言葉が足りないぐらいなのだが、こと恋愛に関しては愚鈍の一言だ。
リンクやクラウスからの熱視線に一向に気づかないし、アンリのクラウスへの想いも盛大に勘違いしている。それに、リンクへの恋心をうまく隠していると思っているのは、本人だけだ。ただ、これについては、リンクが気づかないから隠していると言えなくもない。
「あはは、それはあり得ないです。ただ、放っておけないというか、出来の悪い息子みたいな感情です」
「息子ねえ、いいわ、話は聞きましょう。あなたも同席してね」
「はい、ありがとうございます。早速呼んで参ります」
アンリはクラウスの部屋に急いだ。クラウスとはなるべく距離を置くように組織からは言われているのだが、やはりどうにも気になる。ルイーゼと結ばれるのは、自分の存在がなくなるという理由よりは、ルイーゼを不幸にするから絶対に避けるべきだ。ただ、父の母に対する気持ちが、どういうものだったのかを知りたかった。
「クラウス様、ルイーゼ様が騎士の件でお話があるそうです」
ドア越しに呼びかけたところ、部屋の中でドタバタしているのが聞こえる。
(ああ、何をやってもなんでこう三枚目なのかしら。ルックスは私のパパだけあって、かなりイケてるのに)
「た、ただいま参ります」
と部屋の中から何度も聞かされ、ようやくドアが開いた。
「アンリ殿、かたじけない。ベンツから聞いている。貴殿がルイーゼ様に取りなしてくれたのだな」
「ええ、ただ、あまり期待しないでくださいよ。ルイーゼ様は自己評価が異常に低いのです。ご自分が騎士をお持ちになるのは分不相応だと思われておられます」
「なんと、もったいない。ルイーゼ様の騎士として、主人の間違った思考は、命を懸けても正さねば!」
クラウスは右手の拳を握りしめ、斜め四十五度上を向いて、誰だかわからない相手に誓っている。
(はあ、この一直線なところが暑苦しいのよね)
「クラウス様、お気づきかと思いますが、ルイーゼ様はリンクに一途です。あなた様のルイーゼ様への好意をくれぐれも気づかれないようにしてくださいよ」
「こ、これはなんと! そのようなことはないぞ。ルイーゼ様のリンク殿への想いは見ていればわかる。恐れ多くも私は間違ってもそのような気持ちをルイーゼ様に持たぬぞ」
(パパのルイーゼ様への気持ちも見ていればわかるのよ。本当に不器用ね)
二人はルイーゼの居間に到着した。
「それではクラウス様、お呼びするまで、こちらでお待ちください」
「かたじけない、アンリ殿。いつかきっと恩を返す」
(別にいいわよ。今こうやってパパと会えているだけで、十分に返してもらってるわ)
アンリは中に入って、ルイーゼに目くばせした。
「お入りください」
ルイーゼの声がクラウスに届いた。
「クラウス様が姉さまの騎士になりたいそうです」
アンリから突然言われたルイーゼは戸惑った。
「私は当主でもないのになぜ?」
「姉さまは次期当主なんですから、別に不思議じゃないですよ。どうしますか?」
ルイーゼは少し考えていたが、どう考えても自分には不要と思った。
「お断りして頂戴」
「話だけでも聞いてあげてはいかがでしょうか」
アンリが意外に粘る。そう言えば、アンリはクラウスによく話しかけるが、好意でもあるのだろうか?
「アンリはクラウス殿が好きなの?」
ルイーゼは頭がよく機智に富んでいて、美しく慈悲深く、正義感が強く、賛辞する言葉が足りないぐらいなのだが、こと恋愛に関しては愚鈍の一言だ。
リンクやクラウスからの熱視線に一向に気づかないし、アンリのクラウスへの想いも盛大に勘違いしている。それに、リンクへの恋心をうまく隠していると思っているのは、本人だけだ。ただ、これについては、リンクが気づかないから隠していると言えなくもない。
「あはは、それはあり得ないです。ただ、放っておけないというか、出来の悪い息子みたいな感情です」
「息子ねえ、いいわ、話は聞きましょう。あなたも同席してね」
「はい、ありがとうございます。早速呼んで参ります」
アンリはクラウスの部屋に急いだ。クラウスとはなるべく距離を置くように組織からは言われているのだが、やはりどうにも気になる。ルイーゼと結ばれるのは、自分の存在がなくなるという理由よりは、ルイーゼを不幸にするから絶対に避けるべきだ。ただ、父の母に対する気持ちが、どういうものだったのかを知りたかった。
「クラウス様、ルイーゼ様が騎士の件でお話があるそうです」
ドア越しに呼びかけたところ、部屋の中でドタバタしているのが聞こえる。
(ああ、何をやってもなんでこう三枚目なのかしら。ルックスは私のパパだけあって、かなりイケてるのに)
「た、ただいま参ります」
と部屋の中から何度も聞かされ、ようやくドアが開いた。
「アンリ殿、かたじけない。ベンツから聞いている。貴殿がルイーゼ様に取りなしてくれたのだな」
「ええ、ただ、あまり期待しないでくださいよ。ルイーゼ様は自己評価が異常に低いのです。ご自分が騎士をお持ちになるのは分不相応だと思われておられます」
「なんと、もったいない。ルイーゼ様の騎士として、主人の間違った思考は、命を懸けても正さねば!」
クラウスは右手の拳を握りしめ、斜め四十五度上を向いて、誰だかわからない相手に誓っている。
(はあ、この一直線なところが暑苦しいのよね)
「クラウス様、お気づきかと思いますが、ルイーゼ様はリンクに一途です。あなた様のルイーゼ様への好意をくれぐれも気づかれないようにしてくださいよ」
「こ、これはなんと! そのようなことはないぞ。ルイーゼ様のリンク殿への想いは見ていればわかる。恐れ多くも私は間違ってもそのような気持ちをルイーゼ様に持たぬぞ」
(パパのルイーゼ様への気持ちも見ていればわかるのよ。本当に不器用ね)
二人はルイーゼの居間に到着した。
「それではクラウス様、お呼びするまで、こちらでお待ちください」
「かたじけない、アンリ殿。いつかきっと恩を返す」
(別にいいわよ。今こうやってパパと会えているだけで、十分に返してもらってるわ)
アンリは中に入って、ルイーゼに目くばせした。
「お入りください」
ルイーゼの声がクラウスに届いた。
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