公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
31 / 47
第四章 復讐

即位

しおりを挟む
王が崩御し、皇太子のアルバートが王位についた。

七日間喪に服した後、宮殿にて王位継承の証である戴冠式が執り行われていた。

戴冠式には海外の王族および国内の全貴族二千名が参列していた。しかしながら、四分の三を超える国内貴族が当主以外の代理人を出席させていた。この事実を宰相マルクスは掴んでいたが、王には報告しなかった。

そんなことは露ほども知らぬアルバートは、表面上はまだ先帝の喪に服して沈痛な面持ちを保持していたが、内面は大喜びだった。

(やっと俺の時代になった。ようやく好き勝手出来るぞ)

戴冠式が滞りなく終わり、最後に宮殿から退出しようとするマルクスにアルバートは声をかけた。

「アードレー公爵の姿が見えなかったようだが」

マルクスは足を止め、振り返って答えた。

「公爵は体調を崩されており、代わりにご子息のスミス様がご出席されておられました」

「スミス? 公爵にはルイーゼしか子供はいなかったはずだぞ」

「ルイーゼ様が陛下の婚約者となった際に一族から養子を迎えられたことを覚えておられないのですか? まあ、結局、ルイーゼ様がお戻りになられて、ルイーゼ様をお世継ぎにされるようですが」

「そうだったか? そのルイーゼだが、見つかったのであれば、側室に献上するようアードレー公爵に申し伝えよ」

マルクスは苦笑いした。

「陛下、国内の勢力図をご存知ですか?」

マルクスの態度はかなり礼を失したものだったが、まさかの質問にアルバートは虚をつかれ、叱責するのを忘れて、素直に疑問を口にした。

「どういうことだ?」

「国内の四分の三以上の貴族がアードレー公爵の配下なのですぞ。アードレー公爵を怒らせたら、王室はひとたまりもない状況で、ルイーゼ嬢を献上しろとは愚か過ぎます」

「貴様、余に向かって愚かだと!?」

さすがにここまで言われて、ようやくアルバートはマルクスが毛の先ほども王に敬意を払っていないことに気づいた。

「陛下、王になったばかりで死にたいのですか? アードレー公爵にはくれぐれも逆らわぬよう、王のために諫言いたします。それでは、私は忙しいので、失礼致します」

マルクスはそう言い残して、スタスタと退室してしまった。

アルバートは怒り心頭であった。親衛隊長を呼びつけ、恐ろしい剣幕で命令した。

「おい、ゼルダ。宰相のマルクスを不敬罪で引っ捕らえろ。それから、衛兵二百名ほどを引き連れて、アードレー公爵邸に行き、長女のルイーゼを引っ張って来い」

アルバートは命令書を作成して、ゼルダに手渡した。

「かしこまりました」

親衛隊にとって、王命は絶対だ。命令に疑問を挟まないのも仕事のうちだ。ゼルダはすぐに親衛隊の詰所に向かうため、王の御前から退いた。

指示した通りに動くゼルダを見て、アルバートはようやく怒りを鎮めるのであった。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

完結「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」

まほりろ
恋愛
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...