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第三章 起業と領地経営
嘘の理由
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ルイーゼは日の出とともに起きて、朝食とお弁当をおばさまと一緒に作り、全員で朝食を食べる。
その後、リンクたちについて行って、リンクたちが忙しく作業するのをアンリと一緒に見物して、昼食のお弁当をリンクたちと一緒に食べる。
おやつをリンクたちと食べた後、ルイーゼは先に屋敷に戻り、おばさまと一緒に夕食の用意をし、リンクたちが帰って来て、一緒に晩御飯を食べて就寝といった暮らしをしていた。
農作業を見ているとき、ルイーゼはアンリとよく話をした。アンリは算術が得意で、四則演算も恐ろしく早い。
「どこで習ったの?」
とルイーゼは何気なしに聞いたのだが、アンリは恐縮している。
「姉さま、すいません。自分のことは話せないんです。私やリンク、そして、組織のことをいろいろと不思議だと思っておられるでしょうが、私たちのことを信じてくれると嬉しいです」
「ええ、信じるわ。でも、こんなに手の込んだことまでして私に農民生活を体験させて、あなたたちにどんなメリットがあるのかしら」
「嘘の理由を話しましょうか?」
「嘘なの?」
「ええ、嘘ですが、聞きます?」
「そうね、話してくれる?」
ルイーゼは、嘘なら聞いても仕方ないように思ったが、嘘の理由をわざわざ述べる意図が分からなかったため、とりあえず聞いてみることにした。
「あのアルバート皇太子ですが、リンクの大切な人の一生を台無しにしました。リンクが昔から恋焦がれていた女性です」
「え!? リンクさんには好きな人がいるのっ!?」
「ですから、嘘ですよ。続けますか?」
アンリが呆れた顔をしている。そうだった、嘘だった。嘘だが、心臓に悪い話だ。
「そうね、嘘だったわね。続けてくれる?」
「その大切な人の子供が私です」
ルイーゼはまたびっくりしたが、嘘なんだ、嘘なんだと呟いた。アンリは嘘の理由を続けた。
「私も大好きな母に酷い仕打ちしかしない皇太子が憎くて仕方がありませんでした。母に対する皇太子からの執拗な虐めは続き、遂に母は精神を病んでしまい、自殺してしまいました。私もリンクも血の涙を流し、皇太子への復讐を誓いました」
「えっと、その嘘の話の中で、アンリの父親は誰なの? 皇太子なの? リンクさんなの?」
「皇太子に命じられて、私の母を襲った騎士です」
「ちょっと、嘘にしても酷すぎない!?」
「だから嘘ですってば。私の母は今も元気に生きていますよ」
「何度もごめんなさい。続けてくれる?」
「えっと、復讐を誓ったところまで話しましたよね。そんな私とリンクに注目したのが組織なんです。組織に生涯の忠誠を誓う代わりに、皇太子への復讐に協力するという契約を組織と私たちは結びました。これがその印です」
そう言ってアンリは、少し胸をはだけた。眩しいほど白い肌が露わになり、胸の膨らみの間に三日月形のアザのようなものがあった。
「ちょっと、嘘に思えないんだけどっ」
「嘘ですよ。ほら、これアザじゃないです。消せますよ」
アンリが手で擦るとアザは消えた。
(こんな手の込んだ演出まで入れて、この子はいったい何のためにこんな嘘をつくのかしら)
「まあこれぐらいの話が背景にあると考えてくれればいいです」
「その嘘話だけど、アンリとリンクさんの動機の説明は出来るけど、私をなぜ助けるのかの理由が分からないわ」
「そうでした。では、皇太子に復讐するため、アードレー家の支援を得られるから、って理由でどうですか? 依頼者はリンクで」
そう言って、アンリは悪戯っぽくウィンクした。ルイーゼはアンリが何を言いたいかが、だんだん分かってきた。
「アンリ、ありがとう。要するに、どんな理由か分からないけど、理由がちゃんとあって、あなたたちも組織も動いている、ということね。決して私に対する慈善事業ではないってことよね」
「そうです。そして、姉さまを利用するという気持ちもないです。我々は何よりも姉さまの意志を尊重します。姉さまのしたくないことを無理矢理させるようなことはしません」
ただ、このとても歳下とは思えない大人びた少女は、これぐらいの過去がないと出来上がらないのではないかとルイーゼは思った。
アンリは何だか吹っ切れた様なルイーゼを見て、ホッと胸をなで下ろした。
その後、リンクたちについて行って、リンクたちが忙しく作業するのをアンリと一緒に見物して、昼食のお弁当をリンクたちと一緒に食べる。
おやつをリンクたちと食べた後、ルイーゼは先に屋敷に戻り、おばさまと一緒に夕食の用意をし、リンクたちが帰って来て、一緒に晩御飯を食べて就寝といった暮らしをしていた。
農作業を見ているとき、ルイーゼはアンリとよく話をした。アンリは算術が得意で、四則演算も恐ろしく早い。
「どこで習ったの?」
とルイーゼは何気なしに聞いたのだが、アンリは恐縮している。
「姉さま、すいません。自分のことは話せないんです。私やリンク、そして、組織のことをいろいろと不思議だと思っておられるでしょうが、私たちのことを信じてくれると嬉しいです」
「ええ、信じるわ。でも、こんなに手の込んだことまでして私に農民生活を体験させて、あなたたちにどんなメリットがあるのかしら」
「嘘の理由を話しましょうか?」
「嘘なの?」
「ええ、嘘ですが、聞きます?」
「そうね、話してくれる?」
ルイーゼは、嘘なら聞いても仕方ないように思ったが、嘘の理由をわざわざ述べる意図が分からなかったため、とりあえず聞いてみることにした。
「あのアルバート皇太子ですが、リンクの大切な人の一生を台無しにしました。リンクが昔から恋焦がれていた女性です」
「え!? リンクさんには好きな人がいるのっ!?」
「ですから、嘘ですよ。続けますか?」
アンリが呆れた顔をしている。そうだった、嘘だった。嘘だが、心臓に悪い話だ。
「そうね、嘘だったわね。続けてくれる?」
「その大切な人の子供が私です」
ルイーゼはまたびっくりしたが、嘘なんだ、嘘なんだと呟いた。アンリは嘘の理由を続けた。
「私も大好きな母に酷い仕打ちしかしない皇太子が憎くて仕方がありませんでした。母に対する皇太子からの執拗な虐めは続き、遂に母は精神を病んでしまい、自殺してしまいました。私もリンクも血の涙を流し、皇太子への復讐を誓いました」
「えっと、その嘘の話の中で、アンリの父親は誰なの? 皇太子なの? リンクさんなの?」
「皇太子に命じられて、私の母を襲った騎士です」
「ちょっと、嘘にしても酷すぎない!?」
「だから嘘ですってば。私の母は今も元気に生きていますよ」
「何度もごめんなさい。続けてくれる?」
「えっと、復讐を誓ったところまで話しましたよね。そんな私とリンクに注目したのが組織なんです。組織に生涯の忠誠を誓う代わりに、皇太子への復讐に協力するという契約を組織と私たちは結びました。これがその印です」
そう言ってアンリは、少し胸をはだけた。眩しいほど白い肌が露わになり、胸の膨らみの間に三日月形のアザのようなものがあった。
「ちょっと、嘘に思えないんだけどっ」
「嘘ですよ。ほら、これアザじゃないです。消せますよ」
アンリが手で擦るとアザは消えた。
(こんな手の込んだ演出まで入れて、この子はいったい何のためにこんな嘘をつくのかしら)
「まあこれぐらいの話が背景にあると考えてくれればいいです」
「その嘘話だけど、アンリとリンクさんの動機の説明は出来るけど、私をなぜ助けるのかの理由が分からないわ」
「そうでした。では、皇太子に復讐するため、アードレー家の支援を得られるから、って理由でどうですか? 依頼者はリンクで」
そう言って、アンリは悪戯っぽくウィンクした。ルイーゼはアンリが何を言いたいかが、だんだん分かってきた。
「アンリ、ありがとう。要するに、どんな理由か分からないけど、理由がちゃんとあって、あなたたちも組織も動いている、ということね。決して私に対する慈善事業ではないってことよね」
「そうです。そして、姉さまを利用するという気持ちもないです。我々は何よりも姉さまの意志を尊重します。姉さまのしたくないことを無理矢理させるようなことはしません」
ただ、このとても歳下とは思えない大人びた少女は、これぐらいの過去がないと出来上がらないのではないかとルイーゼは思った。
アンリは何だか吹っ切れた様なルイーゼを見て、ホッと胸をなで下ろした。
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