公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
22 / 47
第三章 起業と領地経営

徴税人

しおりを挟む
楽しかった農民生活も終わりが近づいて来た。

納税の時期になったのである。

「この辺りで保有農にかけられる税はシンプルです。地代だけです。かつてはもっといろいろあったのですが、今は一つです」

リンクの説明によると、この農家は農地の永続的借地権を持っていて、自由度の高い生活が出来る保有農だという。

領内には直営地もあり、そこにいる農民の場合は、領主にかなり隷属的であるらしい。

「ここの昨年の地代は100万円だと未亡人から聞いています。今年の出来だと収穫の半分ぐらいです。決まりでは、この100万が領主に渡り、さらに上のアードレー家に50万が渡るはずです。まずは実地演習と行きましょう」

計ったかのように徴税人が護衛を四人連れてやってきた。

徴税人は背の低いネズミのような男だった。ドアを開けて、ズカズカと家の中に入ってきて、室内が非常に綺麗なことに驚いている。そして、勝手に椅子に座り、ジロリとリンクを睨んでから、いやらしい声を出した。

「何だかいい暮らしをしてるじゃないか。今年の収穫がよかったのか? お前の保有農地の地代は120万円だな。用意してあるだろうな」

そう言って、ネズミ男は奥に控えているルイーゼを見つけて、目をパチクリさせた。

(極上美人じゃないか! こんな農民いたか? 領主様に報告すべきだな)

リンクがネズミ男の視線をルイーゼからリンクに戻させた。

「昨年は100万円でしたので、それだけしか用意してないのですが」

「何だと!? 俺の査定に文句があるのか? まあ、いいや。100万でもいいが、その場合は女房を賦役に提供しろ」

「賦役分は100万に含まれているのでは?」

ネズミ男が机を叩いて立ち上がって凄む。

「お前、いちいち反抗的だな。畑作業が出来なくなってもいいのか?」

「いや、よくないが、お前、不正徴税人か? アードレー様に報告するぞ」

保有農は領主の不正をその上の貴族に直訴する権利がある。

「こいつ、痛い目にあわないと分からないようだな。おい、お前たち、痛めつけてやれ。あと、女を連れて行け。領主様に献上する」

護衛の二人がルイーゼの方に近づいていくと、ルイーゼの近くにいたおじさまとおばさまがルイーゼの前に出た。

「おいおい、爺さん婆さんで嫁を守る気か? 怪我しないうちに……」

護衛の一人が話し終えないうちに倒れた。

「え? 何が……」

もう一人の護衛も何が起きたのか分からないうちに倒れた。

同時期にリンクに手を出そうとしていた他の二人の護衛も倒れていた。

「お、お前たち、どうやって!? そ、それよりも俺たちにこんなことをしてただで済むと思っているのか!」

ネズミ男が騒ぎ立てた。

「いや、何もしていない。お前の護衛が勝手に寝てしまっただけだろう。疲れているみたいだが、こき使いすぎじゃないのか?」

リンクはしれっと答えた。

「こ、こいつ。ただで済むと思うなよっ。領主様に報告するからなっ」

そう捨て台詞をはいて、護衛を置いたまま、ネズミ男は逃げるように出て行った。

「こんな粗大ゴミ置いて行くなよな」

リンクがぶつぶつ言っている。

「あのう、その人たち、死んでいるのでしょうか?」

ルイーゼが心配そうに尋ねた。

「「いいえ、無力化しただけです」」

リンクとおじさまが同時に答えた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...