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第四章 復讐
即位
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王が崩御し、皇太子のアルバートが王位についた。
七日間喪に服した後、宮殿にて王位継承の証である戴冠式が執り行われていた。
戴冠式には海外の王族および国内の全貴族二千名が参列していた。しかしながら、四分の三を超える国内貴族が当主以外の代理人を出席させていた。この事実を宰相マルクスは掴んでいたが、王には報告しなかった。
そんなことは露ほども知らぬアルバートは、表面上はまだ先帝の喪に服して沈痛な面持ちを保持していたが、内面は大喜びだった。
(やっと俺の時代になった。ようやく好き勝手出来るぞ)
戴冠式が滞りなく終わり、最後に宮殿から退出しようとするマルクスにアルバートは声をかけた。
「アードレー公爵の姿が見えなかったようだが」
マルクスは足を止め、振り返って答えた。
「公爵は体調を崩されており、代わりにご子息のスミス様がご出席されておられました」
「スミス? 公爵にはルイーゼしか子供はいなかったはずだぞ」
「ルイーゼ様が陛下の婚約者となった際に一族から養子を迎えられたことを覚えておられないのですか? まあ、結局、ルイーゼ様がお戻りになられて、ルイーゼ様をお世継ぎにされるようですが」
「そうだったか? そのルイーゼだが、見つかったのであれば、側室に献上するようアードレー公爵に申し伝えよ」
マルクスは苦笑いした。
「陛下、国内の勢力図をご存知ですか?」
マルクスの態度はかなり礼を失したものだったが、まさかの質問にアルバートは虚をつかれ、叱責するのを忘れて、素直に疑問を口にした。
「どういうことだ?」
「国内の四分の三以上の貴族がアードレー公爵の配下なのですぞ。アードレー公爵を怒らせたら、王室はひとたまりもない状況で、ルイーゼ嬢を献上しろとは愚か過ぎます」
「貴様、余に向かって愚かだと!?」
さすがにここまで言われて、ようやくアルバートはマルクスが毛の先ほども王に敬意を払っていないことに気づいた。
「陛下、王になったばかりで死にたいのですか? アードレー公爵にはくれぐれも逆らわぬよう、王のために諫言いたします。それでは、私は忙しいので、失礼致します」
マルクスはそう言い残して、スタスタと退室してしまった。
アルバートは怒り心頭であった。親衛隊長を呼びつけ、恐ろしい剣幕で命令した。
「おい、ゼルダ。宰相のマルクスを不敬罪で引っ捕らえろ。それから、衛兵二百名ほどを引き連れて、アードレー公爵邸に行き、長女のルイーゼを引っ張って来い」
アルバートは命令書を作成して、ゼルダに手渡した。
「かしこまりました」
親衛隊にとって、王命は絶対だ。命令に疑問を挟まないのも仕事のうちだ。ゼルダはすぐに親衛隊の詰所に向かうため、王の御前から退いた。
指示した通りに動くゼルダを見て、アルバートはようやく怒りを鎮めるのであった。
七日間喪に服した後、宮殿にて王位継承の証である戴冠式が執り行われていた。
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そんなことは露ほども知らぬアルバートは、表面上はまだ先帝の喪に服して沈痛な面持ちを保持していたが、内面は大喜びだった。
(やっと俺の時代になった。ようやく好き勝手出来るぞ)
戴冠式が滞りなく終わり、最後に宮殿から退出しようとするマルクスにアルバートは声をかけた。
「アードレー公爵の姿が見えなかったようだが」
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「スミス? 公爵にはルイーゼしか子供はいなかったはずだぞ」
「ルイーゼ様が陛下の婚約者となった際に一族から養子を迎えられたことを覚えておられないのですか? まあ、結局、ルイーゼ様がお戻りになられて、ルイーゼ様をお世継ぎにされるようですが」
「そうだったか? そのルイーゼだが、見つかったのであれば、側室に献上するようアードレー公爵に申し伝えよ」
マルクスは苦笑いした。
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「どういうことだ?」
「国内の四分の三以上の貴族がアードレー公爵の配下なのですぞ。アードレー公爵を怒らせたら、王室はひとたまりもない状況で、ルイーゼ嬢を献上しろとは愚か過ぎます」
「貴様、余に向かって愚かだと!?」
さすがにここまで言われて、ようやくアルバートはマルクスが毛の先ほども王に敬意を払っていないことに気づいた。
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アルバートは命令書を作成して、ゼルダに手渡した。
「かしこまりました」
親衛隊にとって、王命は絶対だ。命令に疑問を挟まないのも仕事のうちだ。ゼルダはすぐに親衛隊の詰所に向かうため、王の御前から退いた。
指示した通りに動くゼルダを見て、アルバートはようやく怒りを鎮めるのであった。
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