公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
32 / 47
第四章 復讐

襲撃準備

しおりを挟む
親衛隊長のゼルダは詰所のドアを開けた。

詰所にいた数名の兵士が立ち上がり、ゼルダに敬礼した。

「宰相のマルクス殿を不敬罪で捕らえよ、との陛下からの命令だ。クラウスはここに残れ。それ以外の者は宰相官邸に急げ」

親衛隊の兵士たちはすぐに詰所を出て行った。クラウスとゼルダだけが部屋に残った。

「クラウス、極秘任務だ。今日の夕方、衛兵二百名を率いて、アードレー公爵邸に向かえ。公爵令嬢のルイーゼ様を陛下の元までお連れしろ。抵抗するものは殺しても構わん」

物騒な命令にクラウスは目を見開いた。

「アードレー公爵様もですか?」

「抵抗する場合は仕方ない。殺せ。ただし、ルイーゼ様は傷一つつけずにお連れしろ」

「かしこまりました」

クラウスは親衛隊の中でも衛兵への指揮権を持つ騎士の地位にあった。ゼルダの命を受け、すぐに王宮の城楼の衛兵隊の詰所に向かった。

クラウスは衛兵隊長のベンツとは飲み友達だ。二人とも二十歳そこそこで今の地位にいる出世頭だが、お互いに気持ちのいい性格で気が合っていた。そういえば、いつも行く酒場の名前が「ルイーゼの酒場」だが、面白い偶然もあるものだ。

クラウスは隊長室のドアをノックもしないで開けた。そして、部屋にいるのがベンツ一人だけであることを確認してから、用件を切り出した。

「ベンツ、極秘任務だ。衛兵二百名をすぐに動かしたい」

「クラウス、お前か。ビックリさせるなよ。あのなあ、入るときはノックぐらいしろよ。で、二百名だって? そんなに動かして極秘任務もないだろうよ」

ベンツはやれやれといった感じで肩をすくめている。

「ベンツ、お前も来てくれ。アードレー公爵邸に夕方乗り込んでいって、長女のルイーゼ様を無理矢理にでも王宮にお連れするという任務だ。抵抗するものは、アードレー公爵でも殺していいそうだ」

「何だって!? 無茶苦茶な命令じゃないか。ルイーゼ様は元婚約者様だろ? 陛下が婚約破棄したんじゃないのか? それを無理矢理にでも連れて来いって、そこに正義はあるのか?」

ベンツの口癖の「そこに正義はあるのか」が飛び出した。クラウスも人でなしの命令だとは思うが、王命は絶対だ。

「王命だ。まさか、お前、王命に逆らうのか?」

「正義があるかどうかを聞いただけさ。逆らうとは言っていない」

「正義なんてないさ。クソったれの王命だ。でも、従うしか我ら騎士には道はない。せめて抵抗しないことを祈るだけだ」

「仕方ねえな。抵抗しないように十分に説得してくれよ。どう考えても理不尽な命令だ。こんな命令のために殺したくないし、殺されたくもないだろう」

「もちろんだ。いつまでに集められる?」

「そうだな、二時間くれ」

「よし、では、夕方五時に出発しよう」

そう言って、クラウスは急いで親衛隊の詰所に戻っていった。

残されたベンツはフーッとため息をつき、報告書の作成を始めた。

「やはり運命は二人を出会うように仕向けるか」

ベンツは独り言を呟いた。彼の右手の甲には星型のアザがあった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...