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第三章 起業と領地経営
針子修行
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リンクが針子を募集している仕立屋を紹介してくれた。
「王都に住む富裕層向けの仕立屋です。紳士服、婦人服共に取り扱っています。貴族相手の商売はしていません。王家と渡り合える程度になるまでは、貴族との接触は避けた方がいいでしょう」
紹介されたのは、王都の商店外の外れにある仕立屋だった。今度はルイーゼ単独での採用で、アンリは学校運営、リンクは酒場の管理と定食屋の立ち上げを行っている。
土地を持つということが、どんなに富を生むかをルイーゼは農民生活から学んだ。農民があれだけ苦労して作った作物の半分を土地の所有者というだけで毎年徴収出来るのだ。
そのほかにも森林の木材や動物、河川の魚なども土地の所有者のものだ。広大な土地を持つ貴族が商売に熱心にならない理由が分かった。不労所得がこんなにあるのに、あくせく働く必要はないのだ。
だが、リンクは商売は巨万の富を得る手段と考えている。また、商売は自分の領地以外のところからも収益を上げられるのが魅力だという。リンクは「外貨の取得」という表現を使っていた。
針子として一ヶ月ほど修行して、服がどのように生産されているかの仕組みを体験することになっている。いつもと違って、アンリもリンクも組織の人もいないため、かなり不安だ。馬車で乗り付ける訳にはいかないので、少し離れたところに馬車を停めて、歩いてお店の前まで来た。
今はお昼前だが、多くの来客があった。ルイーゼは正面から入った。念のため、変顔を決めている。
「いらっしゃい」
おかみさんだろうか。愛想のいい笑顔で近寄って来た。
「あのう針子の募集に応募したいのです」
おかみさんは途端に不機嫌な表情に変わった
「なんだい。客じゃないのなら、正面じゃなく、裏口に周りな!」
「は、はい、すいません」
何だか感じの悪い人だなあ。そうだっ。
「あのう」
「何だい、まだいたのかい!」
「私、リンクさんからの紹介で来ました」
おかみさんの表情が先ほど見た愛想のいい感じに戻った。よくもこうころころと表情を変えられるものだと、ルイーゼは感心した。
「なんだい、リンクさんのお知り合いかい? 早くそう言っておくれよ」
ルイーゼはリンクの名前を出すように言われていたのだ。
「ルイーゼさんだろう、聞いているよ。こっちにおいで」
客や店員がこちらのやり取りをチラチラ見ている。ルイーゼはおかみさんの後に続いて、店の奥に入って行った。
店の奥では、多くの若い女性が縫製作業を行なっていた。数えたところ、十五人いた。
「みんな、手を動かしたまま聞いておくれ。今日から縫製を一緒にするルイーゼさんだ。お得意様の紹介だ。良くしてあげておくれよ。さあ、ルイーゼさん、あなたの席はあそこだよ」
ルイーゼの席は一番奥の左側のようだ。隣に若い女性が座っている。
「リリー、色々と教えてあげておくれよ」
「かしこまりました」
ルイーゼの席の隣の女性が返事した。リリーというのか。
「ルイーゼさんは刺繍が得意だそうだから、主に刺繍をやってもらうといい。じゃあ、任せたよ。ルイーゼさん、私はいったん失礼します」
そう言っておかみさんは、店の方に戻っていった。
「よろしくお願いします」
ルイーゼは皆に挨拶したが、皆はチラッとルイーゼを見て、少し会釈して、すぐに縫製作業に戻った。
「王都に住む富裕層向けの仕立屋です。紳士服、婦人服共に取り扱っています。貴族相手の商売はしていません。王家と渡り合える程度になるまでは、貴族との接触は避けた方がいいでしょう」
紹介されたのは、王都の商店外の外れにある仕立屋だった。今度はルイーゼ単独での採用で、アンリは学校運営、リンクは酒場の管理と定食屋の立ち上げを行っている。
土地を持つということが、どんなに富を生むかをルイーゼは農民生活から学んだ。農民があれだけ苦労して作った作物の半分を土地の所有者というだけで毎年徴収出来るのだ。
そのほかにも森林の木材や動物、河川の魚なども土地の所有者のものだ。広大な土地を持つ貴族が商売に熱心にならない理由が分かった。不労所得がこんなにあるのに、あくせく働く必要はないのだ。
だが、リンクは商売は巨万の富を得る手段と考えている。また、商売は自分の領地以外のところからも収益を上げられるのが魅力だという。リンクは「外貨の取得」という表現を使っていた。
針子として一ヶ月ほど修行して、服がどのように生産されているかの仕組みを体験することになっている。いつもと違って、アンリもリンクも組織の人もいないため、かなり不安だ。馬車で乗り付ける訳にはいかないので、少し離れたところに馬車を停めて、歩いてお店の前まで来た。
今はお昼前だが、多くの来客があった。ルイーゼは正面から入った。念のため、変顔を決めている。
「いらっしゃい」
おかみさんだろうか。愛想のいい笑顔で近寄って来た。
「あのう針子の募集に応募したいのです」
おかみさんは途端に不機嫌な表情に変わった
「なんだい。客じゃないのなら、正面じゃなく、裏口に周りな!」
「は、はい、すいません」
何だか感じの悪い人だなあ。そうだっ。
「あのう」
「何だい、まだいたのかい!」
「私、リンクさんからの紹介で来ました」
おかみさんの表情が先ほど見た愛想のいい感じに戻った。よくもこうころころと表情を変えられるものだと、ルイーゼは感心した。
「なんだい、リンクさんのお知り合いかい? 早くそう言っておくれよ」
ルイーゼはリンクの名前を出すように言われていたのだ。
「ルイーゼさんだろう、聞いているよ。こっちにおいで」
客や店員がこちらのやり取りをチラチラ見ている。ルイーゼはおかみさんの後に続いて、店の奥に入って行った。
店の奥では、多くの若い女性が縫製作業を行なっていた。数えたところ、十五人いた。
「みんな、手を動かしたまま聞いておくれ。今日から縫製を一緒にするルイーゼさんだ。お得意様の紹介だ。良くしてあげておくれよ。さあ、ルイーゼさん、あなたの席はあそこだよ」
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「リリー、色々と教えてあげておくれよ」
「かしこまりました」
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「ルイーゼさんは刺繍が得意だそうだから、主に刺繍をやってもらうといい。じゃあ、任せたよ。ルイーゼさん、私はいったん失礼します」
そう言っておかみさんは、店の方に戻っていった。
「よろしくお願いします」
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