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第一章 逃亡

酒場の娘

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「ルイーゼさん、五番テーブル、唐揚げ、フライドポテト出来ました」

「は、はいっ」

厨房のカウンターで料理を受け取り、五番テーブルに持っていく。料理を置くときはシャクレ顔で笑う。客がギョッとするのが面白くなって来た。

空いた皿を持って、厨房に持って帰るときにお尻に手が伸びる。料理を持っているときには触ってこない。空の皿を持っているときが要注意だ。サラリとかわし、虫を見るような目で見る。もちろんしゃくれることは忘れない。

私に見られた客はテンションが下がりまくり、二度と触ってこなくなる。訓練の効果は抜群だった。

だが、想像以上に忙しい。リンクさんのメニューが大ウケで、連日大盛況らしく、給仕係は私を含めて六人もいるのに、六時間ずっと歩きっぱなしだった。

終わった。し、死ぬ。私はへたり込んだ。こんなに動いたのはもちろん生まれて初めてだ。

閉店して店の掃除が終わった後、まかない料理が出る。リンクさんが考えたメニューを新人の厨房係が作っているらしい。

今日の賄い料理はカニ雑炊という料理で、胃に優しい料理だそうだ。めちゃくちゃ美味しかった。

私の歓迎会ということで、酒場の主人から麦酒が出された。私は初めて飲んだが、ガンガンに冷えた麦酒のきゅうっとした喉越しが最高で、ハードな仕事の後の麦酒は格別だ、何て思っちゃったりした。

私は少し酔っ払ってしまって、変顔を忘れていたら、皆んなが綺麗だ綺麗だと騒ぎ出し、色々と私に話しかけてくるのだが、庶民の言葉はよく言っていることがわからなくて、アンリに通訳してもらった。そのときアンリが私のことを姉さまと呼ぶので、アンリと私は姉妹ということになってしまった。

最後にリンクさんからケーキなるものが皆んなに出された。私の歓迎祝いということで、思わぬ棚ボタに給仕係の女性たちは黄色い声を上げた。

「リンクさん、サイコーですっ」

「お嫁にもらって欲しいっ」

など大人気だ。リンクさん、やっぱり女性に人気あるんだな、と思った。

そのケーキというお菓子だが、信じられないほど美味しかった。何なのこれ!? リンクさん、王宮の料理長できるよ、この腕なら。なんでこんなところで働いているのかしら?

歓迎会は午前2時まで続き、私は完全に酔っ払ってしまっていたらしい。ケタケタと笑っては、王室やアードレー家の悪口を言い出したそうで、アンリが慌てて私を寮に持ち帰ったそうだ。

「アンリ~、わたひ、こんなに楽しかったの人生で初めてだお」

そう言って、アンリにキスをしまくったらしい。

「ベットの中でも抱きつかれて大変でしたよ、姉さま」

「すいません……」

私は赤面して平謝りするしかなかった。

でも、貴族社会での上辺だけの付き合いしか知らない私にとって、昨日の職場の同僚との飲み会はとても心地よく、楽しいものだった。

一つ大きな問題に気がついた。私の醜態をリンクさんに見られてしまった。とても恥ずかしい。


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