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第四章 復讐
契約占領
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「実際に武力で侵攻するのは最終手段です。契約的に占領を進めましょう」
リンクからそう言われて、アードレー家は経済的に困窮する貴族に対して、領地経営の業務代行ビジネスを始めた。
平たく言ってしまえば、アードレー家が手数料を取って、徴税業務などを代行したのだ。
多額の手数料を支払っても、今までの数倍の収益をもたらしてくれるアードレー家の業務代行サービスに多くの貴族が飛びついた。
その結果、今や国内貴族の四分の三超がアードレー家に領地経営を委託している。徴税だけではなく、官吏の人事も徴兵も防衛もとにかく全てお任せで、経済、政治、軍事の全てをアードレー家に握られている状況であった。
まさにアードレー家に契約的に占領されてしまっている状態なのだが、当の貴族たちは、今まで以上に贅沢ができるうえに、面倒な領地経営をする必要がなくなったため、願ったり叶ったりであった。彼らは楽して遊べればよく、自治権など必要ではなかったのだ。
また、少しでもアードレー家のやり方に注文をつけると、すぐに契約解消され、領地経営から手を引かれていてしまうため、全てをアードレー家に委ね、何も文句を言わない貴族がほとんどであった。
そんな状況が全く見えていないアルバート王は、アードレー家を討伐しようとしていた。ルイーゼの逃亡も許せないが、境界線に兵を配置するなど謀反ではないか。
「アードレー公爵家の振る舞いは断じて許せん! 討伐のための派兵を貴族に募れ。総司令官はグリム大将に任せる、すぐに行動に移せ」
宰相のマルクスは逃亡中で不在のため、リットン宰相代理にアルバートは勅令を下すが、リットンの反応が悪い。
「どうした、リットン。何か言いたいことがあるのか」
リットンは国内情勢を正しく把握していた。アードレー家と契約している貴族は、仮に外敵に攻められても、アードレー家の契約貴族の全軍が防衛してくれる。逆に言えば、アードレー家に逆らうと、契約貴族全てを敵にまわしてしまう。そのため、契約貴族だけではなく、全ての貴族がアードレー家に矛を向けることはないのだ。
「恐れながら、貴族からの派兵はまず見込めません」
アルバート王は怪訝な表情をした。
「なぜだ。王の派兵要請には応じるのが貴族の義務であろう。あれか、マルクスの申しておった領地経営契約か。忌々しい奴め。派兵要請は出せ。要請に応えない貴族は同罪だ。一緒に潰せばよい。あと、傭兵を集めろ」
「傭兵は集まりません。アードレー家に雇われた方が身入りがいいためです」
王は国内全てを敵にするつもりなのか。あまりの王の愚鈍さにリットンはめまいがしそうだった。
「貴様、そこを何とかするのが貴様たちの仕事だろうが。出来ない出来ないと言うのが仕事なら、子供でも出来るぞ。もういい、戦のことはグリムに聞く。グリムを呼べ」
グリム将軍が巨体を揺らせながら入室してきた。
「グリム、アードレーを討ちたい。勝算はあるか?」
「アードレー家の当主を狙い打ちするしか勝機はありますまい」
グリムが顎髭をなでながら、きらりと目を光らせた。いったい何のための演出だ、とリットンは思ったのだが、
「おお、勝てるのだな」
とアルバート王が食いつくのを見て、安い演出でも効果があるものだと、リットンは感心した。
「はい。四万の兵で陽動を行い、その隙に精鋭一万で当主を目標に特攻を仕掛けます」
「仮にその特攻が成功したとして、当主が死んでも、アードレー家は総崩れとはならないように思いますが、どういった作戦を用意しているのでしょうか」
リットンはグリムの答えを期待した。どのような作戦なのだろうか。
「文官に戦の何が分かる。大将の首を取れば、兵に動揺が走り、壊滅するのは時間の問題だ」
リットンは心の中で天を仰いだ。もう何も言うことはない。脳筋同士で破滅の道を進めばいい。リットンはアードレー家に保護されているマルクスを頼ろうと決心した。
リンクからそう言われて、アードレー家は経済的に困窮する貴族に対して、領地経営の業務代行ビジネスを始めた。
平たく言ってしまえば、アードレー家が手数料を取って、徴税業務などを代行したのだ。
多額の手数料を支払っても、今までの数倍の収益をもたらしてくれるアードレー家の業務代行サービスに多くの貴族が飛びついた。
その結果、今や国内貴族の四分の三超がアードレー家に領地経営を委託している。徴税だけではなく、官吏の人事も徴兵も防衛もとにかく全てお任せで、経済、政治、軍事の全てをアードレー家に握られている状況であった。
まさにアードレー家に契約的に占領されてしまっている状態なのだが、当の貴族たちは、今まで以上に贅沢ができるうえに、面倒な領地経営をする必要がなくなったため、願ったり叶ったりであった。彼らは楽して遊べればよく、自治権など必要ではなかったのだ。
また、少しでもアードレー家のやり方に注文をつけると、すぐに契約解消され、領地経営から手を引かれていてしまうため、全てをアードレー家に委ね、何も文句を言わない貴族がほとんどであった。
そんな状況が全く見えていないアルバート王は、アードレー家を討伐しようとしていた。ルイーゼの逃亡も許せないが、境界線に兵を配置するなど謀反ではないか。
「アードレー公爵家の振る舞いは断じて許せん! 討伐のための派兵を貴族に募れ。総司令官はグリム大将に任せる、すぐに行動に移せ」
宰相のマルクスは逃亡中で不在のため、リットン宰相代理にアルバートは勅令を下すが、リットンの反応が悪い。
「どうした、リットン。何か言いたいことがあるのか」
リットンは国内情勢を正しく把握していた。アードレー家と契約している貴族は、仮に外敵に攻められても、アードレー家の契約貴族の全軍が防衛してくれる。逆に言えば、アードレー家に逆らうと、契約貴族全てを敵にまわしてしまう。そのため、契約貴族だけではなく、全ての貴族がアードレー家に矛を向けることはないのだ。
「恐れながら、貴族からの派兵はまず見込めません」
アルバート王は怪訝な表情をした。
「なぜだ。王の派兵要請には応じるのが貴族の義務であろう。あれか、マルクスの申しておった領地経営契約か。忌々しい奴め。派兵要請は出せ。要請に応えない貴族は同罪だ。一緒に潰せばよい。あと、傭兵を集めろ」
「傭兵は集まりません。アードレー家に雇われた方が身入りがいいためです」
王は国内全てを敵にするつもりなのか。あまりの王の愚鈍さにリットンはめまいがしそうだった。
「貴様、そこを何とかするのが貴様たちの仕事だろうが。出来ない出来ないと言うのが仕事なら、子供でも出来るぞ。もういい、戦のことはグリムに聞く。グリムを呼べ」
グリム将軍が巨体を揺らせながら入室してきた。
「グリム、アードレーを討ちたい。勝算はあるか?」
「アードレー家の当主を狙い打ちするしか勝機はありますまい」
グリムが顎髭をなでながら、きらりと目を光らせた。いったい何のための演出だ、とリットンは思ったのだが、
「おお、勝てるのだな」
とアルバート王が食いつくのを見て、安い演出でも効果があるものだと、リットンは感心した。
「はい。四万の兵で陽動を行い、その隙に精鋭一万で当主を目標に特攻を仕掛けます」
「仮にその特攻が成功したとして、当主が死んでも、アードレー家は総崩れとはならないように思いますが、どういった作戦を用意しているのでしょうか」
リットンはグリムの答えを期待した。どのような作戦なのだろうか。
「文官に戦の何が分かる。大将の首を取れば、兵に動揺が走り、壊滅するのは時間の問題だ」
リットンは心の中で天を仰いだ。もう何も言うことはない。脳筋同士で破滅の道を進めばいい。リットンはアードレー家に保護されているマルクスを頼ろうと決心した。
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