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第四章 復讐
越境
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ルイーゼの両親ロバートとマリアンヌは王都を脱出し、アードレー公爵領入りしていた。
貴族は王都では私兵を持つことは出来ない。そのため、自領地に戻って、王との対決に備えるようルイーゼから説得されたのだ。
ルイーゼが囮になることで、自分たちを無事に脱出させる作戦に、最初は反対していたロバートとマリアンヌだったが、ルイーゼが必ず逃げ出すと何度も何度も繰り返し言うので、最後には渋々了承した。
領地に戻ったロバートは、王の直轄領との境界線に兵を配置し、敵対する意思を隠さなかった。
その境界線に王都から一台の馬車が近づいて来た。先導するような形で一頭の馬が前を固めている。馬にはリンクが騎乗しており、馬車の御者台にはベンツとクラウスが座っていた。クラウスはすでに目を覚ましている。元いた御者の姿は見えない。
クラウスはベンツからアルバート王の数々の悪行を道中散々聞かされていた。主に女性に対する酷い仕打ちが多く、騎士道を尊ぶクラウスには許しがたい所業であった。
「この国は十年以内にルイーゼ様が統治することになる。お前はルイーゼ様の騎士となり、軍事面でルイーゼ様の手足となるのだ」
勧誘なのか説得なのか分からないが、ベンツの言いたいことはそういうことだった。
「しかし、私は王の騎士となった身、主人を変えるなど騎士道にもとる」
クラウスは前を行くリンクの後ろ姿を見ながら答えた。ルイーゼのリンクを見る目で、ルイーゼの意中の男がリンクだということはクラウスにも分かった。恐らく気づいていないのは、当人同士だけではないだろうか。
「お前が叙任を受けたのは先王ではないか。現王ではない。この機会に忠誠を誓う相手を己の意志で決めてはどうだ? 別に急がなくていいぞ。ルイーゼ様の人となりを見てからでもいい」
「ベンツ、お前はどうなのだ?」
「俺は最初からルイーゼ様だ。そもそも、この時のために衛兵部隊に潜入していたのだ」
「では、俺に近づいたのはスパイ目的かっ!?」
「おいおい、忘れたのか? 近づいて来たのはお前の方じゃないか。今回もお前を裏切ってはいないぜ。アードレー家にはお前に逆らな、と伝えただけだぞ。むしろ、お前の味方じゃないか」
確かにその通りだった。ベンツに一緒に飲もうと誘ったのはクラウスだった。今回の件もクラウスの任務をスムーズに運ぶようにしてくれた。というか、スパイなんてしなくても、アードレー家は王家を圧倒しているではないか。
今回ベンツがアードレー家に戻ったということは、ベンツの任務が終わったということだ。それはつまりどういうことなのか。クラウスはある結論に達した。
「ひょっとして、俺を助けるために潜入していたのか?」
ベンツはにやりとした。
「鋭いな、その通りだ。あのままだと、お前は王にいいように使われて、殺されてしまうからな。俺の本当の職業は『逃がし屋』でな。依頼人からの依頼を受けて、お前を逃がしたのだ。もちろん、選ぶのはお前だ。戻ってもいいんだぜ」
クラウスはベンツの「逃がし屋」という職業と依頼人のことも気になったが、それよりも、もう退路は断たれているという事実を突きつけられているように思った。
「王宮に帰ったら、俺はどうなると思う?」
「責任を取らされて処刑されるだろうな」
やはり退路はない。クラウスは決心した。
「あのクソったれ王にむざむざ殺されるのは業腹だし、ルイーゼ様の騎士になれるのは願ったり叶ったりだ。ぜひお願いしたい」
ベンツの顔が緩んだ。
「じゃあ、ルイーゼ様にお願いしてみるんだな」
「え? このまま騎士にしてくれる流れかと思ってた」
「会えるようにはしてやるから、自分で志願してくれ。但し、ルイーゼ様とお付きのアンリには絶対に恋しちゃダメだぞ」
「な、何を言っている。主人に恋などあり得ないだろう。え? アンリ? なぜ彼女が出てくる?」
ベンツが真剣な顔になった。
「いいから聞いておけ。お前が絶対に手を出してはいけない二人だ。心に刻んでおけ」
何だかよくわからないが、クラウスは無理矢理納得することにした。
貴族は王都では私兵を持つことは出来ない。そのため、自領地に戻って、王との対決に備えるようルイーゼから説得されたのだ。
ルイーゼが囮になることで、自分たちを無事に脱出させる作戦に、最初は反対していたロバートとマリアンヌだったが、ルイーゼが必ず逃げ出すと何度も何度も繰り返し言うので、最後には渋々了承した。
領地に戻ったロバートは、王の直轄領との境界線に兵を配置し、敵対する意思を隠さなかった。
その境界線に王都から一台の馬車が近づいて来た。先導するような形で一頭の馬が前を固めている。馬にはリンクが騎乗しており、馬車の御者台にはベンツとクラウスが座っていた。クラウスはすでに目を覚ましている。元いた御者の姿は見えない。
クラウスはベンツからアルバート王の数々の悪行を道中散々聞かされていた。主に女性に対する酷い仕打ちが多く、騎士道を尊ぶクラウスには許しがたい所業であった。
「この国は十年以内にルイーゼ様が統治することになる。お前はルイーゼ様の騎士となり、軍事面でルイーゼ様の手足となるのだ」
勧誘なのか説得なのか分からないが、ベンツの言いたいことはそういうことだった。
「しかし、私は王の騎士となった身、主人を変えるなど騎士道にもとる」
クラウスは前を行くリンクの後ろ姿を見ながら答えた。ルイーゼのリンクを見る目で、ルイーゼの意中の男がリンクだということはクラウスにも分かった。恐らく気づいていないのは、当人同士だけではないだろうか。
「お前が叙任を受けたのは先王ではないか。現王ではない。この機会に忠誠を誓う相手を己の意志で決めてはどうだ? 別に急がなくていいぞ。ルイーゼ様の人となりを見てからでもいい」
「ベンツ、お前はどうなのだ?」
「俺は最初からルイーゼ様だ。そもそも、この時のために衛兵部隊に潜入していたのだ」
「では、俺に近づいたのはスパイ目的かっ!?」
「おいおい、忘れたのか? 近づいて来たのはお前の方じゃないか。今回もお前を裏切ってはいないぜ。アードレー家にはお前に逆らな、と伝えただけだぞ。むしろ、お前の味方じゃないか」
確かにその通りだった。ベンツに一緒に飲もうと誘ったのはクラウスだった。今回の件もクラウスの任務をスムーズに運ぶようにしてくれた。というか、スパイなんてしなくても、アードレー家は王家を圧倒しているではないか。
今回ベンツがアードレー家に戻ったということは、ベンツの任務が終わったということだ。それはつまりどういうことなのか。クラウスはある結論に達した。
「ひょっとして、俺を助けるために潜入していたのか?」
ベンツはにやりとした。
「鋭いな、その通りだ。あのままだと、お前は王にいいように使われて、殺されてしまうからな。俺の本当の職業は『逃がし屋』でな。依頼人からの依頼を受けて、お前を逃がしたのだ。もちろん、選ぶのはお前だ。戻ってもいいんだぜ」
クラウスはベンツの「逃がし屋」という職業と依頼人のことも気になったが、それよりも、もう退路は断たれているという事実を突きつけられているように思った。
「王宮に帰ったら、俺はどうなると思う?」
「責任を取らされて処刑されるだろうな」
やはり退路はない。クラウスは決心した。
「あのクソったれ王にむざむざ殺されるのは業腹だし、ルイーゼ様の騎士になれるのは願ったり叶ったりだ。ぜひお願いしたい」
ベンツの顔が緩んだ。
「じゃあ、ルイーゼ様にお願いしてみるんだな」
「え? このまま騎士にしてくれる流れかと思ってた」
「会えるようにはしてやるから、自分で志願してくれ。但し、ルイーゼ様とお付きのアンリには絶対に恋しちゃダメだぞ」
「な、何を言っている。主人に恋などあり得ないだろう。え? アンリ? なぜ彼女が出てくる?」
ベンツが真剣な顔になった。
「いいから聞いておけ。お前が絶対に手を出してはいけない二人だ。心に刻んでおけ」
何だかよくわからないが、クラウスは無理矢理納得することにした。
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