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第二章 捜索
王宮の動き
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皇太子の婚約者が宮廷内にて誘拐された。
王室にとっては、前代未聞の大失態である。
最初に異変に気づいたのは、花嫁修行の教師である。いつものようにルイーゼの居室を訪ねたが、時間になってもルイーゼが帰って来なかった。今までこんなことはなかったため、何かあったのではないかと王宮内での捜索が始まり、いくつかの事実が浮かび上がった。
ルイーゼに最後に会ったのはアルバート皇太子と二名の側妃であること、東宮からルイーゼらしき女性を抱えて医務室に向かう長身の黒髪の侍女が目撃されていること、医務室の医師と看護師が縛られていたこと、往診用の医師の馬車が消えていたこと、などである。
王宮の諜報官は誘拐事件と断定した。だが、誘拐されて既に丸一日以上経っても、犯人からの接触がなく、目的が分からないでいた。
王室はアードレー家にも使いを出し、王都内と近隣の町村に尋ね人の張り紙を掲示するよう手配した。
***
ルイーゼの失踪から三日後、ルイーゼの父、アードレー家当主が王宮に参内した。室内は、王、皇太子、ルイーゼの父のロバートの三名だけだ。
「娘の、ルイーゼの行方はまだ分からないのでしょうか」
「捜索させているがまだ分からない。昨日、王都を出た馬車も確認したが、往診用の馬車は通っていないそうだ。だが、馬車の外装を変えている可能性もあるため、王都を出ていないという証明にはならない」
アルバート皇太子が静かに答えた。
アルバートの冷静な対応にロバートは少しイラっと来たが、皇太子を怒鳴りつける訳にも行かない。しかし、アルバートの続く言葉に気色ばんだ。
「このまま見つからないようなら、婚約解消だ」
「花嫁修行ということで、大事な娘をお預けしたのですが、王宮は安全ではないのですかな?」
「娘に隙があったのだろう。躾の問題だな」
「なっ」
アルバートとロバートの口論を止めたのは王だった。
「二人とも責任のなすり合いはよせ。まずはルイーゼ嬢の一刻も早い救出が必要だろう」
ロバートは気を落ち着かせるため、深呼吸した。
「失礼しました。アルバート家からも捜索隊を出しております。情報共有が重要かと思います。我々の捜索隊によりますと、リーベルタウンで貴族の娘を見かけたという情報を得ました」
リーベルタウンは冒険者の街だ。貴族の娘がうろつくようなところではない。
「一週間だな」
アルバートが期間を口にしたが、ロバートには何のことか分からない。
「何が一週間なのでしょうか?」
「婚約解消までの猶予期間だ。陛下、ルイーゼが一週間経っても見つからない場合は、婚約者選定のやり直しをお願い致します」
「やむを得んな」
皇太子と王とのやり取りに、ロバートは懸命に怒りを抑えた。王家は既に娘を切り捨てにかかっている。この様子では、捜索も真面目に行わないつもりだろう。
(娘の命を軽く扱いおって!)
ここにいても時間の無駄だと悟ったロバートは早々に退出し、屋敷に戻って、妻に王家の対応を話した。
「何ですって!? あなた、ルイーゼの嫁ぎ先を誤りましたわね」
「皇太子は新しい女を迎えられると喜んでいるのだろう」
「許しがたいですわ」
二人は娘を可愛がっていた頃の心をようやく取り戻したが、今更であった。何も知らない娘を鬼畜に差し出したのは、他ならぬこの二人なのである。
「リーベルタウンでの目撃情報を私自ら確認してくる。もう婚約は解消でいい。そんなことよりも、ルイーゼの安全の確保が第一だ」
王室にとっては、前代未聞の大失態である。
最初に異変に気づいたのは、花嫁修行の教師である。いつものようにルイーゼの居室を訪ねたが、時間になってもルイーゼが帰って来なかった。今までこんなことはなかったため、何かあったのではないかと王宮内での捜索が始まり、いくつかの事実が浮かび上がった。
ルイーゼに最後に会ったのはアルバート皇太子と二名の側妃であること、東宮からルイーゼらしき女性を抱えて医務室に向かう長身の黒髪の侍女が目撃されていること、医務室の医師と看護師が縛られていたこと、往診用の医師の馬車が消えていたこと、などである。
王宮の諜報官は誘拐事件と断定した。だが、誘拐されて既に丸一日以上経っても、犯人からの接触がなく、目的が分からないでいた。
王室はアードレー家にも使いを出し、王都内と近隣の町村に尋ね人の張り紙を掲示するよう手配した。
***
ルイーゼの失踪から三日後、ルイーゼの父、アードレー家当主が王宮に参内した。室内は、王、皇太子、ルイーゼの父のロバートの三名だけだ。
「娘の、ルイーゼの行方はまだ分からないのでしょうか」
「捜索させているがまだ分からない。昨日、王都を出た馬車も確認したが、往診用の馬車は通っていないそうだ。だが、馬車の外装を変えている可能性もあるため、王都を出ていないという証明にはならない」
アルバート皇太子が静かに答えた。
アルバートの冷静な対応にロバートは少しイラっと来たが、皇太子を怒鳴りつける訳にも行かない。しかし、アルバートの続く言葉に気色ばんだ。
「このまま見つからないようなら、婚約解消だ」
「花嫁修行ということで、大事な娘をお預けしたのですが、王宮は安全ではないのですかな?」
「娘に隙があったのだろう。躾の問題だな」
「なっ」
アルバートとロバートの口論を止めたのは王だった。
「二人とも責任のなすり合いはよせ。まずはルイーゼ嬢の一刻も早い救出が必要だろう」
ロバートは気を落ち着かせるため、深呼吸した。
「失礼しました。アルバート家からも捜索隊を出しております。情報共有が重要かと思います。我々の捜索隊によりますと、リーベルタウンで貴族の娘を見かけたという情報を得ました」
リーベルタウンは冒険者の街だ。貴族の娘がうろつくようなところではない。
「一週間だな」
アルバートが期間を口にしたが、ロバートには何のことか分からない。
「何が一週間なのでしょうか?」
「婚約解消までの猶予期間だ。陛下、ルイーゼが一週間経っても見つからない場合は、婚約者選定のやり直しをお願い致します」
「やむを得んな」
皇太子と王とのやり取りに、ロバートは懸命に怒りを抑えた。王家は既に娘を切り捨てにかかっている。この様子では、捜索も真面目に行わないつもりだろう。
(娘の命を軽く扱いおって!)
ここにいても時間の無駄だと悟ったロバートは早々に退出し、屋敷に戻って、妻に王家の対応を話した。
「何ですって!? あなた、ルイーゼの嫁ぎ先を誤りましたわね」
「皇太子は新しい女を迎えられると喜んでいるのだろう」
「許しがたいですわ」
二人は娘を可愛がっていた頃の心をようやく取り戻したが、今更であった。何も知らない娘を鬼畜に差し出したのは、他ならぬこの二人なのである。
「リーベルタウンでの目撃情報を私自ら確認してくる。もう婚約は解消でいい。そんなことよりも、ルイーゼの安全の確保が第一だ」
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