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第一章 逃亡
尋ね人
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起きたのはお昼前だった。
ルイーゼは生活魔法のクリーンで体を清めた。この世界では生活魔法は一般的だ。アンリもよく使っている。そのため、人々は非常に清潔だ。
「姉さま、リンクを誘って、昨日の店に食事に行きませんか」
リンクと顔を合わせるのが恥ずかしかったが、いつまでも避けてはいられない。
「いいわよ」
アンリがリンクを連れてきた。
「おはようございます」
リンクは爽やかな笑顔で挨拶してくれた。昨日皆んなは朝の4時ぐらいまで、飲んでいたという。
「皆さんルイーゼさんに興味津々で、色々と聞かれて参りました」
三人は同じ村の出身という設定を事前に取り決めている。それをぶち壊すような言動をしてしまったので、私は素直に詫びた。
「昨日は酔っ払ってしまってすいません」
リンクは頭を下げる私に慌てている。
「ああ、ルイーゼさん、謝らないで下さい。ルイーゼさんはいつも好きにしていいんです。もう何にも縛られないで下さい。何があっても私たちが適時対応しますから」
「そんな至れり尽くせりされてしまうと、自制心のないわがまま娘になってしまいます。ダメなところは叱って下さいね」
私がそう言うと、リンクは涼しげな目を優しく私に向けて、
「そうおっしゃるのであれば、そうします」
と微笑んでくれた。
私たち二人のやり取りをアンリはニヤニヤして見ていた。
(何よ、そのニヤニヤは)
三人で昨日のお店に行き、同じテーブルに座った。今日の昼食は炒飯というものだったが、米をあまり食べたことがなかった私には、非常に新鮮な味だった。これもリンクのレシピだという。私はリンクの育ちに興味が湧いて来たので聞いてみた。
「リンクさんは料理の才能があるんですね」
「才能なんかありませんよ。生まれ故郷の料理なんです」
「どこの生まれなんですか」
「ふふふ、それは秘密ということにしておいてください」
そう言って、リンクは軽くウィンクした。
(どうしよう、この人、本当にかっこいい)
私がそれ以上質問できないでいたら、アンリが会話に入って来た。
「姉さま、この後、少し街を散策しませんか? リンクも一緒にね」
食事を終え、商店街を三人で散策した。衣装や反物の商店、雑貨や小物の商店などが私やアンリの目に留まった。最初はリンクも一緒にそういった店に入っていたが、あまりにもリンクが手持ち無沙汰にしているため、好きなお店に行っていいですよ、と声がけした。
「では、お言葉に甘えて、あの食料品店を見て参ります」
リンクはそう言って、対面のお店に入って行った。店番の娘さんがリンクの方をチラチラ見ているのが丸わかりだ。
「リンク、モテますよ」
アンリがそう囁いた。
「でしょうね、あのルックスですもの」
私はいわゆる箱入り娘で、これまで殿方との接触はほとんどない。そんな私にとって、昨日の酒場は衝撃的だった。百人近くの男性客に厨房の男性たち。でも、その中でも、リンクが群を抜いて格好良かった。
私とアンリは店を出た。アンリがリンクを呼びに行こうとしたので、引き止めた。
「もう少しリンクさんに見させてあげようよ」
アンリは頷いて、少し先にある掲示板を見て叫んだ。
「姉さま、あれ!」
掲示板には尋ね人の似顔絵が貼ってあった。私の似顔絵だった。
ルイーゼは生活魔法のクリーンで体を清めた。この世界では生活魔法は一般的だ。アンリもよく使っている。そのため、人々は非常に清潔だ。
「姉さま、リンクを誘って、昨日の店に食事に行きませんか」
リンクと顔を合わせるのが恥ずかしかったが、いつまでも避けてはいられない。
「いいわよ」
アンリがリンクを連れてきた。
「おはようございます」
リンクは爽やかな笑顔で挨拶してくれた。昨日皆んなは朝の4時ぐらいまで、飲んでいたという。
「皆さんルイーゼさんに興味津々で、色々と聞かれて参りました」
三人は同じ村の出身という設定を事前に取り決めている。それをぶち壊すような言動をしてしまったので、私は素直に詫びた。
「昨日は酔っ払ってしまってすいません」
リンクは頭を下げる私に慌てている。
「ああ、ルイーゼさん、謝らないで下さい。ルイーゼさんはいつも好きにしていいんです。もう何にも縛られないで下さい。何があっても私たちが適時対応しますから」
「そんな至れり尽くせりされてしまうと、自制心のないわがまま娘になってしまいます。ダメなところは叱って下さいね」
私がそう言うと、リンクは涼しげな目を優しく私に向けて、
「そうおっしゃるのであれば、そうします」
と微笑んでくれた。
私たち二人のやり取りをアンリはニヤニヤして見ていた。
(何よ、そのニヤニヤは)
三人で昨日のお店に行き、同じテーブルに座った。今日の昼食は炒飯というものだったが、米をあまり食べたことがなかった私には、非常に新鮮な味だった。これもリンクのレシピだという。私はリンクの育ちに興味が湧いて来たので聞いてみた。
「リンクさんは料理の才能があるんですね」
「才能なんかありませんよ。生まれ故郷の料理なんです」
「どこの生まれなんですか」
「ふふふ、それは秘密ということにしておいてください」
そう言って、リンクは軽くウィンクした。
(どうしよう、この人、本当にかっこいい)
私がそれ以上質問できないでいたら、アンリが会話に入って来た。
「姉さま、この後、少し街を散策しませんか? リンクも一緒にね」
食事を終え、商店街を三人で散策した。衣装や反物の商店、雑貨や小物の商店などが私やアンリの目に留まった。最初はリンクも一緒にそういった店に入っていたが、あまりにもリンクが手持ち無沙汰にしているため、好きなお店に行っていいですよ、と声がけした。
「では、お言葉に甘えて、あの食料品店を見て参ります」
リンクはそう言って、対面のお店に入って行った。店番の娘さんがリンクの方をチラチラ見ているのが丸わかりだ。
「リンク、モテますよ」
アンリがそう囁いた。
「でしょうね、あのルックスですもの」
私はいわゆる箱入り娘で、これまで殿方との接触はほとんどない。そんな私にとって、昨日の酒場は衝撃的だった。百人近くの男性客に厨房の男性たち。でも、その中でも、リンクが群を抜いて格好良かった。
私とアンリは店を出た。アンリがリンクを呼びに行こうとしたので、引き止めた。
「もう少しリンクさんに見させてあげようよ」
アンリは頷いて、少し先にある掲示板を見て叫んだ。
「姉さま、あれ!」
掲示板には尋ね人の似顔絵が貼ってあった。私の似顔絵だった。
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