公爵令嬢は皇太子の婚約者の地位から逃げ出して、酒場の娘からやり直すことにしました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
10 / 47
第二章 捜索

父からの追跡

しおりを挟む
ルイーゼの父ロバートはその日のうちにリーベルタウンに到着した。

さっそく証言を聞いたという捜索部隊の隊員から話を聞いた。

「貴族の娘を見たという宿屋のオヤジから話を聞きました。町娘の身なりでしたが、非常に美しい女性だったそうです。連れの男女も容姿が整っていて、とても平民とは思えなかったそうです」

「町娘の身なりだと?」

(誘拐犯に無理矢理着させられたのか?)

「はい、その三人組は翌日宿を出たそうです」

「いつのことだ?」

「三日前だそうです」

「誘拐された翌日だな。行き先は?」

「分からないそうですが、乗っていた馬車はその日のうちに街を出たそうです」

馬車はリンクたちの偽装工作だった。わざと宿屋の主人にルイーゼの印象を残して、馬車で別の街へと向かったように見せかけたのだ。ただ、リンクたちはまさかルイーゼの父親自らが捜索に来るとは思ってはいなかった。

「それ以外の情報は?」

「お嬢様は大変美しい方ですので、最近街に現れた美人情報も集めました。定食屋に三人組の容姿端麗の男女が現れ、冒険者と揉めたという事件が宿を出た日にありました。そのうちの二人は街で有名な酒場の従業員でした。二週間ほど前に街にふらっと現れたそうです」

アードレー家の捜索部隊は優秀だったし、ルイーゼの生死に関わることだったため、いつも以上に集中していた。ほんの些細な手掛かりも見逃さず、地道な聞き込みも手を抜かずに重ねて、ようやく得た情報だった。

「ほう、で、その酒場には行ったのか?」

「はい。会計係が非常に美しい少女でしたが、お嬢様ではありませんでした。あとは厨房に美青年が一人いました。定食屋の目撃者にも確認しましたが、三人のうちの二人はこの二人で間違いございません。ただ、お嬢様はいらっしゃいませんでした」

捜索隊員は残念そうだ。

「まさか酒場で働いているわけがあるまい。何処かに監禁されているのではないか?」

「はい、昨日から二人に尾行をつけています。二人とも従業員宿舎に住み込みで働いています。少女の方は姉と一緒に住んでいるようです。姉は何だか奇妙な顔でした。お嬢様ではありません」

「ふむ。その二人に話を聞きたいな。今日にでも酒場に行こう」

「え? 旦那様がですか!? おやめください。あのような下賎な場所に旦那様が行かれるなどあってはなりません」

捜索隊員は両手を振ってロバートを止めようとした。

「それは私が決めることだ。お前はただ案内すればよい」

「申し訳ございませんでした。もう店は開いておりますが、さっそくご案内致します」

捜索隊員は観念して、案内する覚悟を決めた。

「そうだな、こんな格好で行くのもおかしいな。庶民の服を用意できるか? 庶民の服で行くことにするぞ」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...